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■10年以上通うスーパー


私がもう10年以上通っているスーパーがあります。ほぼ2日に1度のペースで通っていますが、コロナがはじまる前まではずっと変わらない日常の風景が続いていました。

開店間際に行くことが多かったのですが、店に入ると、第二の人生でアルバイトをしているとおぼしき高齢の人たちが品出しをしていました。開店してもまだ追いつかないらしく、それぞれの持ち場で台車で運ばれた箱の中から商品を出してそれを棚に並べていました。

ところが、2020年の春先、新型コロナウイルスの感染が拡大を始めると、彼らはいっせいに姿を消したのでした。みんな、感染を怖れて辞めたのだと思います。

実際にスーパーのレジ係の人たちがコロナ禍で過酷な状況に置かれていたのは事実で、店のサイトでは日々感染者が発生したことが発表されていました。

朝の品出しがいなくなったことで、開店しても、東日本大震災のときの買いだめのあとみたいに、商品棚はガラガラの状態が続きました。

レジはビニールで覆われ、レジ係の女性たちはゴム手袋をして仕事をするようになりましたが、感染は続いていました。中には結構高齢の女性もいましたが、(失礼にも)事情があって辞めたくても辞められないのかなと思ったりしました。

ところが、しばらくして、セルフレジが導入されることになったのです。そのため、1週間休業して改装が行われました。

改装後、店に行くと、数人いた高齢のレジ係の女性がいなくなったのでした。長い間通っていると、誰が社員で誰がパートかというのが大体わかるようになりますが、残ったのは若い社員ばかりです。彼女たちは、セルフレジの端でパソコンを睨みながら、不正がないか?監視するのが仕事になりました。そして、余った社員が一部に残った有人レジを交代で担当するようになったのでした。

■コロナ禍と合理化


私自身も、いつの間にかキャッシュレス生活になりました。考えてみたら、先月、銀行で現金をおろしたのは一度で、それも5千円だけでした。数年前には考えられないことです。

食事をするために店に入ろうとしても、オダギリジョーと藤岡弘が出るテレビのCMではないですが、現金払いしかできない感じだと敬遠するようになりました。そもそも財布に現金が入ってないのです。

私が行く病院はキャッシュレス決済ができないので、病院の前にある銀行のATMでお金をおろして行かなければならないのですが、会計の際、請求どおりの小銭がなくてお釣りを貰うはめになると困ったなと思うのでした。小銭を使う機会がないからです。

たまった小銭を使おう(処分しよう)と思って、スーパーのセルフレジで小銭を投入して精算しはじめたものの、要領が悪くて時間がかかっていたら、店員がやって来て「大丈夫ですか?」と言われたことがありました。

このように、コロナ禍によって私たちの社会はかつてない規模で合理化が行われ、風景が一変したのでした。キャッシュレスの便利さも、見方を変えれば、資本の回転率を上げるための合理化だと言えるでしょう。労働力しか売るものがない私たちは、リストラされたり、パートだと勤務時間を削られたり、仕事を辞めても次の職探しに苦労したりと、便利さと引き換えに、血も涙もない経済合理主義に晒されることになったのです。

人出不足と言われていますが、それは若くて賃金の安い労働力が不足しているという話にすぎません。中高年が仕事を探すのは、たとえアルバイトであっても至難の業です。仮に仕事にありついても、足元を見られて学生のアルバイト以下の安い時給しか貰えません。人手不足だと言われながら、中高年を取り巻く環境はむしろ厳しくなっているのです。

ハローワークに行くと、シニア向けの求職セミナーみたいなものがあるそうで、そこでは、プライドを捨ててどんな仕事でもしなさい、仕事があるだけありがたく思いなさい、それが現実なんですよ、と得々と説教されるのだと知人が言っていました。

パテミックによって、資本主義がまるで最後の悪あがきのように、その非情で狂暴な本性をむき出しにするようになったと言っても過言ではないのです。

■ターゲットにされる高齢者の社会保障費


格差も広がる一方です。コロナ禍とウクライナ戦争による物価高でさらに格差が広がった感じです。「過去最高の賃上げ」を享受できるのは一部の労働者に限られており、むしろ、さらなる格差を招いているとも言えるのです。

最近よく耳にするようになった「全世代型社会保障改革」というのは、岸田政権の目玉である異次元の少子化対策の財源をどうするかという、これからはじまる議論の叩き台になるワードですが、とは言え、既に基本的な方針は決まっていると言われています。財源が不透明というのは、メディアのいつものカマトトにすぎません。

ターゲットになるのは高齢者の社会保障費です。たしかに、子育て世代の経済的な負担を減らすのが異次元の少子化対策なのですから、現役世代が負担増になれば、話が矛盾するでしょう。しかし、高齢者の社会保障に関しては、たとえば、月に10万円にも満たない年金の中から1万数千円の介護保険料が天引きされているような受益者負担のむごい現実があることなど、あまり知られていません。

財源に対する政治家の発言の中には、子どもは納税者として将来があるけど、高齢者は先が短いので子どもの犠牲になれとでも言いたげな本音が垣間見えることがありますが、それは古市憲寿や落合陽一や成田悠輔と同じ発想と言わざるを得ません。そこに表れているのも、非情な経済合理主義がむき出しになった現実です。

少子化の問題には、社会や労働の時代的な変化を背景にした個人の生き方が関わっており、歴史的文化的な要素も大きいので、あんなことやっても子どもが増えるわけじゃない。それどころか、財政援助が住宅ローンに消えていくという笑えない現実になりかねないよ、と口さがない知人が言っていましたが、当たらずと雖も遠からずという気がします。

パンデミックとウクライナ戦争をきっかけに、世界地図が大きく塗り替えられるのは間違いなく、当然私たちの生活や人生も変わっていかざるを得ないでしょう。今の異常な物価高はその前兆だと言えます。

多極化により、政治だけでなく経済の重心が新興国に移っていくことによって、今までドル本位制で守られてきた先進国は、アメリカの凋落とともに先進国の座から滑り落ちていくことになるのは間違いありません。歴史はそうやって更新されるのです。貧しくなることはあっても、もう豊かになることはないでしょう。既に1千万人の人々が年収156万円の生活保護の基準以下で生活している現実がありますが、貧困に喘ぐ人々はもっと増えていくでしょう。若いときはそれなりに生活できても、年を取れば若いときには想像もできなかったような過酷な日々を送らなければならないのです。今はいつまでも今ではないのです。

■明日の自分の姿


若いときの貧乏はまだしも苦労で済まされることができますが、老後の貧困は悲惨以外のなにものでもありません。

私は、以前、山手線の某駅の近くにあるアパートで、訪問介護を受けて生活している一人暮らしの老人を訪ねたことがありました。韓国料理店などが並ぶ賑やかな表通りから、「立小便禁止」などと貼り紙がされた路地を入っていくと、その突き当りに、数軒のアパートが身を寄せ合うように建っている一角がありました。それらは、私たちが学生時代に住んでいたような昔の木造アパートでした。

いちばん手前は、1階が普通の住居で2階がアパートになっていました。1階は大家さんの家なのでしょう。しかし、昼間なのに雨戸が閉まったままで、家のまわりも雑草が生い茂っており、人が住んでいるような様子はありませんでした。念の為、声をかけましたが、やはり返事はありませんでした。

それで建物の横にまわり、アパートの入口らしき戸を開けると、すぐ階段があり、階段の下に履物が乱雑に入れられた下駄箱がありました。それを見て、アパートにはまだ人が住んでいることが確認できたのでした。と言っても、建物の中は物音ひとつせず、気味が悪いほどひっそりしていました。靴を脱いで階段を上がると、薄暗い廊下にドアが並んでいましたが、どこにも部屋番号が書いてないのです。それで適当にドアをノックしてみました。すると、その中のひとつから「はい」という返事があり、どてらを着た高齢の男性が出て来ました。訪問予定の人の名前を告げると、「ああ、〇〇さんは隣のアパートですよ」と言われました。

でも、隣のアパートも人気ひとけがなく、人が住んでいるようには思えない雰囲気でした。窓の外に洗濯物を干している部屋もありません。「隣は人が住んでいるのですか?」と訊きました。すると、「ええ、住んでいますよ。二階に上がってすぐの部屋です」「最近見てないけど、一人では歩けないので部屋にいるはずですよ」と言われました。

お礼を言って、教えられた部屋に行くと、部屋の前に車椅子が置いてありました。あの狭い階段をどうやって下ろすんだろうと思いました。ドアをノックすると中から返事があり、言われたとおりドアノブをまわすとドアが開きました。どうやら鍵もかけてないようです。中に入ると、裸電球の灯りの下、頬がこけ寝巻の間からあばら骨が覗いた老人がベットに横たわっていました。部屋は足の踏み場もないほど散らかっており、飯台の上には書類らしきものに混ざって薬や小銭が散乱していました。こんなところに通って来るヘルパーの人も大変だなと思いました。一方で、目の前の老人の姿に、すごく身につまされるような気持になりました。

後日、福祉の担当者にその話をすると、「可哀そうだけど、都内はどこもいっぱいで入る施設がないんですよ」と言っていました。特に単身者の場合、担当が都内23区の福祉事務所であっても、群馬や栃木や茨城などの施設や病院に入ってそこで人生を終えるケースも多いのだそうです。担当者の話を聞きながら、もしかしたらそれは明日の自分の姿かもしれない、他人事ひとごとではないな、と思ったのでした。

それから半年も経たないうちに、訪ねた老人が亡くなったことを知りました。さらに数年後、再開発でアパートは壊され、跡地にマンションが建てられたそうです。そうやって老人が数十年暮らした記憶の積層は、跡形もなく消し去られたのでした。


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2023.03.31 Fri l 社会・メディア l top ▲
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■ショーケン


横浜に住んで15年以上になりますが、昨日、初めて鶴見の総持寺に行きました。

もう10年以上も前ですが、フジテレビで萩原健一に密着したドキュメンタリーが放送されたことがありました。

晩年は都内に引っ越したみたいですが、ショーケンは長い間、鶴見区の寺尾というところに住んでいて、早朝から散歩に出かけて、途中、総持寺にお参りするのが日課になっているとかで、本堂で懸命に手を合わせて念仏を唱えているシーンがありました。2019年に亡くなったときも、葬儀は鶴見で行われたそうです。

私がショーケンが出た映画で印象に残っているのは、神代辰巳の「青春の蹉跌」(1974年)と深作欣二監督の「いつかギラギラする日」(1992年)です。「青春の蹉跌」は、新宿の今はなき日勝地下だったかで観た記憶があります。あの頃は人生の難題が重なってホントに苦しんでいました。血を吐いたこともありました。

総持寺は歩いて行くにはちょっと遠すぎるので、バスで行きました。

鶴見行のバスに乗ったのも二度目ですが、昔の狭いクネクネ道がバイパスに変わっていました。前にバスに乗ったときもこのブログに書いていたので調べたら、2010年の8月でした。13年振りに鶴見行のバスに乗ったのです。

■曹洞宗の大本山


終点の「鶴見駅」の一つ手前の「総持寺前」で降りましたが、バス停の前には歯学部で有名な鶴見大学の建物がありました。

実は、鶴見大学も総持寺が運営しているのです。総持寺は、「総持学園」という学校法人を持っており、傘下には鶴見大学だけでなく、短期大学や中学や高校、幼稚園もあるそうです。

参道の両側に大学の校舎があるので、参道を山門に向かって歩いていると、前から鶴見大学の学生がひっきりなしにやって来るのでした。春休みでそれなのですから、学校がはじまれば参道は学生で埋まるのでしょう。

総持寺は、曹洞宗の大本山の寺です。曹洞宗では「総本山」とは言わないみたいです。また、曹洞宗には大本山が二つあり、もう一つは福井県にある永平寺だそうです。曹洞宗の開祖は道元ですが、道元が祀られているのが永平寺で、総持寺で祀られているのは、4代目の祖である鎌倉時代の禅師の瑩山紹瑾(けいざんじょうきん)だそうです。

山門(総門)の三松関(さんしょうかん)をくぐり、さらに両側に金剛力士像が睨みをきかす三門(さんもん)をくぐると、まず目に飛び込んで来たのが広大な境内に配置された伽藍堂とそのまわりを囲む桜の木でした。

いつくかの門をくぐって坂道を登ると、正面に仏殿(本殿)が見えてきました。ただ、本殿のまわりは工事中で、袈裟を来た僧侶たちが首からカメラを提げて工事の模様を撮影していました。

また、本殿の中に入ると、修行中なのか、5~6人の僧侶が一列に並んで、古参の僧侶から所作の指導を受けていました。

本殿に行く途中に「受付」という看板が立てられた香積台(こうしょだい)という建物があり、お土産などを売っているのですが、その中に事務所みたいなのがあって、丸坊主で袈裟を来た坊さんがパソコンを打ったり電話をしたりと、事務作業を行っていました。何だか奇妙な光景でした。

総持寺のあとは鶴見駅まで歩いて、横浜駅に行こうと京浜東北線に乗ったのですが、途中で気が変わって東神奈川駅で下車して横浜線に乗り換えて、菊名から東横線で帰りました。駅を出たら、ちょうど雨が降りはじめたので、自分の選択が間違ってなかったんだと思って、ちょっと誇らしいような気持になりました。人間というのはそんなものです。


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三松関

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香積台

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百間廊下

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仏殿(本殿)

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本堂

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白く映っているのは、舞い散る花びらです。
2023.03.30 Thu l 横浜 l top ▲
中国国旗


次のようなニュースが飛び込んで来ました。

Yahoo!ニュース
テレ朝NEWS
「彼と会う準備ができている」ゼレンスキー大統領 習近平氏のウクライナ訪問要請

ゼレンスキーの真意がどこにあるのか、今ひとつはかりかねますが、仮に中国主導で和平が実現すれば、世界がひっくり返るでしょう。もちろん、今まで軍事支援をしてきた欧米の反発は必至でしょうから、そう簡単な話でないことは言うまでもありません。

■軍事支援によるNATO軍の参戦


ドイツのキール世界経済研究所によれば、侵攻後、欧米各国が表明したウクライナへの支援額は、2月の段階で約622億ユーロ(約8兆9200億円)に上るそうです(産経新聞より)。ウクライナ戦争が「西側兵器の実験場」になっている(CNN)という声もあるようですが、軍事支援は当初の砲弾や携行型対空ミサイルから、最近は戦車や戦闘機を供与するまでエスレートしているのでした。戦車や戦闘機の供与は、実戦向けにウクライナ兵を訓練しなければならないため、実質的にNATO軍の参戦を意味すると言われています。ポーランドなどNATOの加盟国で訓練するそうですが、中には軍事顧問として前線で指導する兵士も出て来るでしょう。というか、既に多くのNATO軍兵士がドローンの操縦などで参戦しており、それは公然の秘密だと言われているのです。

イギリスが劣化ウラン弾の供与を発表したことに対抗して、ロシアがベラルーシに戦術核兵器を配備すると発表するなど、まるでロシアンルーレットのような戦争ゲームが行われています。

それはウクライナだけではありません。北朝鮮が米韓軍事演習に対抗して巡行ミサイルを日本海に発射すれば、さらに米韓が北朝鮮上陸を想定した演習を行なったり、台湾では野党・国民党の馬英九前総統が中国を訪問すれば、与党・民進党の蔡英文総統が中米歴訪に出発するなど、世界は対立と分断が進み、きな臭くなるばかりです。

