祖母の良人、つまり、母方の祖父は戦前の職業軍人でした。祖父は、私が小学校1~2年頃亡くなったのですが、典型的な明治の人で、怖いイメージしかありませんでした。
母によれば、官舎に住んでいた幼い頃、毎朝、お付きの兵隊が迎えに来て、軍服姿の祖父は馬に乗って出勤していたそうです。母の実家の鴨居には、菊の紋章が入った昭和天皇の写真と乃木希典の写真と東郷平八郎の「呉越同舟」という扁額がかけられていました。
そういった良人の面影を胸に、祖母は、当時、紀元節の復活や明治憲法の復元を唱え、『神国の構想』(創始者谷口雅春の著書)を掲げていた生長の家の活動に熱心に取り組んでいたのだと思います。祖母のなかには、戦前への郷愁があったのかもしれません。
生長の家の学生信者たちが、全共闘運動に対抗して作られた民族派学生運動の中核を担っていたのはよく知られた話です。また、現在、安倍政権と一体になって改憲や戦前的価値の復興をすすめている日本会議も、そういった学生運動出身の元信者たちが中心になって設立されたと言われています。
noiehoieこと菅野完氏の『日本会議の研究』(扶桑社新書)のなかに、つぎのような記述がありました。
安倍政権を支える「日本会議」の事務総長・椛島有三も、安倍の筆頭ブレーンと目される伊藤哲夫も、内閣総理大臣補佐官である衛藤晟一(引用者註:大分県選出)も、、政府が南京事件の記憶遺産登録阻止すべく頼った高橋史朗も、全員が「生長の家」から出た人々だ。だが、椛島有三や伊藤哲夫を輩出した宗教法人「生長の家」本体は、1983年に政治運動から撤退している。
しかし、その路線変更を良しとしない古参信者たちが今、教団に反旗を翻し「生長の家原理主義」運動を展開中であり、その運動に、稲田朋美や百地章など、安倍政権と深いつながりを持つ政治家。学者が参画している。(略)
さらに注目すべきは、(略)桜井誠が創設した在特会やチャンネル桜そして、ヘイトデモの嚆矢とも言える西村修平など、いわゆる「行動する保守」界隈の人物たちと、密接な関係を築いている事実だろう。稲田朋美が在特会と密接な関係にあることは、『サンデー毎日』を始めとする各報道で明らかにされた通りだ。
同書によれば、稲田朋美自民党政調会長は、靖国関連の集会で、生長の家の経典『生命の實相』の戦前に出版されたバージョンを掲げ、「(この戦前版の『生命の實相』を)祖母から受け継いだ」「ボロボロになるまで読んだ」と語っているそうです。稲田朋美の実家も、私の母の実家と同じような環境にあったのでしょう。
その生長の家が、「今夏の参議院選挙に対する生長の家の方針」として「与党とその候補者を支持しない」という声明を発表して話題になっています。
宗教法人 生長の家
今夏の参議院選挙に対する生長の家の方針 「与党とその候補者を支持しない」
リテラ
日本会議産みの親「生長の家」が安倍政権と日本会議の右翼路線を徹底批判!「日本会議の元信者たちは原理主義」
朝日新聞デジタル
「生長の家」、参院選で与党を支持せず 安倍政権を批判
かつての国家主義的な政治運動からの撤退を知っている信者たちには、別に驚くものではないのかもしれませんが、事情に疎い外部の人間のなかには、意外に思った人も多いのではないでしょうか。それは、昔、祖母をとおして私が抱いていた生長の家のイメージとは真逆の声明なのです。
声明では、「私たちは今回、わが国の総理大臣が、本教団の元信者の誤った政治理念と時代認識に強く影響されていることを知り、彼らを説得できなかった責任を感じるとともに、日本を再び間違った道へ進ませないために、安倍政権の政治姿勢に対して明確に『反対』の意思を表明します」と、日本会議の設立に元信者が中心的な役割を果たしたことの責任と反省を表明し、戦前回帰を目論む安倍政権に否を突き付けているのでした。
その理由は、安倍政権は民主政治の根幹をなす立憲主義を軽視し、福島第一原発事故の惨禍を省みずに原発再稼働を強行し、海外に向かっては緊張を高め、原発の技術輸出に注力するなど、私たちの信仰や信念と相容れない政策や政治運営を行ってきたからです。
(略)安倍政権は、旧態依然たる経済発展至上主義を掲げるだけでなく、一内閣による憲法解釈の変更で「集団的自衛権」を行使できるとする”解釈改憲〟を強行し、国会での優勢を利用して11本の安全保障関連法案を一気に可決しました。これは、同政権の古い歴史認識に鑑みて、中国や韓国などの周辺諸国との軋轢を増し、平和共存の道から遠ざかる可能性を生んでいます。また、同政権は、民主政治が機能不全に陥った時代の日本社会を美化するような主張を行い、真実の報道によって政治をチェックすべき報道機関に対しては、政権に有利な方向に圧力を加える一方で、教科書の選定に深く介入するなど、国民の世論形成や青少年の思想形成にじわじわと影響力を及ぼしつつあります。
日本会議の主張する政治路線は、生長の家の現在の信念と方法とはまったく異質のものであり、はっきり言えば時代錯誤的です。彼らの主張は、「宗教運動は時代の制約下にある」という事実を頑強に認めず、古い政治論を金科玉条とした狭隘なイデオロギーに陥っています。宗教的な観点から言えば“原理主義”と呼ぶべきものです。私たちは、この“原理主義”が世界の宗教の中でテロや戦争を引き起こしてきたという事実を重く捉え、彼らの主張が現政権に強い影響を与えているとの同書の訴えを知り、遺憾の想いと強い危惧を感じるものです。
私は、この声明を読んで、やはり創価学会を思い出さないわけにはいきませんでした。「核兵器の廃絶を訴え、地球民族主義を提唱した戸田第二代会長の平和理念を原点とし」(創価学会公式サイトより)、どこよりも平和・人権・環境の問題に取り組んできたと自負する創価学会ですが、だったら創価学会こそ生長の家のような声明を出すべきではないのか。
「神国」「神の子」などということばを使って戦前的価値の復興を唱える宗教的カルト(生長の家原理主義)に影響されている安倍政権、そんな安倍政権と二人三脚の連立を組む創価学会=公明党。これでは同じ穴のムジナと言われても仕方ないでしょう。まして創価学会は、戦前、天皇制ファシズムに弾圧され、初代会長の牧口常三郎は獄死さえしているのです。