小室圭さんの帰国をきっかけに、再びバッシングが沸き起こっています。なかでも、スポーツ新聞とそれを転載するYahoo!ニュースのコメント欄(ヤフコメ)の異常さが際立っています。ネット民の異常さは今にはじまったことではありませんが、スポーツ新聞に関しては、販売部数の低迷による経営不振という背景があるように思えてなりません。そこにあるのは、どう考えても精神病理学でなければ説明がつかないような、ネットと旧メディアの共振による”日本の異常”です。

Yahoo!ニュースに転載されたスポーツ紙のコタツ記事の見出しをざっとピックアップしてみるだけでも、その異常さがよくわかります。

小室圭さん「エコノミークラス」で帰国へ 航空チケット代は〝お国持ち〟か(9/24東スポ)

あの時とは別人 小室さん ロン毛、ちょんまげ、ポケットに手入れ無視 宮内庁関係者「もう少し考えて…」(9/25スポニチアネックス)

小室圭さん激変 えっロン毛! フジテレビ突撃取材に左手ポケット、発言一切なし(9/25ディリースポーツ)

眞子さま&小室さんと対照的…百恵さん&友和、唐沢&山口智子らの幸せ結婚会見現場(9/25女性自身)

眞子さまの「ゴリ押し婚」が違憲かもしれないこれだけの理由(9/25JBpress)

ロン毛の小室圭さん「直撃ガン無視」が及ぼす結婚会見への影響(9/25FRIDAY)

小室圭さんのロン毛に哀愁を感じるワケ 米NYで質素倹約生活「散髪代すら…」(9/25東スポ)

眞子さまのNY生活を待ち受ける小室佳代さんの“支配” 異国の地で居場所を失う可能性も(9/26ディリー新潮)

小室圭さん 急展開!眞子さまと渡米延期も…手続き待つ都内新居に母・佳代さんが“通い姑”(9/27スポニチアネックス)

小室圭さん 母の金銭トラブル、不正受給疑惑など“4つの騒動”自身から説明あるか(9/27スポニチアネックス)

小室圭さん 物価高いNYで役立つレシピ本「月たった2万円のふたりごはん」購入済み(9/27スポニチアネックス)

高橋真麻 小室圭さんの直撃取材無視に「印象悪すぎ」 対応変化も「挽回できない」(9/27スポニチアネックス)

清原博氏 弁護士の立場捨て?空港の小室圭さんを糾弾「とてもじゃないけど感じ悪い」(9/27ディリースポーツ)

国際弁護士・清原博氏 小室圭さん就職…米法律事務所の新人実情説明「大変厳しいと思います」(9/27スポニチアネックス)

高橋真麻 小室圭さんに「嫁のために頭下げられないやつが夫…大丈夫なの?っていう気持ち」(9/27スポニチアネックス)

実家で2週間の隔離期間を過ごす小室圭氏 警備費用は誰が負担するのか(9/27NEWSポストセブン)

小室さん”ロン毛”帰国に遠野なぎこ疑問「笑かしにきてるのかな」「なんかのネタなのか」(9/27中日スポーツ)

天皇陛下 小室さんと“面会拒否”の真相…「義理の甥」肩書乱用を憂慮か(9/28女性自身)

坂上忍 無言貫く小室圭さん「ハート強いわ」 注目度の高さ「金銭トラブル解決してないまま…」(9/28スポニチアネックス)

これを見ると、スポニチの異常さが特に目立ちます。小室家に何か恨みでもあるのかと思いたくなるような、悪意をむき出しにした記事のオンパレードです。

一方で、SMAP解散の際も指摘しましたが、スポニチはジャニーズ事務所べったりのメディアで、嵐の櫻井翔と相葉雅紀のW結婚の発表では、同じ新聞かと思うほど歯の浮いたような祝辞が紙面を覆っているのでした。しかも、結婚相手についての記事は一切なく、ただジャニーズ事務所の大本営発表を垂れ流しているだけなのでした。

また、高橋真麻や遠野なぎこや国際弁護士の清原博らによる、大衆の負の感情を煽るようなコメントも目につきますが、彼らは風にそよぐ葦の典型的なゲスタレントと言うべきでしょう。

大手芸能事務所だと報復が怖いので忖度するけど、小室さんなら立場上無防備にならざるを得ないので、スポーツ新聞やワイドショーにとっては書き放題、言いたい放題なのです。

そして、こういったコタツ記事に煽られて、ヤフコメに終日貼り付いているネット民たちが小室バッシングに狂奔するのです。

もちろん、なかにはネットで人殺し扱いされたスマイリーキクチのような冷静な意見もないこともありません。

小室圭さんバッシングに「一億総いじめっ子時代か…」スマイリーキクチ私見
(日刊スポーツ9/24)

でも、こういった意見は、”日本の異常”のなかでは濁流に呑み込まれる小舟のようなものです。

挙句の果てには、この”日本の異常”が、平均年収で日本を抜いた韓国のメディアに「嘲笑」される始末なのでした。

同紙(引用注:京仁日報)はこれまでの小室さんを巡る騒動に触れつつも結婚を好意的に捉えており、映画「ローマの休日」などと例示しながら様々な壁を乗り越えて愛を貫く様子を報じた。

 そのうえで「2人の交際に世論は友好的ではない。メディアは小室の経済力を問題視した。夫と死別した母親が恋人から400万円を借りた後、返済がなかったと〝つまらない暴露〟が出た」と疑惑に対して批判的な日本の世論を疑問視。