■民衆蜂起の時代


誰でもいいから、、、、、、、この状況を止めなければならないのです。頭から水をかける第三者が必要なのです。仮に中国が和平の仲介に成功すれば、今の状況が一変するでしょう。「中国の思う壺」であろうが何だろうが、それは二義的な問題です。

日本のメディアや識者が戦時の言葉でウクライナ戦争を語るのを見るにつけ、彼らに戦争反対を求めるのはどだい無理な相談だということがよくわかります。中国の仲介に一縷の望みを託すというのはたしかに異常ですが、今の状況はそれくらい異常だということなのです。

一方で、笠井潔が21世紀は民衆蜂起の時代だと言ったように、世界各地で民衆の叛乱がはじまっています。フランスの年金改革に反対するゼネストでも、赤旗に交じってチェ・ゲバラの旗を掲げてデモしている映像がありましたが、背景に物価高を招いたウクライナ戦争の対応に対する反発があるのはあきらかです。欧州において、左派だけでなく極右が伸長しているのも同じです。右か左かなんて関係ないのです。

先週、ベルギーのブリュッセルで開かれたG7とNATOとEUの首脳会議に対しても、反NATOの大規模な抗議デモが起こったと報じられました。しかし、反戦を訴える人々の声は、ウクライナを支援する各国政府に封殺されているのが現状です。

そんな中で、ウクライナ和平において、中国がその存在感を示すことにできれば、間違いなく世界史の書き換えが行われるでしょう。

既に中南米は大半の国に反米の左派政権が誕生していますが、多極化に合わせて、世界の主軸が欧米からBRICsを中心とした新興国へと移っていくのは間違いありません。富を独占する欧米に対して、ドルとは別の経済圏を広げている新興国が、俺たちにも寄越せと言いはじめているのです。欧米式の資本主義や民主主義の矛盾が噴出して、地殻変動が起きているのです。もしかしたら、ウクライナ戦争がそのターニングポイントだったと、のちの歴史の教科書に記されるかもしれないのです。
2023.03.29 Wed l 社会・メディア l top ▲
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■相鉄・東急 新横浜線


最近はよく散歩をしています。先週の土曜日は新横浜まで歩いて、新横浜駅から隣の新綱島駅まで、開通したばかりの「相鉄・東急 新横浜線」に乗りました。

新綱島駅は、東横線の綱島駅とは綱島街道をはさんだ反対側に新しくできた駅です。尚、東横線と接続するのは、綱島の隣の日吉駅です。

新綱島駅の出口の横には、さっそくタワーマンションの建設がはじまっていました。こうやって開発から取り残された二束三文(?)の土地が、数十倍にもそれ以上にも化けるのです。そういった現代の錬金術を可能にするのが道路と鉄道です。

駅のすぐ近くに鶴見川が流れているので、土手の上の遊歩道を歩きました。対岸の大倉山(実際は大曽根)側には桜の木が植えられているので、その下では花見をする人たちが大勢いました。

中にはテントを張っている人たちもいました。最近は鶴見川の土手をよく歩いているのですが、平日でも大倉山や新横浜の土手下にテントを張っているのを見かけます。奥多摩ではコロナをきっかけに登山客がめっきり減ったそうですが、その代わりキャンプ場は盛況だそうです。今はタムパやコスパの時代にふさわしく、ハアハア息をきらして山に登るのではなく、山の下で遊ぶのがトレンドなのです。

土曜日の歩数は1万7千歩でした。さすがに1万歩を超えると膝に痛みが出て来ますが、ただ痛み止めの薬を飲んでサポーターをすればそれほどではありません。1万歩くらいだとほとんど痛みもありません。と言っても、こわばりのようなものはまだ残っています。

■環状2号線


今日は、環状2号線を歩いて鶴見にある県営三ツ池公園まで歩きました。

三ツ池公園は二度目で、前に行ったときもこのブログに書いた覚えがあるので調べたら、2008年の1月でした。昨日のことのように記憶は鮮明なのですが、15年前だったのです。

当時と同じコースを歩きましたが、まわりの風景もほとんど変わっていませんでした。三ツ池公園も、もちろん当時のままです。あらためて月日が経つのははやいなとしみじみ思いました。そう思う気持の中には、哀しみというかせつなさのようなものもありました。

■大分のから揚げ


途中に「大分からあげ」という登りを立てた弁当屋があったので、から揚げ弁当を買って、それを持って三ツ池公園に行きました。

三ツ池公園は広大な敷地の中に、名前のとおり三つの池があるのですが、他にレストハウスもあるし、テニスコートや野球のグランドやプールもあります。また、さまざまな名前が付けられた広場は7つもあります。

平日にもかかわらず花見客で賑わっており、駐車場の入口は車が列を作っていたほどです。レストハウスの近くには、数台のキッチンカーも出ていました。

池のまわりを歩いたあと高台に登り、一人で花見をしました。弁当の中に入っていたから揚げは、案の定、大分のものとは違っていましたが、でもそれはそれで美味しいから揚げでした。

私の田舎は平成の大合併で隣の市と合併したのですが、前に田舎に帰ったとき、用事があって隣町の市役所の本庁に行ったら、そこでたまたま幼馴染に会って一緒に昼食に行ったことがありました。幼馴染は、「××ちゃん(私の名前)はから揚げが好きだったよな。○○に行こうよ」と言われて、子どもの頃、私の田舎にも支店があったから揚げ専門店の本店に行ったのでした。

「大分からあげ」と言うと、東京では県北にある中津のから揚げが代名詞みたいに言われていますが、中津にから揚げがあるというのは東京に来て初めて知りました。地元では養鶏場直営で昔からある田舎の店の方が知られており、今は「大分からあげ」の店として大分駅にも出店するまでになっているのです。

久住くじゅうの山もそうですが、私たちの田舎は人が好いのか、それとも商売っ気がないのか、他の自治体に先に越されて(いいとこどりされて)後塵を拝するようなことが多いのです。久住連山だけでなく、祖母山も私たちの田舎(市)にありますが、祖母山なんてまったく関係ないよその山みたいなイメージさえあるのでした。

■上野千鶴子


高台の見晴らしのいい場所で弁当を食べていたら、無性に山に行きたくなりました。人のいない山に登って、山頂で一人の時間を過ごしたいなと思いました。山に行くと、やっぱり一人がいいなあと思うのでした。クマが怖いけど、私は、誰もいない山を一人で歩くのが好きです。ただ、足が痛いと充分楽しむことができず、特に下山がつらくて時間もかかるので、それで億劫になって遠ざかっているのでした。

山と言えば、『山と渓谷』の最新号を見ていたら、上野千鶴子が「山ガール今昔」という文章を書いていたのですが、彼女は京大のワンダーフォーゲル部の出身なのだそうです。当時、女子の部員は彼女だけだったとか。山岳部だと親が反対するので、親の目をごまかすためにワンダーフォーゲル部に入ったと書いていました。

私は、上野千鶴子の本はわりとよく読んでいますが、ただ首都高をBMWで走るのが趣味だと聞いて、”嫌味な人間”というイメージがありました。ところが、彼女がBMWで首都高を走っていたのは、ルーレット族のようなことをしていたからではなかったのです。八ヶ岳にある歴史家の色川大吉氏の元へ通うためだったのです。

色川大吉氏は、「五日市憲法草案」の発掘などで知られる民衆史の碩学で、私は若い頃、色川氏の講義を聴くために、氏が勤務していた東京経済大学にもぐりで通ったこともあるくらいです。色川氏が秩父事件の背景になった奥多摩や秩父の自由民権運動を研究するようになったのも、山が好きだったからではないのか。二人を結び付けたのも山だったのではないか、と勝手に想像したのでした。

日本を代表するフェミニストの”不倫の恋”、ゲスの極みのような週刊文春では「略奪愛」のように言われていますが、現金なもので、私はその記事を見て、逆に上野千鶴子に対する”嫌味な人間”のイメージがなくなったのでした。

尚、今夏、山と渓谷社から『八ヶ岳山麓より』というエッセイ集を刊行するそうで、何のことはない、上記の文章はそのプロモーションだったのです。

帰ってスマホのアプリを見たら、往復で13キロ、1万9千467歩でした。だったら少し遠回りして2万歩にすればよかったなと思いました。


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2023.03.27 Mon l 横浜 l top ▲
2035年の世界地図


■「非平等主義的潜在意識」


前の記事の続きになりますが、「失われる民主主義 破壊する資本主義」という副題が付いた、朝日新書の『2035年の世界地図』(朝日新聞出版)の中で、フランスの歴史学者のエマニュエル・トッドは、今の社会で起きているのは、「一種の超個人主義の出現と社会の細分化」だと言っていました。

識字率の向上と「教育の階層化」による「非平等主義的潜在意識」によって、共同体の感覚が破壊され、社会の分断が進むと言うのです。

 かつてほとんどが読み書きできるが他のことは知らない。ごく少数のエリート層を除けば人々は平等でした。
 しかし今では、おそらく国にもよりますが、おそらく30%の人びとが何らかの高等教育を受けています。これに対して、20~30%の人々は基本的な読み書きができる程度、つまり、初等教育のレベルで止まっています。
 この教育の階層化は、不平等の感覚を伴います。社会構造の最上部と底辺では、人びとは同じではない、という感覚です。
(『2035年の世界地図』・エマニュエル・トッド「まもなく民主主義が寿命を迎える」)
※以下引用同じ


これが「非平等主義的潜在意識」だと言うのでした。

■日の丸半導体


米中対立によって、中国に依存したサプライチェーンから脱却するために、国際分業のシステムを見直す動きがありますが、ホントにそんなことができるのか疑問です。

日本でも「日の丸半導体」の復活をめざして、トヨタ・ソニー・NTTなど国内企業8社が出資した新会社が作られ、北海道千歳市での新工場建設が発表されましたが、軌道に乗せるためには課題も山積していると言われています。

2027年までに2ナノメートルの最先端の半導体の生産開始を目指しているそうですが、半導体生産から撤退して既に10年が経っているため、今の日本には技術者がほとんどいないと言うのです。

さらに、順調に稼働するためには、5兆円という途方もない資金が必要になり、政府からの700億円の補助金を合わせても、そんな資金がホントに用意できるのかという疑問もあるそうです。

また、工場を維持するためには、台湾などを向こうにまわして、世界的な半導体企業と受託生産の契約を取らなければならないのですが、今からそんなことが可能なのかという懸念もあるそうです。

■グローバル化がもたらした現実


エマニュエル・トッドは、「グローバル化がもらたした現実」について、次のように指摘していました。

(略)世界の労働者階級の多くは中国にいます。今、世界の労働者階級のおそらく25%は中国にいます。ブローバル化の中で国際分業が進み、世界の生産を担っているのは、中国の人々なのです。
 もう一つの大きな部分はインドなどです。欧米や日本といった先進国の経済は、工業(に伴う生産活動)から脱却し、サービスや研究などに従事しています。この構造から抜け出せないでしょう。先進国の国民は労働者として生産の現場に戻れるでしょうか。
(略)
 私たちは、「それはできますか?」と問われています。「サービス産業社会から工業社会に戻ることはできますか?」と。
 第三次産業にふさわしい教育を受けた労働者を製造現場の労働者階級に変えることはできますか? 我々には分かりません。いや残念ながら知っています。これが不可能であることを。


つまり、時間を元に戻すことはできないということです。私たち個人のレベルで言えば、現代は「超個人主義の出現」と「社会の細分化」の時代であり、それは歴史の流れだということです。もっとも、核家族こそが原初的な家族構造であり、そうであるがゆえにアングロサクソンのようにもっとも先進的な社会を作ったというパラドックスを主張するエマニュエル・トッドに言わせれば、”先祖返り”ということになるのでしょう。

■国民国家の溶解


少子化も巷間言われているようなことが要因ではなく、歴史の産物と言っていいものです。第三次産業社会や「超個人主義」や国民国家の溶解は、「グローバル化がもたらした現実」で、少子化もそのひとつです。パンデミックやウクライナ戦争によって、たしかに国家が大きくせり出すようになり、国際会議に出席する各国の首脳たちも、スーツの襟にみずからの国の国旗のバッチを付けるような光景が多くなりましたが、それはマルクスの言う「二度目の喜劇」にすぎないのです。

劣化ウラン弾や戦闘機まで提供するという欧米の軍事支援に対抗して、ロシアがベラルーシに戦術核を配備することに合意したというニュースがありましたが、バイデン政権はまるでロシアが核を使用するまで追い込んでいこうとしているかのようです。

何度も言いますが、どっちが正しいかとかどっちが勝つかという話ではないのです。核戦争を阻止するためにも、恩讐を越えて和平の道を探るべきなのです(探らなければならないのです)。岸田首相の「必勝しゃもじ」のお土産は、アホの極みとしか言いようがありません。いくらバイデンのイエスマンでも、ここまで来ると神経を疑いたくなります。

それは、“台湾危機”も同じです。今のようにサプライチェーンから中国を排除する動きが進めば、中国はホントに半導体の一大生産地である台湾に侵攻するでしょう。バイデン政権は、ここでも中国を追い込もうとしているように思えてなりません。誰が戦争を欲しているのかを考える必要があるのです。

中国に関して、エマニュエル・トッドは、次のように言っていました。

(略)中国の文化と革命の伝統として、平等主義の要素があります。もう一方で、高等教育を受けた人々が増えています。中産階級と呼ばれる層です。この階層の比率が共産主義崩壊直前のソ連と同じ水準に達しようとしているのです。


ゼロコロナ政策に抗議する学生たちの白紙運動を思い浮かべると、中国も国民国家の溶解とは無縁ではないことがわかります。中国もまた、2050年頃から少子高齢化に転じると予測されているのです。

工業社会に戻ることができないように、伝統的な家族像を基礎単位とした社会に戻すことなどできないのです。社会のあり様が変われば、人々の生き方や人生のあり様が変わるのは当然です。そして、国民国家の溶解が進めば、資本主義や民主主義が変容を迫られるのも当然です。もとより、今の資本主義や民主主義も、パンデミックやウクライナ戦争によって、とっくに有効期限が切れていたことがあきらかになったのでした。

■これからの社会


一方で、どんな新しい時代が訪れるのかはまだ不透明です。『2035年の世界地図』もタイトルが示すとおり、この「全世界を襲った地殻変動」のあとにどんな未来があるのかを論じた本ですが、(逆読みが可能な)エマニュエル・トッド以外は、「新しい啓蒙」(マルクス・ガブリエル)とか「命の経済」(ジャック・アタリ)とか「資本主義を信じる」(ブランコ・ミラノビッチ)とか、まるでお題目を唱えるような観念的な(希望的観測の)言葉を並べるだけで愕然としました。国家主義や全体主義という「二度目の喜劇」の先を描く言葉を彼らは持ってないのです。

エマニュエル・トッドは、ヨーロッパで伸長している極右政党について、彼らは労働者階級や低学歴者を代表(代弁)しているのであり、「強い排外的傾向を持っているからと言って、民主主義の担い手として失格にできません」と言っていましたが、これからの社会を考える上ではそういった視点が大事ではないかと思いました。右か左かではなく上か下かなのです。
2023.03.26 Sun l 社会・メディア l top ▲
篠田麻里子Twitter
(本人のツイッターより)


■ゲスな感情


私は、タレントの篠田麻里子に関しては、AKB48の元メンバーだったくらいの知識しかありません。もちろん、ファンでも何でもありません。

しかし、昨日、篠田麻里子が離婚したとかで、Yahoo!のトップページがそのニュースで埋まっていたのでびっくりしました。

見出しは次のようなものでした。

週刊女性
【篠田麻里子が離婚】「目的は子どもではなくカネ」元夫が送りつけていた“8000万円脅迫メール”

