ある日、渋谷の取引先の店に行ったときのことでした。

お母さんと小学校低学年くらいの女の子がやって来て、店頭に設置してある回転什器のシールを眺めていました。

しかし、女の子は目が不自由のようでした。彼女はシールをひとつひとつ手に取って、「これは?」と横にいるお母さんに尋ねるのです。

すると、お母さんは、「お馬さんの親子が鼻を突き合わせて草を食べているよ」などと詳細に説明するのです。特に配色について細かく説明していたのが印象的でした。

お母さんの説明に耳を傾けながら、女の子の心の中では色鮮やかなシールの絵柄が描かれていたのでしょう。

「どんな仕事をしているのですか?」と訊かれて、「シールを扱っています」と答えると、「夢のある仕事でいいですね」とよく言われるのですが、当人にはあまりその実感はありませんでした。だから、「夢があるなんて言っても商売は商売ですからね」なんて答え方をするのが常でした。

でも、そのとき、店内から二人の様子を眺めながら、「いくらか夢のある仕事をしているのかな~」なんて、少し自分の仕事に自信を持つことができた気がしました。
2006.05.25 Thu l 日常・その他 l top ▲