 そして「家庭の事情を口実に結婚に反対する日本国内の世論はスルーすればいい。『私生活よりも、それぞれの立場にふさわしい行動をしなければならない』などという指摘は息苦しいものだ。世の中は光速化の時代になっているのに、日本人の前近代的思考は変わらない。発展が鈍くなった日本には濃い暗雲が垂れこめている」とお二人の結婚に反対する日本の世論を強く非難した。

日本の〝小室圭さん報道〟を韓国紙が嘲笑「日本人の前近代的思考」「つまらない暴露」

(9/28東スポ)

こういった指摘が日本のメディアから出て来ないのも不思議です。「多様性のある社会」なんて片腹痛いと言えるでしょう。恋愛の自由はもちろんですが、当人同士の合意に基く結婚の自由は、子どもでも知っている民主主義社会の基本の「き」です。でも、日本のメディアはそんな基本の「き」さえ認めたくないかのようです。自由を求める二人の勇気ある行動をここまで呪詛する日本の社会の、その根底にある歪んだ心性を考えないわけにはいきません。

自分たち(あるいは自分たちの子ども)は、借金があろうがなかろうがすぐ同棲し、できちゃった結婚をしているくせに、眞子さんには浮世離れしたいつの時代の話だと思うような厳格を求めるのです。もはや狂気と言ってもいいかもしれません。

二人に浴びせられる誹謗中傷をまじかで見てきた佳子さんも、今の自分たちが置かれた立場(と言うか日本という国)に絶望して何らかの行動を起こす可能性は高いでしょう。次期天皇の悠仁さんも、最近、感情の起伏が激しく、聞くに堪えないような乱暴なことばを使ったりして、側近たちも頭を悩ましているという話もあります。どう考えても、今どきの若者たちに赤坂御用地のなかに閉じ込めるような人生を押し付けるのは無理があるのです。秋篠宮家の教育方針が間違っているとかトンチンカンなことを言う者がいますが、要するに、現代社会に天皇制は間尺が合わなくなっているのです。反動的な日本国民がその現実を見ようとしてないだけです。

いわゆる小室さん問題については、今まで何度もこのブログで書いていますのでくり返しませんが、ご興味があれば下記の関連記事をご覧ください。

小室さんは、眞子さんと結婚するために留学し、一生懸命勉強して優秀な成績を残し、12月に発表される弁護士資格の試験でも合格するのはほぼ間違いないと言われています。私などは個人的に、凄いなとか立派だなということばしか浮かびませんが、しかし、ネット民はそうは思わないみたいです。終日ネットに貼り付いているような、努力とは無縁な人生を送っているので、小室さんの血の滲むような努力が理解できないのかもしれません。

また、もうひとつ注目すべきは、ネトウヨや右派系の著名人たちが小室さんだけでなく、眞子さんもバッシングしていることです。韓国紙が書いているように、結婚相手が皇室にふさわしくないからと言いたいのかもしれませんが、それは裏を返せば、カゴのなかの鳥でいろということです。まるで税金で養われている身分なのだからとでも言いたげで、皇室に対する尊敬の念など微塵も感じられないのでした。かつて『噂の真相』は、記事のなかで皇太子妃を呼び捨てにしたとして、右翼のテロに遭ったのですが、ネトウヨや右派著名人の誹謗中傷はとてもその比ではないでしょう。


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小室さんバッシングのおぞましさ
2021.09.29 Wed l 社会・メディア l top ▲
一部のメディアにも取り上げられていましたが、2002年の小泉・金正日会談の陰の立役者である元外務審議官の田中均氏が下記のようなツイートをしていました。

田中均ツイート20210922
@TanakaDiplomat 9月22日

また、ダイヤモンドオンライン「安いニッポン 買われる日本」という特集のなかにも、次のような記述がありました。

   OECD(経済協力開発機構)の調査によると、日本の平均賃金(年間)は2000年時点、3万8364ドル(約422万円)で加盟35カ国中17位だった。20年には3万8514ドル(約423万円)と金額はわずかに上がったものの、22位にまで順位を下げた。過去20年間の上昇率は0.4%にすぎず、ほとんど「昇給ゼロ」状態。これでは「給料が上がらない」と悩む日本人が多いのも当然だろう。

 他国と比べると、日本の賃金の低さは歴然としている。トップの米国は6万9391ドル(約763万円)で、率にして44%の大差が開いている。OECD加盟35カ国の平均額の4万9165ドル(約540万円)に対しても22%低い。

 米国以下には、アイスランド、ルクセンブルク、スイスといった欧州の国々が並ぶ。日本の賃金はこういった欧米の国々に負けているだけでなく、お隣の韓国よりも低くなっている。

(略)日本の平均賃金は韓国に比べて、3445ドル(約37万9000円)低い。月収ベースで見れば3万1600円ほど低いという計算になる。

DIAMOND online
日本人は韓国人より給料が38万円も安い!低賃金から抜け出せない残念な理由


日本が韓国から抜かれたのは2015年だそうです。以来、その差は開く一方なのです。

今の自民党総裁選では、中国や北朝鮮を念頭に「敵基地への先制攻撃能力の保持」などという、まるでそれが「愛国」の踏み絵であるかのように、勇ましい外交防衛論議がくり広げられていますが、その一方で、国内の貧困問題はほとんどと言っていいほど取り上げられていません。唯一、河野太郎が消費税を財源とする「最低保障年金制度」の導入に言及しましたが、それも他の候補者やメディアからは絵空事として一蹴されただけです。