FLASH
篠田麻里子、離婚発表に同情の声が少ない理由「いつ結婚するの?」「にんにくちゃん」上から目線の過去発言

ディリースポーツ
篠田麻里子が離婚 連名で「夫婦間の問題、無事に解決」夫「麻里子を信じる」

東スポWEB
篠田麻里子の離婚発表で「ベストマザー賞」トレンド入り 受賞者〝離婚率高い説〟は本当か

NEWポストセブン
《離婚発表》元夫はなぜ篠田麻里子の「言葉を信じる」ことになったのか 不倫疑惑に「悪いことはしていない」

文春オンライン
【離婚発表】元AKB篠田麻里子(36)の夫が篠田の“不倫相手”を訴えた!「不貞行為の物証も揃っている」《夫は直撃に「訴訟に関しては間違いない」と…》

読者の需要があるからでしょうが、タレントとは言え、他人ひと様の離婚にこんなに興味があるのかと思いました。しかも、記事は出所不明な情報を根拠にした、悪意に満ちたものばかりです。

出会って2週間で結婚したものの、すれ違いが生じた上に別居。離婚調停中に妻に不倫疑惑が持ち上がり、夫が妻の相手を被告として、「不貞行為」をあきらかにする民事訴訟を起こして「泥沼の不倫訴訟」に発展した、というのがおおまかな流れのようです。ところが、相手を訴えていた夫が「(妻を)信じる」と態度を一変して、急転直下、離婚が成立したのでした。でも、芸能マスコミやネットのデバガメたちにはそれが気に食わないようです。

もちろん、本人は否定していますが、彼らは、なにがなんでも不倫したことにしなければ気が済まない、でなければ話が成り立たないとでも言いたげです。

要するに、訴訟を起こした夫の人間性や思惑などは関係なく、ただ篠田麻里子を夫以外の男と寝た“ふしだらな女”にすることだけが目的のように見えて仕方ありません。夫が不倫だと言えば、それが一人歩きしてバッシングが始まったのです。

しかも、いくらバッシングされても表に出る篠田麻里子の写真や映像はいつもニコニコしているものばかりなので、さらに反発を招いてバッシングがエスカレートしていったような感じさえあるのでした。世間にツラを晒す仕事をしている芸能人が、カメラの前で愛想笑いを浮かべるのは当然ですが、それさえ「図太い神経の持ち主」みたいに言われバッシングの材料にされるのでした。また、中には、WBC優勝の翌日に離婚発表したことで、篠田麻里子は「つくづく空気が読めない」と批判している写真週刊誌までありました。

不倫=“ふしだらな女”というイメージの前では、かように何から何まで坊主憎けりゃ袈裟まで憎い式に言いがかりの対象にされるのでした。芸能マスコミでは、不倫は向かうところ敵なしの絶対的な”悪”なのです。しかも、その多くは女性の問題とされ、叩かれるのはもっぱら女性です。

■我慢料


異次元の少子化対策などがその典型ですが、政府の発想は相も変わらず家や家族が中心です。保守的な政治家や多くの宗教団体が、旧統一教会と同じように伝統的な家族像にこだわり、LGBTを激しく拒否し嫌悪するのも、結婚して子どもを産む家族を社会の基礎単位と考える思想を墨守しているからでしょう。そして、それが戦前を美化するような「日本を愛する」思想へと架橋されているのでした。

でも、工業社会からポスト工業社会、サービス(第三次)産業中心の社会に移行する過程では、家族ではなく個人が基礎単位になるのは必然と言っていいのです。農耕社会では、家父長制の大家族主義でしたが、工業社会になり、農家の次男や三男が都会に働きに出るようになって核家族化が始まりました。さらに、ポスト工業社会になり働き方が多様化するのに伴い、家族より個人の価値観が優先される時代になったのです。吉本隆明も言っていたように、第三次産業に従事する労働者の割合が50%を超えた社会では、労働の概念や労働者の意識が大きく変わるのは当然なのです。「存在は意識を決定する」というのはマルクスの有名な言葉ですが、社会の構造や労働の形態は、個人の生き方や家族のあり方にも影響を与え、変容を強いるのです。

当然、結婚や恋愛のあり様も変わっていきます。個人より家の意志が優先されるお見合い結婚や出会い結婚から、職場や学校といった一定の属性下にある”場”が介在する恋愛を経て、現代では個々のマッチングアプリを使ったダイレクトな出会いが当たり前のようになりました。そんな個の時代に、家を守る女性は貞操でなければならないとでも言いたげな不倫=“ふしだらな女”というイメージは、きわめて差別的で抑圧的で反動的な「俗情との結託」(©大西巨人)と言わざるを得ません。(前も書きましたが)仕事を持った女性の過半が婚外性交渉=不倫の経験があるという統計もあるくらいで、既に不倫なんかどこ吹く風のような人たちも多いのです。というか、不倫という言葉は、現実には死語になっており、週刊誌やテレビのワイドショーの中だけで生きながらえていると言っても過言ではないのです。

会社に勤めていた若い頃、文句ばかり言う私は、上司から「いいか、サラリーマンにとって給料は我慢料なんだぞ。我慢することも仕事なんだ」と言われたことがありましたが、異次元の少子化対策で実施される様々な子育て支援なるものも、考えようによっては、アナクロな家族単位の社会を維持するための「我慢料」のようなものと言えるのかもしれません。そして、その延長上に、新しい時代の自由に対する怖れや反動として、篠田麻里子を叩く“ゲスな感情”があるように思えてなりません。そこにもまた、本来フィクションでしかないのに、差別と排除の力学によって仮構される”市民としての日常性”の本質が露呈していると言っていいでしょう。
2023.03.24 Fri l 芸能・スポーツ l top ▲
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(イラストAC)


■WBCがトップニュース


WBCの準決勝の日本対メキシコ戦が、日本時間の今日(21日)、アメリカ・フロリダ州のローンデポ・パークで行われ、ロッテの佐々木朗希投手が先発ピッチャーに予定されているそうです。

テレビの悪ノリはエスカレートする一方で、報道番組でも、国会審議やウクライナ情勢やアメリカの”金融危機”や中ロ会談を押さえて、WBC関連のどうでもいいようなニュースがトップになっているのでした。

ウクライナ和平の仲介を買って出た中国の習近平主席は、昨日、3日間の予定でロシアを訪問しプーチン大統領と会談しました。初日の非公式会談で習主席は、「ロシアとともに『本当の多国間主義を堅持し、世界の多極化と国際関係の民主化を推進」すると強調」(産経新聞より)したそうです。

「民主化」は悪い冗談ですが、これは、アメリカの没落に伴い世界が多極化する中で、中国がその間隙をぬって300年振りに覇権国家として世界史の中心に復帰するという、歴史の転換を象徴する発言と言っていいものです。

既に中国とロシアは、BRICSや上海機構などを使ってドルの基軸体制から脱却した、新たな(多極型の)通貨体制の構築を進めていますが、欧米の金融危機が顕在化したことで、それがいっそう加速されているのでした。世界の多極化は、私のような人間でさえ2008年のリーマンショックのときから言い続けていることです。アメリカが唯一の超大国の座から転落して、世界は間違いなく多極化する。アジアの盟主は中国になる。面従腹背であれ何であれ(好きか嫌いかなど関係なく)、”東アジア経済共同体”のような協調路線に転換しない限り、日本は生き残れないと。手前味噌ですが、それがいっそう鮮明になっているのでした。

歴史は大きく変わろうとしているのです。中国によるウクライナ和平の仲介もその脈絡で考えるべきなのです。しかし、日本のメディアでは、それよりも東松山のヌーバー・フィーバーの方が優先されるのでした。

■70歳以上に際立つ人気


そんな中で、やっぱりと思ったのが下記の記事でした。

Yahoo!ニュース(個人)
侍ジャパンに岩手県と高齢者が大フィーバー!~大谷翔平・佐々木朗希・村上宗隆らの活躍に熱視線!~

次世代メディア研究所代表でメディアアナリストの鈴木祐司氏は、日本戦の過去5試合の視聴率が軒並み40%を超えたというビデオリサーチの「世帯視聴率」とともに、次のような「興味深いデータ」も取り上げていました。

特定層別視聴率を測定するスイッチメディアや、都道府県だけでなく市町村別視聴率を割り出しているインテージによれば、70歳以上の高齢者が格別に盛り上がっており、地域では岩手県の視聴率が傑出している。


具体的に世代別の視聴率を見ると、まずZ世代(25歳以下)は、「10%に届かないほど低」く、「この世代では、野球に興味のある人がかなり少ないようだ」と書いていました。また、コア層(13~49歳)も、「個人全体と比べると5%以上低い」そうです。

つまり、WBC人気を支えているのは、50歳以上の中高年なのです。中でも、70歳以上が際立って多いのだと。

50~60代は個人全体より7~8%高い。そして70歳以上に至っては個人全体の倍近い。やはり野球は高齢者に支えられているスポーツだ。



WBC日本戦の特定層別視聴率
(上記記事より)


地域別でも、東京は低くて、大谷や佐々木朗希の地元を中心にして、地方の方が圧倒的に高いのだそうです。

関東地区も比較的低く、熊本県をはじめとする南九州が高い。そして北海道や岩手県を頂点に、東北が高くなった。


メディアが言うように、日本中が歓喜に沸いているわけではないのです。昼間のワイドショーでも、電波芸者コメンテーターたちが見ていて恥ずかしくなるような俄かファンぶりをさらけ出しはしゃぎまくっていますが、当然ながらそんな光景を醒めた目で見ている人たちも多いのです。

でも、今の翼賛的な報道の下では、そう言うと、侍ニッポンに水をかけるとんでもない暴言だとして、非国民扱いされかねない雰囲気です。90年前だったら、鉈や斧で襲われたかもしれません。

ヤフコメもWBCでフィーバー(笑)していますが、あの世界の一大事みたいなコメントを投稿しているのも、野球ファンのおっさんたちなのかもしれません。ヤフコメにヘイトな書き込みをしているのは、ネトウヨ化した中高年が多いと言われていますが、合点がいったように思いました。

Yahoo!のトップページに、「韓国が日本に負けて屈辱を味わっている、ざまあ」みたいな記事が多いのも、ヤフコメのコアな層である中高年をさらに煽るために、ネットの守銭奴が意図的に掲載しているのかもしれません。

■テレビ局の切羽詰まった事情


今や野球は、(過去の遺物とは言わないけど)中高年に愛される昔のスポーツなのです。若者のテレビ離れが言われて久しいですが、地上波の視聴者も今は中高年がメインで、中高年向けのコンテンツが必須と言われています。かつての「テレビっ子」がもう中高年のおっさんになったわけですが、それは、プロ野球が国民的人気を博した、”野球の黄金時代”とちょうど重なっているのでした。

そう考えると、WBCをここぞとばかりに(まるで戦争報道のように)煽りに煽りまくって熱狂を演出する、テレビ局の切羽詰まった事情もわからないでもないのです。ただ、「WBC1」(下記の関連記事参照)に足元を見られて放映権料が高騰しているため、40%以上の高視聴率を叩き出しても営業的には赤字なのだそうで、次回の中継はないのではないか(無理ではないか)と言われているのでした。

もっとも、国際大会と言っても、営利を目的とする会社が主催する(サッカーの)カップ戦を真似た興行にすぎないので、次回開催されるかどうか不透明だという声があるくらいです。そもそも各国のリーグ戦が始まる前に「世界一」を決めるというのはお笑いでしかなく、言うなれば、選手たちは、キャンプの合間に、MLBと選手会が共同で作った会社が主催する資金集めのイベントに駆り出されているようなものです。それで、「いざ決戦へ」「世界一奪還」「歴史を塗り替える」などと言われても、鼻白むしかないのです。

と言っても、今のご時世では、それってあなたの意見、感想ですよね、と言われるのがオチなのでしょう。


関連記事:
WBCのバカバカしさ
2023.03.21 Tue l 芸能・スポーツ l top ▲
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(イラストAC)


ガーシーは「三度目の炎上」の只中にある、と書いていた記事がありました。SNSの世界は、タイムラインのような時間軸の中にあるので、人々の関心も次々と移っていきます。そのため、炎上させてしばしの間、関心を繋ぎ止めておくしかないのです。

「三度目の炎上」とは、言うまでもなく国会議員除名から逮捕状の執行に至る今の局面を指しているのでしょう。

そこでさっそく、ガーシー大好きな八っつぁん&熊さんのかけあいがはじまりました。

■チキンな性格


 何でもガーシーって国会での謝罪を行なうつもりで極秘に帰国しようとしたんだってな?
 謝罪予定日の前日の3月13日、韓国まで戻っていて、トランジットで深夜1時頃にLCCで羽田空港に到着する予定だったというあれだろ。でも、航空会社がメディアに情報を洩らしたので引き返したという‥‥。
 そう。やっぱり国会議員をやめたくなかったのかな。
 「だって詐欺師だよ‥‥」(笑) どこまでホントかわからないよ。
 たしかにその前はトルコからチャーター機で帰るとか言ってたな。そのときも「やめた」と言っていた。そして、今度は韓国‥‥。
 ただ、これだけは言えるのは、ガーシーはチキンな性格だよ。そう考えれば、このような顛末も氷解できる。ドバイに行ったときだって、BTS詐欺(正確には「詐欺疑惑」)が発覚したあと、スマホに警察署からの着歴が入っていることに気付いて、それで怖気づいてドバイ行きを決断したんだよ。警察に行って事情を話せば、仮に立件されても初犯なので執行猶予が付く可能性は高い。へたすれば、起訴猶予もあり得る。相談した弁護士からもそう言われたみたいだけど、「逮捕されたら借金の返済がでけへん」という理由で飛ぶことを決断した。
 何と律義な。
 それだけヤバいところから借金していたんだろうな。結局、現実に向き合う覚悟ができずにドバイに飛んでさらに墓穴を掘ってしまった。
 何だか世の人々にとっても人生訓になるような話だな(笑)。
 秋田新太郎氏からの誘いに乗って、妹などから40万円だかを借りてドバイに行く。でも、ドバイの国際空港に着いたときは、飛行機代を払ったので手元には数万円しか残ってない。それで、タクシーを使わずに砂漠の中の道を2時間歩いて秋田氏のマンションを訪ねるんだ。
 せつない話だな。
 とりあえず、秋田氏の婚約者(?)が経営するレストランでアルバイトをすることになった。秋田氏はドバイでも有数な高級マンションに住んでいたけど、ガーシーはレストランの社員寮の部屋を与えられた。それも、モロッコ人スタッフと同室の埃だらけの部屋だった。
 そのあと秋田氏から説得されて暴露チャンネルをはじめたのか。
 さすがのガーシーも、最初は乗り気ではなかったと書いているな。でも、秋田氏から「金を返すにはどうする?」と詰問され、意を決して「東谷義和のガーシーch【芸能界の裏側】」を開設することになったというわけだ。
 そうまでしてお金を返済しなければならないと考えるのは、相当きつい追い込みをかけられていたんだろうな。
 裏カジノで借金を作って進退窮まり、雪山で自殺しようと思って山に行ったら、雪がなくて死ねなかったというトンマな話がある。眉唾な話だけど、ガーシーの性格を物語る話だと言えないこともない。チキンな性格によってみずから墓穴を掘り、どんどん深みにはまっていくんだよ。

