九州の観光地における地震の影響は、ますます深刻になっているようです。別府の友人の話では、既に休業した観光ホテルもあるそうです。団体客のキャンセルが大きいと言ってました。

また、別の温泉地の友人は、関東に出稼ぎに行こうかなと言ってました。冗談か本気かわかりませんが、私は、来ればいいじゃないかと言いました。

今回の地震で被害を受けた阿蘇周辺の温泉は、文字通り火の国の恵みなのです。阿蘇山によって、外輪山の端にある私の田舎も、温泉という観光資源に恵まれたのです。その観光資源が地震によって苦境に陥っているのでした。

阿蘇のような雄大な景色は、関東のほうではなかなかお目にかかることができません。その雄大な景色の至る所に亀裂が走っているのを見ると、あらためて自然の脅威というのを考えないわけにはいきません。と同時に、なんだかせつない気持になるのでした。

私は、草原の端に立って、遠くの山裾に微かに見える建物がなんなのか、そこにたしかめに行くのを密かな楽しみにしていました。子どもの頃、山を越えた先になにか知らない世界があるような気がして、いろんな思いを馳せたものです。文字通り、山の彼方の空遠くに幸い住むと思っていたのです。そういった想像力は、阿蘇のあの雄大な景色が育んでくれたように思います。

ネットで知ったのですが、旧黒川村出身の詩人の蔵原伸二郎という人が、「故郷の山」と題して、つぎのように阿蘇の景色を謳っていました。2月に墓参りに帰ったときに、私のなかに映った情景もそれと同じでした。

故郷の山

わが故郷は荒涼たるかな
累々として火山炭のみ
黒く光り
高原の陽は肌寒くして
山間の小駅に人影もなし
 
祖先の墓に参らんと
ひとり
風はやき荒野をゆく
これぞこれ
わが誕生の黒川村か
重なり重なり
波うち怒れる丘陵
 
ああ 黒一点
鳥の低く飛び去るあたり
噴煙たかく
大阿蘇山は
神さぴにけり

(詩集『乾いた道』)

2016.05.06 Fri l 震災・原発事故 l top ▲