
月刊誌『Journalism』(朝日新聞出版)の5月号に、Yahoo!ニュース編集部員の井上芙優氏が、「『取材をしない』ニュース編集部 いかに報道マインドを根付かせるか」という記事を書いていました。
Yahoo!ニュースの編集部が新卒社員を受け入れるようになって、今年で5年目を迎えるのだそうですが、現在、編集部には、東京・大阪・北九州・八戸のオフィスに26名の部員が所属していて、新卒入社組は8名で、残りは報道機関からの転職組だそうです。
ただ、新卒入社組は、Yahoo!ニュースの編集部を希望して入社したわけではなく、「何れもビジネスコースの採用枠で入社し、入社後に編集職に配属」された人たちなのだそうです。つまり、彼らは、最初から「報道」に対する問題意識をもって入社したのではないのです。
Yahoo!ニュース編集部の場合、「取材をしない」だけでなく、みずから記事を書くこともありません。取材をすることと記事を書くことは、ジャーナリストの基本中の基本です。その”修練”は、単なるテクニックの問題にとどまらず、ジャーナリストとしての視点や問題意識を養う上で、大きな意味をもつはずです。
記事によれば、Yahoo!ニュースでは、編集者として身につけなければいけないことが大きく分けて二つあるのだとか。ひとつは、「ニュースの“価値判断能力”」、もうひとつは、「Yahoo!ニュース編集者としての“マインド”」です。
”価値判断能力”については、契約先から配信される1日あたり約4000本の記事のなかから、トップページ(Yahoo!ニューストピックス)に掲載される8本(1日で約100本)の記事をピックアップする訓練が、「野球の1000本ノックのように」くり返しおこなわれるのだそうです。
そして、その”価値判断能力”に欠かせないのが、もうひとつの「Yahoo!ニュース編集者としての“マインド”」です。
記事によれば、編集部には、”マインド”について、3つの「定義」があるそうです。
①ニュースを“出して終わり”でなく、「ユーザーに届いているか」という視点
②ネットでニュースを届ける世界を切り開く者としての気概
③伝統的な報道機関が必要としてきたニュースの使命感・責任感・恐ろしさへの理解、公権力監視・弱者への配慮
私は、Yahoo!ニュースにもっとも足りないものがこの”マインド”なのだと思います。特に、③の「公権力の監視・弱者への配慮」です。
ヤフトピ(Yahoo!ニューストピックス)を見ていると、政治ネタにおいても芸能ネタにおいても、ユーザーの負の感情を煽るような記事が目に付きます。ときに戦争や差別を煽っているのかと思うことすらあります。それは、Yahoo!ニュースの”マインド”の低さを表しているように思えてなりません。生活保護バッシングの際も、バッシングを煽るような記事はこれでもかと言わんばかりに掲載するけど、生活保護受給者のきびしい生活の実態を伝えるような記事が載ることは皆無でした。そんな姿勢は、今の安保関連法案に対しても同じです。
Yahoo!ニュースに決定的に欠けているのは、野党精神(=「公権力の監視」)であり、弱者に向けるまなざし(=「弱者への配慮」)です。でも一方で、それはないものねだりなのかもしれないと思うこともあります。なぜなら、ウェブニュースの「価値基準」は、「公権力の監視」や「弱者への配慮」にはないからです。ウェブニュースの「価値基準」は、まずページビューなのです。どれだけ見られているかなのです。それによってニュースの「価値」が決まるのです。それは、ウェブニュースの”宿命”とも言うべきものです。
そもそも、Yahoo!ニュースの編集者はジャーナリストと言えるのでしょうか。
ニュースを取り巻く環境はここ数年間で大きな転換期を迎えている。情報摂取の起点はスマートフォンやタブレット端末等のスマートデバイスが中心となり、インターネットにおける情報摂取の導線も、スマホのアプリやツイッター・Facebook等のSNSの広がりに因って大きく変化した。Yahoo!ニュースもスマートデバイスの普及に因って、2014年の6月には月間100億PVの半数以上をスマートフォンからのアクセスが占めるようになった。
ジャーナリストの仕事というと、主に報道機関等の組織に属している記者の他、フリーランス等も含めて、“取材して書く・撮る”という手法が真っ先に思い浮かぶ人も多いのではないかと思う。だが、ニュースの“見られ方”“見せ方”の変容に因って、取材して書く・撮る人材“だけ”がジャーナリストを名乗っていた世界は変わろうとしている。
記事はこう言いますが、しかし、どう考えてもYahoo!ニュースの編集者をジャーナリストと呼ぶのは無理があるように思います。どちらかと言えば、まとめサイトの編集者と言ったほうが適切ではないのか。実際に彼らの仕事は、まとめサイトの管理人がやっていることと同じです。
ウェブニュースの内部事情とそのからくりについては、『ウェブニュース 一億総バカ時代』(三田ゾーマ著・双葉新書)が具体的に書いていました。著者の三田ゾーマ氏は、企業系ニュースサイトの編集者をつとめる、いわゆる「中の人」です。
私たちがYahoo!ニュースをはじめ、ウェブニュースをどうして無料で読むことができるのかと言えば、ニュースサイトが広告を収入源としているからです。そのため、ニュースサイトは、多くのページビューが稼げるニュースを優先して掲載するようになるのです。ページビューを多く稼げば、それだけ広告枠が高く売れるからです。
ニュース媒体を持てば広告収入が得られて金が儲かる。だから酷い媒体になるとどんな記事でも、誰が書いたものでも構わないから掲載して人々のアクセスを集めようとする。その記事は何の専門性もないアルバイトが書いたものかもしれないし、どこかからかコピペされた一部だけを書き換えたような”盗作”かもしれない。(略)
そして、そんな屑を”報道”だとありがたがって読んでいるとすれば? 曖昧な発言元の情報に踊らされ、根拠の薄い発表を信用し拡散する人が増えていく。バカの一丁上がりである。
ページビューを稼ぐための記事。業界では「バズる」と言うそうですが、TwitterやFacebookで拡散される記事。そのための煽るような記事。そう思って、ヤフトピを見れば、納得できるものがあるのではないでしょうか。
しかし、ウェブニュースの問題はこれだけではありません。広告収入で成り立っているニュースサイトでは、広告そのものが巧妙化し、記事と広告の見分けもつかなくなっているのです。
ウェブ広告は、バナー広告のクリック率が下がり広告の効果が薄れてくると、記事を装ったタイアップ広告やステマなどのネガティブ広告へと、次第にエスカレートしていったのでした。そして、PCに比べて画面の情報量が少なく、ユーザーが閲覧するページ数も少ないスマホ時代になると、ニュースをマネタイズする方法はますます巧妙化し、ブラックになっているのです。
・広告主からお金を貰って作ったタイアップ広告を、広告であることを隠して(記載せず)掲載する。
・広告主の商品を、大して流行もしていないのに、広告であることを隠して「今話題になっている・・・」と称して記事を作る。
・広告主の商品が、さも業界を代表するブランドであるかのように紹介する記事を、広告であることを隠して作る。
・数十人規模のアンケートをもとに、広告であることを隠して、広告主の商品がさも日本中で求められているかのように記事を作る。
今なにが流行っているか(なにがトレンドか)という記事や、サイトに必ず設けられているアクセスランキングなどは、特に眉に唾して見る必要があるでしょう。
ニュースサイトの目的が、広告で金儲けすることであり、ニュースがそのための手段である限り、広告に対するルールや倫理感が欠如するのは当然でしょう。「読者をバカにして金を稼ぐウェブニュース」。それはYahoo!ニュースも例外ではないのです。