今月11日の東京新聞に載った社会学者の上野千鶴子氏のインタビュー記事が、左派リベラルの人たちの間で波紋を呼んでいるようです。

インタビューの内容は、以下のとおりです。

東京新聞 TOKYO Web
【考える広場】 この国のかたち 3人の論者に聞く

彼らが特に問題にしているのは、上野氏のつぎのような発言に対してです。

 日本はこの先どうするのか。移民を入れて活力ある社会をつくる一方、社会的不公正と抑圧と治安悪化に苦しむ国にするのか、難民を含めて外国人に門戸を閉ざし、このままゆっくり衰退していくのか。どちらかを選ぶ分岐点に立たされています。

 移民政策について言うと、私は客観的に無理、主観的にはやめた方がいいと思っています。

 客観的には、日本は労働開国にかじを切ろうとしたさなかに世界的な排外主義の波にぶつかってしまった。大量の移民の受け入れなど不可能です。

 主観的な観測としては、移民は日本にとってツケが大き過ぎる。トランプ米大統領は「アメリカ・ファースト」と言いましたが、日本は「ニッポン・オンリー」の国。単一民族神話が信じられてきた。日本人は多文化共生に耐えられないでしょう。


左派リベラルの人たちは、上野氏の発言は、不正確な認識に基づいた、移民に対する偏見だと反発しているのでした。

私は、まず、移民受入れに賛成の人たちがこんなにいたことにびっくりしました。日ごろ、ネットでは反対の声が圧倒的に多く、みんな反対ではないかと思っていたので、賛成の人たちがこんなにいたなんて驚きでした。

もっとも、これがネットの特徴(マジック)と言えるのかもしれません。百家争鳴で議論を戦わせるというのが、Web2.0などネットの理想だったはずですが、現実はまったく逆で、「タコツボ化」とか「同調圧力」と言われるように、同じ意見の人間たちが集まり、ただオダをあげるだけの場になっているのです。

私は、あまのじゃくな人間なので、上野氏の発言を「反語」や「皮肉」と受け止めました。ネットの反応を見るにつけ、どうして左派も右派も、身も蓋もないことしか言えないのだろうと思います。

「タコツボ化」や「同調圧力」というのは、言うなれば異論を排する全体主義的な傾向と言えなくもありません。かつて平野謙は、共産党のリンチ事件に関連して、みずからの非を認めない日本共産党の姿勢を「リゴリズム」ということばを使って批判したのですが(『リンチ共産党事件の思い出』)、平和や共生や環境といった“絶対的な正しさ”に無定見に寄りかかり、身も蓋もないことしか言えない人たちというのは、そうやって無謬神話で偽装された“もうひとつの全体主義“を担いでいるとも言えるのです。

もちろん、「単一民族神話」は虚構で、既に日本も多文化の社会であるというのはそのとおりかもしれません。しかし、一方で、「単一民族神話」を頑迷に固執する民意があることも事実でしょう。そして、そんな民意に媚びるポピュリズム政治に対して、左派リベラルがまったくの無力であることも事実でしょう。

だったら私は、(そんなに「単一民族神話」に固執したいのなら)上野千鶴子氏が言うように、坂を下る覚悟をもち、みんなで「平等に」貧しくなればいいのだと思います。

労働者の40%が非正規雇用で、生活保護の基準以下で生活している人たちが2千万人もいるような社会に、さらに安い労働力を受け入れればどうなるか、火を見るよりあきらかでしょう。移民受け入れに対しては、ステレオタイプな総論(イデオロギー)ではなく、こういった身近な部分から考えていくことも必要でしょう。移民排斥の悲劇を招かないためにも、アメリカやヨーロッパの二の舞にならないためにも、移民受入れに慎重になるべきだという上野氏の主張は、身も蓋もないことしか言えない人たちに対する、なんと痛烈な「皮肉」なんだろうと思います。

野郎自大な左派リベラルは、「世界的な排外主義の波」に対して、自分たちが如何に無力かという認識がなさすぎるのです。「労働開国」が、国内の若年労働力の不足を補うためという“不純な動機“から検討されていることを忘れてはならないのです。そして、持つものと持たざるものとの間に越えられない格差がある限り、既に世界が示しているように、二重底の社会と排外主義がワンセットでやってくるのは間違いないでしょう。左派リベラルは、自分たちが安い労働力を求める”資本の思惑”に加担していることに、あまりにも無自覚なのです。ひいてはそれは、グローバル資本主義に追従していることでもあるのです。

上野氏の発言に対する反発を見ても、左か右かだけで、上か下かの視点がまったく欠けているのです。これでは、いつまで経っても、(ブレイディみかこ氏が言うように)ポデモスのような「地べた」の声を吸い上げるしたたかでしなやかな「新左派」の政党は生まれないでしょう。


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2017.02.17 Fri l 社会・時事 l top ▲