もっとも、自民党総裁選で何に関心があるかという問いに対して、「外交・防衛政策」と答えた国民(有権者)が意外と多いという世論調査の結果もあります。コロナで貧困と格差の広がりにいっそう拍車がかかり、自分たちの尻に火が点いているにもかかわらず、まるで「欲しがりません勝つまでは」の再来のように、国民自身がメディアの中国脅威論に煽られている側面があるのです。

もちろん、その背後にはアメリカの対中強硬策があるからですが、でも、前に書いたように、アメリカは唯一の超大国の座から転落してもはや「世界の警察官」ではなくなったのです。パクス・アメリカーナの時代は終わったのです。

アメリカは、クアッド(日米豪印戦略対話)を軸に中国に対抗しようとしているみたいですが(自民党総裁選の勇ましい外交防衛論議もそのアメリカの意向の上にあるのですが)、先のアフガン撤退を見てもわかるとおり、もはやアメリカにその力はありません。アジアの覇権が中国に移るのは既定路線なのです。

「ネットで目覚めた」高齢者のネトウヨが「高市早苗を総理大臣にする」運動なるものを始めて、ネットのみながらず街頭にまで進出しているみたいですが、彼らが胸を高鳴らせる「敵基地への先制攻撃能力の保持」も、安倍晋三らが主張していた自衛隊が平壌に侵攻して拉致被害者を奪還するという話と同じような荒唐無稽な妄想にすぎません。

高市早苗応援団の背後に、韓国の情報機関から金銭を受け取っていたと報道された“極右の女神”の存在も指摘されていますが、自己保身のために高市早苗を担いだ安倍晋三ともども、そうやって「愛国」の名のもとに国を過つ方向に持って行こうとしているようにしか思えません。

高齢者は人生も残り少なく、年金においても食い逃げ世代なので、勇ましい戦争ごっこの妄想の世界で夜郎自大な余生を送ることができるかもしれませんが、これから長い人生を「アジアの片隅」で生きて行かねばならない若者たちにとっては、既に中国や韓国に「負けている」現実はとてもしんどいものがあると言えるでしょう。貧困と格差のむごい現実に直面し、生活がままならない現状をいちばん痛感しているのは若者たちなのです。高齢者のネトウヨは、中国や韓国のような二等国の台頭を許すなみたいに言っていますが、それは(中国や韓国に追い抜かれて)二等国へ転落している日本の悪あがきと言うか、引かれ者の小唄のように聞こえなくもありません。

同じ『週刊ダイヤモンド』(9月11日号)の「新階級社会 上級国民と中流貧民」という特集でも、「エリート転落56社実名リスト」と題して、ホンダやパナソニックやANAやTBSやフジテレビのような一流企業が大幅なリストラを実施している現実を伝えていました。最近、テレビ局の特に女性アナウンサー退社のニュースをよく見かけますが、あれもメディアを覆うリストラと関係があるのかもしれません。リストラされたエンジニアのなかには中国企業への転職も目立つそうです。もちろん、リストラの陰では、「新中間階級」から滑り落ちたエリートたちの悲哀も存在します。

日本は「安い国」なのです。間違ってもテレビが言うように、世界の人々があこがれる豊かな国ではないのです。千客万来で外国人観光客が訪れたのも、日本が「安い国」だからです。そして、その裏に、「安い国」を支える低賃金の日本の労働者がいるのです。それが私たちなのです。「敵基地への先制攻撃能力の保持」に胸を高鳴らす前に、虚心坦懐に今の自分の生活と向き合い、まず「己を知る」ことが肝要でしょう。


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2021.09.25 Sat l 社会・メディア l top ▲
山に登る前に読む本


先週、財布とパスモ(ICカード)を忘れて、1万歩以上歩くことになりました。早速、帰宅したら膝に水が溜まっているのがわかりました。一時、水も引いて調子がよかったのですが、反対の足のアキレス腱の炎症をきっかけにまた元に戻った感じです。

実は昨日も同じポカをやらかして、8.6キロ1万2千歩を歩くはめになりましたが、やはり足が重くてなりませんでした。ただ、帰って足を冷やし膝の裏を親指でくり返し押すと、軽くなり可動域も広がって楽になりました。今日は意識して3駅分、6.6キロ9千歩を歩きました。帰って同じように冷やして指圧マッサージをするとすぐ楽になりました。エアロバイクも毎日ではありませんが、ときどき漕ぎ始めています。

先週、整形外科に行った際、たまたまドクターのPCに私の膝のレントゲン写真が映し出されていたので、レントゲン写真について質問をしました。すると、ドクターは棚から膝の医学書を出して来て、写真を指し示しながらあらためて説明してくれました。

ドクターが言うには、私の変形膝関節症の症状は、「0」の「正常」から「1」の「軽度」の間くらいだそうです。ちなみに、症状は「0」から「3」までの4段階で表すみたいで、「2」は「中等度」、「3」は「重等度」です。だったら、この前に行った総合病院の中等から重等という診断は何故なのかという疑問が残ります。診察する前からいきなりサポーターや足底板をセールスするのも違和感がありましたが、殊更患者の不安を煽る商法のような気がしないでもありません。

