昨日、Business Journalに、宮永博史・東京理科大学大学院MOT(技術経営専攻)教授の「iPhoneの広告ブロック機能、グーグルに大ダメージ?高いiPhone依存が急所に」という文章が掲載されていました。
これは、既にロイターなども伝えていますが、アップルがiPhoneなどで広告をブロックできるようにする(具体的には、ブロックするアブリのダウンロードを解禁する)方針を打ち出したことについて書かれたものです。
Business JournaliPhoneの広告ブロック機能、グーグルに大ダメージ?高いiPhone依存が急所にREUTERS ロイター米アップル、iPhoneでの広告ブロック容認 グーグルに打撃BLOGOSiPhone新製品に広告ブロック機能、広告一辺倒ビジネスの終わりの始まり?ダウンロードしたアプリにくっついてくる広告がうざいというのは、誰しもが思うことで、その広告をブロックすることが可能になったというのは、iPhoneユーザーにとっては歓迎すべきことでしょう。
記事にもあるように、既にアップルの最新OS・iOS 9に「標準搭載されているブラウザ・ソフトのSafariには、広告をブロックする拡張機能が追加されており、専用のアプリをインストールすると広告をブロックできる」そうです。同時に、楽天やヤフオク!やAmazonなどで商品をクリックすると、その商品の広告がいつまでもつきまとってくる行動ターゲティング広告(その基になるユーザーの行動を追跡するトラッキング機能)も拒否できるそうです。これらはパソコンでは従来より可能でしたが、モバイルにおいても可能になったのです。
今後スマホやタブレットなどモバイルがネットの主流になるのは間違いなく、当然ネット広告もモバイルが主戦場になると言われています。Google がパソコン検索とモバイル検索を分離し、モバイル検索ではスマホに対応したモバイルフレンドリーのサイトを優遇すると表明したのも(実際はウソですが)、そういった流れを視野に入れているのは間違いないのです。
アップルがこのような大胆な方針を打ち出した背景には、広告に依存しない収益構造をもっているからです。アップルの収益の70%はiPhoneなど端末代で、残りはアップルストアの売上だそうです。アップルは広告に頼らなくてもいいのです。
一方、アップルの方針によって大きな打撃を受けるのがGoogle です。Googleは、アップルと違って収益の90%がアドセンスなどの広告収入なのです。しかも、モバイルのブラウザのシェアを見ると、日本ではGoogle (android)が強いのですが、世界的にはSafariが45%とトップで、アップルとGoogle のシェアはほぼ互角なのです。
さらに、記事にあるように、ゴールドマンサックスの調査によれば、2014年のグーグルのモバイル広告収入118億ドル(約1兆4,600億円)のうち、実に75%の90億ドル(約1兆1,100億円)がiPhoneからのアクセスによるものだそうです。今回の方針が、Google にとって大きな打撃になるのは間違いありません。
ネットでは、アップルの方針によって、広告一辺倒のネットのビジネスモデルが終わりを告げるのではないかという声がある一方で、ユーザーにとってネットの”無料経済”はもはや当たり前のことになっており、それから脱却することは考えられないので、”無料経済”を支えている広告の”ありがたみ”をユーザーが再認識するきっかけになり、結局元の木阿弥になるのではないかという楽観的な見方もあります。
でも、今回のアップルの方針が私たちに突き付けた問題の所在は、そういったところにあるのではないと思います。
先日、ヤフーがソニー不動産と資本・業務提携したことに伴い、「大手不動産業者で組織する不動産流通経営協会(FRK)」が、「不動産情報サイト『Yahoo!不動産』を運営するヤフーへの物件情報の提供を12月10日に打ち切る」というニュースがありました。理由は、ポータルサイトの中立性を損なうヤフーの姿勢を疑問視したからだそうです。
CNET Japan不動産業界団体、ヤフーへの情報提供を打ち切り--ポータルとしての中立性を重視これは、広告においても同じでしょう。検索サイトが同時に広告業者を兼ねるという現実に対して、当然検索の中立性に疑問をもってもいいはずです。欧州委員会が再三指摘しているのも、まさにその点なのです(Google が、Google ショッピングに登録しているスポンサーサイトが上位に表示されるように検索順位を操作しているという疑惑です)。でも、日本ではなぜかそういった声がまったく出てこないのです。
言うまでもなく、検索順位を決めるアルゴリズムは、Google が独自に開発したものです。Googleのさじ加減ひとつで、いくらでも順位の操作が可能なのです。まして、Google は、収益の90%を広告収入に頼る広告業者でもあるのです。YouTubeやGoogle マップなどGoogle のサービスは広告のためにあるのです。それは検索も同じで、検索だけが中立なんてあり得ないでしょう。
たとえば、通販サイトが、メーカーの商品画像や商品名や商品の説明文を流用したり、同じ商品画像を使ってカテゴリー別や売れ筋(ベスト10)など別のページを作ることは、重複コンテンツと看做され、順位を下げるマイナス要因になるというSEO の“常識“がありますが、そんなのはすべてウソです。
いや、正確に言えば、私たちのような零細なサイトにとっては、たしかにそれらはマイナス要因になっています。しかし、「NPO、公共団体、教育機関、法人企業」には関係ないのです。
その証拠に、大手の通販サイトはメーカーの商品画像や説明文を堂々と流用していますが、まったく関係なく検索の上位に掲載されています。零細なサイトが同じことをおこなったら、大きく順位を下げるでしょう。実際に、モバイルフレンドリーが実施された今年の春以降、その傾向が強くなりました。一方、「NPO、公共団体、教育機関、法人企業」のサイトでは、逆に重複コンテンツとしか言いようのないページが並んで表示されている事例がいくらでもあります。
すべては広告がらみの思惑によるものなのでしょう。考えてみれば、検索に公平性や中立性が担保されているというのは、何の根拠もない話です。「そうあるべきだ」と”希望的観測”で勝手に思っているだけです。
最近のGoogle とマイクロソフトのBingの検索を比べると、Bingのほうがはるかにまともに見えます。Bingには、Googleによってペナルティを受け圏外に飛ばされたサイトもちゃんと掲載されています。それに、Google のように同じサイトのページが重複して掲載されるという”珍現象”もありません。もちろん、前も書いたように、「シール印刷」のアドワーズ(スポンサー)サイトが上位を占めるという不自然な現象もありません。どちらがユーザービリティにすぐれているかは一目瞭然でしょう。
Google のDon’t be evil(邪悪にならない)というスローガンには、マイクロソフトに対する皮肉が込められていたと言われていますが、今やそれが逆になっているのです。これこそ皮肉なことはないでしょう。
Google は、アップルの方針に対抗して、早速広告をブロックできないようにするアプリの配布をはじめたそうです。これなどもGoogle のアロガントな姿勢を示していると言えるでしょう。広告頼りの危機感がますますGoogle を邪悪にしているのです。
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