今日、近所の駅前通りにコンビニが新規開店したのですが、たまたま前を通りかかったら、午前中の時間帯で、しかも醤油の無料券を配っていたということもあってか、店内のお客が見事なほどお年寄りばかりだったのでびっくりしました。駅前通りは、今までもいくつもコンビニができては消えています。駅前通り商店街と言えども、コンビニでさえ(と言うべきか)生き残れないきびしい環境にあるのですが、新規開店になにか特別な秘策でもあるのだろうかと思いました。そして、コンビニがお年寄りに「占領」された光景は、ややオーバーな言い方をすれば、黄昏ゆくこの国を象徴しているように思えてなりませんでした。

以前通っていた広尾のコンビニも同じでした。広尾界隈には、ナショナルマーケット以外、これといったスーパーがないので、周辺の高齢者たちは、日常の買い物をコンビニで済ませていました。そのため、広尾駅周辺のコンビニは、高齢者向けに野菜や肉なども売っていました。今でこそ、コンビニ各社は、ターゲットを若者からシニアにシフトして、シニア向けの品揃えやサービスなどに力を入れはじめていますが、その流れはずっと以前よりあったのです。

どう考えても飽和状態にあるコンビニ業界ですが、よく言われるように、今後、シニア向けの店づくりで生き残りをはかるしかないのはあきらかでしょう。しかし、同時にそれは、見方を変えれば、遺産を食いつぶしていくだけの未来のないマーケットでもあると言えます。

デパートやファッションビルなどに行くと、最近はやたら「tax‐free」の看板が目立ちますが、なかでも多いのが、「无税」や「免税」などという中国人観光客向けの表示です。総理大臣みずからが”嫌中憎韓”を煽りながら、その一方で、中国人観光客の爆買いに頼るデパートや有名ショップ。そのくせ、中国人に頭を下げなければならない自分たちを慰めるためか、テレビのニュースでは、まるで負け惜しみのように、爆買いの中国人たちをヤユする(バカにする)のです。でも、やがてキャッチアップした中国人たちが、日本の商品に見向きもしなくなるのは目に見えています。それも、過去の遺産を食いつぶしているだけの未来のないマーケティングにすぎません。

中国が創設したアジアインフラ投資銀行(AIIB)に対して、フランスもイギリスもドイツも韓国も、アメリカの意向を無視して参加したなかで、日本はアメリカの言いなりになって参加を見送ったのでした。しかも、国内では「透明性がない」「公平性が担保されてない」などと不参加の言い訳ばかりが強弁され、「アジアの時代」に乗り遅れることを懸念する声は、「反日」「売国」などというお決まりのレッテルを貼られて片隅に追いやられています。そうやって自演乙することで、「アジアの盟主」を中国にとって代わられた現実から目を背けているのです(田中宇の国際ニュース「日本から中国に交代するアジアの盟主」)。これでは、ますます多極化する世界で、政治的にも経済的にも遅れをとるのは当然でしょう。これもまた、過去の遺産にすがるだけで未来を見ることができない、黄昏ゆくこの国を象徴する光景と言えるのではないでしょうか。

都内の、特に山手線の内側では、オリンピック開催を睨んで、至るところで市街地再開発がおこなわれ、つぎつぎとあたらしい商業施設ができていますが、しかし、それらに新鮮味はありません。マンネリ化したコンセプトのもと、どこにでもあるおなじみのショップがただ軒を並べているだけです。数年も経てば歯抜けになって、コンセプトもへったくれもないほど張りぼての状態になるのは目に見えています。それもまた、未来のないマーケティングの所産と言うべきでしょう。今や「トレンド」ということばも死語になったかのようで、『33年後のなんとなく、クリスタル』が最新の風俗とは無縁のところで描かれていたのは、今になればわからないでもないのです。

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2015.04.23 Thu l 社会・メディア l top ▲