ドクターが言うには、変形膝関節症でも半月板損傷でも、痛みが出ない人も多いのだそうです。つまり、軟骨がすり減ったり傷ついたりしても軟骨自体には血管が通ってないので、痛みを感じないのだとか。痛みを感じなければ病院にも行かないでしょうから、変形膝関節症の患者は1千万人いて”国民病”だなどと言われていますが、実際はもっと多いと考えていいでしょう。でも、痛みがなくても骨の変形は進むので、いづれ日常生活に支障をきたすことになるのです。それどころか、老後は寝たきりになり介護が必要になる可能性が高いと言われているのです。

前に夫婦で百名山登頂を達成したという人の家に行く機会があったのですが、ご主人は車椅子生活で、奥さんもソファから立ち上がるのも支えが必要なほど見るからに膝が痛そうでした。正座ができないので仏壇にお参りするときなどは大変ですと言っていました。つまり、二人とも典型的な変形膝関節症なのです。登山を趣味にして百名山踏破の偉業を達成した代償が変形膝関節症による不便な老後なのです。実際に、60歳以上のハイカーの90%が膝痛で悩んでいるという話もあるくらいです。

スポーツが心身ともに健康の保持増進に大きな効果があるのは言うまでもありません。しかし、それも「ほどほど」の場合なのです。やりすぎると、特に骨や関節などに歪みをもたらして、痛みや障害の原因になるのです。若いときのスポーツが原因で、一生癒えない痛みや障害を抱えてしまうということもめずらしくありません。

その意味では、登山は「やりすぎ」のスポーツの代表と言っていいかもしれません。とりわけ、膝にとってこれほど悪いスポーツはないでしょう。先日も、たまたま某ネトウヨ登山家のブログを見ていたら、彼も膝痛に悩んでいて、再生治療のひとつであるPRP(血小板血漿)治療を受けたと書いていました。また、登山系のユーチューバ―も、大半は基礎的な訓練も受けてないぽっと出の登山者なので、山行を重ねるうちに膝を痛める人も多いみたいです。登山に膝痛は付き物なのです。

膝痛から解放されるには、まず膝の負担を減らす必要があります。その方法は二つあり、一つはストレッチして大腿四頭筋の筋力をつけることです。もうひとつは、言うまでもなく体重を減らすことです。ドクターが言うには、多くの人はストレッチの方を選択するけど、結局、挫折していつまでも痛みから解放されないケースが多いのだとか。

それより体重を減らす、つまり、「ダイエットする方が手っ取り早いですよ」と言っていました。膝には体重の3倍の負荷がかかると言われているそうで、「たとえば3キロ減量すれば9キロの負担が減るのですよ。9キロの負担を減らすために筋力をつけるというのは途方もない努力が必要ですよ。それに比べれば3キロの減量の方が近道のはずです」と言っていました。

単純に考えれば、山に7キロのザックを背負って行くとすれば、2キロ以上の減量をしてもザック分をペイするだけです。つまり、膝の負担を軽減しようと思えば、少なくとも5キロくらいの減量は必須です。もちろん、山に登るには筋力も必要です。特に登山の場合、大腿四頭筋に蓄えられたグリコーゲンをエネルギー源に使うので、大腿部の筋力量を増やすことが肝要です。しかし同時に、膝の負担を減らすためには、体重を落とすことも無視できないのです。

常念岳の診療所の所長も務めた信州大学医学部の能勢博教授も、著書の『山に登る前に読む本 運動生理学からみた科学的登山術』(講談社ブルーバックス)のなかで、体力を測るひとつの指標である最大酸素消費(摂取)量の数値を改善するには体重を落とすことも重要だと書いていました。最大酸素消費(摂取)量というのは、1分間に体重1kgあたりに取り込むことができる酸素の量(ml/kg/分)なので、体重が減ればその分数値も改善されるのです。つまり、それだけ心臓の負担も減るというわけですが、当然と言えば当然の話です。

能勢教授は、最大酸素消費(摂取)量の役割について、次のように書いていました。

相対運動強度は最大酸素消費量に左右される。すなわち、最大酸素消費量の高い人と低い人が一緒に登山をする場合、低い人のほうが、ブドウ糖の消費速度が速くなる。さらに、もともと筋肉量が低くグリコーゲン貯蔵量が少ないのも手伝って、早く「燃料切れ」になって登山の継続を困難にさせる。


最大酸素消費量が示しているのは持久力ですが、これは20歳代をピークに10歳年を取るごとに5~10%低下すると言われているそうです。登山には加齢によって筋力(特に膝伸展筋力)が低下する「老人性筋萎縮症(サルコペニア)」の問題も深刻です。膝伸展筋力の低下は、「日常活動量を低下させ、そのため心肺機能の負担が低くなり、最大酸素消費量の低下を引き起こす」のです。もちろん、そのためにはトレーニングすることも大事です。

(略)中高年者の最大酸素消費量の低下は、主に加齢による大腿筋力の低下によって引き起こされるので、トレーニングによってその筋力が改善すれば、それに比例して最大酸素消費量も向上する。また、筋肥大が起きると運動時の血液から筋肉の酸素の移動速度が上昇する。そして、筋力さえ改善すれば、それに追随して心肺機能も改善するということである。


年齢を問わず、運動形態を問わず、最大酸素消費量の60~70%に相当する「ややきつい」「きつい」と感じる運動を、一日15~30分間、週3~4日、5ヵ月間おこなえば、大腿筋力、最大酸素消費量が10~20%増加する。


