アメリカのオバマ大統領が国賓で来日し、都内は厳戒態勢が敷かれています。都心の道路では、要所要所で検問がおこなわれ、駅の構内にも至る所に警察官が立って行き交う人に目を光らせています。

駅に立っているのは、若い警察官が多いのですが、ある駅の通路の外れに場違いなほど年を取った警察官がひとりで立っていました。それこそ定年も近いような年恰好でした。

彼は若い警察官と違って、見るからにめんどくさそうで、いやいややっている感じでした。ときどき帽子を脱いで汗を拭きながら、ため息を吐いたり天を仰いだりして、全然通行人に目を光らせていないのです。私は、そんな姿を見て逆に好感すら覚えたものです。

靖国参拝でギクシャクした日米関係をなんとか修復したい安倍首相は、有名寿司店「すきやばし次郎」での会食をセットしたりと、親密ムードを演出するのに必死です。しかし、オバマ大統領は寿司を半分残し、しかも挨拶もそこそこに、いきなり日米の懸案事項(TPPの問題)の話をはじめたりと、「和やかなムード」とは言い難い雰囲気だったそうです。

そもそも国賓と言っても、ミシェル夫人は同行していないのです。国賓に夫人が同行しないのは異例のことだそうです。その一方で、ミシェル夫人は、先月、2人の娘と一緒に中国を訪問、1週間も中国に滞在しているのです。この一事をもっても、アメリカが重視しているはどっちかがよくわかろうというものです。

田中宇氏は、「田中宇の国際ニュース解説」の会員版(有料ブログ)のなかで、今回の訪日について、つぎのように書いていました。

オバマ政権は、3年前に始めた「アジア重視策(中国包囲網)」の巻き直しをやりたがっている。オバマのアジア重視策は、日本やASEANなど中国の台頭に脅威を感じるアジア諸国に対し「米国の軍事力で中国の脅威から守ってやるから、経済面で市場開放などを言うとおりにやって米国(米企業)を儲けさせてくれ」と持ちかける軍事と経済利権のバーター戦略だ。利権獲得の中心がTPPだ。
(時代遅れな日米同盟 2014年4月24日)


 米国の国際大企業にとって、高齢化する成熟社会である日本市場は、これから儲かる市場でない。アジアにおいてこれから儲かる最大の市場は、日米が敵視する中国である。米国は一方で「中国包囲網」と銘打って日本やASEANでの儲けを拡大しようとしているが、その一方で中国との経済関係も拡大したい。だから米国は、中国を敵視する姿勢をとりつつも、軍事交流や戦略提携を含む中国との外交関係を重視せざるを得ない。オバマ政権のアジア重視策は、イメージやうたい文句に偏重した、実体が曖昧で中身が矛盾したものになっている。(同上)


なんだかんだ言っても、アメリカにとって、アジアでもっとも重要な商売相手が中国であることには変わりがないのです。アメリカの「アジア重視策」の裏に、このようなダブルハンドのしたたかな戦略が隠されていることを知る必要があるでしょう。中国敵視策をとる日本はアメリカにいいように踊らされているとも言えます。それが安倍政権の”対米従属愛国主義”の限界なのでしょう。

首脳会談がおこなわれたあと、夜になっても共同声明が発表されないという異例の事態になっていますが、もちろん、それは、TPP交渉が首脳同士の会談でも、「大筋合意」に至らなかったからです。安倍政権の中国敵視策はこれからの日本経済にとって、自滅的な(右翼小児病の)外交だとしか思えませんが、アメリカに対しては意外にもぎりぎりのところで踏ん張っていると言えるのかもしれません。(と思ったら、後日、「尖閣に安保適用」の文言と引き換えにTPP全面譲歩の密約があった、と一部のマスコミが伝えていました)

