ヨーロッパ・コーリング

ヨーロッパ・コーリング帯

私は、よくこのブログで、「右か左ではなく上か下の時代だ」というブレイディみかこ氏のことばを引用していますが、その箴言が帯に麗々しく掲げられた本が出版されました。

ブレイディみかこ氏の新著『ヨーロッパ・コーリング』(岩波書店)です。と言っても、書き下ろしではなく、Yahoo!ニュース(個人)に書いた記事をまとめたものです。

表紙の写真は、イスラエルのパレスチナ自治区のベツレヘムで撮った、バンクシーの有名な「The Flower Thrower」です。装丁もとてもセンスがよくて、見た目もカッコいい本になっています。

折しもイギリスでは、EU離脱をめぐって国民投票がはじまりました。日本時間で今日にも投票結果が判明すると言われていますが、EU離脱をめぐっても、右か左ではなく上か下かの時代が色濃く表れているように思います。EU離脱は、ブレイディみかこ氏が書いているように、単に移民問題だけでなく、反緊縮・反グロバーリズムの側面があることも見過ごしてはならないでしょう。

一方、この国は参院選の真っ最中ですが、メディアの情勢調査では、与党が改選過半数を越える勢いで、改憲派が改憲の発議に必要な3分の2の議席を確保する可能性が高いと伝えられています。

与野党党首の演説を聴いても、私には与党と野党の違いがわかりません。特に、経済政策についてはどこも同じなのです。安倍総理は、成長の果実を社会保障の充実や介護や子育てに分配するためにも、アベノミクスのさらなる進化が必要だと演説していましたが、野党の党首たちも物言いは異なっても、成長と分配という基本的な考えはほとんど同じです。

左派の劣化は、たとえば公務員の給与問題などにも端的に表れているように思います。公務員の給与は下がっている、公務員は大変だと言われますが、それは今や公務員の半分を非正規雇用が占めている現実がそういったイメージを作り出しているにすぎないのです。

私の田舎は、交付金の5割近くが人件費に消えていくと言われるほど県内でも上位の”高給自治体”ですが、高齢者が多く住民の所得が低い田舎では、市役所の職員はまさに”特権階級”です。横浜も、かつてスパイラル指数で日本一になったほどの”高給自治体”です。ただ、横浜の場合、大都会なので、田舎のように“特権階級“ぶりが目に付きにくい面があり、それが彼らに幸いしているだけです。もっとも、自治労や左派に言わせれば、それは偉大なる階級闘争の成果であって、高給を批判(嫉妬)する者は労働者の敵、保守反動ということになるのでしょう。

自民党と同じ”成長神話”にとり憑かれた左派。公務員問題をおおさか維新のようなファシストの専売特許にさせてしまった左派のテイタラク。民進党は左派ではありませんが(リベラルですらありませんが)、公務員と原発の二つのタブーを抱えたあんな政党が支持を受けるわけがないのです。何度も言いますが、民進党(旧民主党)は、もはや自民党を勝たせるためだけに存在していると言っても過言ではないのです。今度の選挙でも、民進党が野党第一党であることの不幸を痛感させられることになるのは間違いないでしょう。

一方、プロレタリア革命を掲げ”革命左派”を自認する新左翼のセクトも、自治体労働者に対する”賃下げ攻撃”を階級的反撃で打ち砕けと訴えていますが、それは、公務員のシンパからのカンパに頼っている財政的な事情もあるのではないかと穿った見方をしたくなります。レーニンは『国家と革命』のなかで、公務員の給与は全労働者の賃金の平均を越えてはならないと戒めていますが、それは社会主義国家がその性格上官僚主義=「役人天国」に陥る傾向があるのをレーニン自身がよくわかっていたからでしょう。

自治労の組合員たちをプロレタリアと言ったら、もはやギャグでしかないでしょう。右か左かなんてほとんど意味をもたないのです。

先進国で最悪の格差社会を招来したこの国にこそ上か下かの新しい風が待ち望まれますが、そのためにはまず、徹底的に敗北し、徹底的に絶望することでしょう。そうやって「勝てない左派」と決別することでしょう。

 難民問題で右傾化していると言われる欧州では、実のところ左派が猛烈な勢いで台頭している。それは「与党も野党も大差なし」と醒めていた人々に、いまとは違う道は存在することを示す政治家たちが登場したからだ。彼らは、勝てる左派だ。勝てない理由を真摯に受け止め、あらためて、敗けるというお馴染みの場所でまどろむことを拒否した左派だ。この欧州に吹く風が、地球の反対側にも届くことを祈りながら本書をぶち投げたい。
(帯より)



関連記事:
日本で待ち望まれる急進左派の運動
地べたの既視感
ギリシャ問題と「勝てる左派」
2016.06.24 Fri l 本・文芸 l top ▲