私は花粉症がひどく、その習慣で真夏の暑い時期を除いて1年の3分の2はマスクをしています。また、予備がないと不安症候群なので、常にマスクをストックしています。

しかし、気が付いたらストックも残り少なくなっていました。花粉症の時期も近づいて来たので、あわてて近所のドラッグストアに行きました。ところが、マスクの棚はスッカラカンで「売切れ」の札がかかっていました。1週間くらい前までは、「花粉シーズン到来」などというポップが付けられて、店先やレジの横などで山積みにされて売られていました。それが跡形もなくなっていたのです。

私は、まさかと思って別のドラッグストアや百円ショップをまわりました。案の定、どこも同じでした。この1週間の間にマスクは店頭から姿を消したのです。

帰って、アマゾンや楽天やYahoo!ショッピングなど、ネット通販のサイトをチェックしてみました。しかし、ネットで売られているのは、普段の10~20倍の値段が付けられた商品ばかりで、便乗値上げのオンパレードでした。アマゾンには、25枚入りで100万円(ご丁寧に1枚当たり4万円と付記)の使い捨てマスクがマーケットプレイスで出品されていました。出品者も狂っていますが、それを黙認(?)しているアマゾンも狂っているのです。

また、アマゾンが直接商品を扱うprimeでは、イオンのプライベートブランドであるトップバリューのマスク(65枚入り)を通常価格の10倍以上の1万円で販売していました。アマゾン自体が便乗値上げに加担しているのですからお話になりません。ネットを支配するGAFAの強欲さ&節操の本性が露骨に表れている気がしました。まさに彼らは、強欲資本主義が生んだリバイアサン(怪物)と言っていいかもしれません。

テレビでは、マスク不足が深刻な中国で、マスクをめぐって各地で騒動が起きている、というニュースが連日伝えられていますが、なんのことはない日本も同じなのでした。さらに言うに事欠いて、日本のマスク不足は中国人が買い占めているからだと言い出す始末で、これではテロルとしての日常性が牙を剥く”不穏な噂”がいつ出てきてもおかしくないでしょう。

たしかに、中国人(観光客)がまとめ買いしているのは事実かもしれませんが、だからと言って、それがマスク不足の原因だと決めつけるのは、あまりにも乱暴で誇張した見方です。そうやって既に”不穏な噂”がまき散らされていると言っていいかもしれません。言うまでもなく、マスク不足は、日本人自身が買いだめしているからです。

店の人に訊くと、平日の昼間、時間を持て余しているおばさんやおっさん、それに小さな子供を連れた母親などが殺到して、あっという間に売り切れたのだそうです。おそらくテレビのワイドショーを見て駆け付けたのではないでしょうか。たまたま居合わせた近所の人は、「まるで奪い合うように買っていた」と言ってました。

その話を聞いて、東日本大震災のとき、アリとキリギリスのアリのように、自転車の荷台に米や水などを乗せて、一日に何度もスーパーと自宅を行き来していた近所のおばさんやおっさんの姿を思い出しました。あのときも、米や水やティッシュペーパーなどが、あっという間に店頭から消えたのでした。

中国の出来事は、対岸の火事ではないのです。新型コロナウイルスに関して、ヨーロッパなどではアジア人に対する偏見が広がりつつあるそうですが、ヨーロッパの人間から見れば、中国人も韓国人も日本人も同じようにしか見えないのでしょう。実際にやっていることも大差ないのです。

カルロス・ゴーンの問題もそうですが、人質司法などを見ても、中国や韓国や日本はどこも同じ「民主主義の未熟なアジア」にしか見えないでしょう。「オレたち(日本)は、中国や韓国と違うんだ」といくら言っても、どんぐりの背比べにしか見えないでしょう。

私が高校時代を過ごした地元は、海外からの観光客も多い温泉地で、しかも、5500名の学生のうち、半数が海外(主にアジア)からの留学生で占められる国際色豊かな大学もあります。

以前、帰省した折に会った、地元で家業の病院を継いでいる同級生は、「最近、見たこともないような症状の患者がいるんだよな」「留学生や観光客を通して今まで日本になかった病原菌が持ち込まれているからじゃないかな」と言ってましたが、今回の新型コロナウイルスの問題で、私はその話を思い出したのでした。

もっとも、感染症の世界的な流行は今までも何度もありました。交通が発達し経済活動が拡大して人の往来が多くなるにつれ、新しい感染症が世界大に広がるのは、ある意味当然でしょう。

一方で、今回の新型コロナウイルスが、とりわけ中国人の食文化や衛生観念に、大きな影響を与えることになるのは間違いないでしょう。野生動物を食べる習慣も減るでしょうし、マスクや手洗いやうがいもある程度習慣化するのではないでしょうか。感染症の世界的な流行は、そうやって今までも人類の生活文化に大きな影響を与えてきたのでした。

中国人観光客はマスクもしないで迷惑だと言いますが、電車に乗るとわかりますが、日本人もマスクをしないで咳き込んでいる迷惑な人間はいくらでもいます。もっとも、新型コロナウイルスは粒子が微細なので、マスクではブロックすることはできない(感染の予防はできない)そうです。むしろ、細かな手洗いとうがいの方が効果的なのだとか。でも、ワイドショーなどは当初、そういったことはひと言も伝えずに、ただ「マスク売り場に急げ!」とばかりに視聴者を煽るだけでした。

日本人にとって、今回の新型コロナウイルスも所詮は他人事なのでしょう。(いつもそうですが)迷惑をかけられた、あるいは「ざまあみろ」という感覚しかないのてす。そして、空疎な愛国心で自演乙して、中国人に対するヘイトを剥き出しにするだけです。そこにあるのは、大塚英志の言う「旧メディアのネット世論への迎合」で生み出される”最低の世論”です。そして、”最低の世論”に引き摺られるこの国のトンチンカンで夜郎自大な姿なのでした。


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2020.01.31 Fri l 社会・メディア l top ▲