一方で、トレーニングだけでなく体重も落とせば、最大酸素消費量の数値の改善も見込まれるのです。もちろん、体重が落ちると、心臓だけでなく膝の負担を減らすことにもなるので膝痛予防にも役立ちます。

余談ですが、登山を趣味にする人の3分の1が60歳以上という登山者が高齢化している現在、遭難の多くも高齢化に伴う疲労が原因だと能勢教授は書いていました。

遭難の多くは疲労が原因で、それは加齢による体力の低下によると考えてよい。したがって、登山中の事故や怪我を防ぐには、自分の体力を客観的に把握し、それに合った山を選び、登山計画を立てることが非常に重要である。


能勢教授は、加齢現象は「何年もかけてゆっくり起こるものだから、ほとんど自覚症状がなく『いつまでも若いつもり』という、登山で遭難にむすびつく『大きな勘違い』が起こる」と書いていました。

前に山で会ったビジターセンターの人は、「年寄りのハイカーは無茶をする人が多いんですよ」と言っていましたが、ヤマレコなどでもよく見かける「オレは若いんだ」「若い奴には負けないぞ」と言わんばかりに「無茶をする」高齢のベテランハイカーこそ遭難予備軍と言うべきかもしれません。

話は戻りますが、私の場合、どうしてこんなに回復が遅れているのか、あたらめてドクターに訊いてみました。ドクターが言うには、症状は千差万別なので、早い人も遅い人もいると言っていました。それに、もうひとつは、私は身体が大きくその分体重も重いので治るのに不利な面はあるとも言っていました。さらに、「これは仮定だけど」と前置きして、もしかしたら半月板を痛めてそれが回復を遅くしている原因になっているかもしれないとも言っていました。

そう言えば、総合病院でも半月板を少し痛めていますねと言われました。ただ、ドクターが言うには、半月板はレントゲンではわからずMRIでないと損傷の有無は確認できないそうです。ところが、私もMRIで精密検査をするために総合病院に行ったのですが、総合病院ではレントゲンしか撮らず、それで半月板も少し痛めていると言われたのです。あれも変な話です。

また、ドクターは、昔は半月板損傷だと損傷した部分を切除する手術をしていたけど、今は保存療法が主流になっていると言っていました。どうしてかと言えば、手術をして30年経ち高齢化した元患者たちの追跡調査をしたところ、手術をしてない一般の人たちに比べて手術した人の方が変形膝関節症になる割合が高いことがわかったからだそうです。軟骨を切り取るわけですから当たり前と言えば当たり前の話ですが、そのために一律に手術をするのはやめたそうです。

来月あたりから軽いハイキングと言うか、昔よくやっていた山の散歩を始めようかなと思っていますが、ともあれ、何事においてもダイエットが大事という話をあらためて突き付けられた気がしました。
2021.09.16 Thu l 健康・ダイエット l top ▲
ビートたけし(北野武)の乗った車が今月の4日、TBS構内で「つるはしを持った男に襲われた」という事件がありました。

朝日新聞デジタル
ビートたけしさんの車つるはしで襲う 小刀所持容疑で40代男を逮捕

通報でかけつけた警察官に逮捕された男は、「突然つるはしで襲いかかり、車のフロントガラスや運転席の窓ガラスなどを割った」そうで、「容疑を認めているが、つじつまの合わない供述もしており、署が慎重に調べている」と記事は書いていました。

私は、最初「つじつまの合わない供述」という箇所を読んで、「責任能力の有無も含めて捜査する」類の事件なのかと思ったのですが、しかし、最新の記事によれば、逮捕された男は、「指定暴力団住吉会系の組関係者であることが」わかったそうです。一方で、「事件に暴力団が絡んだ形跡はなく、組織性も確認できない」とも書いていました。

朝日新聞デジタル
車襲撃「弟子入り志願、無視」

現役の暴力団員が弟子入りを志願して無視されたので襲ったというのは、たしかにつじつまの合わない奇妙な話です。もちろん、個人的な誇大妄想ということも考えられますが、一方で、闇社会からのなんらかのメッセージ、警告だったのではないかという疑念も拭えません。「弟子入り志願」というのも、考えようによっては不気味なことばです。過去には大手芸能事務所に銃弾が撃ち込まれた事件もありましたが、闇社会の住人にとって、こういったやり方は別にめずらしいことではないのです。

私がそんな穿った見方をしたのは、ニュースを見てとっさに1992年の参院選に新右翼の大物が参院選挙に出馬した際、麻布十番で行われた記者会見の席に、たけしが横山やすしらとともにひな壇に座っていた光景を思い出したからです。娘が芸能界にデビューした際も、発表会見の席に「大物右翼」が同席していたそうです。でも、それらは、『噂の真相』など一部のメディアを除いて、大手のメディアは報じていません。

今回の事件も、襲撃したのが「住吉会系の組関係者」であることを伝えたあと続報が出ていません。なにしろ、たけしは報道番組のレギュラーまで持つ大物芸人なので、このまま尻切れトンボで終わる可能性もあります。しかし、今回の事件で、たけしの身辺に、今なおきな臭いものが漂っている気がしたのは私だけではないでしょう。

