井上ひさし

私が本を読みはじめた頃、五木寛之と野坂昭如と井上ひさしは三大スターでした。みんな若くて、旺盛な創作活動をされており、新刊が出るのが楽しみでした。特に、野坂さんと井上さんは社会問題についても積極的に発言していました。世の中も今では考えられないくらいリ自由な言論であふれていました。

でも、最近の五木寛之は仏教の伝道師のようですし、野坂昭如は脳梗塞で倒れてリハビリ中で、そして、昨日、井上ひさしが亡くなったというニュースがありました。その分自分が年をとるのも当然ですね。個人的には野坂昭如に「リハビリ小説」を書いてもらいたいと思っていますが、今の状況ではとても叶わぬ話のようです。

やはり、文学というのは若いときのものなのかと思います。介護されている老人で小説を書くような人は出てこないのでしょうか。多少認知が入っていても、それはそれで文学的な意味はあると思います。私は、大庭みな子のご主人の大庭利雄氏が書いた『終わりの蜜月-大庭みな子の介護日誌』(新潮社)と大西成明氏の写真集『ロマンティック・リハビリテーション』(ランダムハウス講談社)にすごく感銘を受けたのですが、それを「受ける」側の視点で書いた本が出てこないかなといつも思っています。

井上ひさしは、子ども頃生活苦から児童養護施設に入っていたこともあったそうで、やはり親戚の家に預けられた寺山修司の境遇と似ています。そういう生活の中で、子どもを東京の大学にやったお母さんは、学歴がどうのという問題を超えてホントに偉いなと思います。それが寺山修司や井上ひさしを生んだのです。ただ、井上さんの場合、子どもの頃、義父から受けた暴力がのちのご自身のDVへとつながっており、幼児体験がそういった暗い影も落としていたようです。

井上ひさしの人となりについては、マガジン9条の「鈴木邦男の愛国問答」で、鈴木邦男氏が「井上ひさしとクニオ」という文章を書いていましたが、いかにも井上ひさしらしいエピソードだなと思いました。
2010.04.11 Sun l 訃報 l top ▲