田中氏は、TPPやTTIP(米欧自由貿易協定)について、「(その本質は)米国などの国際的な大企業が、日本など対米従属の諸国の政府よりも大きな権限を持ち、日本などの政府が定めた貿易政策を、大企業の息がかかった判事たちが審判する国際法廷で無効化できることだ。これは、企業が国家の政策をくつがえせる新たな世界秩序の創設を意味する。」と書いていましたが、これこそが「成長」の名のもとに、先進国だけでなく新興国や発展途上国をも席捲しつつあるグローバル資本主義の本質と言えるでしょう。自己増殖し易々と国境を越えるグローバル企業にとって、今や国民国家は足手まといでしかないのです。

水野和夫氏は、新著『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社新書)のなかで、グローバリゼーションについて、つぎのように書いていました。

 そもそも、グローバリゼーションとは「中心」と「周辺」の組み替え作業なのであって、ヒト・モノ・カネが国境を自由に越え世界全体を繁栄に導くなどといった表層的な言説に惑わされてはいけないのです。二〇世紀までの「中心」は「北」(先進国)であり、「周辺」は「南」(途上国)でしたが、二一世紀に入って、「中心」はウォール街となり、「周辺」は自国民、具体的にはサブプライム層になるという組み替えがおこなわれました。


グローバリゼーションとは、資本が国家より優位に立つということです。その結果、国内的には、労働分配率の引き下げや労働法制の改悪によって、非正規雇用という「周辺」を作り、中産階級の没落を招き、1%の勝ち組と99%の負け組の格差社会を現出させるのです。当然、そこでは中産階級に支えられていた民主主義も機能しなくなります。今の右傾化やヘイト・スピーチの日常化も、そういった脈絡でとらえるべきでしょう。水野氏が言うように、「資本のための資本主義が民主主義を破壊する」のです。

一方で、「電子・金融空間」には140兆ドルの余剰マネーがあり、レバレッジを含めればこの数倍、数十倍のマネーが日々世界中を徘徊しているそうです。そして、量的緩和で膨らむ一方の余剰マネーは、世界の至るところでバブルを生じさせ、「経済の危機」を招いているのです。最近で言えば、ギリシャに端を発したヨーロッパの経済危機などもその好例でしょう。それに対して、実物経済の規模は、2013年で74.2兆ドル(IMF推定)だそうです。1%の勝ち組と99%の負け組は、このように生まれべくして生まれているのです。アメリカの若者が格差是正や貧困の撲滅を求めてウォール街を占拠したのは、ゆえなきことではないのです。

もちろん、従来の「成長」と違って、新興国の「成長」は、中国の13.6億人やインドの12.1億人の国民全員が豊かになれるわけではありません。なぜなら、従来の「成長」は、世界の2割弱の先進国の人間たちが、地球の資源を独占的に安く手に入れることを前提に成り立っていたからです。今後中国やインドにおいても、経済成長の過程で、絶望的なほどの格差社会がもたらされるのは目に見えています。

水野氏は、グローバリゼーションの時代は、「資本が主人で、国家が使用人のような関係」だと書いていましたが、今回のオバマ訪日と一連のTPP交渉も、所詮は使用人による”下働き”と言っていいのかもしれません。ちなみに、今問題になっている解雇規制の緩和や労働時間の規制撤廃=残業代の廃止なども、ご主人サマの意を汲んだ”下働き”と言えるでしょう。

史上稀に見る低金利政策からいっこうに抜けだせる方途が見出せない今の状況と、国民国家の枷から解き放され、欲望のままに世界を食いつぶそうとしているグローバル企業の横暴は、水野和夫氏が言うように、「成長」=「周辺」の拡大を前提にした資本主義が行き詰まりつつことを意味しているのかもしれません。少なくとも従来の秩序が崩壊しつつあることは間違いないでしょう。それは経済だけでなく、政治においても同様です。ウクライナ問題が端的にそのことを示めしていますが、アメリカが超大国の座から転落し、世界が多極化しつつあることは、もはや誰の目にもあきらかなのです。日米同盟は、そんな荒天の海に漂う小船みたいなものでしょう。
2014.04.24 Thu l 社会・時事 l top ▲