
光文社新書の4月の新刊『ウェブはバカと暇人のもの-現場からのネット敗北宣言』(中川淳一郎著)と『ヤンキー進化論-不良文化はなぜ強い』(難波功士著)が面白かったです。新横浜駅の三省堂書店で購入したのですが、同店の新書のコーナーでもこの二冊はよく売れているようでした。
『ヤンキー進化論』については、後日あらためて書こうと思っていますが、ネットに関しては、私は仕事の関係で1日の多くの時間をネットですごしている、いわばネットのヘビーユーザーと言ってもいいかもしれません。そんな私から見ると、どうしても衆愚化した面ばかりが目に付いてならないのです。
私はインターネットの前は、ワープロで
パソコン通信をやっていました。東芝のルポというワープロに秋葉原で買ってきたモデムをつないで、
ニフティサーブのフォーラムなどによく出入りしていました。田口ランディを知ったのもその頃です。パソコン通信は最盛期でも恐らく100万~200万人くらいの規模だったのではないかと思いますが、それでもごく限られた人達の世界でしたので、衆愚化とはまったく無縁でした。それに比べれば、今のネットは散々たるものだと言わざるを得ません。
まして『ブログ論壇の誕生』(佐々木俊尚著/文春新書)などと言われると、「どこが?」と突っ込みを入れたくなります。実際に『ブログ論壇の誕生』の巻末でリストアップされている、「オピニオンリーダーになるような」著名ブログの一覧を見ても、とてもじゃないが「論壇」なんて片腹痛いと思いました。むしろ、私は、『ウェブはバカと暇人のもの』の著者の中川氏がまえがきで書いていた、次のような意見に同意せざるを得ません。
悲しい話だが、ネットに接する人は、ネットユーザーを完全なる「善」と捉えないほうがいい。集合知のすばらしさがネットの特徴として語られているが、せっせとネットに書き込みをする人々のなかには凡庸な人も多数含まれる。というか、そちらの方が多いため、「集合愚」のほうが私にはしっくりくるし、インターネットというツールを手に入れたことによって、人間の能力が突然変異のごとく向上し、すばらしいアイデアを生み出すと考えるのはあまりに早計ではないか?
これは、インターネットのニュースサイトの編集者の立場から見た文字通りの実感なのでしょう。
「ネットで流行るのは結局『テレビネタ』」だとか、「ネットはプロの物書きや企業にとって、もっとも発言に自由度のない場所」だとか、「ネットが自由な発言の場と考えられる人は、失うものがない人だけである」などというのは、よくわかる話ですね。また、今は亡き
ナンシー関さんがもしあの辛口コラムをブログでやったら、すぐ炎上してうまくいかないだろうという話も、かつて『
噂の真相』の彼女のコラムを愛読していた人間としては、わかりすぎるくらいよくわかる話でした。(ちなみに、『ヤンキー進化論』でも冒頭から彼女のコラムが取り上げられていましたが)
インターネットの技術についても、2ちゃんねる管理人の西村博之氏は自著『2ちゃんねるはなぜ潰れないか?』(扶桑社新書)の中で、「昔からあったさまざまな技術を、さまざまな営業サービスを駆使して見せ方を変え、売っているにすぎないのです」「今後インターネット技術では発明は生まれないでしょう」と書いているそうですが、新しいサービスが出るたびに「すごい!」「乗り遅れたら大変だ!」と騒いでいるのは、腹に一物の業界関係者やIT関連のメディアなどに煽られ「ネットに過度の期待をしている(させられている)」人達で、ホントにネットに通じている人は案外さめた目で見ているのではないでしょうか。
私達は、ネットに対するさまざまな幻想を一度疑ってみる必要があるのかもしれません。そして、ネットにふりまわされるのではなく、ネットという便利なツールをうまく活用するためにも、「たかがネット」との正しい付き合い方をもう一度考えるべきかもしれません。その際、次のような含蓄のある言葉は参考になるように思います。
ネットは情報革命の主役ではない。あくまでも電話を頂点とする情報革命の第二段階以後の担い手でしかない。
(中略)
ネットは便利である。こんな便利なものは本当に珍しい。だが、電話ほどの画期性はない。ネットがない時代も日本は成長していた。高度成長期にもバブル期にもネットはなかった。その程度なのである。だから、その程度の期待値で良いのである。あくまでもさまざまなものを本当に便利で効率的にしてくれただけだ。電話によってもたらされた「革命」のあとに来た「繁栄」を担っている程度である。
ネットがない時代にもともと優秀だった人は、今でもリアルとネットの世界に浮遊する多種多様な情報をうまく編集し、生活をより便利にしている。ネットがない時代に暇で立ち読みやテレビゲームばかりやっていた人は、ネットという新たな、そして最強の暇つぶしツールを手に入れただけである。
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ウェブ時代