■「ガーシー一味」


 あの「ガーシー一味」は何なんだ?
 言い方は悪いけど、たかり、、、みたいなもんだろ。ガーシーチャンネルがバズったので、甘い蜜を吸うために集まっただけじゃないのか。
 たしかに、あれだけの人脈があったのに、どうして孤立無援の状態に置かれ、妹からお金を借りてドバイに飛ぶことになったのか?と誰でも思うよな。
 テレビドラマのように一網打尽とはいかないだろうけど、国家は恣意的なものなので、逃亡を支援したとしてシッペ返しを食らう可能性はあるだろうな。逃亡が長引けば長引くほど、彼らに対する圧力は強まるだろうから、そのうち「お願いだから早く日本に帰ってくれ」と懇願するようになるんじゃないか。
 彼らを見ていると、表の仕事は別にして、暗号資産などの裏のビジネスで繋がっているような気がしてならないな。
 「集英社オンライン」も少し触れていたけど、福一の原発事故のあと、”脱原発政策”で再生可能エネルギーが脚光を浴び、腹に一物の連中が太陽光ビジネスに群がった。そして、そのあと、ブロックチェーンを使った暗号資産のブームが起きると、それにも手を伸ばした。今、反社や半グレがらみで摘発されている事件も、そのパターンが多い。ガーシーに直接関係ないけど、三浦瑠璃の旦那の事件も同じだ。

■身から出た錆


 ガーシーは自分で言うようにこのまま一生日本に帰らないつもりなのかな。
 「だって詐欺師だよ‥‥」(笑)
 そんなことないか?
 51歳で薬が手放せない糖尿病持ちだよ。あのドス黒い顔色を見ると、既に腎臓病の合併症を併発しているような気がしないでもない。だとすれば、そのうち人工透析も必要になる。それでなくてもチキンな性格なんだから身が持たないよ。
 逃亡生活はきついだろうし‥‥。
 ガーシーの攻撃は相手の家族までターゲットにした容赦ないもので、ガーシー自身も、アキレス腱を攻めるのが俺のやり方だと嘯いていたけど、今度はその言葉がそっくりそのまま自分に返って来ることになる。「ガーシー本」を読むと、高校教師だった父親はギャンブルに狂って借金を作り自殺したそうだ。それもあって77歳の母親や48歳の妹は、今のガーシーを心配しているという。まして、逮捕状が出て国際指名手配されたらよけい気に病むだろう。でも、世間は情け容赦ないので、今度はガーシーのアキレス腱である母親や妹がターゲットになる。正月には母親をドバイに呼んで一緒に新年を祝ったみたいだけど、家族の泣きごとにいつまで耐えられるかな。
 あとは帰国した場合の命の保証か?(笑)
 芸能界がヒットマンを放っているというのは法螺で、ホントは何度も言うように借金がらみのトラブルを怖れているんだと思う。もうひとつは、ガーシーを帰したくない、帰ったら困る人間たちの存在もあるんじゃないか。それは日本にもいるしドバイにもいるはず。
 ドバイに行っていろんなしがらみが出来たからな。
 でも、それでも帰ると思うよ。チキンな詐欺師の結論はそれ一択だよ。ホリエモンと立花(前党首)は、ガーシーはカルロス・ゴーンのように逃げ切れると言っていたけど、カルロス・ゴーンとは事情がまったく異なる。彼らは、逃げ切ってほしいという”希望的観測”で言っているにすぎない。「ガーシー本」の著者の伊藤喜之氏は、UAEにはタイのタクシン元首相など各国から政治亡命者が集まっているので、ガーシーもUAE政府から政治亡命として保護される可能性があると言っていたけど、ガーシーが政治亡命と見做されるとはとても思えない。ゴールデンビザを持っているから大丈夫だという話も同じだけど、UAEは梁山泊じゃないよ。国家や政治が、時と場合によって冷酷で非情なものに豹変する、ということがまるでわかってないお花畑の論理にすぎない。
 そのうち、出頭するので迎えに来てください、と警察に連絡が入るんじゃないか。
 もちろん、軟禁や〇〇もないとは言えないけど、SNSで啖呵を切ったように、ホントに自分の意志で逃亡者の道を選ぶのなら少しはガーシーを見直すけど、そこまで肝が据わっているとはとても思えない。
 もともとは横浜の裏カジノにはまって借金を作り、首が回らなくなったという、身から出た錆の話にすぎないのに、どうしてこんなおおごとになってしまったんだと言いたくなるよな。
 ドバイの連中は、ガーシーは不当に「弾圧されている」と言っているけど、元はと言えば、ガーシーが自分が起こしたチンケな詐欺まがいの事件に必要以上に怯えてドバイに飛んで、みずから傷口を広げただけ。演出されていたとは言え、自分の借金を返すために、旧知の芸能人や出所不明のタレコミがあった一般人をネットで晒して、あのようなヤクザ口調で追い込んでいながら、それで「弾圧されている」はないだろう。しかも、ネットとは別に、裏でも脅迫していたという話もあるしな。
 当然そうだろうな。表の暴力はデモンストレーションで、裏でその暴力をチラつかせてビジネスを行う。それが「やから」のやり方だよ。
 ガーシーを「反権力」みたいに言っていた「元赤軍派」は、アメリカにいた頃、ブラック ・パンサー党の準党員だったそうで、現在アメリカで大きな潮流になっているブラック・ライブズ・マター(BLM)運動について、国内の集会でも乞われて発言していたみたいだ。ガーシーにアメリカの黒人を重ねて、「嘘の正義より真実の悪」とか「悪党にしか裁けない悪」といったマンガから借用したフレーズを真に受けたのかもしれないけど、語るに落ちたとはこのことだよ。
2023.03.19 Sun l 社会・メディア l top ▲
悪党潜入300日ドバイ・ガーシー一味


■朝日新聞の事なかれ主義


一足先に電子書籍で、伊藤喜之氏の『悪党 潜入300日 ドバイ・ガーシー一味』(講談社+α新書)を読みました。

伊藤氏は、朝日新聞ドバイ支局長としてドバイに赴任していたのですが、伊藤氏がガーシー(東谷義和)に初めて接触したのは、2022年4月だそうです。その後、取材をすすめ、ガーシーのインタビュー記事をものにしたのですが、本社のデスクから「東谷氏の一方的な言い分ばかりで載せられない」と「掲載不可」を告げられ、同年8月末で朝日を退社して独立。以後、ドバイに住み続けて取材を続け、本書の出版に至ったというわけです。

本書には、その没になった記事が「幻のインタビュー『自分は悪党』」と題して掲載されていますが、それを読むと、「東谷氏の一方的な言い分ばかりで載せられない」と言った、本社のデスクの判断は間違ってないように思いました。

本書も同様で、「悪党」「潜入」「一味」という言葉とは裏腹に、ややきつい言い方をすれば「ガーシー宣伝本」と言われても仕方ないような内容でした。「潜入」ではなく「密着」ではないのかと思いました。ガーシー自身や、ガーシーの「黒幕」と言われる秋田新太郎氏が、それぞれTwitterで本書を「宣伝」していた理由が納得できました(ほかにも本書に登場する人物たちが、まるで申し合わせたようにTwitterで「宣伝」していました)。

私は下記の記事で、「元大阪府警の動画制作者」「朝日新聞の事なかれ主義」「王族をつなぐ元赤軍派」という目次が気になると書きましたが、「朝日新聞の事なかれ主義」というのは、単に掲載不可で辞表を出した著者の個人的な“恨みつらみ”にすぎなかったのです。別に朝日の肩を持つわけではありませんが、「事なかれ主義」と言うのは無理があるように思いました。

関連記事:
ガーシーは帰って来るのか?

■元大阪府警の動画制作者


著者は、ガーシーには「過去に不始末などを犯し、日本社会に何らかのルサンチマン(遺恨)や情念を抱える『手負いの者たち』が東谷のそばに結集し、暴露ネタの提供から制作まで陰に陽にさまざまなかたちで手を貸している」(「あとがき」)として、彼らを「ガーシー一味」と呼んでいましたが、「元大阪府警の動画制作者」もそのひとりです。

名前は池田俊輔氏。本書ではこう紹介されています。

東京都内の映像制作会社の社長で、40歳。20代のころは大阪府警の警察官として外国人犯罪を取り締まる国際捜査課に所属していた、という異色の経歴を持つ。警察官人生の先行きに憂いを感じたこともあり、早々に見切りをつけて退職。独立して番組制作を手掛ける会社を立ち上げたが、4年前からYouTubeの動画制作をメインに据え、これまでに約70チャンネルを手がけていた。
(本書より。以下引用は同じ)


ガーシーの「東谷義和のガーシーch【芸能界の裏側】」は、ガーシーの発想で始まったのではないのです。本書によれば、ガーシー自身はYouTubeで暴露することに、むしろ逡巡していたそうです。それを説得したのが秋田新太郎氏だったとか。そして、おそらく秋田氏が依頼したのではないかと思いますが、「ガーシーch」を企画立案したのが池田氏です。

本書を読むと、「ガーシーch」が綿密な計算のもとに作られていたことがわかります。暴露動画の効果をより高めるために、「ネガティブ訴求」という「切り口」を参考にしたと言います。

(引用者註:ネガティブ訴求の)過去例としては、「○○を買ってはいけない」「○○を知らないとヤバい」「販売中止」「絶対に○○するな」「放送中止」などがあった。ネガティブに煽っていく切り口の動画がヒットしたことを示している。
 ここから発想を展開し、たとえば、「芸能界で○○するな」「芸能界の裏側」「テレビの放送事故」など、東谷が動画をつくれそうな切り口を検討してもらったという。


取り上げる芸能人も、「ネット上でどれだけ検索されているか」「検索ボリューム」で調べた上で、リストの中から「誰を優先的に暴露していくか順番を検討」したのだそうです。

 その資料をみると、検索ボリュームが比較的高い芸能人の中には野田洋次郎(RADWIMPS)、TAKA(ONE OK ROCK)、佐藤健、新田真剣佑、TKO木下隆行など、比較的初期に東谷が暴露対象とすることになった芸能人の名が見える。
 池田はいう。「すでに東さん自身が配信でも振り返っていますが、芸能人暴露にはYouTubeで広告収益を得て、何よりもまず東さんの借金を返すという目的がありました。そのためにも再生数が伸びそうな芸能人は誰かということもかなり意識して撮影スケジュールを決めていきました」


また、8分以上だと2本の広告が付くことを考慮して、動画の尺を9分20秒にしたり、動画の拡散のために、「東谷のBTS詐欺疑惑を最初に晒した」Z李に協力を仰いだりしたのだとか。

動画の撮影を始めたのは、2022年2月6日でした。大阪府警の捜査の手から逃れるために、ガーシーが、秋田新太郎氏の誘いに応じてドバイ国際空港に降り立ったのが2021年12月18日でしたから、それから僅か2ヶ月足らずのことです。

場所は、秋田氏の婚約者が経営しているレストランの社員寮の部屋でした。モロッコ人スタッフと相部屋で、床は埃が溜まり靴下が汚れて閉口するような部屋だったそうです。モロッコ人スタッフが仕事で部屋を空けている時間帯に撮影し、しかも、ドバイということを悟られないように、カーテンを閉め、ガーシーの服装も日本の季節に合わせたものにするなど、細心の注意を払って行われたそうです。

■王族をつなぐ元赤軍派


「王族をつなぐ元赤軍派」というのは、大谷行雄という人物です。重信房子氏の弁護人を務めた大谷恭子弁護士の弟で、現在は、UAE北部のラスアルハイマという街に住み、経営コンサルタントをしているそうです。

大谷氏については、重信房子氏が出所した際に、伊藤喜之氏が朝日にインタビュー記事を書いており、私も「そう言えば」といった程度ですが、読んだ記憶がありました。

朝日新聞デジタル
赤軍派高校生だった私の「罪」 獄中の重信房子元幹部から届いた感想

大谷氏は、秋田新太郎氏と関係があり、ガーシーが参院議員になったあとに、秋田氏の依頼で懇意にしている王族に何度か引き合わせたことがあるそうです。それで、ガーシーが子どものように「王族になる」と言い始めたのでした。

大谷氏は、著者の取材で、ガーシーのことを次のように言っていました。

「秋田氏にガーシー議員を紹介されて、ご協力できることはしたいとラスアルハイマの王族の皆様に引き合わせました。私はガーシー氏の暴露行為についてすべてを肯定しているわけじゃありませんが、彼の既存体制と権力に対する破壊的精神を買っています」


著者は、「まさに元赤軍派らしい発言」と書いていましたが、私にはトンチンカンな駄弁としか思えませんでした。そもそも「元赤軍派」と言っても、高校時代に、赤軍派結成に至る前のブント(共産主義者同盟)の分派活動をしていたにすぎないのです。

■ワンピースの世界観


ガーシーの周りには、秋田新太郎氏のほかに、FC2の高橋理洋氏、元ネオヒルズ族で、2022年3月に無許可で暗号資産の交換業を行っていたとして関東財務局から名指しで警告を受けた久積篤史氏、ハワイ在住のコーディネーターの山口晃平氏、小倉優子の元夫でカリスマ美容師の菊地勲氏、大阪でタレントのキャスティングや動画配信の会社を経営する緒方俊亮氏、年商30億円以上を誇ると言われる33歳の実業家の辻敬太氏などが集まっているのでした。

著者は、「皆がそれぞれに後ろ暗い過去を持つが、東谷はそこにむしろ任俠組織の絆のようなものを感じ取っている」と書いていましたが、そこで登場するのがあの「ルフィ」の『ワンピース』です。ガーシーはマンガ好きで、「雑誌では週刊少年ジャンプとヤングジャンプは電子版でかかさずに定期購読している。なかでも何度もインスタライブなどの配信で言及しているのが尾田栄一郎の人気漫画『ワンピース』だ」とか。

 血縁関係がない者同士が盃を交わすことで疑似的な血縁関係を結び、兄弟になったり、親子になったり。仁義や交わした約束などが重んじられるシーンも数多い。これは日本の伝統的な任俠組織のシステムと同一であり、ワンピースはそんな世界観で成り立っている。


著者は、「ガーシー一味」をそんな世界になぞらえているのでした。

本書にも名前が出ていますが、ほかに有名どころでは、エイベックスCEOの松浦勝人氏や自伝本『死なばもろとも』(幻冬舎)の編集者の箕輪厚介氏、コラボの見返りにガーシーに4000万円を貸した医師の麻生泰氏などが、ドバイを訪ねてガーシーを持ち上げています。また、ガーシーが芸能界で人脈を築くきっかけを作ったと言われるタレントの田村淳に至っては、ガーシーは未だ友達だと言って憚らないのでした。

しかし、実際は、それぞれが何程かの打算や思惑や義理で近づいているはずで、著者が書いているのは後付けの理屈のようにしか思えませんでした。だったら(そんな”錚々たる”メンバー”がホントに義侠心で馳せ参じているのなら)、暴露系ユーチューバーなどという面倒くさいことをやらずに、みんなでお金を出し合って助ければよかったのです。そうすれば、ガーシーの借金など簡単に清算できたはずです。BTS詐欺の”弁済金”も、麻生氏に借りるまでもなかったのです。そう皮肉を言いたくなりました。

■トリックスター


著者は、こう書いていました。

(略)トリックスターを体現する「ガーシー」という存在は東谷がただ一人で生み出したものでもないのだろう。東谷自身が、ワンピースの「麦わらの一味」や水滸伝の108人の盗賊団とどこかで自分を重ねていることを踏まえても、東谷本人とその周囲の仲間たちが共同作業で創り出しているのが「ガーシー」だととらえることができる。


