先日、「流通ニュース」に、「家電量販店市場/2012年は20%減の約7兆円」と題して、つぎのような記事が掲載されていました。

日本政策投資銀行は11月7日、世帯保有台数からみた家電量販店の市場規模予測(試算)を発表した。調査によると、2010年度にエコポイント効果やテレビの買換需要の先食いにより、家電小売市場規模全体は約8兆5000億円まで拡大したが、2012年以降は約2割市場規模が縮小し、約7兆円で推移するという。

市場の縮小要因として、テレビの販売減少がある。2010年のエコポイント政策と2011年のアナログ停波というダブルの要因による特需は、「代替需要」を先食いしただけであり、2012年以降は2010年比で約5割まで販売台数が減少し、今後さらに減少することはあっても、回復する可能性は低い。

単価下落を織り込むと、2012年以降のテレビの市場規模は2010年比の約45%程度まで縮小する試算結果となったという。

パソコンについても、買換需要などで販売台数が伸びるものの、単価の下落が続くと予想されるため、販売金額ベースでは、2012年は2010年比で市場規模が3割程度縮小し、その後も単価下落の影響から縮小傾向が続く見込みだ。

約7兆円という市場規模は1994年~95年と同水準であるが、テレビやパソコン、白物家電といった商品別の推計を踏まえると一定の整合性があるとしている。(2011年11月07日)


池袋や有楽町をはじめ、都内のターミナル駅周辺でも大型家電量販店が相次いでオープンするなど、私たちには益々競争が激しくなっているような印象があり(そのわりには価格はほとんど横並びですが)、それは同時に、市場も拡大しているかのような錯覚につながっています。しかし、現実はこのように市場が縮小すると言われているのです。私たちがマスコミなどを通してみている”現実”と、実際の現実はまったく違うのです。

「拡大再生産」は資本主義の宿命のようなもので、家電量販店に限らず、資本というのは、いったん走りはじめたらどこまでも突っ走っていかざるをえないのです。たとえ、先に待ちうけているのが奈落の底(恐慌)であってもです。その過程には、「先行者利益」や「残存者利益」といわれるものもありますが、それも多くのプレイヤーにとっては気休めでしかありません。

もちろん、TPPにしても然りです。JA全中や日本医師会などが出てくると、どうしてもTPP反対論者は既得権益を守ろうとする”守旧派”のように思われがちですが、実際はTPPが対米従属の踏み絵になっているのは否定できない事実でしょう。そして、TPPにも、根底にはアメリカが抱える「拡大再生産」という資本主義の宿命が伏在しているように思えてなりません。

「国を開く」ということと、TPPのように関税自主権を放棄して(実質的に)アメリカのいいなりになるということは、まったく別の問題です。TPPは世界に向かっているのではなく、単にアメリカに平伏しているにすぎません。どうもそのあたりがごっちゃになっているような気がします。もっとも全品目の平均関税率をみると、日本は韓国やアメリカより低いのだそうです。「開国」どころか、とっくに国は開かれているのです。にもかかわらず、政府やマスコミのように、TPPに参加することが「開国」になるのだと強弁するのは、(個人的には好きな言葉ではありませんが)「売国的」と言われても仕方ないのではないでしょうか。”対米従属愛国主義”ともいうべき如何にも「戦後的」で偏奇なナショナリズムをふりかざすフジ・サンケイグループは言わずもがなですが、TPPを「経済のグローバル化」なる一般論にすりかえて”開国論”を展開する、朝日新聞などの詭弁もきわめて悪質です。

農業に関しても、たしかに補助金で「保護」され、米や乳製品など特定の農産物の関税率が高いのは事実ですが、ただ農産物全体の関税率は、日本は韓国やEUより低いと言われています。農業一般に限っていえば、対外的には言われるほど「保護」されているわけではないのです。そのため、アメリカの本当の狙いは、いわゆる非関税障壁の撤廃(食品・環境・労働・金融・保険・医療分野などの開放)のほうではないかという指摘もあるくらいです。非関税障壁の撤廃は、以前より「構造改革」の名のもとにアメリカが要求していたことです。その先鞭をつけたのが小泉改革で、いわばTPPは小泉改革の延長上にあると言ってもいいのかもしれません。

日本医師会が言うように、混合医療が全面解禁されて、医療サービスに競争原理が導入されれば、実質的に国民皆保険制度が崩壊するのは目に見えています。大きな病院に行くと、よく「医療だけは平等だ」とか「誰でも等しく医療を受ける権利がある」とかいった”理念”が掲げられていますが、たとえそれが建前であっても、その建前すら姿を消すようになるのです。

よく言われる新薬の承認の問題にしても、諸外国に比べて時間がかかりすぎるのは事実かもしれませんが、あくまでそれは日本の薬事行政の問題であり、国内問題として改善すればいいだけの話です。別にアメリカに言われる筋合いではないのです。どうしてアメリカから要求されなければならないのか。そこにはアメリカの思惑があるからでしょう。テレビなどに新薬の承認を待ち望む難病患者が出てきて、「TPPに期待しています」と言うのは、どう考えてもおかしな話です。言うべき相手は、日本政府であり厚生労働省でしょう。

一方で、TPPによって製造業の空洞化が益々進むだろうと言われています。企業は、生き残りをかけて生産拠点を海外に移すでしょう。その傾向にますます拍車がかかるでしょう。そして、国内には本社機能や研究部門が残るだけです。その分、国内の雇用機会は奪われるのです。それはTPP推進論者も認めています。だから、彼らは「製造業に張り付いている労働人口をサービス業に移転する労働市場の改革も必要」だと言うのですが、製造業が空洞化して、それで生活していた多くの労働者の職が失われるような時代になってもなお、サービス業だけが繁栄して、より多くの雇用が必要になるとはとても思えません。

ネットでグローバリズムを礼賛する若者たちにしても、どう考えても大半はグローバリズムの恩恵とは無縁な人間たちです。まるでグローバル企業の経営者か世界を股にかけて仕事をする超エリートでもなったかのようなものの言い方をしていますが、現実には雇用を奪われ路頭に迷うような階層の人間たちでしょう。でも、彼らはそういった自分たちの生活やこれからの人生に対するリアリティを描けないのですね。それは、シュンペーターの「創造的破壊」などを援用して、マスコミからの受け売りのTPP=開国論を口にする丸の内や新橋のサラリーマンたちも同様です。グローバリズムの時代では、彼らもまた将来のリストラ要員にすぎないのです。

このようなアメリカに従属したグローバリズムで国が発展するとは思えないし、私たちの生活や人生が豊かで幸せなものになるとはとても思えません。ただ、「グローバル化」という強迫観念にせきたてられ、この閉塞した状況をTPPで一点突破できるような幻想にかられているだけのようにしか思えません。
2011.11.09 Wed l 社会・時事 l top ▲