
(イラストAC)
■斎場利用料金の値上げ
ある葬儀場のサイトを見ていたら、利用料金改定のお知らせが出ていました。そこは民間の斎場ではなく、公的機関からの仕事を受託する非営利団体の斎場です。
今まで9万円弱と7万円弱だった式場がいづれも22000円値上げするのだそうです。値上げ率は25〜30%です。これらの金額は、2時間程度の通夜や告別式で利用する際の料金(部屋代)です。「国際的なエネルギー価格高騰により」とお決まりの理由が書かれていましたが、式場にかかる経費は電気代と清掃代くらいのものでしょう。いくら何でもこんなにコストが上がっているはずはありません。
もう何でもありなのです。
■「便乗値上げ」のオンパレード
こういった話は枚挙に暇がありません。以前は「便乗値上げ」という言葉がありましたが、死語になったのか、最近はほとんど聞かれなくなりました。
何だかウクライナ戦争を奇貨に、我も我もと値上げに走っている感じです。本来はこういうのを“強欲資本主義”と呼ぶべきではないでしょうか。
この物価高は、言うなれば身から出た錆のようなものです。ウクライナ戦争に深く関与し戦争を泥沼化させた挙句、資源大国のロシアを敵にまわしてエネルギー価格の高騰を招いてしまったからです。
挙句の果てには、「エネルギー価格の高騰」を錦の御旗にした「便乗値上げ」のスパイラルのようなものが生まれてしまったのです。
何だかみんなが値上げするので、値上げしなければ利益が減る、値上げしなければ損だとでも言いたげで、需要と供給という経済の原則とはまったく無縁なところで、国民経済が揺れ動いているのでした。
まさに値上げが値上げを呼んで、際限のない物価高になっているのです。その一方で、コスト上昇を価格に転嫁できない川下の(末端の)業者は、たとえばホーユーのように息絶えて倒産していくしかないのです。
さらには、役所まで物価高に便乗している感じで、公共料金の値上げや増税も目白押しです。
このまま行けば国民経済は破綻しかねないでしょう。にもかかわらず、あの信じられないくらい他人事で能天気な総理大臣を見るにつけ、唖然とせざるを得ません。誰でもいいからあいつを止めてくれと言いたくなります。
■松尾潔氏の発言
汚染水の海洋放出でも、マイナンバーカードでも、インボイス制度でも、景気対策でも、閣僚人事でも、二言目には「丁寧に説明して」と言いながら、丁寧に説明する気などさらさらないのです。それでも、野党はあってないようなものだし、「言論の自由」ランキング68位の国で、メディアによる「権力監視」も有名無実化しているので、反対意見は徹底的に封じ込められ、まるで独裁国家のようにやりたい放題のことがまかり通っているのでした。
『サンデー毎日』の今週号(10/8号)で、「ジャニーズ性加害と日本社会の民度」というテーマで、近田春夫・田中康夫両氏と鼎談をしていた松尾潔氏は、ジャニー喜多川氏の性加害をみんな見てふりしてきたことについて、「実情は、強者になびくというより、少数派になることへの恐怖が肥大化しているんだと思うんですよ」と言っていましたが、言い得て妙だと思いました。
松尾氏は、承知のように、性加害問題に関連してラジオ番組でジャニーズ事務所を批判したことで、ジャニーズ事務所と親しい関係にある山下達郎・竹内まりや夫妻の意向により、彼らが経営するスマイル・カンパニーから追われることになるのですが、山下達郎・竹内まりや夫妻のゲスぶりは論外としても、松尾氏の発言を日本特有の同調圧力を支える集団心理と読み替えることもできるように思います。
そして、それは今の「便乗値上げ」にも、同じ心理がはたらいているような気がしてなりません。
■オキュパイ運動
昨日、アメリカのフィラデルフィアで、若者たちがコンビニやアップルストアやドラックストアなどを次々と襲撃して、商品を略奪する事件が起きたというニュースがありましたが、その手の事件は今や全米各地に広がっているのだそうです。私は、そのニュースを見て、かつてのオキュパイ運動を思い出しました。