「トリックスター」という言葉は、西田亮介氏も朝日のインタビュー記事で使っていました。

朝日新聞デジタル
除名のガーシー議員 既成政党への不満が生んだ「トリックスター」

実は、かく言う私も、上の関連記事で「トリックスター」という言葉を使っています。しかし、私は、「トリックスター」という言葉を聞くと、前に紹介した集英社オンラインの記事のタイトルにあった「だって詐欺師だよ…」というガーシーの知人の言葉を思い出さざるを得ないのでした。

集英社オンライン
〈帰国・陳謝〉を表明したガーシー議員、それでも側近・友人・知人が揃って「帰国しないだろう」と答える理由とは…「逮捕が待っている」「議員より配信のほうが儲かる」「だって詐欺師だよ…」

「トリックスター」に「詐欺師」とルビを振れば、ガーシー現象がすっきりと見えるような気がします。身も蓋もない言い方になりますが、結局、その一語に尽きるように思いました。


追記:
この記事は朝アップしたのですが、午後、警視庁は著名人らに対して脅迫を行った容疑で、ガーシーに逮捕状を請求したというニュースがありました。まるで除名処分を待っていたかのような警視庁の対応には驚きました。

結局、ガーシーは、ドバイに行って墓穴を掘っただけと言っていいでしょう。しかも、どう考えても、これが”とば口”にすぎないのはあきらかなのです。

また、ドバイで動画制作に関わったとみられる男性(記事参照)に対しても、逮捕状を請求したそうです。上記で書いたように、動画の中で、暴露相手を追い込むようなガーシーの激しい口調も、「ネガティブ訴求」として意図的に採用されたのです。

容疑の「常習的脅迫」に関しては、本書の中に次のような記述がありました。ガーシーに「密着」した本が、逆に容疑を裏付けるという皮肉な結果になっているのでした。

 そうした(引用者註:任侠組織と同じような)価値観は暴露にも反映され、その一つが暴露では本人だけでなく、その周囲の人物も晒すという東谷独特のやり口がある。(略)そんな情け容赦ない喧嘩術はある種、ヤクザ的である。東谷は「その人のアキレス腱を攻める。周囲の人を暴露したら一番嫌がるのはわかっている。それが俺のやり方やから」と悪びれずに繰り返し述べている。

2023.03.16 Thu l 本・文芸 l top ▲
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(Wikipediaより)


■SVBの破綻


3月10日、総資産が2090億ドル(約28兆円)で、全米16位の資産規模をほこるアメリカシリコンバレーバンク(SVB)が経営破綻したというニュースがありました。SVBの破綻は、FRB(米連邦準備理事会)の量的緩和(QE)から量的引締め(QT)への、金融政策の転換による急速な利上げで資金調達が悪化したためと言われています。

さらに2日後、総資産が1103億ドル(約15兆円)で、全米29位のシグネチャーバンクでも取り付け騒ぎが起こり、破綻に追い込まれたのでした。シグネチャーバンクの破綻は、もともと暗号資産(仮想通貨)関連の顧客が多く、経営基盤が脆弱な中で、SVBの破綻で信用不安が高まったためと言われています。

SVBの破綻について、金融当局や市場関係者は、「特殊事例」で、信用不安につながる可能性は低いと言っていたのですが、その舌の根が乾かぬうちに”連鎖倒産”が起きたのです。もっとも、考えてみれば、金融当局や市場関係者が信用不安が起きるなどと言うわけがないのです。彼らは、リーマンショックのときも同じことを言っていたのです。

3月12日のシグネチャーバンクが破綻した当日、アメリカ財務省とFRBと米連邦預金保険公社(FDIC)は、通常の預金保険では1口座当たり最大25万ドルまでしか保護されないのですが、今回は25万ドルを超えても全額保護するとの声明を発表したのでした。それが信用不安を防ぐための特例処置であり、表向きの”楽観論”とは裏腹に、深刻な事態を懸念しているのはあきらかです。

■経済制裁の返り血


このようにアメリカ経済は、未曾有のインフレに見舞われて疲弊し、金融システムにも軋みが生じはじめているのでした。もちろん、それはアメリカだけではありません。いわゆる西側諸国はどこも同じで、資源高やエネルギー価格の高騰によって、国民生活はニッチもサッチもいかなくなっているのです。そのため、労働者は賃上げを要求して立ち上り、中には治安当局と衝突するような”暴動”まで起きているのでした。

この遠因にあるのは、言うまでもなくウクライナ戦争に伴うロシアへの経済制裁です。言うなれば、西側の国民たちはその返り血を浴びているのです。

■中国の存在感


そんな中で、SVBが破綻した3月10日、2016年から断交していたイランとサウジアラビアが、中国の仲介によって、外交関係の正常化で合意したというニュースがありました。西側諸国がロシア制裁で自縄自縛に陥る中で、中国の存在感がいっそう高まっているのでした。その発表に対して、「ホワイトハウスのジョン・カービー米国家安全保障会議(NSC)の戦略広報調整官は、アメリカ政府は『地域の緊張関係を緩和させようとするあらゆる取り組み』を支持すると述べた」(BBCより)そうです。また、国連のアントニオ・グテーレス事務総長も、「中国による仲介努力に感謝し、『湾岸地域に持続する平和と安全を確保』するための努力を支援する用意があると、報道官を通じて述べた」(同)そうです。国連のロシア非難決議では、世界の全人口の半分にも満たない国しか賛成しなかったのですが、中国は中東においても、(アメリカに代わる)その影響力を見せつけたと言っていいでしょう。

BBC NEWS JAPAN
イランとサウジアラビア、7年ぶりに外交関係正常化で合意 中国が仲介

さらには、今日(3月14日)、びっくりするニュースが飛び込んで来たのでした。それは、次のようなものです。

Newsweek ニューズウィーク日本版
中国・習近平、ウクライナ・ゼレンスキーと会談へ

米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は13日、中国の習近平国家主席が、ロシアのウクライナ侵攻後初めてウクライナのゼレンスキー大統領と会談する予定だと伝えた。

WSJが関係者の話として伝えたところによると、ゼレンスキー大統領との会談は、習主席が来週、ロシアを訪問してプーチン大統領と会談した後に行われる公算という。


報道によれば、もともと「中国はロシアとウクライナの和平交渉に積極的に関与する姿勢を示していて、ゼレンスキー大統領も習主席との対話を望んできた」そうです(ロイターより)。しかし、日本のメディアは、中国は台湾や日本を攻めて来ると言うばかりで、そんなことはひと言も報じていません。そのため、こういったニュースが流れると、文字通り青天の霹靂のような気持になるのでした。

一方、アメリカ国務省のプライス報道官は、今回の報道を受けて、「ウクライナ侵攻を終わらせるために中国が影響力を行使することを望む」と述べたそうです(同)。

■アメリカの落日と中国の台頭


こういった発言を見てもわかるとおり、ウクライナ戦争に限らず世界秩序の維持において、アメリカが完全に当事者能力を失っていることがわかります。ウクライナ戦争においても、バイデン政権がやって来たことは、ただ火に油を注ぎ戦火を拡大することだけでした。

バイデン政権が当事者能力を失っていることについては、国内でも懸念の声が上がっています。今やウクライナへの軍事支援に賛成している国民は半分もいないのです。

アメリカのプロパガンダを真に受けて、「ウクライナが可哀そう、ロシアは鬼畜」という印象操作の虜になり、「勝つか負けるか」「ウクライナかロシアか」の戦時の言葉でしかものごとを考えることができない日本国民には信じられないかもしれませんが、アメリカ国内では下記のようなテレビ番組さえ存在しているのでした。


私は、昨年の侵攻直前、このブログで、ウクライナ侵攻を目論むロシアの強気の背景には、アメリカが唯一の超大国の座から転落して、世界が多極化する歴史的転換があると書きました。それを象徴するのがあの惨めなアフガン撤退ですが、今回のウクライナ戦争でアメリカの威信は完全に地に堕ちたと言っても過言ではないでしょう。

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ウクライナ危機と世界の多極化

世界の覇権は100年ごとに移譲するという説がありますが、あえて挑発的な言い方をすれば、300年ぶりに中国が世界史の中心に返り咲くのはもはやあきらかで、それがわかってないのは、カルト(ネトウヨ)的思考にどっぷりと浸かり歴史的な方向感覚を失っている日本国民だけです。

日本人は見たくないものからは目を背ける怯懦な傾向がありますが、しかし、好むと好まざるとにかかわらず、世界の歴史は大きく変わろうとしているのです。今のような対米従属一辺倒のカルト(ネトウヨ)的思考に呪縛された状態では、日本が”東夷の国”として歴史に翻弄されるのは目に見えているような気がします。


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■血尿


去年の年末、ほとんど痛みもなく石が出て、「これ以上ない大団円で幕を閉じた」と書いたのですが、実は後日、病院に行ったら再び血尿が出ていることが判明し、まだ尿路に石が残っているのかもしれないと言われたのでした。ただ、エコーなどの検査をせずに様子見ということになりました。

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案の定、その後、赤いおしっこが二度出ました。また、おしっこした際の尿道の痛みも前回より増してありました。

ドクターによれば、尿管結石というのは、石の大小や形などに関わらず「痛いときは痛い」そうですが、ただ、尿道がこんなに痛いのは前回と今回だけです。それまでは、左の脇腹や腰のあたりがひどく痛む尿管結石の代表的な症状でした。しかし、前回と今回は脇腹や腰の痛みはほとんどなく、尿道の痛みが主なのです。

赤い、見るからに血尿とわかるようなおしっこは二度だけでしたが、色の濃いおしっこは頻繁に出ていました。何だか石が流れたり詰まったりをくり返しているのがわかるような気がしました。

自宅でおしっこをするときは茶こしを通して石を確認しましたが、途中、一度だけ微細な粉のようなものが出たことがありました。しかし、症状は改善されません。まだ“本命の石”が残っているのは間違いありません。

■かかりつけ医の善し悪し


もちろん、ずっと憂鬱な気分の中にありました。薬も残り少なくなったので、病院に行かなければならないのですが、症状が残っているときに病院に行くと検査やなんやらでえらく手間と時間がかかり、それも面倒でした。

考えてみれば、急性前立腺炎をきっかけに泌尿器科に通い出して、もう17~18年経ちます。毎月、ずっと同じ病院に通っているのです。

余談ですが、コロナが始まった頃、インフルエンザに感染するとコロナも重症化すると言われ、インフルエンザの予防注射を行なう病院に人々が殺到したことがありました。私が通っている病院もインフルエンザのワクチン接種を行っていたので、予約をお願いしたらワクチン不足のため予約を中止していると言われたのです。しかも、次回の入荷がいつになるかわからないので予約の受付も未定で、随時問い合わせて貰うしかないと言うのです。かかりつけの患者を優先するということはないのかと訊いたら、「それはない」と言われました。

それで、診察の際、ドクターに抗議したら、「対応は受付に任せていますので」と木を鼻で括ったような答えしか返ってきませんでした。結局、その年はインフルエンザワクチンの接種をあきらめたのですが、その際、病院を変えようかと思いました。それで、コロナの感染を怖れたということもあって、3ヶ月受診しなかったのです。

しかし、病院を新しく変えると、また最初から検査をやり直さなければならないのでそれも手間で、結局、また元に戻ってしまったのでした。

私が通っている病院は、泌尿器科と内科を標榜していますのでかかりつけ医としては便利で、たとえばよその病院で健康診断を受けてもその結果を持って行くと、カルテに記録して経過を診てくれます。

ただ一方で、それも善し悪しのところがあり、たとえば一時悪玉コレステロールの値が高いということがあったのですが、それ以来、「体重が増えないように気を付けてください」「運動してください」「揚げ物はなるべく控えて魚や野菜中心の食事を心がけてください」と毎回同じことを言われるようになったのでした。心の中では、「またか」と思いつつも適当に返事をしていましたが、知り合いの医療関係者にその話をしたら、「それは栄養指導でお金を取られているよ」「病院に無料サービスなんてないよ」と言われたのです。

領収書を見ると、たしかに「医学管理料」として225点が計上されていました。1点10円なので2250円、そのうちの3割の675円を窓口負担していることがわかりました。まさか「先生、栄養指導はもう結構です」とは言えないので、病院に通い続ける限り半永久的に請求されるのでしょう。むしろ、こっちが牛丼一杯分のサービス料を払っているようなものです。

■薬局の不可解な明細


薬局はもっと不可解です。薬を処方されても、薬代とは別に、「薬剤技術料」140点と「薬学管理料」165点が計上されています。つまり、処方箋を持って行っただけで、3050円が請求されるのです(患者の窓口負担は915円)。

「薬剤技術料」は薬剤師が薬を処方する手間賃で、「薬学管理料」は薬を渡される際、毎回同じことを説明されるあの説明料なのでしょう。「薬剤技術料」や「薬学管理料」は薬の種類や処方日数によって違うみたいですが、私の場合、「薬剤料」、つまり薬代は280点(2800円)です。ということは、薬代(「薬剤料」)2800円に対して薬をピッキングして梱包する手数料(「薬剤技術料」)が1400円で、それをお客(患者)に渡す際、注意事項を説明する説明代(「薬学管理料」)が1650円もかかるのです。つまり、薬代より手数料の方が高いのです。

一方、病院の方は、私が通っている病院だと、検査料を除けば、通常請求されるのは、「再診料」74点、「医学管理料」225点、「投薬」134点ですから、合計4330円です。たしかに、病院は、検査をしたり、どうでもいい栄養指導で「医学管理料」などを計上しないと、薬局より実入りが少なくなるのです。しかも、薬局は手数料の他に薬代も3割から4割近く利益を得ているはずです。そう考えれば、薬局に比べると、病院の方が割りに合わない気がしてなりません。

だから、病院は、検査や入院や手術に走るのでしょう。病院では患者一人当たりの単価のことを「日当円」と言って、それが収益の指針になっているのだそうです。「日当円」が下がった患者は、退院か転院させる。つまり、追い出すのです。それを「退院支援」と言うのだとか。

■医療費増大の要因


医療費増大の要因を老人医療費だけに帰する言説が一人歩きをして、それが単細胞な落合陽一や古市憲寿の「高齢者の終末期医療を打ち切れ」という話や、成田悠輔の”集団自殺のすすめ”の暴論につながっているのですが、その前にこういった細々とした不明瞭な手数料を見直せば、かなりの医療費の圧縮になるのではないか、と思ったりもするのでした。

特に、薬局の手数料に関しては、不可解なものが多く、病院を凌ぐほどの濡れ手で粟の利益を得ているような気がしてなりません。魚屋でも八百屋でも、商品代金とは別に販売手数料を取ったりはしません。調理の仕方を説明したからと言って、説明料を請求したりはしません。社会主義国家の薬局ではないのですから、薬の利益もちゃんと得ているはずです。その上で、販売手数料に等しいものを別に請求しているのです。

で、話を元に戻せば、昨日、またボロりと石が出たのでした。石自体は5ミリくらいの小さなものでしたが、角が尖ったいびつな形をしていましたので、それが血尿や尿道の痛みの要因になったのかもしれないと思いました。石が出たら、尿道の痛みもなくなりましたし、おしっこもきれいになりました。

ただ、前回のこともありますので、これでホントに終わりなのか、いまいち不安もあります。また病院に行って、面倒な検査を受けて確認するしかなさそうです。


関連記事:
※尿管結石体験記
※時系列に沿って表示しています。
不吉な連想(2006年)
緊急外来(2008年)
緊急外来・2(2008年)
散歩(2008年)
診察(2008年)
冬の散歩道(2008年)
9年ぶりの再発(2017年)
再び病院に行った(2017年)
ESWLで破砕することになった(2017年)
ESWL体験記(2017年)
ESWLの結果(2017年)
5回目の尿管結石(2019年)
6回目の尿管結石(2022年)
2023.03.14 Tue l 健康・ダイエット l top ▲
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■きっこのツイッター


