買い物革命、始動

今、ヤフーのトップページをひらくと、中央の目立つところに、上のようなバナーが貼られているのに気付いた方も多いでしょう。

ヤフーは、さる7日、「eコマース革命」と銘打ち、Yahoo!ショッピングの初期費用・毎月の固定費・売上ロイヤリティを10月からすべて無料にすると発表したのでした(併せてヤフオクの出店料も無料にすると発表)。また、今年の12月を目途に、ヤフオクと同じように、Yahoo!ショッピングでも個人の出店を可能にするというのです。

ちなみに、改定前のYahoo!ショッピングと楽天市場に出店した場合の費用は、以下のとおりです。

http://blog.livedoor.jp/net_hanbai/archives/1363014.html

これらの費用がすべて無料になるのですから、相当な負担軽減になるのは間違いありません。ライバルの楽天に「激震が走った」のも想像に難くありません。

発表会に出席したヤフー会長(兼ソフトバンク社長)の孫正義氏は、「インターネットの本来あるべき自由な姿を見直し、根底から物事をひっくり返す」と述べたそうです。

私ももう10年ネット通販をやっていますが、ネットが当初より大きく変わり、本来の自由が奪われていることをひしひしと感じます。10年前のネットには、たしかに私たちのような零細な業者でも希望を託せるような自由と可能性がありました。

ネット通販でも、先行したのはほとんどが個人の零細な業者でした。ところが、それを横目で見ていたメーカーや問屋や大手のチェーン店などが、やがてあとを追ってつぎつぎとネットに参入してきたのでした。仕入れ先の問屋やメーカーがいつの間にかネットで同じものを売っていたなんて泣くに泣けない話は枚挙にいとまがありません。しかも、実質的に価格決定権をもつ大手のチェーン店などがメーカーに圧力をかけるため、独占禁止法が禁じる「再販価格の拘束」(メーカーが設定した「小売価格」で売ることを取引の条件にすること)が当たり前のようにまかりとおる状況さえ生まれたのでした。

最近、公正取引委員会などに、「再販価格の拘束」を見直す動きがありますが、それはあくまでナショナルチェーンのスーパーなど大手の小売店とメーカーの力関係を前提にした話にすぎません。メーカーに対して圧倒的に力が弱い私たちのような零細なショップにとって、現実はまったく逆なのです。

このようにネットが自由でなくなったのは、ネットのリアル社会化、つまり、ネットがリアル社会に浸食された結果です。そのような状況をもたらしたのは、言うまでもなくヤフーや楽天やアマゾンのようなショッピングモールです。彼らによって、ネットにリアル社会の論理や手法が持ち込まれ、ネット通販が秩序化・整序化され序列化されたのです。

誰でもサイトをアップし、検索順位と商品力で勝負すれば、ある程度ネットで飯が食えるという時代はたしかにありましたが、彼らの存在が大きくなるにつれ、そんな簡単なものではなくなったのです。検索順位にしても、今、上位を占めているのはブランド力のある有名ショップのページばかりで、零細な業者のサイトはほとんど下位に追いやられ姿を消してしまいました。要するに、ネット通販の敷居が高くなったということです。それは出店料や維持費だけの話ではないのです。商品を仕入れるための取引条件も、Googleに一元化された検索順位も同様なのです。

孫正義氏の「ネットの本来あるべき自由な姿を見直す」というその言やよしです。ただ、忘れてはならないのは、私たちが考えるネットの「自由」と孫氏が考える「自由」とはまったく別のものだということです。ヤフーは、あくまで「金を掘る人」ではなく「金を掘る道具を売る人」なのです。「金を掘る人」が多くなればなるほど、その分道具も多く売れるわけですから、「ここに金があるぞ」と煽って多くの人を集め、道具を売ることがヤフーの目的だということです。

Yahoo!ショッピングのトップページの「おすすめ」や「イチオシ」に表示されるためには、当然、お金(広告費)が必要です。無料化によって出店が増えれば、その分、広告の需要も増えるでしょうし、単価も高騰するでしょう。無料化で商品があふれるなかで埋もれずに売り上げを上げるには、今まで以上に「プロモーション広告」やアフィリエイトに広告費をつぎ込まなければならない、そういう構造になっていくのは間違いないでしょう。

