最近、駅前で通行人にチラシを配っている若者をよく見かけますが、私がよく行く私鉄の駅では、いつも同じ女の子がチラシを配っています。彼女がチラシ配りに駅前に立つようになってもう半年以上になるでしょうか。見ると、如何にも流行の先端を行く今どきのおしゃれな女の子という感じです。

なんのチラシを配っているのかと言えば、ヘアサロン(美容院)のチラシです。それは、今やどこの駅前でも見られる光景です。彼女たちは、「アシスタント」と呼ばれる学校を出たばかりの美容師の見習いなのです。

ヘアサロン、アパレル、エステなど、若い女の子があこがれる職業を「キラキラ系」と呼ぶそうですが、『週刊金曜日』(8/22号)の特集「夢とやりがいに潜むワナ キラキラ系業界の裏側」をとり上げたリテラの記事は、その実態をつぎのように書いていました

(略)「今や信号機よりも多い 競争激烈のヘアサロン」によれば全国の美容室の店舗数は23万店(13年)。全国の信号機数約20万機(12年)よりも多く、激烈な競争のしわ寄せは若いアシスタントにいく。
「たとえば埼玉県内の美容室では次のような給与体系になっている。基本給13万円の『見習い』は、『社会人としての常識がある』ことが条件だ。『アシスタント』は『シャンプーができる』ことで14万円に昇給」する仕組みだ。
美容室「Ash」を経営しているジャスダック上場「アルテ サロン ホールディングス」では、アシスタントを朝10時から夜中の11時過ぎまで外でチラシ配りをさせていて問題になったこともある。

リテラ
月収11万、自腹購入、枕営業…オシャレ業界のブラックすぎる実態


有名ヘアサロンでは、タレントやモデルの仕事を取るために”枕営業”をさせられるアシスタントもいるのだとか。売上げのノルマをこなすために自腹買いを余儀なくされるアパレルのショップ店員も同じですが、一方で彼女たちは、仕事に「やりがい」をもって夢を追いかけている(と思い込んでいる)ので、自分が働いている職場が「ブラック」だという認識はないのです。これを「ブラック企業にありがちな『やりがい搾取』」と言うのだそうです。

「やりがい搾取」とは、いろいろな仕掛けでやりがいを錯覚させることで従業員を低賃金で働かせ、搾取するというもの。代わりがいくらでもいる若手は身体や精神がこわれるまで搾取する。ヘアサロン、ファッションなどのオシャレ業界だけではなく、テーマパーク・東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドなどでも見られるものだ。



この国の格差はもはや先進国で最悪と言われていますが、こんな話を聞くと、「やりがい」だとか「生きがい」だとかいった日本人特有のストイックな仕事観が、逆に格差をもたらす要因になっているような気さえしてきます。アベノミクスの「成長戦略」のひとつである「女性が輝く社会(づくり)」も、「やりがい搾取」の政治版と言えないこともないのです。

近所の駅前商店街でも、個人商店がどんどん姿を消してチューン店ばかりになっていますが、その背後にあるのは、このような人をモノのように使い捨てる殺伐とした現実です。それは、人をコストとしてしか見ない冷徹な資本の論理であり、資本の論理のもとで人間が疎外される資本主義の現実なのです。これは、私たちにとっても決して他人事ではないはずです。「お客様」の立場でふんぞり返るのではなく、そこからちょっと視点をずらせば、女性に「夢」を売り女性を「幸せ」な気分にする仕事が実は女性を酷使し女性を搾取しているという現実とその仕組みが見えてくるはずです。
2014.11.24 Mon l 社会・メディア l top ▲