たけしのような大物芸能人が収録を終えて帰る際、彼らが乗ったベントレーやロールス・ロイスやベンツを見送るために、番組の担当者らが玄関先にずらりと並び、深々と頭を下げている光景を見たことがありますが、ああいった大仰な光景もなんだかヤクザのそれと似たものがあります。下の者が上の者の楽屋に、卑屈なほど平身低頭して挨拶まわりするのも同じですが、報道機関でもあるテレビ局には未だそういった芸能とヤクザが密着していた時代を彷彿とするような慣習を許容する空気があるのです。それでは、島田紳助ではないですが、後部座席に座っている大物芸能人がますますふんぞり返り、ヤクザまがいのふるまいをするようになるのは当然でしょう。芸能人が独立するとどうして干されるのかという話でも何度も書いているように、テレビ局がそうやって芸能界をアンタッチャブルなものにしているのはたしかなのです。

若い頃、仕事の関係で取引のあった会社が、売掛金を回収するのに苦労して、あろうことかヤクザに回収を頼んだということがありました。ところが、それ以後、事務所にいかつい男たちがたむろするようになり、そのうち実質的な経営権はヤクザに握られ、挙句の果てにはいいようにしゃぶり尽くされて会社が潰されてしまったのでした。上司から、「ヤクザというのは利用したつもりでも利用されてしまうんだ。あんなことしたらおしまいだ。あの会社にはもう近寄るな」と言われましたが、その通りになったのです。

記事によれば、たけしも74歳だそうです。もし今回の事件が単なる個人的な誇大妄想でないとしたら、残り少ない人生も安閑としてはいられないでしょう。自分で蒔いた種とは言え、「私は過去を忘れても、過去は私を忘れてくれない」のです。メディアは忘れたふりをしてくれるけど、過去は容赦なくいつまでも追いかけて来るのです。


関連記事:
ビートたけしの虚像
水道橋博士
2021.09.07 Tue l 芸能・スポーツ l top ▲
先月の初め、東京オリンピックに関して、下記のような世論調査の結果が出ていました。

讀賣新聞オンライン
五輪開催「よかった」64%…読売世論調査

オリンピックを開催してよかったかという質問に対して、「思う」と答えた人が64%、「思わない」と答えた人が28%だったそうです(残りは無回答)。

開催する前までは、「反対」が80%もあったのです。にもかかわらず、菅総理は、開催してメダルラッシュに感動すると「反対」の声も消えるに違いない、大衆とはそんなものだ、という保守政治家特有の冷徹な大衆観に基づいて開催を強行したのでした。あにはからんや、まったくその通りになったのです。

ただ、菅総理の目論みが外れたのは、その感動に寝返った世論が内閣支持率の浮揚につながらなかったという点です。新型コロナウイルス、特にデルタ株による感染拡大は、大衆にとってかくも切実な出来事だったと言えますが、その意味では「(総理大臣に)誰がなっても同じ」と言うのはそのとおりだったかもしれません。悪い冗談ですが、仮に枝野内閣だったとしても、菅内閣と同じ運命を辿ったのは間違いないでしょう。

何が言いたいのかと言えば、あたらしい内閣になれば、オリンピック開催で寝返ったと同じように、世論も高い支持率に変わるのは火をみるより明らかだということです。反転なのか豹変なのかわかりませんが、同じ自民党政権であるにもかかわらず、掌を返したように支持率がV字回復するのは目に見えています。菅政権だって1年前の成立時は、70%以上の「稀に見る」高い支持率を誇っていたのです。

いくら「反対」の声が大きくても、開催すればメダルラッシュに感動して「賛成」に寝返るという保守政治家の大衆観は、裏を返せば大衆は単純でバカだということなのですが、それは間違いなく真実を衝いているのです。

「菅降ろし」という自民党内の権力抗争も、つまるところ、顔をすげ替えれば支持率が回復するという鉄壁の”法則”があるからにほかなりません。そこにあるのは、どうしようもない(としか言いようのない)単純でバカな大衆の存在です。それが旧態依然とした保守政治の半永久的な独裁体制をもたらしているのです。

支持率低迷で窮地に陥った菅総理が、内閣改造で局面を打開するために、同じ神奈川県選出の麻生派の河野太郎を要職に起用できないか、麻生太郎にお伺いを立てたら、麻生が「おまえと一緒に、河野の将来まで沈めるわけにいかねえだろ」と「声を荒らげた」そうで、それでにっちもさっちもいかなくなった菅総理は辞意を決意したと言われています。首相経験者とは言え、内閣の一員でしかない財務大臣が最高権力者の総理大臣をお前呼ばわりして怒鳴り付けるなんて、日本はなんと民主的な国なんだと思えなくもありませんが、まさにそこにあるのは丸山眞男が言った「番頭政治」の哀しくも切ない光景と言えるでしょう。

前川喜平

来る総裁選の立候補予定者の顔ぶれについて、前川喜平氏は上記のようにツイートしていましたが、しかし、このなかにはもうひとり、安倍晋三の支持表明で俄かに注目されるようになった高市早苗氏が欠けています。信じ難い話ですが、安倍に加えて麻生が支持すれば、憲政史上初の女性宰相も「夢ではない」とさえ言われているのです。高市氏が加わったことで、今回の自民党総裁選は、文字通り「凡人、軍人、変人、〇人」の戦いになったのです。

