鳩山由紀夫元総理が、政府の中止要請を無視して、ロシアに編入されたクリミアを訪問したことに対して、マスコミの”鳩山バッシング”がはじまっています。高村正彦自民党副総裁が11日の記者会見で、「国益に反することで遺憾だ」と鳩山氏を批判すると、それを受けていっせいにバッシングがはじまったのでした。今日は菅官房長官が、「首相まで経験した人の行動、発言とは思えない。極めて軽率だ」とコメントして、さらにバッシングを煽っているのでした。
たまたま今日の夕方、TBSテレビの「Nスタ・ニュースワイド」を見ていたら、キャスターの堀尾正明氏が、このニュースに関連して、鳩山氏が「親露的」であるのは、「日ソ共同宣言」によって日ソの国交回復をおこなった祖父(鳩山一郎元総理大臣)のDNAを引き継いでいるからだというような発言をしていました。さらに父親の鳩山威一郎氏が外務大臣になったのも、ソ連からの推薦があったからだと言ってました。
堀尾氏の発言は、鳩山由紀夫氏に「国賊」だと悪罵を浴びせるネトウヨと同レベルの”ためにする”話にすぎません。また、コメンテーターの元村有希子氏(毎日新聞記者)も、薄笑いを浮かべながら「鳩山さんは総理大臣のときにはなにも実現できなかったくせに」「まったく困ったものですね」と、近所のおばさんレベルのコメントをしていました。元村氏も、なにも考えてなくて、ただその場の空気に同調しているだけなのでしょう。私は、こういう人をジャーナリストと言うのだろうかと思いました。
鳩山氏がクリミア編入を決定した住民投票を「民主的」で「合法的」で、領土問題の解決法として「納得できた」と評価したのは、別に非常識なものではなく、むしろひとつの”見識”と言ってもいいくらいです。住民投票がロシアの介入による政治的な陰謀で、国際法違反であるというのは、あくまでアメリカなど「西側」の主張にすぎないのです。
ヨーロッパの議会で伸長しているネオナチ政党の多くがロシアのプーチン政権に「好意的」で、プーチン政権と「親和性」が高いのは事実のようですが、一方で現在のウクライナ政府も、多くの人が指摘するように、ネオナチが主導する極右の政権です。今の政権は、民主的に選ばれたヤヌコヴィッチ政権から半ば「クーデター」によって政権を奪取したのですが、その背後にアメリカがいたことは周知の事実です。要は、どっちもどっちなのです。
「イスラム国」が生まれたのは、イラク戦争とシリア内戦によるものですが、イラク戦争の口実であったフセイン政権による「大量破壊兵器の保有」は、アメリカのでっち上げであったことがあとで判明しました。あのときも日本政府は、アメリカに追随し、「国際社会」に同調して、イラク戦争を正当化しました。今回もまったく同じ構図です。
折しも今日、アメリカがウクライナ政府に非武装の小型無人機や高機動多目的装輪車「ハンビー」230台を供与する方針を決定したというニュースがありました。このままエスカレートすれば、ウクライナを舞台にした米露戦争が勃発する危険すらあるのです。
今までの「親露的」な政権に代わってウクライナ民族主義を掲げる「反露的」な極右政権が生まれたので、危機感を抱いたロシア系の住民たちが生き延びるためにロシア編入を選択したのは、大国の思惑以前の問題として、当然あり得る話でしょう。そう考えれば、鳩山氏が言うことも理解できないわけではないのです。(鳩山氏に同行した)一水会の木村三浩氏がどうだとか高野孟氏がどうだとか言うのは、それこそ木を見て森を見ない本末転倒した話です。それに、安倍政権だってつい昨日までは、似た者同士のプーチンに秋波を送っていたのです。
しかし、鳩山氏の行動や言動は、「国益」に反するとして総否定され、バッシングを浴び、「国賊」扱いされるのです。しかも、その「国益」なるものは、実際はアメリカの意向に沿うということであって、「ご主人様(アメリカ)の意に逆らったから国賊だ」と言っているにすぎないのです。アメリカの属国であること(そう望むこと)が「愛国」になるという、『永続敗戦論』が指摘した戦後のゆがんだ構造、(私流の言い方すれば)「愛国」と「売国」が逆さまになった”戦後の背理”がここにも露呈している気がします。ルービー(頭がおかしい)なのはどっちなんだと言いたくなります。