きっこのツイッターに下記のようなツイートがありました。

@kikko_no_blog

嫌味に思われるかもしれませんが、あえて自慢すれば、私は、中学3年のとき、夏の甲子園大会で全国優勝したこともある野球の強豪校からスカウトに来たくらいの、地元ではそれなりに知られた野球少年でした。授業中に野球部の顧問の先生から校庭に呼び出されて、県内では誰もが知る有名人であった強豪校の監督の目の前でマウンドに立ち、投球を披露した(させられた)ことがありました。

野球をするならどこの高校でも入学できるぞ、と今の時代なら信じられないようなことを顧問の先生から言われたのですが、私はそんなのはバカバカしいと思いました。

高校に入って、夏の予選大会で自分たちの学校の応援に行ったら、球場で別の強豪校の野球部に入っている中学時代の同級生に会ったり、また、スカウトに来た監督が私を見つけると傍にやって来て、「お前、野球やってないのか? どうしてやらないんだ? ○○監督(私の高校の野球部の監督)はお前のことを知らないのか?」と言われたことがありました。私が野球をやっていたことを知らないクラスメートたちは、目の前のやり取りを見て驚いていましたが、しかし、その頃の私は既に野球に対する興味が薄れていました。と言うか、むしろ「野球バカ」みたいに見下すような気持すらありました。

ただ、高校を卒業して東京の予備校に通っていたときも、知り合いの伝手で後楽園球場でアルバイトをしていました。その際、試合前の練習をするプロの選手たちをまじかで見てまず驚いたのは、投げたり打ったりするときのフォームの美しさでした。何のスポーツでもそうですが、基本ができているとフォームがきれいなんだなとしみじみ思ったものです。

■野球はマイナーなスポーツ


しかし、現在、監督が市議会議員まで務めた件の強豪校は、野球部のスカウトをやめてただの県立高校になっています。同じように夏の間私の田舎に合宿に来ていた私立高校の強豪校も(そこの監督からもスカウトされた)、今はクラブ活動より特進クラスの大学進学に力を入れて、昔の「不良の集まり」からイメージを一新しています。PL学園もそうですが、「甲子園出場」で生徒を集めるというような発想は、この少子化の時代ではもはや時代錯誤な考えになっているのです。

私の友人は、子どもには野球をさせたいと、用具を揃えるためにスポーツ用品店に行ったら、野球のコーナーは片隅に追いやられ、品数も少なくて「びっくりした」と言っていました。友人の子どもも、少年野球のチームに入った(入れられた)もののすぐにやめて、サッカーのチームに入り直したそうです。

アメリカのメジャーリーグの選手があれだけ“多国籍”になり、開幕戦が日本で行われたりするのも、ひとえに国内の人気が下降して海外に活路を見出そうとしているからでしょう。もっとも、“多国籍”と言っても、その範囲は、かつてアメリカ帝国主義の影響下にあった中南米やアジアの国に限られています。世界大で見ると、サッカーと違って野球はマイナーなスポーツなのです。

WBCの出場国にしても、もともと野球が普及していたのは、本家のアメリカを除くと、日本と中南米のキューバやドミニカやプエルトルコやメキシコくらいで、韓国や台湾も野球が本格的に普及したのは第二次世界大戦後です。その韓国や台湾も、野球の人気が思ったように上がらず、プロ球団の経営にも苦労しているようです。まして、チェコやオーストラリアなどは超マイナーな野球後進国で、そもそも「世界大会」に出場すること自体無理があるのです。と言うか、そういった国を集めて「世界大会」と銘打つのは、多分におこがましく、ウソっぽいと言わざるを得ません。

■TBSとテレビ朝日の悪ノリ


Yahoo!ジャパンがWBCの特設サイトを作っているのを見ると、栗城史多のエベレスト挑戦で、同じように特設サイトを作ったことを連想せざるを得ません。あのとき、Yahoo!ジャパンは、栗城と共同で、ベースキャンプでカラオケとソーメン流しをして、それをギネスに申請するという、恥ずべき企画を立てた前科があるのでした。

選手たちの本業が消防士や地理の教師や金融アナリストや不動産会社社員で、日本に修学旅行気分でやって来たという、どう見てもアマチュアにすぎないチェコと戦って、「勝った」と言って大騒ぎし「日本快進撃」などと言われても鼻白むしかありません。野球をする人間が希少動物のようなマイナーな国を相手に勝って、何が嬉しいんだろうと思います。環境も歴史も違う弱小チームを打ち負かせて、「お前よくやったな」と偉そうに言ってみんなで優越感に浸っているだけです。もともとレベルが違うアマチュアとプロを戦わせるのは、アンフェアな弱い者いじめにすぎません。それで「予選リーグ突破」「準決勝進出」だなんて、片腹痛いと言わねばなりません。

特に、放映権を握るTBSとテレビ朝日の悪ノリには目に余るものがあります。まるでウクライナ戦争における戦争報道と見まごうばかりです。そこに伏在するプロパガンダの構造は、戦争でも野球でも違いはないのです。

ピッチャーが交代すると、カメラマンがどこからともなく現れて、マウンドの近くで投球練習をするピッチャーを撮影したり、ホームランを打ったら、三塁ベースをまわる選手の横をテレビカメラを手にしたカメラマンが並走したりと、試合中にメディアの人間がグランドに闖入するなど本来ならあり得ないことでしょう。

準決勝の相手はイタリアだそうですが、また実況中継のアナウンサーは絶叫し、日本中が「日本凄い!」と歓喜に沸くのでしょうか。悪ノリにもほどあるとしか思えません。裸の王様ではないですが、「こんなのバカバカしい」と誰も言わない不思議を考えないわけにはいきません。

■いびつな「世界大会」のしくみ


また、興行面においても、元毎日新聞記者の坂東太郎氏は、「このWBCという大会は収益配分などが極めていびつで『アメリカのアメリカによるアメリカのための大会』とも揶揄されている」と書いていました。

Yahoo!ニュース・個人
坂東太郎
WBCのいびつな収益構造で太り続けるMLBと選手会。しかも有力選手は出し渋る矛盾した体質

それによれば、大会収益とスポンサー料の66%は、MLB(アメリカ大リーグ機構)と同選手会が共同で設立した「WBC1」という会社に入り、日本に入るのは13%にすぎないのだそうです。そのため、日本の選手会は、せめて「スポンサー権と代表に関連したグッズなどを商品化するライセンス権を代表チームに帰属させるべきと訴えた」のですが交渉が難航。その結果、前回から6年のブランクが生じたと言われているのです。

 結局、この問題は大会期間外にも日本代表(侍ジャパン)を常設して年単位で募ったスポンサー収入の一部や対外試合などの収入を得られるという条件をWBCIに納得してもらい妥協が図られました。


しかし、収益の66%がアメリカに入るという構造はそのまま残されたそうです。

さらに、坂東氏は、大会の組み合わせについても、次のように書いていました。

 とはいえ「アメリカのアメリカによる」という構図は大きく変わっていません。収益配分66%が動いていないのに加えて、

・第1ラウンドC・D組と準々決勝、および準決勝と決勝すべての会場はアメリカ

・3月開催もMLBの日程を優先しての決定

などなど。

 他にも第1ラウンドは予選を勝ち抜いた(日本は免除)4チームを除けばほぼ地域別なのに政治的にアメリカ(C組)と対立しているキューバはなぜか台北開催のA組。日本と同じくアメリカと覇を競う地力のあるドミニカ、プエルトリコ、ベネズエラはD組と万に一つもアメリカが第1ラウンド敗退とならないよう「工夫」されているのです。


最近はG7やG20など国際会議を見ても、スーツの襟に自国の国旗のバッチを付けている首脳がやたら目に付くようになりました。アメリカなどは、共和党も民主党も関係なく(トランプもバイデンも同じように)、アメリカ国旗のバッチを付けています。それはパンデミック後の世界をよく表しているように思います。ユヴァル・ノア・ハラリなどが予言したように、国家が前面にせり出し、人々がナショナリズムに動員されるような時代に再び戻っているのでした。

この捏造された野球の「世界大会」で繰り広げられる(扇動される)「ニッポン凄い!」というナショナリティーに対する熱狂は、パンデミック及びウクライナ戦争後の世界を象徴する愚劣で滑稽な光景と言っていいでしょう。

きっこは、こんな「世界大会」を「クリーン」で「感動する」と言うのです。この程度のミエミエの”動員の思想”にすら簡単に取り込まれてしまう、その見識のなさには呆れるばかりです。ホントに野球が好きな人間ならこんな「世界大会」はしらけるはずです。
2023.03.12 Sun l 芸能・スポーツ l top ▲
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■三島憲一氏の批判


成田悠輔の“高齢者集団自決のすすめ”は、日本より海外のメディに大きく取り上げられ批判に晒されているようですが、彼の暴論について、朝日新聞デジタルの「WEBRONZA」で、ニーチェ研究で知られる三島憲一・大阪大学名誉教授が次のように書いていました。

尚、「WEBRONZA」は7月いっぱいで終了し、既に課金サービスも終わっているため、三島氏の論稿も無料の導入部しか読めません。以下もその部分からの引用です。

論座
成田悠輔氏の「高齢者集団自決」論は、“新貴族”による経済絶対主義

三島氏は、「民主主義社会では、規範や信頼などを無視した少数の優秀な人々が、大衆の人気を博しながら大金を儲け、権力にありついて、好き勝手なことをするようになるだろう」というニーチェが予言した「冷笑主義(シニシズム)」の観点から、成田の暴論を論じていました。

ニーチェの「冷笑主義」は、社会理論の言葉で言えば「再封建化 refeudalization」で、それは「新自由主義が生み出した現象」だと言います。

 下々への統制手段はかつては政治権力と宗教だったが、今では、新たなアルゴリズム=カルトが、いわゆるパンピーに君臨する。庶民はかつて貴族の園遊会と恋の戯れを垣根越しに眺めていたが、今では高級店に出入りするセレブの恋愛沙汰をメディアで覗かせていただく(専門用語でいう「顕示的公共圏」)。庶民はかつてラテン語が読めなかったが、今ではネット用語がわからない。新貴族は法に触れてもいわば上級国民として、法の適用も斟酌してもらえることが多い。あるいは辣腕の弁護士を駆使して軽傷で切り抜けて、高笑い。
 彼らの駆使する独特の論理は、「言い負かす」と「なるほどとわかってもらう」という古代ギリシア以来の区別を解消している。原発の必要性を論じて懐疑的な人々を言い負かしても、本当の理解は得られないことが重要なのだが。彼らは、テレビ画面でその場の思いつきで相手を言い負かせばいいのだ。


■システム理論と炎上商法


私は、子どもの頃からお勉強だけをしていて、まったく世間を知らない頭でっかちの屁理屈小僧の妄言のようにしか思っていませんでしたが、ただ、屁理屈小僧の妄言も、たしかに時代の風潮と無関係とは言えないでしょう。もちろん、自分たちも時が経てば集団自決をすすめられる高齢者になることは避けられないわけで、それを考えれば、これほどアホらしい(子どもじみた)妄言はないのです。

こういった(文字通りの)上から目線=エリート主義は、今流行はやりのシステム理論の必然のように思いますし、東浩紀などの発言にも、もともと同じような視線は存在していました。彼が三浦瑠麗と「友人」であるというのは、不思議なことでもなんでもないのです。

 既成の構造をぶち壊す議論といっても、そうした多くの「論客」たちも実は、ブランドという名の既成の権威を広告塔に使っているようだ。超一流大学卒業の「国際政治学者」、あるいはこれまでの西洋崇拝に便乗して名乗る東海岸の有名私立大学「助教授」、だいぶ前からあちこちの大学で売り出している「総合政策」「デジタル・プランニング」「ソリューション」「フェロー」などなど、よくわからないものも含めてネットの画面に割り込んでくる広告みたいなキャッチー・タイトルだ。その多くは彼らがおちょくる既成のランキングのなかで培われてきたものを、彼ら独特のやり方で、例えば大学名の入ったTシャツで目立たせる。
(同上)


もうひとつ、炎上商法という側面から見ることもできるように思います。たまたまガーシー界隈の怪しげな人物のツイッターを見ていたら、ツイッターは流れが速すぎて付いていけないと嘆いていて、思わず笑ってしまいましたが、タイムラインで話題が次々変わっていくのも、今のSNSの時代の特徴です。だからこそ、過激なことを言って人々の目を食い止める必要があるのではないか。

成田悠輔にしても、所詮はSNSの時代の申し子にすぎず、アクセス数や「いいね」の数で自分が評価されているような感覚(錯覚)から自由ではないのです。エリートと言っても、所詮はその程度なのです。

■お里の知れたエリート主義


一部の報道によれば、三浦瑠麗にはコロナ給付金の詐欺疑惑まで出ているようですが、六本木ヒルズに住むなど嫌味なほどセレブ感満載で、東大を出た「国際政治学者」とお高くとまっていても、やっていることは夜の街で遊び歩いているアンチャンたちと変わらないのです。もっとも、日本のセレブは漢字で書くと「成金セレブ」になるのです。コメンテーターも「電波芸者コメンテーター」にすぎないのです。そもそも成田悠輔の“高齢者集団自決のすすめ”にしても、5ちゃんねるあたりで言われていることの焼き直しにすぎません。

東浩紀にも、都知事選のときに猪瀬直樹を支持して、選挙カーの上で田舎の町会議員と見まごうような応援演説をしたという”黒歴史”がありますが、彼らのエリート主義はお里が知れているのです。況やひろゆきの冷笑主義においてをやで、ひろゆきなどはどう見ても2ちゃんねるそのものでしょう。

でも、問題は彼らを持ち上げたメディアです。コメンテーターとして起用したテレビや彼らにコラムを担当させた週刊誌は、それこそ大塚英志が言った「旧メディアのネット世論への迎合」と言うべきで、そうやってみずから墓穴を掘っているのです。自分たちがコケにされているという自覚さえないのかと思ってしまいます。貧すれば鈍するとはこのことでしょう。
2023.03.11 Sat l 社会・メディア l top ▲
デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場


■栗城劇場


遅ればせながらと言うべきか、河野啓著『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』(集英社文庫)を読みました。

栗城史多(くりきのぶかず)は、2018年5月21日、8度目のエベレスト登頂に失敗して下山途中に遭難死した「登山家」です。享年35歳でした。しかし、死後も彼を「登山家」と呼ぶことをためらう山岳関係者も多く、彼のエベレスト挑戦は、登攀技術においても、経験値においても、そして基礎的な体力においても「無謀」と言われていました。

最後になった8度目の挑戦も、AbemaTVで生中継されていたのですが、彼のスタイルは、 YouTubeやTwitterを駆使し、また、日本テレビやNHKやYahoo!Japanや AbemaTV などとタイアップした、「栗城劇場」とヤユされるような見世物としての登山でした。それを彼は、「夢の共有」「冒険の共有」と呼んでいました。

■登山ユーチューバーの先駆け


自撮りしながら登る彼の山行は、言うなれば、現在跋扈している登山ユーチューバーの先駆けと言っていいでしょう。

本の中に次のような箇所があります。

 栗城さんは山に登る自分の姿を、自ら撮影していた。
 山頂まで映した広いフレームの中に、リュックを背負った栗城さんの後ろ姿が入ってくる。ほどよきところで立ち止まった彼は、引き返してカメラと三脚を回収する。
 クレバス(氷河の割れ目)に架かったハシゴを渡るときは、カメラをダウンの中に包み込んでレンズを下に向けている。ハシゴの下は深さ数十メートルの雪の谷。そこに「怖ええ!」と叫ぶ栗城さんの声が被さっていく。


