明月院


土曜日の午後、久しぶりに北鎌倉に行きました。

いつも車で行くことが多いのですが、電車だとまた違った印象があります。小津映画の『麦秋』をはじめ日本映画でおなじみの北鎌倉駅のホームにはまだ当時の風情が残っており、郷愁をそそられるものがありました。

時折小雨がちらつく中、円覚寺東慶寺明月院建長寺を訪ねました。

上の写真は”あじさい寺”として有名な明月院です。青色の紫陽花の花が咲き乱れる境内は散策する人の波がつづいていました。

明月院に行く途中、とある洋館の前に人だかりができていました。なんだろうと思ったら、絵本作家の葉祥明氏の美術館(葉祥明美術館)でした。葉祥明氏は、最近ではルー大柴&仁井山征弘の「MOTTAINAI ~もったいない~」のTシャツをデザインした方としても有名です。

下の写真は重量文化財に指定されている建長寺の三門(山門) です。

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建長寺は臨済宗の禅寺で、日本で最初の禅寺だそうですが、鎌倉幕府の”官寺”でもあっただけに伽藍はどれも壮観で見ごたえがありました。かつて、庶民にとってお寺に詣でるというのはレジャーでもあったので、名刹と言われるお寺はどこも見る者を圧倒するようにスケールが大きくきらびやかだったそうです。そして、「すごい~!」と感嘆する気持が信仰心と結びつく側面もあったそうですが、さもありなんと思いました。

この山門もかつては原色をふんだんに使ったきらびやかな色彩に彩られていたに違いありません。そして、山門の前に立った古(いにしえ)の人々は、身をうち震わせるような感動に襲われたのではないでしょうか。

本堂ではちょうど説法会が行われていました。高僧が信徒を前にして張りのある声で「朝に夕に合掌しましょう」と言ってました。

ところが、隣の控えの間では、高僧の世話係とおぼしき若い修行僧が、待ちくたびれたのか、高僧の説法を子守唄に船を漕いでいる最中でした。さらにその様子を外人のカメラマンが障子の陰からシャッターにおさめていました。カメラマンは私に気付くと、ニヤッといたずらっ子のような笑顔を見せていましたが、私は、もしかしたらマグナムの会員かもしれない、と思いました(笑)。

本堂の裏では庭園を眺めるために廊下に長椅子が置かれていました。金髪の若い外人夫婦が和の心を堪能するかのように無言で庭に目をやっていましたが、その隣ではフランス人形のような女の子が一心不乱に携帯ゲームに興じていました。そのコントラストが面白かったのですが、私にはシャッターを押す勇気がありませんでした。
2007.06.10 Sun l 鎌倉 l top ▲
渋谷駅

下北沢に行った帰り、久しぶりに井の頭線の神泉で下車して渋谷駅まで歩きました。東電OL殺人事件がこの3月でまる10年を迎えたという記事を思い出したからです。

私にとってもこの事件は衝撃的でした。被害者は、慶応女子高から慶応大を出て東京電力に総合職で入社、東洋経済新報社が主宰する経済学賞(高橋亀吉賞)で佳作に選ばれるなど女流エコノミストとしても将来を嘱望されていたエリートOLだったのですが、事件後、被害者にもうひとつ別の顔があったことが明らかになるにつれ、マスコミの格好の餌食になったのは言うまでもありません。

『東電OL殺人事件』(新潮社)の著者の佐野眞一氏は、被害者のWさんの行動を「現代の堕落論」と呼んだのですが、まさに言い得て妙だなと思いました。

「東電OLの見た風景」というサイト(注:残念ながらサイトは閉鎖されました)で紹介されている風景は、もう20年来渋谷に通っている私にとってもおなじみの場所ばかりで、私もWさんと同じ風景を見ていたんだな、とあらためて思います。

それどころか、私は、夜の渋谷の街角で何度か彼女とすれ違ったことがあるのです。最初に見かけたのは、取引先の店でした。痩せこけて異様に派手な化粧をした中年女性がふらりとやって来て、50円のチョコレートをひとつだけ買って行ったのです。「誰?」と店の女の子に訊いたら、「売春婦よ」「いつもわけのわからない文句ばかり言って嫌な客」と言ってました。それがWさんだったのです。

精神科医の斉藤学氏は、彼女の行動を「自己処罰」という言葉を使って説明していましたが、人間というのは自己処罰しなければならないほど哀しい存在なのだろうか、と思いました。終電の井の頭線の車内では、傍目も気にせず菓子パンにかぶりついている彼女の姿が乗客達の間で有名だったそうですが、その姿を想像するに、なんだか切なさのようなものさえ覚えてなりません。

しかし、事件はこれだけにとどまりませんでした。事件後、Wさんと同年代の女性達を中心に、彼女の気持に共感できるという多くの声が佐野眞一氏の元に寄せられたのだそうです。佐野氏はそれを「東電OL症候群(シンドローム)」と名づけて、同名の本を著しました。

私の身近でも似たような話がありますが、「女性の時代」などと言っても現実にはさまざまな嗜癖に苦しみ、彼女と同じような危うい場所に立っている女性は意外と多いのではないでしょうか。

また、上記のサイトに詳しく書かれていますが、犯人として逮捕されたネパール国籍の青年が、無実を訴えて再審請求していることも忘れてはなりません。この事件はひとつの殺人事件としても奇怪な経緯を辿っているのです。

久しぶりに歩いた渋谷の裏街の風景は、不思議なほど変わってなくて、彼女が毎夜出没しさまざまなトラブルの舞台となった界隈の風景もそのまま残っていました。しかし、この迷路のような路地を行き交う人達の中で、彼女のことを覚えている人は果たしてどれだけいるのだろうか、と思いました。

※この記事は、Yahoo!トピックスに「関連情報」として紹介されました。

2007.06.07 Thu l 社会・メディア l top ▲