
日本は公式には「移民労働者」を認めていません。しかし、下記の毎日新聞の記事によれば、2016年末の在留外国人数は238万2822人で、そのうち永住資格を持つ「永住者」が72万7111人もいるそうです。
在留資格のなかでは、「永住者」がもっとも多く、つぎに在日韓国・朝鮮人などの特別永住者(33万8950人)、留学生(27万7331人)、技能実習生(22万8588人)の順になっています。「永住者」は「1996年の約7万2000人から約10倍と大幅に増加」しているのです。
首都大学東京の丹野教授が言うように、「在留資格の更新が不要で職業制限もない『永住者』は実質的に移民」なのです。これが日本が「隠れ移民大国」と言われるゆえんです。
毎日新聞在留外国人 最多238万人…永住者、20年で10倍一方、「移民労働者」を認めない政府が、「国際貢献」や「技能移転」という建て前のもとに、外国人労働者の期限付きの受け入れをおこなっている「技能実習生制度」には、過重労働や低賃金など多くの問題が指摘されています。“現代の奴隷制度”だと指摘する人さえいるくらいです。
実習生の失踪も問題になっていますが、その主因になっているのが低賃金です。
実習制度を統括する公益財団法人「国際研修協力機構」(JITCO)が公表している2009年9月に「基本給が最も低い技能実習生」の平均給与額は、14.3万円です(なぜか2009年以降公表されてない)。しかし、そのなかからさまざまな名目で経費が引かれるため、実際に手にするのは10万円くらいだと言われています。
昨年度の大宅賞の候補になった『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α文庫)の著者・出井康博氏は、外国人労働者が置かれている実態について、「日本が国ぐるみで『ブラック企業』をやっているも同然だ」と書いていました。
どうして低賃金になるのかと言えば、背後にピンハネの構造が存在するからです。つまり、実習生たちが受け取るべき労働の対価の一部が、「会費」や「管理費」の名目で、監理団体や監理機関の「天下り役員たちの報酬に回されている」からです。
『ルポ ニッポン絶望工場』では、その「”ピンハネ”のピラミッド構造」について、具体的につぎのように書いていました。
実習生の受け入れ先では、「監理団体」と呼ばれる斡旋団体を通すのが決まりだ。受け入れ先の企業は、監理団体に対して紹介料を支払うことになる。(略)一人につき約50万円の支払いが生じる。(略)
実習制度には、民間の人材派遣会社などは関与できない。監理団体も表面上は「公的な機関」ということになっていて、実習生の斡旋だけを目的につくることは許されていない。しかし、そんな規制はまったく形骸化してしまっている。
監理団体には一応、「協同組合」や「事業組合」といったもっともらしい名前がついている。だが、実際は人材派遣業者と何ら変わらない。しかも、実習生の斡旋を専業とする団体がほとんどだ。監理団体は業界に幅広い人脈を持つ関係者が設立するケースが多い。運営には、官僚に顔のきく元国会議員なども関わっている。
(略)
受け入れ側の日本と同様、送り出し国でも公的な機関しか関われない決まりだ。しかし、それも建て前に過ぎず、実際には現地の人材派遣会社が送り出しを担っている。政府や自治体の関係者が送り出し機関を設立し、仲介料を収入源にしていることもよくある。
送り出し機関にとっても、実習生は”金ヅル”なのである。一人でも多く日本へと送り出せば、毎月入っている「管理費」も増える。だが、実習生が失踪すれば管理費も途絶えてしまう。そこで失踪を防ごうと、実習生から「保証金」と称して大金を預かり、3年間の仕事を終えるまで「身代金」にしているような機関もある。
一方、日本の監理団体は、実習生が仕事を始めると、受けれ先から「管理費」を毎月徴収する。送り出し機関と山分けするためのものだ。金額は団体によって差があるが、月5万円前後が相場である。だからといって、監理団体が実習生を「管理」してくれるわけではない。
受け入れ先は、監理団体に年10万円程度の「組合費」も支払わなくてはならない。あの手この手で、監理団体が受け入れ先からカネを取っているわけだ。
こうしたピンハネ構造には官僚機構も加わっています。「国際研修協力機構」(JITCO)は、法務・外務・厚生労働・経済産業・国土交通の5つの官庁が所轄し、役員には各官庁のOBが天下りしています。しかも、JITCOは、監理団体や受け入れ先から年13億円の会費収入を得ているのです。