ときに登頂に失敗して下山する際の泣き顔まで自分で撮っていたのです。

彼は、「ボクにとって、カメラは登山用具の一つですから」と言っていたそうです。これも今の登山ユーチューバーを彷彿とさせるものがあるように思います。

■単独無酸素


栗城史多は、みずからの目標を『単独無酸素での七大陸最高峰登頂』と掲げていましたし、メディアにおいてもそれを売りにしていました。しかし、七大陸最高峰、つまりセブンサミットの中で、通常酸素ボンベを使用するのはエベレストだけで、あとは誰でも無酸素なのです。そういったハッタリもまた、今の登山ユーチューバーと似ている気がしますが、彼の場合、それが資金集めのセールスポイントになっていたのでした。

「単独」と言っても、ベースキャンプには日本から同行したスタッフや現地で徴用した10数人のシェルパやキッチンスタッフがいました。実際に登山においても、エベレストの案内人であるシェルパたちが陰に陽に彼をサポートしていたのです。それどころか、実際は酸素ボンベを使っていたというシェルパの証言もありました。

2009年9月、栗城は、初めてチョモランマ(エベレストの中国名)の北稜北壁メスナールート(標高8848メートル)に挑戦したのですが、7950メートル地点で体力の限界に達して下山を余儀なくされました。以後、8回挑戦するもののことごとく失敗するのでした。その初めての挑戦の際、当時、北海道のテレビ局のディレクターとして栗城を密着取材していた著者は、次にように書いていました。

 この十一年前の一九九八年秋、登山家、戸高雅史さんは、同じグレート・クーロワールを、標高八五〇〇メートル地点まで登っている。シェルパもキッチンスタッフも雇わない、妻と二人だけの遠征だった。戸高さんはこの絶壁をどういうふうに登ったのだろうかと夢想してみたりもした。
《せっかくプロの撮影スタッフが大がかりな機材を携えてここまで登ったのに……なんてもったいないんだ……》とも感じた。
 それにしても、頂上までの標高差は一〇〇〇メートルもあった。この差を栗城さんは克服できるのだろうか……?
 私には難しいと思えた。


戸高雅史さんは大分県出身の登山家ですが、これを読むと、栗城が言う「単独」が単なるメディア向けのセールトークにすぎなかったことがよくわかるのでした。

エベレストのような“先鋭的な登山”は別にしても、登山というのは、もともと戸高雅史さん夫妻のような孤独な営為ではないか。私などはそう考えるのです。だからこそ、戸高雅史さんのような登山は、凄いなと思うし尊敬するのです。

■登山の評価基準


登山には「でなければならない」という定義などはありません。それぞれが自分のスタイルで登るのが登山です。それが登山の良さでもあるのです。それが、登山がスポーツではあるけれど、他のスポーツとは違う文化的な要素が多分に含まれたスポーツならざるスポーツだと言われるゆえんです。

著者もこう書いていました。

 登山は本来、人に見せることを前提としていない。素人が書くのはおこがましいが、山という非日常の世界で繰り広げられる内面的で文学的な営みのようにも感じられる。


一方で、登山も他のスポーツと同じように、「定義」や「基準」が必要ではないかとも書いていまいた。

 しかし明快な定義と厳格なルールは必要だと、私は考える。登山はどのスポーツよりも死に至る確率が高い。そのルールが曖昧というのは、競技者(登山者)の命を守るという観点からも疑問がある。また登山界の外にいる人たちに情報を発信する際に、定義という「基準」がなければ、誰のどんな山行が評価に値するのか皆目わからない。
 栗城さんがメディアやスポンサー、講演会の聴衆に「単独無酸素」という言葉を流布できたのは、このような登山界の曖昧さにも一因があったように思う。 登山専門誌『山と溪谷』が、栗城さんについて『「単独・無酸素」を強調するが、実際の登山はその言葉に値しないのではないかと思う』とはっきりと批判的に書くのは、二〇一二年になってからだ。


私は、著者の主張には首を捻らざるを得ません。たとえ“先鋭的登山”であっても、登山に評価基準を持ち込むのは本来の登山の精神からは外れているように思います。はっきり言ってそんなのはどうでもいいのです。

■メディアと提携


栗城史多は、北海道の地元の高校を卒業したあと上京し、当時の「NSC(吉本総合芸能学院)東京校」に入学します。「お笑い芸人になりたかった」からです。しかし、半年で中退して北海道に戻ると、1年遅れて大学に入り、そこで(実際は他の大学の山岳部に入部して)登山に出会うのでした。

そして、NSCに入学したときから10年後の2011年、彼は、「よしもとクリエイティブ・エージェンシー(現・吉本興業株式会社)」と業務提携を結ぶことになります。著者は、「ある意味、十代のころの夢を叶えたのだ」と書いていました。

メディアと提携した「栗城劇場」の登山が始まったのは、2007年5月 のヒマラヤ山脈の チョ・オユー(8201メートル)からでした。

日本テレビの動画配信サイト「第2日本テレビ(後の日テレオンデマンド。二〇一九年サービス終了)」と提携して、連日、栗城自身が撮影した動画が同サイトに投稿されたのでした。それを企画したのは、「進め!電波少年」を手掛けた同局の土屋敏男プロデューサーでした。栗城史多には「ニートのアルピニスト」というキャッチコピーが付けられたそうです。

その壮行会の席で目にした次のような場面を、著者は紹介していました。

 二〇〇七年四月、栗城さんがチョ・オユーに出発する前日のことだ。東京都内の居酒屋でささやかな壮行会が持たれ、BCのカメラマンとして同行する森下さんも参加していた。
 土屋敏男さんともう一人、番組関係者と思われる四十歳前後の男性がそこにいた。栗城さんとはすでに何度か会っているようで親しげな様子だったという。その男性の口からこんな言葉が飛び出した。
「今回は動画の配信だけど、いつか生中継でもやってみたら? 登りながら中継したヤツなんて今までいないよね」


また、2009年からはYahoo!Japanともタッグを組み、同年7月のエベレスト初挑戦の際は、特設サイトが作られて、登山の模様が連日動画で配信され、山頂アタックの際は生中継もされて、パソコンの前の視聴者はハラハラドキドキしながら見入ったのでした。

その際、高度順応するための3週間の間に、栗城自身がカラオケとソーメン流しをして、それをギネスに申請するという企画も行われたそうです。しかし、その「世界最高地点での二つの挑戦」は、「危険を伴う行為なので認定できない」とギネスからは却下されたのだとか。

■「いい奴」と一途な性格


栗城史多は、お笑い芸人を夢見ていたほどなので人懐っこい性格だったようで、彼を知る人たちは、無茶をするけど「いい奴」だったと一様に証言しています。彼自身も、「ボク、わらしべ登山家、なんですよ」と言っていたそうで、そんな性格が人が人を呼んでスポンサーの輪が広がっていったのでした。人の懐に入る才能や営業力は卓越したものがあり、むしろ事業家の方が向いているのではないかという声も多かったそうです。

当時、私は、栗城史多にはまったく関心がなく、Yahoo!の中継も観ていませんが、ただ、彼が亡くなったというニュースだけは覚えています。北海道の時計店を経営しているという父親が、テレビのインタビューに答えて「今までよくがんばった」と言っているのが印象的でした。見ると、父親は身体に障害があるようで、それでよけいその言葉に胸にせまってくるものがありました。

でも、その一方で、父親には、「仰天するエピソードがある」のでした。「温泉を掘り当ててやる」という信念のもとに、店は従業員に任せて自宅の傍を流れる川の岸を16年間一人で掘りつづけて、1994年、ついに源泉を発見したのです。そして、2008年には温泉施設に併設したホテルが建築され、そのオーナーになったそうです。

栗城史多は「尊敬するのは父親です」といつも講演で言っていたそうですが、彼自身もその一途な性格を受け継いでいるのではないかと書いていました。

■「冒険の共有」


しかし、エベレスト挑戦も回を増すと、ネットでは登山家ではなく「下山家」だなどとヤユされるようになり、スポンサーからの資金も思うように集まらなくなって、彼も焦り始めていくのでした。

2012年の挑戦の際には、両手に重度の凍傷を負い、翌年、両手の指9本を第二関節から切断することになったのですが、しかし、その凍傷が横一列に揃えられた不自然なものであったことから、自作自演ではないかという疑惑まで招いてしまうのでした。

2016年には、下記のようにクラウドファンディングで資金を募り、2000万円を集めています。

CAMPFIRE
エベレスト生中継!「冒険の共有」から見えない山を登る全ての人達の支えに。

その中で、栗城は、「冒険の共有」として、次のように呼びかけています。

人は誰もが見えない山を登っています。山とは、自分の中にある夢や目標です。山に大きいも小さいもないように、夢にも大きいも小さいもなく、自分のアイデンティティーそのものです。

その自分の山に向かうことを誰かに伝えると、否定されたり馬鹿にされることもあるかもしれません。しかし、今まで挑戦を通して僕が見てきた世界は、成功も失敗も超えた「信じ合う・応援しあう」世界でした。

今までの海外遠征で僕が一番苦しかったのは、実は2004年に最初に登った北米最高峰マッキンリー(6194m)でした。

「この山を登りたい」と人に伝えると、「お前には無理だよ」と多くの人に否定されました。

そんな時、マッキンリーへ出発する直前に空港で父から電話があり、一言「信じているよ」という言葉をもらいました。その言葉が今も自分の支えになっています。

本当の挑戦は失敗と挫折の連続です。

このエベレスト生中継による『冒険の共有』の真の目的は、失敗も挫折も共有することで、失敗への恐れや否定という社会的マインドを無くして、何かに挑戦する人、挑戦しようとしている人への精神的な支えになることです。そんな想いから、今年も「冒険の共有」を行います。

皆さんと一緒にエベレストを登って行きます。応援よろしくお願いします。

栗城史多


しかし、その挑戦も失敗します。そして、2018年の死に至る8度目の挑戦へと進んでいくのでした。

■死に至る最後の挑戦


それは、追いつめられた末に、みずから死を選んだのだのではないかと言う人もいるくらい、切羽詰まった挑戦でした。 栗城が選択したのは、エベレストの中でも「「『超』の字がつく難関ルート」であるネパール側の南西壁のルートでした。しかも、AbemaTVとの契約があったためか、風邪気味で体調がすぐれない中での山行でした。案の定、標高7400メートル付近に設置したC3のテントで登頂を断念して、その旨BC(ベースキャンプ)に連絡を入れます。それで、ただちにC2に待機していたシェルパが救助に向かったのですが、しかし、栗城はシェルパの到着を待たずに下山をはじめるのでした。そして、途中、ヘッドランプの電池が切れるというアクシデントも重なり、滑落して遺体で発見されるのでした。

栗城の死について、ある支援者は、「淡々とした口調」で、こう言ったそうです。

「死ぬつもりで行ったんじゃないかなあ、彼。失敗して下りてきても、現実問題として行くところはなかった。もぬけの殻になるより、英雄として山に死んだ方がいい、って思ったとしても不思議はないよね。『謎』って終わり方だってあるしね。頂上からの中継はできなかったけど、エベレストに行くまでの過程で十分夢は実現した、と考えたのかもしれないし」


そして、こう「付け加えた」のだそうです。

「戦争で死ぬよりずっといいじゃないの」


著者の河野啓氏は、エベレストを舞台にした「栗城劇場」について、次のように書いていました。

 たとえば陸上競技の短距離走で「世界最速」と言えば、誰もが、ジャマイカのウサイン・ボルト選手を思い浮かべるはずだ。しかし「最初に百メートルで九秒台を記録した選手は?」と聞かれて名前が出てくる人は、よほどのマニアだろう。どのスポーツでも記録は上書きされ、「新記録」を樹立した選手に喝采が贈られる。
 だが、登山は違う。
 山の頂に「初めて」立った人物が、永遠に色褪せない最高の栄誉を手にするのだ。その後は「厳冬期に初めて」とか「難しい〇△ルートで」といった条件付きの栄光になる。
《そんなのイヤだ! 面白くない! 誰もやってないことがあるはずだ!》
 その答えとして、栗城さんは山を劇場にすることを思いついた。極地を映した目新しい映像と「七大陸最高峰の単独無酸素登頂」という言葉のマジックで、スポンサーを獲得していく。
 登山用具の進歩が一流の技術を持たない小さな登山家をエベレストの舞台に立たせ、テクノロジーの革新が遠く離れた観客と彼とをつなげた。


■見世物の登山


前の記事でも書きましたが、まるで栗城史多の死をきっかけとするかのように、2018年頃からネット上に登山ユーチューバーが登場するのでした。それはさながら、栗城史多のミニチュアのコピーのようです。

ニワカと言ったら叱られるかもしれませんが、彼らは、登攀技術や経験値や体力などそっちのけで、自撮りの登山をどんどんエスカレートしていくのでした。そこにあるのもまた、孤独な営為とは真逆な見世物の登山です。

そして、コロナ禍の苦境もあったとは言え、栗城を批判していた登山家たちまでもが人気ユーチューバーに群がり、まるでおすそ分けにあずかろうとするかのようにヨイショしているのでした。しかも、それは登山家だけではありません。登山雑誌も山小屋も山岳団体も同じです。無定見に栗城を持ち上げた日テレやNHKやYahoo!JapanやAbemaTVなどと同じように、“ミニ栗城”のようなユーチューバーを持ち上げているのでした。

その意味では、(もちろん皮肉ですが)栗城史多の登場は、今日の登山界におけるひとつのエポックメイキングだったと言っていいのかもしれません。

もっとも、その登山ユーチュバーも、僅か数年で大きな曲がり角を迎えているのでした。既にユーチューバーをやめる人間さえ出ていますが、それは栗城史多に限らず、ネットに依存した見世物の登山の宿命と言ってもいいでしょう。詳しくは、下記の関連記事をご参照ください。


関連記事:
ユーチューバー・オワコン説
2023.03.09 Thu l 本・文芸 l top ▲
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(イラストAC)


ガーシーのことが気になって仕方ない友人との会話。

■警察とのかけ引き


友人 日本に帰ると言ったり、帰るかわからないと言ったり、煮え切らないおっさんだな。50歳なんだろう。子どもと一緒じゃないか。
 警察との心理戦、かけ引きなんだろう。
友人 かけ引き?
 最新のアクセスジャーナルの動画では、FC2(このブログの管理会社)の高橋理洋元社長から依頼されたドワンゴに対する中傷で、警察が動いていると言っていたな。
友人 それで帰りづらくなっていると?
 それだけでなく、ガーシーが楽天の三木谷社長のスキャンダルを取り上げたのも、NHK党の立花党首がやらせたんだという話もしていた。ガーシーの「死なばもろとも」の暴露動画も、周辺にいいように利用され、話がどんどん広がっている感じだな。
友人 ガーシーの関係先を家宅捜索したのは「常習的脅迫」という容疑だったけど、「常習的脅迫」というのは暴力団を取り締まるための”罪名”らしいな。
 「暴力行為等処罰に関する法律」という、一般の刑法とは別の“特別刑法”の中に規定された容疑だよ。もともとは学生運動などを取り締まるために作られた法律だけど、今は主に暴力団に適用外されている。単なる脅迫ではない。そこがポイントだな。

