マスコミの報道の特徴に、「アリバイ作り」があります。つまり、ものごとの雌雄が決したあとになって、如何にもといった感じで反対論や疑問点を報道して、彼らが言うところの「バランスをとる」のです。もちろん、大勢に影響はありません。60年安保や70年安保のときもそうでした。

我らが大分県出身の筑紫哲也にしても、新聞記者出身の宿痾で、その傾向が多分に見られました。政治的に重要なテーマの国会審議などが山場を越すと、にわかに反対論者などにインタビューして「アリバイ作り」をするのでした。私は、「またか」と思って、半ばあきれながらいつも「NES23」を見ていたものです。

それが、”制度化された報道”というものです。どんなに「中立」を装っても、どんなにリベラルを装っても、結局は安寧と秩序に貢献することを要請されるのです。それがまた「言論の自由」の本質でもあります。

今回のオリンピック狂騒曲にしても同様です。招致が決定し、AKBの総選挙のときのように大はしゃぎした朝日新聞は、今日になって「汚染水問題、『対応遅かった』72% 朝日新聞世論調査」(朝日新聞デジタル2013年9月9日6時45分配信)という記事を掲載したのでした。まるで誘致に影響を与えるので、決定まで掲載を見送っていたと言わんばかりのミエミエの記事です。

その結果、安倍総理の「健康問題は、今までも現在も将来も問題ない」「状況はコントロールされている」「汚染水の影響は福島第1原発の港湾内0.3平方キロメートルの範囲内で完全にブロックされている」という、IOC総会での仰天発言を許容することになったのでした。

オリンピックのためなら放射能汚染の問題なんて二の次なのか。それは政府もマスコミも同罪です。また、そういう政治を支持しているという点では、福島の県民も含めて国民も同罪でしょう。今さら「汚染水めぐる首相発言に批判の声 福島の漁業者ら『あきれた』」(東京新聞 TOKYO Web 2013年9月8日 20時51分)などと言ってもカマトトのようにしか聞こえません。もちろん、それも「アリバイ作り」にすぎないのでしょう。

汚染水の問題は、これから安倍総理の発言に沿って「コントロール」され、「安心安全な現実」が捏造されることでしょう。ついでに言えば、ネトウヨによる「朝鮮人を殺せ!」などというヘイトスピーチのデモに対して、ああいうみっともないデモが東京の中心で行われることはオリンピック開催のイメージダウンになる、というような声がありますが、私はそれも汚染水を隠ぺいするのと同じ論法のように思えて仕方ないのです。

マドリードでは経済危機に対するデモが頻発しており、それがオリンピック開催にマイナスに作用したと言われていますが、当然、オリンピックなんかより大事な問題はあるはずです。マドリードのデモ隊は、「オリンピックはTOKYOで!」と叫んでいたそうですが、むしろそういった社会のほうが健全と言えるのではないでしょうか。

オリンピック開催のために、右も左も沈黙し、デモもない社会を演出する。これが日本的おもてなしならぬ日本的自粛なのか。しかも、自分たちにとって切実な問題である(はずの)放射能汚染の問題ですら、まるで襤褸(ボロ)を隠すように後方に追いやるのです。「オールジャパン」とは、そんな異論を排した翼賛体制の謂いにほかなりません。もちろん、マスコミもただ制度化された言論を糊塗するだけで、なにかを報道しているようで、実はなにも報道してないのです。おそらく消費税増税もTPPも憲法改正も同じパターンを辿るのでしょう。

蛇足ですが、この際だから、東京招致の言いだしっぺである石原慎太郎前東京都知事に「国民栄誉賞」(それが無理なら「名誉都民」)を授与してもいいのではないでしょうか。尖閣の問題でもそうですが、オリンピックでも、石原氏のおかげで、右も左も招致に動員する「オールジャパン」の体制ができたのですから、安倍総理も石原氏に足を向けて寝られないはずで、その貢献度は間違いなく「国民栄誉賞」ものと言っていいでしょう。

>> 朝日新聞とAKB
2013.09.09 Mon l 社会・時事 l top ▲