受け入れ企業の上には監理団体と送り出し機関があって、さらに制度を統括するJITCOが存在する。このピラミッド構造を通じ、実習生の受け入れが一部の業界関係者と官僚機構の収入源となっている。そして陰では、官僚や政治家たちが利権を貪っているわけだ。その結果、実習生の賃金は不当に抑えられてしまう。
しかし、話はこれだけにとどまりません。実習制度の問題点が指摘されると、その「改善」と制度の拡充を目的に、あらたな法律(技能実習適正化法)が作られたのでした。そして、同法の成立に伴い、今年1月、JITCOとは別に、厚労省と経産省によって外国人技能実習機構(OTIT)という監理機関が設立されたのでした。しかし、OTITも受け入れ先企業や監理団体からの「会費」を収入源としており、またひとつピンハネ先と天下り先が増えたと言っても言いすぎではないでしょう。「転んでもタダでは起きない」如何にも官僚らしいやり方ですが、出井康博氏もあたらしい監理機関の設立について、「官僚利権」の「焼け太り」だと批判していました。
そのOTITのサイトに、先日、つぎのような「重要なお知らせ」が掲載されていました。
外国人技能実習機構(OTIT)送出機関との不適切な関係についての注意喚起でも、これがみずからを棚にあげたきれい事にすぎないことは誰が見てもあきらかでしょう。諸悪の根源は、国が主導する「”ピンハネ”のピラミッド構造」にあるのです。
しかし、“現代の奴隷制度”は、実習制度だけではありません。技能実習生の”悲惨な実態”を取り上げる新聞社に対しても、出井氏は批判の矛先を向けています。新聞社も決して他人事ではないのです。
今や都市部の新聞配達は外国人(特にベトナム人)留学生なしでは成り立たないと言われています。彼らは、留学ビザで来日していますので、就労は「週28時間以内」に制限されています。しかし、彼らの目的は勉学ではなく就労(出稼ぎ)です。日本語学校のなかには、手数料を取ってアルバイトを斡旋しているところもあるそうです。
人手不足に悩む新聞販売店は、(なにがあっても泣き寝入りするしかない)彼らの”弱み”に付け込み、「週28時間以内」の制限はおろか、法定賃金や法定休日を無視した違法就労を強いているのです。出井氏は、「外国人労働者で今、最もひどい状況に置かれているのは実習生ではなく、留学生」で、その典型が「新聞配達の現場」であると書いていました。
朝日新聞本社社員の平均年収は約1237万円(2015年3月末)にも達する。そんな高給も販売所、そして配達現場で違法就労を強いられている外国人たちのおかげなのである。
まったくどこに正義や良心があるんだと言いたくなります。テレビやネットでは、相変わらず「ニッポン、凄い!」の自演乙が満開ですが、(大手企業の検査データ改ざんなどもそうですが)どこが「凄い!」のだろうと思ってしまいます。ホントに日本は世界の人々があこがれる「凄い!」国なのか。出井氏もつぎのように書いていました。
シリア内戦で難民が欧州に押し寄せた際、日本も彼らを受け入れるべきだという声が出た。確かに日本は、欧米の先進国と比べて難民の受け入れ数は少ない。だが、難民にとっては日本は魅力的な国なのだろうか。事実、400万人にも達したシリア難民のうち、日本への亡命を希望した人はわずか60人程度と見られる。命がけで国を逃れたシリア人にとってすら、日本は「住みたい国」ではないのである。
今、日本でも移民の受け入れをめぐっての議論が始まっている。だが、私から見れば、受入れ賛成派、そして反対派にも大きな勘違いがある。それは、「国を開けば、いくらでも外国人がやってくる」という前提で議論を進めていることだ。日本が「経済大国」と呼ばれ、世界から羨望の眼差しを注がれた時代は今や昔なのである。にもかかわらず日本人は、昔ながらの「上から目線」が抜けない。
外国人労働者の主流は、中国人や日系ブラジル人からベトナム人やネパール人に変わりつつあるそうです。中国人やブラジル人が少なくなっているのは、母国が経済発展して、もはや日本でお金を稼ぐ必要がなくなったからです。それは裏を返せば、出井氏が書いているように、日本が彼らに「見捨てられた」と言えなくもないのです。彼らにとって、日本はもはやお金を稼ぐ国ではなくなったのです。その魅力も必要性もなくなったのです。もちろん、そのうち、ベトナム人やネパール人からも「見捨てられる」ときがくるでしょう。
国家を食い物にすることしか能のない政治家や官僚たち。自分たちが坂道を下っているという自覚さえない国民。そこには、移民受け入れ是か非か以前の問題があるように思えてなりません。「ニッポン、凄い!」と自演乙しているのも、なんだか滑稽にすら思えてくるのです。
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