
人間というのは年を取るとやたら過去ばかり振り返るようになります。音楽を聴く場合も、どうしても過去の歌ばかりを聴いて思い出に浸るようになるものです。
先日たまたま用事で根岸に行った際、「ドルフィン」の前を通ったのですが、それ以来、ユーミンの歌を聴いています。「ドルフィン」はご存知ユーミンの「海を見ていた午後」で”山手のドルフィン”と歌われているあまりに有名なレストランですが、若気の至りと言うべきか、私も昔、ユーミンファンのガールフレンドと食事に行ったことがありました。当時と建物が変わっていましたが、今も健在なのはやはりユーミンのおかげかもしれません。むしろ、ユーミンファンも既に中高年になり金銭的に余裕が出てきたので、昔より客単価はあがっているのかも、なんてよけいなことまで考えてしまいました。
私は、ユーミンの歌ではこの「海を見ていた午後」と「ひこうき雲」と「雨の街を」が好きです。特に、マーケティングやタイアップと無縁だった(?)荒井由実時代の初期にいい歌が多いなと思います。彼女は八王子生まれで学校も立教女学院と多摩美ですが、なんとなくユーミンと横浜はイメージで重なるものがあります。横浜や湘南を連想させるような海を歌った作品が多いし、自身の結婚式も山手教会で披露宴はニューグランドホテルでしたので、横浜に対して特別な思い入れがあったのかもしれません。もっとも、八王子と横浜をつなぐJR横浜線は、もともと生糸を横浜に運ぶための鉄道で、いわば”日本のシルクロード”とも言うべき役割を担っていたのです。八王子出身のユーミンが横浜に強い思い入れをもつのも当然と言えば当然なのでした。
ユーミンの歌は同じ抒情でも日本人特有のベタっとしたものではなく、異邦人の目で見たようなどこか乾いた客観的なところがあるように思います。それが、舞台装置もさることながら、「都会的だ」と言われる所以でもあるのではないでしょうか。また、ユーミンの歌には”生活感”がないとよく言われますが、高度成長が完結し大衆消費社会が出現した「豊かな時代」では”生活感”が後景に退くのは当然で、そういった意味でも、70年代から80年代の若者達の時代感覚をポップなメロディに乗せて描出した彼女は、やはり、天才だったと言うべきでしょう。