それにしても、メディアはいつから「国益」の代弁者になったのでしょうか。それなら中国の人民日報や北朝鮮の朝鮮中央通信と同じです。メディアが記事の枕に「国益」ということばを使うようになったら、もはやメディアの死を意味していると言っていいでしょう。
もちろんそれは、大手のメディアに限った話ではありません。常岡浩介氏らフリーのジャーナリストも然りです。常岡氏は、鳩山氏のクリミア訪問に対して、「国益」に反するので旅券を取り上げるべきだとTwitterで主張していました。まさか常岡氏の口から「国益」ということばが出てくるとは思いませんでしたが、常岡氏が言うには、ジャーナリストと鳩山氏のような「公人」は別で、「公人」は「国益」を考えるべきだと言うのです。


でも、常岡氏自身がその「国益」のために、警視庁公安部によってガサ入れされ、監視対象にされているのではないか。シリアへの渡航を計画していたフリーカメラマンの杉本祐一氏が、外務省から旅券を返納させられたのも「国益」が理由でした。「国益」に「私人」も「公人」もないのです。「国益」とは、常岡氏が考えるような都合のいいものではないのです。ここに至ってもなお、「国益」の先に「自己責任論」があることを”理会”してないとしたら、あまりにもおそまつと言わねばならないでしょう。
私は、高村正彦自民党副総裁が、後藤健二さんの行動を「蛮勇」と言ったのは、高村氏の意図は別にして、ジャーナリストに対しては褒めことばだと思っています。ジャーナリストたるもの「蛮勇」であれと言いたい。「国益」なんて知ったこっちゃないと言うのが、ときに「国益」の犠牲になることもある名もなき人々の声を伝えるジャーナリストの心意気というものでしょう。常岡氏の発言は、ジャーナリストまがいの堀尾正明氏や元村有希子氏と同じように、「国益」優先の翼賛的な空気に与するものでしかありません。
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『永続敗戦論』
たまたま今日の夕方、TBSテレビの「Nスタ・ニュースワイド」を見ていたら、キャスターの堀尾正明氏が、このニュースに関連して、鳩山氏が「親露的」であるのは、「日ソ共同宣言」によって日ソの国交回復をおこなった祖父(鳩山一郎元総理大臣)のDNAを引き継いでいるからだというような発言をしていました。さらに父親の鳩山威一郎氏が外務大臣になったのも、ソ連からの推薦があったからだと言ってました。
堀尾氏の発言は、鳩山由紀夫氏に「国賊」だと悪罵を浴びせるネトウヨと同レベルの”ためにする”話にすぎません。また、コメンテーターの元村有希子氏(毎日新聞記者)も、薄笑いを浮かべながら「鳩山さんは総理大臣のときにはなにも実現できなかったくせに」「まったく困ったものですね」と、近所のおばさんレベルのコメントをしていました。元村氏も、なにも考えてなくて、ただその場の空気に同調しているだけなのでしょう。私は、こういう人をジャーナリストと言うのだろうかと思いました。
鳩山氏がクリミア編入を決定した住民投票を「民主的」で「合法的」で、領土問題の解決法として「納得できた」と評価したのは、別に非常識なものではなく、むしろひとつの”見識”と言ってもいいくらいです。住民投票がロシアの介入による政治的な陰謀で、国際法違反であるというのは、あくまでアメリカなど「西側」の主張にすぎないのです。
ヨーロッパの議会で伸長しているネオナチ政党の多くがロシアのプーチン政権に「好意的」で、プーチン政権と「親和性」が高いのは事実のようですが、一方で現在のウクライナ政府も、多くの人が指摘するように、ネオナチが主導する極右の政権です。今の政権は、民主的に選ばれたヤヌコヴィッチ政権から半ば「クーデター」によって政権を奪取したのですが、その背後にアメリカがいたことは周知の事実です。要は、どっちもどっちなのです。
「イスラム国」が生まれたのは、イラク戦争とシリア内戦によるものですが、イラク戦争の口実であったフセイン政権による「大量破壊兵器の保有」は、アメリカのでっち上げであったことがあとで判明しました。あのときも日本政府は、アメリカに追随し、「国際社会」に同調して、イラク戦争を正当化しました。今回もまったく同じ構図です。