「ヤフーは間違っていた。さまざまな囲い込みをしようという小さな、いじけた心を持っていたが、そういうものは全部忘れる」という孫氏の発言についても、私は、違和感を禁じえませんでした。そうは言っても、「金を掘る道具」を売っていることには変わりがないのです。ただその売り方(ビジネスモデル)を少し変えるというだけの話でしょう。なのにどうしてこんなに時代がかった、「正義の味方」のようなもの言いをしなければならないのか。

当然の話ですが、「eコマース革命」は、ヤフーや楽天やアマゾンに出店しなければもはやネット通販が成り立たないような、そんな秩序化・整序化され序列化された状況を打ち壊すものではないのです。むしろ逆で、所詮は「金を掘る道具を売る」ための商売の(囲い込みの)論理でしかないのです。
2013.10.10 Thu l 仕事 l top ▲
先日、Yahoo!ニュースBUSINESSに、経済学者の吉本佳生氏の「なぜ失敗しそうな事業から撤退できないのか」という記事が紹介されていました。これは、経済誌『プレジデント』に掲載された記事なのですが、吉本氏は、企業が採算の合わない事業からなかなか撤退できないのは、「サンクコストの呪縛」にとらわれ、経済合理性に則った冷静な判断ができないからだと言ってました。

「サンクコストの呪縛」とはどういうことか。吉本氏は、個人の例を出して、つぎのように説明していました。

 運動不足が気になって、スポーツクラブに入会したとしよう。入会金に5万円を払い、会費は毎月2万円かかる。最初の1、2カ月こそ熱心に通っていたが、仕事が忙しくて足が遠のき早1年。「通わないのならさっさとやめればいいのに」と周りは言うが、本人は退会する気になれない。
 なぜか? 「サンクコストの呪縛」にかかっているからである。

 サンクコストとは埋没(サンク)した費用、つまり、すでに支払って、今後も回収できない費用を指す経済用語だ。この例でいえば、入会金と1年分の会費を合わせた29万円がサンクコストにあたる。今後、奮起して運動を再開する意欲もないのに、すでに払った29万円にとらわれて、ずるずると会費を支払い続ける。その結果、無駄な出費がますます嵩む。サンクコストの呪縛により、合理的な判断ができないのだ。
(プレジデント 2012/8/6 12:10)


別にむずかしい話ではなく、私たちにもありがちな心理です。たとえば、身近な例で言えば、赤字であるにもかかわらずショッピングモールから撤退できないネットショップなどもそうでしょう。

ショッピングモールというのは、思った以上に「経費」がかかるそうで、以前、出店している知り合いのショップに、「経費」の明細を見せてもらったことがありますが、こんなにかかるんだとびっくりした覚えがあります。出店料だけかと思ったら、とんでもない、クレジットカードの手数料は無論ですが、それ以外にも売上げに対するロイヤルティや諸々のシステムの利用料など、その何倍もの「経費」が必要なのです。買い物をすると、そのあとメルマガが頻繁に送られてきますが、あれもタダではないのです。それどころか、ショップが顧客データをダウンロードするのにも手数料がかかるそうです。

ネットでは、パチンコと同じで儲かった話しかしないので、”真実”がなかなか表に出てこないのですが、一説では70%のショップは赤字ではないかという話もあるくらいです。出店している知り合いのショップに訊いたら、「当たらずと言えども遠からずだろう」と言ってました。

年間売上げで上位にランクされていた”ベストストア”を、数年後に確認したら、既に3分の2が閉店していたとか、マスコミに「人気のお取り寄せ」と紹介されたショップが、ある日突然姿を消したとか、そんな話は枚挙にいとまがありません。まさにゴールドラッシュで儲けたのは、金を掘った者ではなく、金を掘る道具を売った者なのです。

それでもなかなか撤退に踏み切れない。そこには、今までかけてきた経費が無駄になるのがもったいないとか、せっかく獲得したお客さんを失うのは忍びないとか、モールの集客力が魅力だとか、さまざまな理由があるようです。でも、それこそが「サンクコストの呪縛」と言うべきでしょう。そして、ネットに対する幻想が、「サンクコストの呪縛」をさらに強固なものにしていると言えます。

