年を取っても、社会に媚を売るような衛生無害な好々爺なんかではなく、永井荷風のような好色で偏屈な老人になりたいと思っていますが、好色はともかく、偏屈ぶりはそれなりに身に付いている(身に付きつつある)気がします。

今日、最寄りの駅で改札口を出ようとしたときでした。その改札機はいつも出口専用に設定されているのですが、なにを勘違いしたのか、前からやってきた初老の男性が、私に先を越されまいとするかのように、急いで財布を取り出しセンサーのところにタッチしたのでした。当然、エラーが出て通ることができません。

すると、男性は再び財布をセンサーに(前より激しく)タッチしたのでした。結果は同じです。男性は、髪の毛がヘルメットのようにベタッと貼り付いた、見るからにむさ苦しい感じで、パスモ(かスイカ)が入っている財布もボロボロに使い古されたものでした。

男性は、みずからの勘違いに気付かず、何度も同じ行為を繰り返しています。私は、改札機の前で男性の行為が終わるのを待っていました。しかし、学習能力のない男性の行為は終わりそうもありません。

すると、そのとき、しびれを切らした私の口からつぎのようなことばが発せられたのでした。

「違うだろ、タコ!」

最近、この「タコ」ということばがよく口をついて出るのです。そのため、相手が怒ってときどきトラブルになることがあります。

男性は、私のことばでやっと自分の勘違いに気付いたようで、隣の改札機に移ったのでした。ただ、改札機を通るとき、「なんだ、こいつは」というような目で私のほうを見ていました。

そのあと、私は、駅前のスーパーに行きました。買い物を終え、レジで精算し、台の上で買った食品を買い物カゴからレジ袋に移そうとしたときです。レジ袋のサイズが小さくて、買ったものがはみ出すほどでした。

そこで、私は、レジ係の女性のもとへ歩み寄り、こう言ったのです。

「ケチらないで、もっと大きな袋をくれないかな」

レジに並んでいたお客たちは、一様にキョトンとした目で私を見ていました。

とは言え、永井荷風は行きつけの天ぷら屋で、いつも座っている席に他の人間が座っていたら、その後ろに立って、わざと大きな咳払いをして席をのかせたそうで、それに比べれば私などはまだ初心者です。永井荷風の域に達するには、まだまだ修行が足りないのです。


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2017.12.04 Mon l 日常・その他 l top ▲