マルハニチロホールディングスの子会社アクリフーズ群馬工場で製造された冷凍食品から農薬マラチオンが検出された事件について、一部のメディアは「フードテロ」と呼んでいました。

聞けば、アクリフーズ群馬工場300人の従業員のうち、なんと8割が非正規雇用なのだそうです。こういうのを「ブラック企業」と言うのではないでしょうか。

偽計業務妨害の容疑で逮捕された49歳の契約社員は、2005年10月から同工場に勤務していて、給与は19万円だったそうです。しかも、8年経っても給与は上がらず、それどころか勤務評価によって逆に賞与が減額されたそうで、そのことに不満を漏らしていたと言われています。実際に生活が苦しかったのか、工場の仕事とは別に新聞配達のアルバイトもしていたようです。

一方、テレビやネットには、アニメの「ワンピース」の海軍大将に扮した契約社員のコスプレ写真が流れていましたが、40のおっさんのその姿は、私たちの目にはただ「イタい」としか映りませんでした。

逮捕された契約社員には妻子がいたようですが、世代的に言えば、彼は「フリーター第一世代」です。つまり、フリーターの先頭世代はもう50歳を迎えようとしているのです。そして、「ワンピース」のコスプレに象徴されるように、彼らは、本格的にアニメなどサブカルチャーに影響されたオタクの第一世代でもあります。ちなみに、宮崎勤は1962年生まれで、生きていれば今年で52歳です。また、オウム真理教の幹部たちも、上祐史浩(1962年)、青山吉伸(1960年)、遠藤誠一(1960年)、新実智光(1964年)、井上嘉浩(1969年)、土谷正実(1965年)、中川智正(1962年)、岡﨑一明(1960年)と、圧倒的にこの世代が多いのが特徴です。

彼らは、政治的イデオロギーとは別の回路でこの社会の矛盾に突き当たったのです。うだつのあがらぬ人生と言えばそれまですが、正社員→契約社員→派遣社員という二重三重の差別構造のなかで、会社や社会に対する不満を募らせていったというのは容易に想像できます。その意味では、今回の犯罪も「秋葉原事件」と同じ構造上にあると言えるのではないでしょうか。

中国や韓国に対して挑発的な発言をつづける安倍首相が、その一方で、セールスマンのように東南アジアやアフリカへの「歴訪」をくり広げているのを見てもわかるとおり、今や中国や韓国は経済的にも日本の競争相手になったのです。日本と肩を並べるくらい台頭(キャッチアップ)してきたわけです。その焦りが今の”鬼畜中韓”のヘイトでファナティックなナショナリズムにつながっているように思えてなりません。そして、その競争は、いかにコストを削減するかという競争でもあります。従業員の8割が非正規雇用というこのブラックな会社の背景には、そういったコスト削減競争の苛烈な現実が伏在しているのです。それがグローバリズムの本質でもあります。

中国や韓国と競争するなかで、この国に先進国で「最悪」と言われる格差社会が生まれたのも当然と言えば当然でしょう。「愛国」の声が大きくなればなるほど、社会が冷たくなっていくのはゆえなきことではないのです。平岡正明は、「あらゆる犯罪は革命的である」と言ったのですが、彼と同じように挑発的な言い方をすれば、今回の「フードテロ」はたったひとりの”階級闘争”という見方もできるのではないでしょうか。

左翼も右翼も新旧を問わずその存在価値を喪失した現在、こういった政治的イデオロギーとは無縁な私的な「テロ」が、これからもゲリラ的に自然発生的に生まれる可能性はあるのではないでしょうか。「イタい」おっさんがやった今回の「フードテロ」ですが、そこには今の社会が抱える矛盾や病理が凝縮されていると言っても過言ではないでしょう。私たちにとっても決して他人事ではないはずです。

>> 秋葉原事件
2014.01.29 Wed l 社会・時事 l top ▲