もっとも、究極の「サンクコストの呪縛」は、やはり原発でしょう。もはや「呪縛」と言うより「犯罪」と言ってもいいかもしれません。もちろん、すべてを経済合理性ではかることはできませんが、原発のように本来経済合理性ではかるべきものがそうなってない現実を、宮台真司氏は「悪い心の習慣」と言っていました。

「サンクコストの呪縛」は、個々の心の問題なのか、あるいは組織のメカニズムの問題なのか。私たちをとりまく現実を考える上で、ひとつのヒントになるように思いました。
2012.08.10 Fri l 仕事 l top ▲
韓国在住の方から商品について問合せがありました。実際は弊社では扱ってない商品なのですが、韓国で販売したいと言うのです。何回かのメールのやりとりのあと、私は以下のような返事を出しました。これは私自身が日頃感じていることですし、とりわけネットショップをやっている多くの人達も同じように感じていることではないでしょうか。

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お問合せいただいた商品は、いづれもファンシー文具の会社の商品で、弊社では残念ながら取り扱っておりません。それに、文具の会社は非常に保守的で、日本的な商慣習にしばられていますので(ビジネスがオープンではありませんので)、通常は問屋か小売店で仕入れるしかありません。従って、そんなに安く仕入れることはできないと思います。

お尋ねしたいのですが、○○さんはご自分で小売店(ショップ)を開いているのですか? シール(ステッカー)はそこで販売したいと考えているのでしょうか?

だとすると、ネットを通して取引をはじめるのは現実的には難しいと思います。まして、上記のような会社は、非常に古い体質が残っていますので、ネット取引自体を嫌がる傾向があります。アメリカなどの方がはるかにネットでの取引が可能(ビジネスがオープン)ですよ。

たとえば、私達が上記の会社に取引したいとメールを送っても返事もくれません。また、上記の商品を扱っている問屋に連絡してもなかなか取引をしてもらえません。たとえ現金払いであってもです。中には別に保証金を入れれば商品を売ってもいいなんて言う会社もあるくらいです。

取引ができるという保証があるわけではありませんが、できれば一度見本市などに来て、直接商談をするのもひとつの方法かもしれません。ただ、文具業界はそのように非常に古い体質がありますので、門戸が狭い(なかなかビジネスのサークルに入れてもらえない)ことは覚悟された方がいいでしょう。だからと言って、文具業界が新規取引を断るくらい景気がいいわけではなく、むしろ逆です。要するに、業界特有の村社会の論理(習慣)からぬけられないだけなのです。

以前、原宿の取引先の店で、韓国から来た方が若い女の子向けのソックスやレッグウォーマーを大量に買っているのに遭遇しました。「そんなに買ってどうするのですか?」と聞いたところ、「韓国で店をやっているのでそこで売ります」と言ってました。「でも、定価で買った商品を売っても高くて売れないのではないですか?」と訊いたところ、「日本製のいいものだったらある程度高くても売れます。それに、この商品を参考にして自分達で商品を作るつもりです」と言ってました。なるほどなと思いました。そういうことも方法かもしれませんね。

お役に立てず申し訳ありませんが、以上、ご連絡申し上げます。
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こういうところにも広くネオリベラリズム(新自由主義)を受け入れる背景があるように思います。正直言って、私の中にもあります。この現状を打破するには、徹底的に規制緩和して、市場原理主義にすべてを委ねるしかないんじゃないかと思ってしまうのです。
2009.07.11 Sat l 仕事 l top ▲
最近、ニ三のサンディライオンのシールを扱っているショップで気になることがありました。

いづれも「新しい商品が入荷しました」といって”新商品”が紹介されていたのですが、それらを見て、一瞬、我が目を疑いました。

”新商品”の中に10年近く前に発売された古いシールが含まれていたのです。シールマニアではかつておまけシールでお客様にプレゼントしたり、特売シールとして処分価格で販売したシールもありました。

だからといって悪意があったわけではないと思います。

シールを扱っているショップを見るにつけ、最近、シールを扱いはじめた方が大半で、業界事情も含めてそのあたりの知識に疎い方が多いように思います。要するに知らないだけなのだと思います。

安く仕入れればそれだけもうかるから、と単純に考えただけなのかもしれません。それに、ネットでは実際にお客様と対面することがないので、そうやってものごとを安易に考える傾向があるのかもしれません。

