「大阪都構想」が住民投票で否決されたことで、橋下大阪市長が記者会見で任期満了後の「政界引退」を表明しましたが、ホントかなと思ったのは私だけではないでしょう。あのいつもの橋下氏のイメージとは違った記者会見は、なんだか狡猾に計算されたパフォーマンスのように受け取れないこともありません。

「大阪都構想」については、適菜収氏が、『新潮45』(5月号)で、「戦後最大の詐欺である」とその詭弁(嘘八百)と脅しの手口を告発していますが、たとえば、よく言われる(都構想の根拠ともなった)大阪市の借金についても、適菜氏はつぎのように書いていました。

 関淳一市政、平松邦夫市政において大阪市の借金は減り続けていたが、その部分は隠されている。さらにグラフの途中をカットし先端を拡大することで、橋下が借金を劇的に減らしたかのような錯覚を与えるわけだ。しかし、実際には橋下市政で減少幅は少なくなっている。

矢来町ぐるり
【全文掲載】これぞ戦後最大の詐欺である 適菜収(作家、哲学者)+本誌取材班――特集 「大阪都構想」の大嘘.


大阪府に至っては、橋下氏が知事になって逆に負債は増えているのです。橋下氏は、「納税者をナメた連中を潰す」「既得権益を貪っている連中は許さない」などとお得意の口調でアジるので、如何にも”改革の旗手”のようなイメージがありますが、適菜氏は、その実態をつぎのように痛烈に批判していました。

 橋下は詐欺師である。大阪「都構想」は戦後最大の詐欺である。
 橋下が今一番恐れていることは「事実」を大阪市民に知られることである。だから現在、メディアや学者、ジャーナリストに圧力をかけ続けているのだ。
 前市長の平松邦夫が憤る。
「ここまで橋下をのさばらせたのはメディアです。橋下の嫌がらせに屈し、言うべきことを言わなくなった。ジャーナリズムの矜持を失ってしまったのです」
 現在、大阪で進行中の橋下および維新の会の運動は、全体主義そのものである。
(略)
 ナチスは狂気の集団としてではなく、市民社会の中から出現した。そして「ふわっとした民意」にうまく乗り、既得権益を批判し、住民投票を繰り返すことで拡大したのである。
 現在、市民の代表が一度は否決した「特別区設置協定書」が、おかしな力により蘇り、住民投票にかけられる事態が発生している。そこに記載されていない事項の多くは、市長により決定されることになっている。つまりは白紙委任だ。 わが国の危機は目前に迫っている。
 五月一七日の住民投票で問われているのは、橋下および維新の会という巨悪から、大阪市ひいてはわが国を防衛できるかどうかなのだ。


部外者の付け焼刃の知識でも、今回の「都構想」が詐欺まがいのおかしな話であることはよくわかります。今さら終わったことを取り上げても仕方ないと思われるかもしれませんが、たとえば、多くの人が指摘していたように、大阪市が消滅すれば、それまで政令指定都市の「権限」で得ていた事業者税などの税収2200億円が、大阪府に移管する(吸い上げられる)ことになるのです。特別区の人口は、大阪府全体の3割を占めるにすぎず、さらにそれを5つに分割するわけですから、それぞれの特別区は、人口においても権限においても財政規模においても、小さな地方都市と同程度に「格下げされる」のです。大阪市民は、政令指定都市を外れ特別区になることによって、自分たちの裁量で使えた大きな財源をみすみす失うことになるのです。そして、その分、大阪府に権限や財源が集中するというわけです。これでは、末端の自治体が担う福祉や公共サービスなど身近な施策が後退するのは当然でしょう。それを詐欺師たちは、「二重行政の解消」という詭弁でごまかしていたのでした。一時が万事この調子です。

今回の結果で、かろうじて”現代版ナチス”の台頭を食い止めたと言えますが、しかし、忘れてはならないのは、平松前市長が言うように、橋下という”怪物”を作ったのがマスコミ、とりわけテレビだという事実です。

爆笑問題のタイタン所属のタレント弁護士としてテレビで顔を売り、商工ローンや売春街=飛田新地の料理組合の顧問弁護士をして年収3億円を荒稼ぎして、ポルシェやハーレーを乗りまわしていた橋下氏を政治家に祭り上げたのは、やしきたかじんだけではないのです。読売テレビやABC朝日放送など在阪のテレビ局も大きな役割をはたしたのです。

そのテレビは、辞任表明を受けて、さっそく「『橋下さんやめないで』という声が殺到」とか「大阪が”橋ロス”に覆われている」とか、橋下ヨイショをはじめています。そうやって早くも視聴率が稼げる「前市長・橋下徹」の争奪戦がはじまっているのです。

これではフランケンシュタインのように、”怪物”が息を吹き返す可能性もなきにしもあらずでしょう。なんと言っても橋下氏には、府知事選の際、「(出馬は)2万%ない」と言ったにも関わらず出馬した”前科”があるのですから。

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2015.05.19 Tue l 社会・時事 l top ▲