ウクライナは、西部のウクライナ系と東部のロシア系という2つの民族が共存してきたが、米政府は数年前からロシア敵視策としてウクライナ系の反露的なナショナリズム運動を扇動し、昨春にはウクライナの極右勢力が親露的なヤヌコビッチ政権を倒して現政権を作ることを支援した。東部のロシア系(親露派)が分離独立を目指して決起すると、米政府は露軍が親露派を支援していると非難し、EUを巻き込んでロシアを経済制裁した。米欧マスコミはロシアを非難する記事を流し続けているが、実のところウクライナ危機を起こしたのは米国であり、ロシアはむしろ被害者だ。
田中宇の国際ニュース解説
ウクライナ米露戦争の瀬戸際
折しも今日、アメリカがウクライナ政府に非武装の小型無人機や高機動多目的装輪車「ハンビー」230台を供与する方針を決定したというニュースがありました。このままエスカレートすれば、ウクライナを舞台にした米露戦争が勃発する危険すらあるのです。
今までの「親露的」な政権に代わってウクライナ民族主義を掲げる「反露的」な極右政権が生まれたので、危機感を抱いたロシア系の住民たちが生き延びるためにロシア編入を選択したのは、大国の思惑以前の問題として、当然あり得る話でしょう。そう考えれば、鳩山氏が言うことも理解できないわけではないのです。(鳩山氏に同行した)一水会の木村三浩氏がどうだとか高野孟氏がどうだとか言うのは、それこそ木を見て森を見ない本末転倒した話です。それに、安倍政権だってつい昨日までは、似た者同士のプーチンに秋波を送っていたのです。
しかし、鳩山氏の行動や言動は、「国益」に反するとして総否定され、バッシングを浴び、「国賊」扱いされるのです。しかも、その「国益」なるものは、実際はアメリカの意向に沿うということであって、「ご主人様(アメリカ)の意に逆らったから国賊だ」と言っているにすぎないのです。アメリカの属国であること(そう望むこと)が「愛国」になるという、『永続敗戦論』が指摘した戦後のゆがんだ構造、(私流の言い方すれば)「愛国」と「売国」が逆さまになった”戦後の背理”がここにも露呈している気がします。ルービー(頭がおかしい)なのはどっちなんだと言いたくなります。
それにしても、メディアはいつから「国益」の代弁者になったのでしょうか。それなら中国の人民日報や北朝鮮の朝鮮中央通信と同じです。メディアが記事の枕に「国益」ということばを使うようになったら、もはやメディアの死を意味していると言っていいでしょう。
もちろんそれは、大手のメディアに限った話ではありません。常岡浩介氏らフリーのジャーナリストも然りです。常岡氏は、鳩山氏のクリミア訪問に対して、「国益」に反するので旅券を取り上げるべきだとTwitterで主張していました。まさか常岡氏の口から「国益」ということばが出てくるとは思いませんでしたが、常岡氏が言うには、ジャーナリストと鳩山氏のような「公人」は別で、「公人」は「国益」を考えるべきだと言うのです。


でも、常岡氏自身がその「国益」のために、警視庁公安部によってガサ入れされ、監視対象にされているのではないか。シリアへの渡航を計画していたフリーカメラマンの杉本祐一氏が、外務省から旅券を返納させられたのも「国益」が理由でした。「国益」に「私人」も「公人」もないのです。「国益」とは、常岡氏が考えるような都合のいいものではないのです。ここに至ってもなお、「国益」の先に「自己責任論」があることを”理会”してないとしたら、あまりにもおそまつと言わねばならないでしょう。
私は、高村正彦自民党副総裁が、後藤健二さんの行動を「蛮勇」と言ったのは、高村氏の意図は別にして、ジャーナリストに対しては褒めことばだと思っています。ジャーナリストたるもの「蛮勇」であれと言いたい。「国益」なんて知ったこっちゃないと言うのが、ときに「国益」の犠牲になることもある名もなき人々の声を伝えるジャーナリストの心意気というものでしょう。常岡氏の発言は、ジャーナリストまがいの堀尾正明氏や元村有希子氏と同じように、「国益」優先の翼賛的な空気に与するものでしかありません。
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『永続敗戦論』