たしかに、ネットの普及で誰でも「簡単に」ショップを開くことができるようになり、(何度も繰り返しますが)それがインターネットが産業革命以来の新しいトレンドであるといわれる所以なのですが、だからといって「簡単に」商売ができるわけではありません。そのあたりを勘違いされている方が多いように思います。

マスコミも例によって例の如く、「ズブの素人がネットで大もうけ」みたいな”神話”をふりまいていますが、現実はそんな甘い世界ではないことは言うまでもありません。ネットであれどこであれ商売は商売なのです。商売のきびしさに変わりはありません。

同業の知人は、「ネットのショップを見ていると、実際に商売の経験があるかどうか、大体わかるよ」と言ってました。

ネットで成功したといわれる人たちを見ても、実際に商売を経験した人が圧倒的に多いという事実は、ある意味で当然かもしれません。

今話題の男前豆腐店にしても、社長はズブの素人ではなく、大豆メーカーの二代目として豆腐業界のことを知り尽くした人物だそうです。一見、キワモノのような商売に見えますが、実は経験に基づいたしっかりしたマーケティングと商品力の裏付けがあるのです。

また、我が世の春を謳歌しているIT企業の社長たちの多くも、かつては有能な営業マンでもあったという事実を忘れてはならないと思います。

要は、商売のきびしさがわかっているか、そういった自覚と緊張感を持っているかどうかではないでしょうか。
2006.10.01 Sun l 仕事 l top ▲
昨日、朝からアクセス数が急速に伸びていましたので、どうしたんだろう、と思っていました。

しかも、Google経由でアクセスしてくるお客様が多く、その大半は”シール”のキーワードでいらっしゃるお客様でした。通常の4~5倍はありました。

夕方、某全国紙の記者の方からメールが届いて、その”異変”に合点がいきました。

前にも書きましたが、先々月、エントリーした記事がきっかけで、検索エンジン、特にGoogleについて取材を受けたのですが、その記事が昨日の朝刊に掲載されたらしいのです。

私自身はまだ読んでないのですが、恐らくそれを読まれた方がアクセスしてきたのではないでしょうか。

今更ながらに新聞の影響力の大きさを痛感させられました。
2006.07.29 Sat l 仕事 l top ▲
ネットを探索していたら、井上公三先生のサイトを見つけて、なつかしい気持になりました。井上先生はパリ在住の版画家ですが、私が最初に勤めたポストカードの会社が先生の版画も扱っていて、私が一時担当していた時期がありました。

先生は冬は南伊豆の別荘ですごされていて、私はその別荘に二度伺ったことがあります。一度は沼津の個展会場にお連れするために車で迎えに行ったのですが、途中、「美味しい店があるから昼食を食べて行きましょう」と言うのです。しかし、個展会場には先生を待っているお客さんがいるし、その日は地元のテレビ局も取材に来ていました。「皆さん、待っていらっしゃいますから」と言ったのですが、先生は「大丈夫ですよ。あわてることはありませんよ」とまったく意に介してない様子でした。それで、二人で先生行きつけの和食の店で食事をして、結局、二時間近く遅刻をして顰蹙をかった苦い思い出もあります。

また、先生の実家は当時、永田町の首相官邸のすぐ横にありました。毎年、国から土地を売ってくれと言われて困っていると言ってました。実家にもお邪魔したことがありますが、先生は下駄を履いてすぐ近くにある霞ヶ関ビルの中の喫茶店に連れていってくれました。あのあたりは文字通り国の中枢機関が集まっている一帯なので、カランカランと下駄を鳴らして歩いていると、しょっちゅう警察官から呼び止められるんです、と笑いながら話していました。

そんな先生の性格とお父さんが元国会議員だという育ちのよさが、あの幻想的な中にどこかハッピーで暖かみのある作品の背景になっているのかもしれません。ちなみに、私も先生から作品を頂いて、今も大事に持っています。

先生のサイトで作品が紹介されていますので、是非ご覧になってみてください。
2005.10.31 Mon l 仕事 l top ▲
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なつかしの「タイタニック」です。