■反社のネットワーク


友人 国会での陳謝の日(8日)が近づいてきたら、急にトルコに行くとか、やってることがわざとらしいな。
彼ら・・なりに考えた作戦なんだろう。普通に考えれば、帰国しない口実のためにトルコに行ったように思うけど、それも警察や世論に対する揺さぶりなんだと思う。
友人 なんでそこまでするのか? 往生際が悪いとしか思えん。
 伊藤喜之氏の『悪党 潜入300日 ドバイ・ガーシー一味』でもそれらしきことが書かれているみたいだけど、ドバイには日本社会に恨みを持つワルたちが集まっており、その中にガーシーが加わった。お互いの利害が一致して協力関係を築いたと言われている。
友人 なに、それ?
 結構、根は深いんだよ。反社のネットワークみたいなものにかくまわれているとも言える。その意味では「反権力」というのは、必ずしも間違ってない。もっともそれは、脱法的な組織=反社を「反権力」だと見做せばという話だけど。
友人 それだったら「反権力」ではなく、誰かさんが言う「脱権力」じゃないか?(笑)
 ガーシーが再三口にする「身の危険」というのは、表に出ていること以外に何かあるんじゃないかと思わせる。もちろん、個人的な借金問題もあるかもしれない。闇カジノにはまって作った借金なんだから、おのずとその素性はあきらかだろう。でも、それだけではない気がする。
友人 Yahoo!ニュースにあがっているような記事を見ると、単純で簡単な名誉棄損の問題のように見えるけどな。

■大手メディアの腰が引けた姿勢


 ガーシー問題でも、大手メディアのテイタラク、腰が引けた姿勢が目立つ。背景がまったく語られてない。ガーシーではなく、ガーシー、ガーシー一味・・と呼ぶべきなんだよ。だって、警察が家宅捜索した中に、ネットの収益を管理する合同会社・・・・というのがあったけど、あれなんか大きなヒントなのに、大手メディアは知ってか知らずかスルーしている。だから、ネットでいろんな憶測を呼ぶことになり、ガーシー問題が暇つぶしのオモチャになっている(オレたちもそうだけど)。
友人 メディアは警察の発表待ちなんだろうな。
 警察が発表したら、いっせいに報道しはじめるんだろう。いつものことだな。芸能界との関係も、暴露がどうだという問題だけじゃないよ。アクセスジャーナルの山岡氏は、ガーシーのことを「やから」と言っていたけど、そういった「やから」との関係が問題なんだよ。でも、テレビを牛耳る大手プロに忖度して、大手メディアはどこも見ざる言わざる聞かざるを決め込んでいる。
友人 ガーシー問題の本質は「やから」の問題ということか。
 フィリピンの「ルフィ」一味も、彼らが特殊詐欺で稼いだ金額は60億円以上と言われており、警察庁長官もそう発言している。しかし、「ルフィ―」一味に渡ったのは数億円にすぎない。あとはどこに消えたのか?という話だが、今の様子では、残りのお金が誰に渡ったのか、解明されるとはとても思えない。末端の小物ばかり捕まえて点数を稼ぐ”点数稼ぎ”や役所特有の”縦割り意識”など、いろいろ言われているけど、警察も所詮は(小)役人。児童虐待が起きるたびにやり玉にあがる児童相談所と同じで、事なかれ主義の体質を持つ公務員の組織にすぎない。ガーシーの問題も、国会議員のバッチと引き換えに、ウヤムヤに終わる可能性は高いだろうな。世論も、国会議員を辞めろという話に収斂されているし、辞めれば国民の溜飲も下がって幕引きだろう。

■「共感主義」の「暴走」


友人 でも、ガーシーと他の国会議員がどれほど違うのか?という気持もあるな。
 たしかに、ガーシーに投じる一票と、選挙カーの上で陰謀論やヘイトスピーチをふりまく候補者や、壇上で大仰に土下座して投票をお願いする候補者に投じる一票がどう違うのか。ガーシーの後釜は、ホリエモンの秘書兼運転手でNHK党副党首の肩書を持つ人物と決まっているらしいけど、ガーシーと、ひろゆきやホリエモンや成田悠輔や三浦瑠麗や橋下徹や落合陽一や古市憲寿がどう違うのか、というのはあるな。村上裕一氏が『ネトウヨ化する社会』で書いていた「共感主義」の「暴走」という観点から見れば、同工異曲としか思えない。ガーシーが消えても、また次のガーシー=ネット時代のトリックスターが出て来るだろうな。栗城史多が死んだあと、ミニチュアのコピーのような登山ユーチューバーが次々と湧いて出たのと同じだよ。しかも、栗城を批判した登山家たちが、節操もなく人気登山ユーチューバーに群がりヨイショしている。ユーチューバーの信者たちも、栗城を叩きながらミニチュアのコピーは絶賛する。ガーシーを叩いても、ひろゆきやホリエモンや成田悠輔には心酔するんだよ。
友人 ‥‥‥。


関連記事:
ガーシーは帰って来るのか?
続・ガーシー問題と議員の特権
ガーシー問題と議員の特権
2023.03.06 Mon l 社会・メディア l top ▲
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(public domain)


■バフムトの陥落


今日の夕方のテレビ東京のニュースは、いわゆる「ドンバスの戦い」の中で、最重要の攻防戦と言われるウクライナ東部の都市・バフムト(バフムート)において、バフムトを防衛するウクライナ軍をロシア軍が完全に包囲しており、バフムトの陥落が近づいていることを伝えていました。

YouTube
テレ東BIZ
ロシア軍近くバフムト包囲(2023年3月4日)

■誰が戦争を欲しているのか


こういったニュースを観ると、私たちは唐突感を抱かざるを得ません。というのも、私たちは、日頃、多大な犠牲を強いられているロシア軍には厭戦気分が蔓延し、敗北も近いと伝えられているからです。

たとえば、下記の記事などはその典型でしょう。

東洋経済ONLINE
プーチン激怒?ロシア軍と傭兵会社「内輪揉め」(2月25日)

日本のメディアが伝えていることはホントなのかという疑問を持たざるを得ないのです。そもそも核保有国のロシアに敗北なんてあるのかと思います。ロシアは国家存亡の危機にあると日本のメディアは書きますが、国家存亡の危機に陥ればロシアはためらうことなく核を使用するでしょう。そうなれば、国家存亡の危機どころか世界存亡の危機に陥るのです。核の時代というのは、そういうことなのです。勝者も敗者もないのです。

勝ったか負けたか、どっちが正しいかなんて、まったく意味がないのです。政治家は言わずもがなですが、メディアや専門家や左派リベラルの運動家や、そして国民も、そんな意味のない戦時の言葉でこの戦争を語っているだけです。

勝者も敗者もない戦争の先にあるのは破滅だけです。だからこそ、何が何でもやめさせなければならないのです。80歳のバイデンが主導する今のような武器援助を続けていけば、核を使用するまでロシアを追い込んでいくことにもなりかねないでしょう。

侵攻してほどなく、フランスのマクロン大統領の仲介で和平交渉が行われ、和平の気運も高まっていました。ところが、”ブチャの虐殺”が発覚したことで、ウクライナが態度を硬化させ、とん挫したと言われています。”ブチャの虐殺”に関してはいろんな説がありますが、何だかそこには和平したくない(させたくない)力がはたらいていたような気がしてなりません。誰が戦争を欲しているのかを考えることも必要でしょう。

中国が仲介に乗り出したことに対しても、日本のメディアでは、中国は「誠実な仲介者ではない」「習近平の平和イメージをふりまくためだ」「NATOの分断が狙いだ」などと、ゲスの勘繰りみたいな見方が大半ですが、しかし、中国以外はどこも和平に乗り出そうとしないのです。それどころか、欧米は武器の供与を際限もなくエスカレートするばかりなのです。

『Newsweek』(日本版)によれば、次期大統領選の共和党候補指名獲得レースに名乗りを上げたニッキー・ヘイリー元国連大使は、「大統領選に出馬する75歳以上の候補者に精神状態の確認検査を義務付けるべきだ」と言ったそうですが、笑えない冗談のように思いました。私たちだって、70歳になれば車の免許を更新する際に、認知機能のテストを受けなければならないのです。況や大統領においてをやでしょう。

■プロパガンダ


今日のテレ東のニュースは、次のように伝えていました。

(略)ウクライナ側は、バフムトに戦略的価値はほとんどないとしていますが、この都市をめぐる双方の莫大な損失が戦争の行方を左右する可能性があるという指摘も出ています。


でも、おととい(3月2日)のCNNのニュースは、こう伝えていました。

Yahoo!ニュース
CNN
ウクライナ軍、バフムートで「猛烈に抗戦」 ワグネルのトップが認める

(略)ウクライナのゼレンスキー大統領は、現時点でバフムート防衛が最大の課題になっていると強調。ロシア軍は同市周辺でじりじりと前進しているものの、ウクライナ軍は未だ退却しておらず、膠着(こうちゃく)状態に持ち込んでいると指摘した。


ゼレンスキーは、「バフムート防衛が最大の課題になっていると強調」していたのです。それが、戦況が不利になると、「バフムトに戦略的価値はほとんどない」と言い出しているのです。

戦争にプロパガンダが付きものであるのは、言うまでもありません。しかし、日本のメディアは、ウクライナのプロパガンダをプロパガンダとして伝えていません。あたかもニュース価値の高い真実のように伝えているのでした。そのため、私たちは、バフムト陥落のようなウクライナ不利のニュースに接すると唐突感を抱くことになるのでした。

ウクライナ戦争でもこのあり様なのですから、身近な”台湾危機”では、どれだけ日米政府のプロパガンダに踊らされているかわかったものではないでしょう。
2023.03.04 Sat l ウクライナ侵攻 l top ▲
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(2023年2月)


■ガーシーは帰って来ない


「どうでもいいことだけど、ガーシーってホントに帰って来るのかな?」と友人が言うので、私は、「帰って来ないよ」と答えました。友人は、「いくらガーシーでもそこまで国会をコケにしないだろう」と言うので、ではということで、食事代を賭けることになりました。

朝日新聞デジタルは、今朝(3月1日)の「ガーシー氏『陳謝』、8日に開催で調整」という記事の中で、次のように書いていました。

朝日新聞デジタル
ガーシー氏「陳謝」、8日に開催で調整

ガーシー氏は参院側に本会議場で陳謝する意向を文書で回答しているが、文書には帰国日などは明記されていない。このため与野党内には、ガーシー氏が実際に登院するのか、処分内容を受け入れるのかなどについては懐疑的な見方が根強い。


朝日新聞と言えば、元ドバイ支局長で昨年退社して現在もドバイに在住し、ガーシーに1年近く密着取材したと言われる伊藤喜之氏が、今月(3月17日)、講談社から『悪党 潜入300日 ドバイ・ガーシー一味』(講談社+α新書)という本を出版するそうです。ガーシー本人も、本の中に「黒幕A」として登場する秋田新太郎氏も、それぞれTwitterで本の宣伝をしていましたが、「目次」を見ると「元大阪府警の動画制作者」「朝日新聞の事なかれ主義」「王族をつなぐ元赤軍派」など、気になる見出しがいくつかありました。納税者であることを忘れてエンターテインメントとして見れば、これほど面白い悪漢ピカレスク小説はないのです。

■「だって詐欺師だよ…」


きわめつけは、昨日(2月28日)の集英社オンラインの記事でしょう。

集英社オンライン
〈帰国・陳謝〉を表明したガーシー議員、それでも側近・友人・知人が揃って「帰国しないだろう」と答える理由とは…「逮捕が待っている」「議員より配信のほうが儲かる」「だって詐欺師だよ…」

タイトルに全て集約されていますが、記事は次のように書いています。

ガーシー氏が帰国するXデーに注目が集まっている。だが、ガーシー氏と親しい複数の“仲間たち”は「それでも彼は帰国しないと思う」と口を揃えている。


また、次のような知人の言葉も紹介していました。

「(略)そもそも冷静に考えてください、彼は詐欺師として告発されて有名になった男ですよ。僕も昔、彼に金を貸したけど全然返金してくれなかった。今回、書面で『帰ります』と言ったからって、信用できますか?」


「議員のセンセイからしたら屈辱的にみえるかもしれませんが、彼からしたらなんてことないでしょう。これまでも借金の返金を延ばすためなら土下座だってしてきたし、ヤバイ人に脅されたりして死線をくぐり抜けてきた。そんな彼が一番恐れているのは逮捕、拘束されること。(略)」


国会で謝罪してもすぐにドバイに戻るという見方もありますが、それでは帰国したことになるので私の負けです。

でも、この記事も突っ込み不足で、「配信のほうが儲かる」という話も、どうしても配信を続けなければならない”裏事情”をそう言っているような気がしてなりません。それは、フィリピンの収容所に入ってもなお、闇バイトで集めた人間たちにスマホで指示して強盗までさせていた「ルフィ」たちと同じように思えてならないのです。

アクセスジャーナルは、ガーシーと「ポンジ・スキーム(投資詐欺の一種)である可能性が決めて高い」会社との関係を「追加情報」として伝えていました。

アクセスジャーナル
<芸能ミニ情報>第112回「ガーシー議員とエクシア合同会社」

案の定、昨日、日本テレビの取材に応じたガーシーは、帰国の意思はあるが「まだ悩んでいる」などと、発言を二転三転させているのでした。

YouTube
日テレNEWS
【ガーシー議員】“陳謝”の帰国は? 帰国の意思はあるが…

「懲役刑とかになったときに、僕からしたら意味不明になってくるんですよ。それを受けるためにわざわざ日本に帰るという選択肢を持っている人は、たぶんいないと思うんですよ」
(略)
「事情聴取されるのは全然いいんですよ。ただ、その先にパスポートを止められたり、『国会終わった後に逮捕しますよ』とかいうことをされてしまうと、俺は何のために日本に帰ったんやってなってくるんで」


ひろゆきも脱帽するような「意味不明」な屁理屈で、アッパレとしか言いようがありません。前は「身の危険があるから」帰らないと言っていましたが、途中から「逮捕されるから」に変わったのです。ただ、ガーシーが怖れているのは、やはり、「逮捕」より「身の危険」のような気がします。

■前代未聞の光景


現職の国会議員が「身の危険があるから」「逮捕されるから」帰国しないと言っているのです。それも、軍事クーデターが起きて、政敵から迫害される怖れがあるとかいう話ではないのです。

村のオキテを破ったので村八分にされるみたいな感じもなきしにしもあらずですが、だからと言って村八分にされる人間に理があるわけではないのです。参議院の採決にれいわ新選組が棄権したのも、大政党が国会を牛耳る”村八分の論理”を受け入れることができなかったからでしょうが、しかし、それは片面しか見てない”敵の敵は味方論”にすぎないように思います。

いづれにしても、「だって詐欺師だよ…」と言われるような国会議員の動向を日本中が固唾を飲んで見守っているのです。まさに”ニッポン低国”(©竹中労)と呼ぶにふさわしい前代未聞の光景と言えるでしょう。


追記:
私が見過ごしていたのか、その後アクセスジャーナルのサイトを見たら、YouTubeチャンネルでガーシー周辺の人脈について結構詳しく語っていたことがわかりました。「帰らないというより帰れないというのが真相だろう」という山岡氏の言葉が、この問題の本質を衝いているように思いました。

YouTube
アクセスジャーナルch
「不当拘束される」を理由に国会登院せず懲罰処分ガーシー議員。不当拘束は表向きでもっと危険な事が……帰国して陳謝できるのか?ついにガーシー踏み込み其の1
2023.03.01 Wed l 社会・メディア l top ▲