そこに垣間見えるのは、経済格差により社会の底辺に追いやられた、持たざる者たちの直接行動の思想です。そして、それは、かつて「We are the 99%」「ウォール街を占拠せよ」というスローガンを掲げて行われたオキュパイ運動と通底するものがあるように思えてなりません。
この真綿で首を絞められるような何でもありの物価高の中で、自己責任なんてくそくらえ、奪われたものを奪い返せ、そんな考えが益々リアルになっているような気がします。
■アマゾン配達員たちの直接行動
それは過激な例だけではなく、例えば、アマゾンで配達を担う若者たちが労働組合を結成し、プライムデーに合わせてストライキを決行するなど、その活動は世界的に広がっていますが、そこにも直接行動の思想を見ることができるように思います。
日本でもそれに呼応して、労働組合結成の動きが始まっているそうです。日本の配達員は、二次下請けの運送会社から個人事業主として配達を委託されるケースが多く、そんな何の保証もない昔の”一人親方"のようなシステムにNO!を突きつけるべく、配達をボイコットするなどの活動が既に始まっているそうです。これなども蟻の一穴になり得るような直接行動の思想と言えるでしょう。
派遣やパート労働者や、あるいは低賃金で劣悪な労働環境の下にある介護労働者の中から、本工主義の"連合型”労働組合ではない(自分たちを差別し排除してきた労働組合ではない)、新しい労働組合が生まれるなら、そこには必ず直接行動の思想も生まれるはずです。要求が切実であればあるだけ、直接行動に訴えるしかないのです。
■汚染水の海洋放出は「安物買いの銭失い」
汚染水の海洋放出にしても、自分の尻に火が点いているのに、偏狭なナショナリズムで隣国を見下しても、それは空しい(文字通り「バカの壁」と呼ぶしかないような)現実逃避にすぎないのです。中国なにするものぞと痩せ我慢していた政府も、ここに来て、ホタテを一人5枚食べようなんて国民に呼びかけていますが、そんなネトウヨまがいの政府にいいように踊らされているだけなのです。
田中康夫氏は、自身のブログで、汚染水の海洋放出を「安物買いの銭失い」だと書いてしました。
田中康夫の新ニッポン論
「福島第一原発を巡る『安物買いの銭失い』」まとめサイト
(略)中国、ロシア両政府は去る7月、共同提出した20項目の質問リストで「周辺諸国への影響が少ない」大気への水蒸気放出を提案するも日本政府は、海洋放出の必要経費34億円よりも10倍コスト高の水蒸気放出は経済的合理性に欠けると鰾膠(にべ)も無いゼロ回答。が、好事魔多し。「風評被害」を喧伝(けんでん)する経済産業省は漁業者への需要対策基金300億円、事業継続基金500億円を想定。東京電力も沖合放出の本体工事等に400億円を積算。1200億円もの「安物買いの銭失い」状態です。
でも、こんな”正論”も今の日本では謀略論、中国共産党の手先と言われるだけです。それどころか、「汚染水」という言葉を使っただけで袋叩きにされるあり様なのです。
■21世紀は民衆蜂起の時代
このとどまるところを知らない物価高は、資本主義の自壊とも言うべき”資本の暴走”です。革命の歴史がないと言われる日本でも、百姓一揆や米騒動や、あるいは秩父困民党の武装蜂起など直接行動の歴史は存在しているのです。
21世紀は民衆蜂起の時代だと言ったのは笠井潔氏ですが、たとえITの時代になっても、私たちの間に原初的な疎外や”胃袋”の問題が存在しつづける限り、それらの歴史と切断されているわけではないのです。
むしろ、格差や貧困は深刻化する一方で、もはや他人事ではなくなっています。所詮は他人事として、ネットで身も蓋もないことをほざいて現実から目をそらす余裕などもうないはずです。