しかし、私はどちらかといえば苦い思い出しかありません。

「タイタニック」がブームになる前からデカプリオやブラピーなど映画スターやロックミュージシャンのポストカードを扱っていました。

しかし、その前にスーパーモデルのブームがあり、むしろケイト・モスやシンディ・クロフォードのポストカードの方が売れていたくらいです。

ところが、ある日突然、「タイタニック」のヒットでてんやわんわの大騒ぎになりました。

そして、お決まりのパターンですが、我も我もといろんな業者が「タイタニック」のポストカードを扱いはじめたのです。もうそうなれば、あとは荒れるに任せるしかありません。

程なく「タイタニック」のブームが去ると、彼らも商品を放り投げまるでくもの子を散らすように立ち去って行ったのでした。後に残ったのは見るも無残なほど荒れ果てた市場だけでした。

昨今、益々その傾向が強くなっている気がします。メーカーや輸入元はもっと自分達の商品を大事にしてもらいたいと思うのですが、やはり、背に腹は変えられないのでしょうか。
2005.09.27 Tue l 仕事 l top ▲
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当時扱っていた国産のポストカードの中ではこのペーター佐藤さんのパステル画のカードが一番の人気でした。私もとても好きなカードでした。

ペーター佐藤さんといえば、一般的にはミスタードーナッツのイラストやパルコのポスターでおなじみのイラストレーターですが、残念ながら10年前に40代の若さでお亡くなりになりました。

私も個人的にかなりの数のカードを持っていたのですが、年賀状に使ったり人にプレゼントしたりして現在手元に残っているのは数種類だけになってしまいました。

佐藤さんのカードからは80年代のパルコやポパイに代表される都会的で洗練された当時の雰囲気が伝わってきます。バックに流れるのはやはりユーミンでしょうか。

カードやポスターは佐藤さんが運営されていたペーターズギャラリーで直接お作りになっていましたので、すごく丁寧で贅沢な作りになっています。佐藤さんご自身がアメリカで活動されていたことがあるので、ポストカードやポスターに対してのこだわりがあったのかもしれません。

現在も原宿にあるペーターズギャラリーで販売されていますので、お近くに行かれた際はお立ち寄りになってみては如何でしょうか? (サイトによれば、ネット通販もはじめるみたいです)
2005.09.06 Tue l 仕事 l top ▲
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プロフィールの中でも書いていますが、私がこの業界に入ったのはポストカードの輸入の会社に勤めたことがきっかけでした。日本に初めて海外のポストカードを紹介した会社として業界では知る人ぞ知る有名な会社でした。

当時扱っていたポストカードがまだ手元に残っていますので、随時紹介していきたいと思っていますが、中でも私が好きなポストカードはこのナイーフという会社のカードです。

ヨーロッパのポストカードは、各都市を代表する会社があり、それぞれの都市の文化を反映しているのですが、ナイーフはパリのポストカードの会社です。

もちろん、写真はどれも有名な写真家の作品で、それ自体ひとつのアートでもあります。そして、それぞれパリの街角の雰囲気を漂わせているような写真ばかりで、それがすごくおしゃれなのです。

シールも同じですが、やはり、本場のものはどこか違うのです。それは、文化的な下地があるかどうかではないでしょうか? 端的にいえば、オリジナルなものとコピー(モノマネ)の違いだと思います。

日本で売れるポストカードには、当時、”三原則”があるといわれていました(といっても、それは、我々の間で自嘲気味に言っていただけですが‥‥)。その”三原則”というのは、かわいい・きれい・かっこいいです。

かわいいはキッズ、きれいは花、かっこいいはカップルです。そういった絵柄のポストカードであれば売れるのです。

それで、私達の役割は、膨大なサンプルやカタログの中からそういった”三原則”のポストカードをただ選ぶことだけでした。それは、すごくむなしさの伴う作業でした。

また、実際に見比べていただければわかりますが、海外のポストカードと国産のポストカードでは紙質が全然違います。

それで、私は静岡の富士市の製紙会社に行って、「どうしてヨーロッパのポストカードに使われているような紙がないのですか?」と尋ねたことがありました。

応対していただいた担当者の方によれば、日本にも同じような紙がないわけではないけれど、ただ、日本の場合は紙が高いので、ポストカードではコスト面で採算が合わないからではないか、というお話でした。

今では大手の雑貨専門店の売場でも輸入のポストカードはめっきり減り、”三原則”に徹した国産のカードの中でなんだか肩身の狭い思いをしている感じです。それは、やはり、さみしい光景です。
2005.08.29 Mon l 仕事 l top ▲