高市早苗氏は、韓国の情報機関の工作員だったという前代未聞なスキャンダルに見舞われているあの”極右の女神”ともども、ネトウヨから熱烈に支持されている狂信的な右翼思想の持ち主です。そんな高市氏が総裁選で”台風の目”になっているというのは、保守政党としての自民党の劣化を象徴していると言えますが、そうなると、だから自分たちこそが自民党に代わる真の保守政党だという立憲民主党の声がいちだんと高くなるのもいつものことです。菅総理の突然の辞任で、急遽「野党共闘」に戦略を変えつつあるみたいですが、かつて枝野幸男代表は、「正当な保守は我々だ」と朝日のインタビューで明言しているのでした。

朝日新聞デジタル
枝野氏「自民は『革命政党』、正統保守は我々」

こんな野党があるでしょうか。自民党が右へ行けば行くほど、野党第一党もそれに引きずられるように右へ移動しているのです。明確な対立軸を示すこともなく、有権者に提示する選択の幅をみずから狭めている野党第一党の責任はきわめて大きいと言わざるを得ません。立憲民主党の存在は、単に保守政治のトートロジー(同義反復)でしかないのです。

日本では、いつの間にかフランスやイタリアやスペインなどのような激しいデモが見られなくなりました。街頭で目立つのは、中国と同じような市民を監視するカメラばかりです。それは、ホントに平和でいいことと言えるのでしょうか。その結果、与党も野党もほとんど変わらない、オレこそが正当な保守政党だと保守の正当性を競うような、文字通り翼賛的な議会政治しか存在しなくなったのです。そして、政権の顔をすげ変えることが政治を動かすことだというような、冗談みたいな政治がまかり通っているのです。一方で、「アウシュビッツ行きの最終列車に乗る」とヤユされたようなリベラル左派の立憲民主党への合流によって、地べたの社会運動がどんどん潰されている現実もあります。

ちょっと古いですが、ヨーロッパでの急進左派(新左派)の台頭について、下記のような記事がありました。

Yahoo!ニュース
今井佐緒里
日本には存在しない欧州の新極左とは。(3) EUの本質や極右等、欧州の今はどうなっているか

この記事が書かれたのが2018年で、その後、この記事で紹介されていた「極左」=急進左派も、議会のなかで存在感が増すにつれ、理想と現実のはざまで苦悩しているのはたしかですが、しかし、スペインのポデモス、ギリシャのシリザ、フランスの「不服従のフランス」、ポルトガルのブロコなどは、いづれも火炎瓶が飛び交うような街頭闘争のなかから生まれた政党(党派)で、今でも街頭での大衆運動に支えられていることには変わりがありません。記事にも書いているように、この超格差社会のなかで上か下かという視点に立てば、コミュニズムの「『人民の平等』『富の平等』の精神」が現代的意味を持つのは当然でしょう。

日本でこんなことを言うと、過激派か誇大妄想狂のように思われるのがオチですが、この弛緩した状況を打破するためにも、社会の変革を大胆に求める急進左派の出現が日本でも待ち望まれるのです。『人新世の資本論』ではないですが、あきらかに資本主義が臨界点を迎えている現在、「3.5%」の人々がみずから声を上げて既存の政治に異議申し立てを行うことで、上級国民の社交場と化したような今の議会政治に活を入れる必要があるのです。顔を変えて支持率回復を目論むという、こんな有権者をバカにした(バカな有権者を前提にした)政治なんてあり得ないでしょう。


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2021.09.05 Sun l 社会・メディア l top ▲
アメリカのアフガニスタン撤退こそ、これからの世界の行く末を示した出来事はないでしょう。それは、今までも何度も言ってきたように、アメリカが唯一の超大国の座から転落して世界が多極化するということです。

バイデン大統領は、戦争の終結を宣言した演説のなかで、現在もまだ100~200人のアメリカ国民がアフガンに残っているにもかかわらず、退避作戦は「大成功だった」と胸を張ったそうです。どう見ても惨めな負け惜しみと言うしかありません。アフガンに残っているアメリカ国民に対しては、期限を設けずに退避を支援することを約束したそうですが、もちろんそれも”カラ約束”になる可能性があります。

退避作戦の混乱を見れば、100~200人のアメリカ国民は置き去りにされたと言った方が正しいでしょう。どんな負け惜しみを言おうが、あわてふためいて逃げ帰ったのは誰の目にもあきらかなのです。つまり、私たちが見ているのは、パクス・アメリカーナの終焉という世界史的な転換の光景なのです。

カブールの国際空港近くで発生した「イスラム国」の分派組織の自爆テロに対する報復として、アメリカ軍がドローンによる無人爆撃を行ない幹部2名を殺害したと発表しましたが、それもアメリカが一方的に発表しただけでホントに幹部を殺害したかどうかもわからないのです。なんだかむなしい最後っ屁のように思えなくもありません。

タリバンとアメリカの間で秘密協定が結ばれ、タリバン兵が付き添って、カブール空港の秘密の通路からアメリカ兵を脱出させたいうニュースもありますが、もし事実なら、アメリカにとってこれほどの屈辱はないし、アフガンからの逃走が9.11に匹敵するほどのトラウマになるのは間違いないでしょう。

民主主義を守るためにテロを撲滅するという大義名分のもとに、20年も侵略しつづけたアフガンからの逃走が示しているのは、アメリカが世界の警察官の役割を果たせなったという冷厳な事実です。そして、何度もくり返しますが、世界は間違いなく多極化するのです。

既に7月に、アメリカ撤退後を睨んで、タリバンの代表団が北京を訪問して中国政府と協議していることからもわかるように、中国がアジアの盟主になり、同時に北東アジアではロシアもその存在感を増すようになるでしょう。超大国の座から転落したアメリカがアジアから撤退するのも、近い将来俎上にのぼるでしょう。

