さらば、ヘイト本!


昨日のYahoo!トッピックスに、「鳩山氏、ひざまずき合掌」という見出しを見て、私は思わず心のなかで「出たっ!」と叫びました。と言って、お化けが出たのではありません。

出たのは、Yahoo!ニュースお得意の排外主義を煽る嫌中憎韓の記事です。まあ、季節を問わず定期的に出てくるYahoo!ニュースのお化けと言えばそう言えるのかもしれませんが・・・。

Yahoo!ニュース
鳩山氏、ひざまずき合掌=植民地時代の刑務所跡で―韓国

記事自体は、時事通信から配信されたものですが、なかでもネット住人たちにインパクトを与えたのは、記事に添えられていた鳩山由紀夫氏が正座している写真でしょう。

別の記事には、土下座をして頭を下げているような写真もあり、実際に「土下座」ということばも使っていました。もちろん、記事を受けて、コメント欄は鳩山氏への罵詈雑言で溢れていました。

Yahoo!ニュースにしてみれば、ネット住人たちの発狂ぶりを見て、「してやったり」という感じなのかもしれません。これこそ三田ゾーマ氏ではないですが、「バカを煽って金儲けするウェブニュース」の典型と言えるでしょう。

どうしてYahoo!ニュースのコメント欄はバカばっかりなのか。それは、Yahoo!ニュースがページビューを稼ぐために、そんなバカたちを煽っているからです。コメント欄のレベルが、Yahoo!ニュースのレベルをよく表しているのです。

Yahoo!ニュース編集部の井上芙優氏は、『Journalism』(朝日新聞出版)に、「ニュースの“見られ方”“見せ方”の変容に因って、取材して書く・撮る人材“だけ”がジャーナリストを名乗っていた世界は変わろうとしている」「これからはどんなメディアでも、新人を育てるに当たって“取材をするから育つ”“取材しないから育たない”といった単純な対立軸に当て嵌めることはできない」(「取材をしない」ニュース編集部 いかに報道マインドを根付かせるか)と書いていましたが、私に言わせればよく言うよという感じです。

ちなみに、鳩山氏の「ひざまずき」「土下座」は、「韓国では「クンジョル」と呼ばれる最上位の敬意を示す作法であり、屈服の意を示す土下座とは全く別物」だそうです。

BUZZAP!
鳩山元首相の韓国での謝罪を「土下座」と勘違いした一部ネット民が大発狂、実は韓国式の最敬礼「クンジョル」でした

こんなことは、調べればすぐわかるはずです。フジテレビも、如何にも土下座したかのようなニュースを流していましたが、Yahoo!ニュースやフジテレビのやり方は、しらばっくれた確信犯的な印象操作と言えるでしょう。そして、実はそれは、ヘイト本を作るやり方とそっくり同じなのです。

『さらば、ヘイト本!』(ころから)では、実際にヘイト本の「製造」に携わった元編集者たちが、その内幕を語っていました。

編集プロダクションの社員のもとに、クライアントの出版社から届いた企画書には、「保守層や韓国に批判的な層が留飲を下げる目的で作る」と書いていたそうです。その企画書に基づいて、編集者がまずやったのは、韓国の中央日報や朝鮮日報、聯合ニュースの日本語の電子版にアクセスして、日本を非難している記事を片端から拾い集めることだったそうです。それがヘイト本のネタになるのです。もちろん、その場合、日本を褒めているような記事はいっさい無視するのが鉄則です。

と言っても、編集者は、思想的には無色です。宝島社からの依頼で、ヘイト本を作っていた編集者の某氏が心がけていたことは、「読者ではなく、版元の担当者に納得してもらうものを作る」ということだったそうです。そこには「愛国」も「憂国」もないのです。ただ、”嫌中憎韓”を金儲けの手段にする無節操な商売人のソロバン勘定があるだけです。

ヘイト本は、もともとでたらめな世界なので、裏取りは必要なく、ネットで拾ってきた情報をネタに、もっともらしく記事に仕立て上げさえすれば、いとも簡単に本ができる、元手がかからないおいしい商売でもあるのです。

初期のネトウヨたちのバイブルになった山野車輪の『マンガ嫌韓流』(晋遊舎)も、「嫌韓流のネタは編集者がネットで探して何の知識も素養もない山野に伝えた」そうです。なんとそれからあの「嫌韓流」のシリーズがはじまったのです。

── 山野車輪は、こういったものに知識はなかったのですか。
「要するにネットだけです」
── 確信犯的に。
「もともとネット上に漫画はあったんですが、間違いだらけだったり」
(略)
── 山野サンは誰が見つけてきたんですか?
「これも、いま原作をやっている人が会社をやめているんですが、彼がネットで見つけてきたんです」
(略)
── 山野さんはどんな人物ですか。やっぱり、こういうようなことを自らネットに上げていたぐらいですから、本人も嫌韓なんですか。
「本人は、そうじゃないと言うんですけど、そんなに物事を掘り下げて考える人ではないので。もともと漫画をちゃんとやりたかった人です」


「ネトウヨは本を読まず、動画をメインとして情報を仕入れるので」、雑誌の記事もタイトルと目次しか読まないとか、いくらヘイトな番組を流しても、テレビのワイドショーの視聴者は、ヘイト本の読者にはならないとか、なるほどと思える話もありました。

売れりゃなんでもいい。そんな考えに立てば、「溜飲を下げる目的」という企画書に見られるように、負の感情を煽って売るのがいちばん手っとり早いのです。それは、Yahoo!ニュースも例外ではありません。

しかし、ヘイト本が、ヘイトスピーチに見られるように、(民族間の)憎しみを生み出し、それを煽っていることは事実です。ただ金儲けのために、ヘイト本を出している思想的には無色の編集者や、ページビューを稼ぐために、排外主義や差別を煽る記事をあえてトップページにもってくるYahoo!ニュースの編集者たちは、そのことにあまりにも無自覚だと言えるでしょう。

でも、無自覚であることは罪なのです。ハンナ・アーレントが言うように、「悪は悪人が作り出すのではなく、思考停止の凡人が作る」のです。「売れりゃなんでもいい」のか。ページビューを稼げればなんでもいいのか。所詮、馬の耳に念仏なのかもしれませんが、Yahoo!ニュースのジャーナリスト気取りの編集者たちにそう問いたい気がします。

もっとも、嫌中憎韓のヘイト本は売れなくなっており、業界的にはオワコンなのだそうです。そう言えば、有隣堂や三省堂のヘイト本コーナーもいつの間にかなくなっていました。ヘイト本に代わるのは、テレビ東京的慰撫史観の書籍版だとか。日本(日本人)は世界中でリスペクトされているというあれです。そうやって懲りない連中は、二匹目のドジョウを狙っているのでしょう。


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2015.08.14 Fri l ネット・メディア l top ▲