琉球独立宣言


先日(10月15日)、朝日新聞に、「『琉球独立』絵空事ではない」という松島泰勝・龍谷大教授の寄稿文が掲載されていました。松島教授は、石垣島出身で、「琉球民族独立総合研究学会」の共同代表を務めている人物です。

朝日新聞デジタル
「琉球独立」絵空事ではない 松島泰勝・龍谷大教授寄稿

そのなかで、松島教授は、つぎのように述べています。

 琉球人は基地の押し付けを「沖縄差別」であると考えている。このまま差別が続くならば、独立しかないと主張する人が増えてきた。ネットの世界で飛び交っている、琉球独立運動への偏見に満ちた言葉によっては、琉球で今起きていることは理解できない。

 今、琉球では歴史上これまでになく独立を求める声が広がっている。琉球は日本から本当に独立できるのだろうか。何のために独立するのだろう。私たちにとって独立とは世界のどこかのことであり、自分とは関係がないと思っている人が日本人の大半ではないか。

(略)そのような日本の中で琉球では本気で独立を目指す運動が活気づいているのである。どこから独立するのか? この日本からである。琉球の独立は日本や日本人とって他人事でも、絵空事でもなく、自分自身の問題である。


「琉球人の琉球人による琉球人のための独立」を主張する松島教授に対して、ネットでは「中国共産党の手先」「反日」「売国奴」「スパイ」などという罵詈雑言が浴びせられていますが、ネットを席巻している”中国脅威論”についても、松島教授は、近著『琉球独立宣言』(講談社文庫)のなかで、漢字・仏教・法制度・芸術など、日本が中華文明からさまざまな影響を受けてきたがゆえに、「日本人のアイデンティティ」が「中国の文物を否定することで形成された一面」があることを指摘していました。つまり、”中国脅威論”には、単に政治的な意味合いだけでなく、「中国のやることなすことを否定することで日本人として自己認識し、他の日本人からも同じ日本人と認められるという」”東夷”の国の屈折した心性が伏在しているというわけです。

自民党沖縄幹事長であった翁長雄志氏が、2014年の知事選で、「イデオロギーよりアイデンティティ」という有名なことばを残して、共産党を含む「オール沖縄」の候補として立候補したきっかけについて、松島教授は、『琉球独立宣言』で、つぎのように書いていました。

2013年に41自治体の全市町村長、議会議長、県議会各会派代表、経済団体代表がオスプレイ配備撤回、普天間基地の閉鎖撤去、県内移設断念を日本政府に訴えた「建白書」を翁長はとりまとめ、東京の街を皆でデモ行進しました。そのとき、沿道から「うじ虫、売国奴、日本から出て行け」などのヘイトスピーチの攻撃を受けました。そのころから、翁長の心には「被差別の対象」であり、「自己決定権行使の主体」という琉球人アイデンティティが強くなり、イデオロギーをこえた「オール沖縄」への志向がこれまでになく高まったのではないでしょうか。


辺野古の問題に限らず沖縄をめぐる一連の問題の根底には、あきらに沖縄への差別があり、沖縄を日本の植民地のようにしか見ない考えがあります。ネトウヨや百田尚樹らの沖縄に対するヘイト・スピーチは、そんな日本の本音をあらわしたものと言えるでしょう。

しかし、琉球が日本から統治されていたのは、1879年から1945年までと1972年から現在までの109年にすぎないのです。14世紀の北山国、中山国、南山国の三国時代から1429年に琉球国に統一され、1872年に明治政府によって琉球国が滅ぼされ日本に併合される(琉球処分)までの600年近く、「琉球は日本国とは異なる国として存在していたのです」。もともと沖縄(琉球)は、別の国だったのです。

かつて琉球国は、アメリカ・フランス・オランダと修好条約を締結していました。その原本は、現在、外務省の外交史料館にあるそうです。

今年の1月、松島教授ら「琉球民族独立総合研究学会」のメンバーが外務省沖縄事務所を訪問して、その原本の琉球への返還を求めたのに対して、応対した外務省の職員は、「当時の状況があいまいであるため、琉球国は存在したとも、存在しないとも言えない」と答えたそうです。琉球の歴史にとって、これほど侮蔑的な発言があるでしょうか。

1903年の大阪で開催された内国勧業博覧会において、琉球人は檻に入れられ見世物にされたそうですが、そういった差別の本質は現在も変わらないのです。

「本土復帰」の際に体験した「同化」教育について、松島教授はつぎのように書いていました。

「復帰」の年に小学校3年生であった私は、担任の教員から「方言札」の罰を受けました。生徒が琉球諸語を教室で話すと「方言札」と書かれた紙を首からつるされ、さらし者のように1日を過ごさなくてはならないのです。


ヨーロッパでは現在、分離独立運動が政治的なトレンドになっています。昨年の9月に実施されたイギリスのスコットランド独立を問う住民投票は独立派が僅差で敗れましたが、独立運動を担っているスコットランド国民党(NSP)は、先の総選挙で56議席を獲得し、保守党・労働党に次ぐ第三党に躍進しました。また、私たちにもジョージ・オーウェルの『カタロニア賛歌』でなじみが深いスペインのカタルーニャ自治州では、今年の9月におこなわれた州議会選挙で、独立派が過半数を制したというニュースがありました。スペインではほかに、バスク地方の分離独立運動も先鋭をきわめています。もちろん、スペインだけでなく、イギリスにもフランスにもイタリアにもドイツにも、ヨーロッパには数えきれないくらい分離独立運動が点在しており、スコットランドやカタルーニャの躍進が、それらの地域の独立の機運をさらに高めるだろうと言われています。

ヨーロッパの分離独立運動の高まりの背景には、反緊縮・反グローバリズムを掲げる急進左派の台頭があると言われており、ヨーロッパのトレンドをそのまま沖縄にあてはめることはできないと思いますが、しかし、「民族自決」の気運は決して過去のものではないのです。

さらに、辺野古の問題でもあきらかなように、琉球ナショナリズムの視点から日本のナショナリズム(「愛国」主義)を見ると、日本のそれが如何に対米従属主義の所産でしかなく、「売国的」なものでしかないのかが情けないほどよくわかるのです。琉球ナショナリズムは、日本のナショナリズムの欺瞞性を陰画のように映し出しているのです。


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2015.10.21 Wed l 本・文芸 l top ▲