全体主義か民主主義か、善か悪かなどという価値観に関係なく、世界が多極化して流動化し、これから世界史が大きく塗り替えられるのは間違いないのです。もとより、イスラム諸国や中国共産党の価値観が、私たちのそれとはまったく別個のものであるのは言うまでもありません。

イスラム教の国にアメリカの民主主義を押し付けることは”帝国”の思い上がりに他ならないのです。今回のアフガン侵攻の失敗がそれを如実に示しているのです。アメリカやヨーロッパの価値観が絶対視される時代が終わろうとしているのです。私たちのようなアメリカ式価値観にどっぷりと浸かった人間にとっては、悪夢のような時代の到来に思うかもしれませんが、しかし、時代の流れ、世界史というのは本来そういうものでしょう。

古い言い方をすれば、多極化した世界では、イスラム思想や中華思想や大ロシア主義が台頭し、中国から「東夷」などと呼ばれる東アジアの端に連なる小さな列島の国は、これからそういった異世界のイデオロギーに翻弄されることになるでしょう。

一方、今回のアフガン撤退に伴う退避作戦では、日本は、下記のリテラの記事に書いているとおり、敗戦時、関東軍の幹部たちが自国民を置き去りにしていち早く逃げ帰ったのと同じことをくり返していたのです。

日本政府は、アフガニスタンに残っている民間日本人と日本大使館や国際協力機構(JICA)など日本の関係機関で働いていたアフガン人スタッフら約500名を退避させるために、自衛隊員260名とともに、自衛隊のC2輸送機1機とC130輸送機2機、それに政府専用機1機を、パキスタンの首都イスラマバードに派遣しました。カブール空港からイスラマバードまで自衛隊機でピストン輸送し、そこから政府専用機で日本国内に運ぶ作戦でした。

ところが、イスラマバードに運ぶことができたのは日本人1名とアフガン人14名だけでした。しかも、アフガン人の14名は旧政権の関係者で、アメリカ軍から依頼されてついでに乗せただけで、関係機関の現地スタッフではありません。実質的に退避できたのは1名だけなのです。たとえは悪いかもしれませんが、文字通り大山鳴動して鼠一匹のような話で、あとは見捨てられたのです。どうしてこんなことになったのかと言えば、先の敗戦時に、民間人や下級兵士を置き去りにして満州からいちはやく逃げ帰った関東軍の幹部たちと同じように、現地の大使館員たちが、アメリカ軍のヘリで我先に逃げたために、現地のオペレーションがまったく機能しなかったからです。

  本サイトでも28日に報じたとおり、日本の大使館員は民間人とアフガン人スタッフを残して、真っ先に退避。カブールが陥落した15日、岡田隆アフガニスタン大使はすでにアフガニスタン国内にはおらず、日本人の駐アフガニスタン大使館員12人も17日に全員、英軍機で出国した。

 イギリスやフランスなど他国の大使や大使館員は退避せず、空港内に大使館機能を移転し、アフガン人のためにビザを発給し続けるなどしていたという。また390人のアフガン人退避に成功した韓国も、一旦退避した大使館員がアフガン人救出のためにカブールに戻り、空港までの移動手段となるバスの確保や現地スタッフへの連絡など現地のオペレーションに動いていた。

 ところが、日本の大使や大使館員たちは自分たちだけとっとと先に逃げて、こうした救出作業を放り出していたのだ。

リテラ
アフガン500人置き去り、英仏や韓国は残ったのに日本大使館は先にトンズラ


韓国やイタリアやフランスなどは、希望する人たちの退避を成功させ、28日の時点で大半が作戦を終了していました。日本のお粗末さだけが際立っています。

しかし、日本国内では、退避作戦が失敗したのは、自爆テロで空港に向かうことができなかったからだとか、対応が遅れたのは、自衛隊法が障害になったからだとか憲法の制約があったからだなどと、安倍晋三を彷彿とするような言い訳ばかりが飛び交っており、大使館員たちの無責任さを指摘する声はほとんど聞かれません。そうやって自己を慰撫し不作為に開き直るのは、先の戦争からずっと続いている日本のお家芸とも言うべきものです。もちろん、そこにあるのは、戦前戦後も変わらずこの国を貫く”無責任体系”の露わな姿です。

挙句の果てには、地に堕ちた”帝国”のアメリカと一緒になって、タリバン政権は退避作戦に協力するべきだという共同声明を発表して、馬の耳に念仏のようなお題目を唱えるだけです。しかし、アフガンの現地では、歌舞はイスラム法で禁止されているという理由で、著名な民謡歌手が有無を言わさず銃殺されるようなことが既にはじまっているのです。これでは取り残された人々の運命も押して知るべしでしょう。日本政府に見捨てられた彼らが、外国勢力の協力者として、斬首や銃殺などの残酷な方法で「処刑」される可能性はきわめて大きいと言えるでしょう。

国連の安保理がどんな声明を出そうが、多極化した世界ではカエルのツラにションベンなのです。世界が溶解し、デモクラシーやヒューマニズムも単なる・・・ひとつの価値観にすぎないような時代が、私たちの前に訪れようとしているのです。そのことだけは肝に銘じた方がいいでしょう。
2021.09.01 Wed l 社会・メディア l top ▲