
OECDの「ワーキングレポート22」でも、日本の貧困率は24か国中、メキシコ・アメリカ・トルコ・アイルランドと並んでワースト5に入っています。しかも、日本の場合、他の先進国に比べて生活保護の捕捉率が著しく低く、それがさらに日本の貧困を深刻なものにしているのです。
安倍政権が登場してから、政治も経済もトップダウンのほうが効率がよく、中国や韓国との競争にも有利だという考えが優勢になっているように思いますが、そういった考えが、非効率でかったるい民主主義を呪詛し、単純明快で手っ取り早い全体主義(的なもの)を志向するようになるのは当然でしょう。これこそが、メディアが盛んに喧伝していた「決められる政治」の姿なのです。
しかも、アベノミクスを見てもわかるとおり、経済のトップダウンが求めているのは、グローバル資本主義なのです。
『週刊SPA!』新年特大号(1/3・10号)は、「日本型貧困の未来」という特集を組んでいましたが、貧困は決して他人事ではなく、これからますますリアルな問題として私たちの身近にもせまってくるでしょう。
特集には、つぎのようなリード文がありました。
安倍首相は、「相対的貧困率は大きく改善した」と語り、波紋が広がっている。空前の株高に見舞われた‘16年末の日本経済。しかし、最新データによれば、所得格差は過去最高水準に達し、子どもの貧困率は16.3%と高い数値を示す。日本では確実に増え続ける生活困窮者。彼らが跋扈する日本の未来はいったい何が待っているのか?
記事では、「稼げない職業ワースト10」として、①タクシー運転手、②ビル・マンション管理人、③介護士、④百貨店店員、⑤製造・組立工、⑥保育士、⑦塾講師、⑧理容・美容師、⑨パチンコ店店員、⑩医療事務を上げていましたが、しかし、記事が前提としているのは、年収300万円前後の正社員です。今や全労働者の4割は派遣やパート(アルバイト)の「非正社員」なのです。20代に至っては、半分以上が非正規雇用です。現実はもっと深刻だと言えるでしょう。
そもそも中国や韓国がライバルになったのは、彼らがキャッチアップしてきただけでなく、日本が没落したという側面もあるはずです。しかも、それらのライバル国は、かつて「二等国」とか「劣等民族」と蔑んでいた旧植民地の国です。それがいつの間にかライバルになっていたのです。
安倍政治には、声高に「愛国」を叫び、なりふり構わずグローバル資本主義に拝跪することで、かつての”栄光”にすがろうとする、旧宗主国の歪んだ心理があるように思えてなりません。でも、安部政治が掲げる「愛国」は、沖縄への対応を見てもわかるとおり、ただの従属思想にすぎません。
特に非正規雇用の割合が高い10代~20代の男性に、安倍政権の支持率が高いそうですが、そこにはトランプに熱狂した(「白いゴミ」と呼ばれる)白人の下層労働者と共通するものがあるように思えてなりません。
住民の約半数にあたる3400人の日系の出稼ぎ外国人が居住する、愛知県の保見団地を取材した写真家の名越啓介氏は、「外国人労働者が形成する日本”スラム”化の近未来」という記事のなかで、つぎのように言ってました。
「(略)彼らには、決して恵まれない環境でもそれを笑いに変える力強さがある。自分の経験では貧困だからこそ、その裏返しからくる底抜けの明るさを持っていると思うんです。例えば、お金のない日本人は結婚や子どもを諦めがちですが、保見団地の人らは働き手が増えるからと、子どもを産む。とにかく元気ですよね」
貧困をもろともしないバイタリティ。日本の貧困の未来にとって、彼らのマインドは一つの希望になるかもしれない。
藤田孝典氏も、ノンフィクションタイラー・中村淳彦氏との対談(「貧困の未来は絶望しかないのか!?」)で、社会保障改革が間に合わない今の30代以上はもう手遅れで、貧困と付き合っていくしかない「貧困が当たり前」の世代になると言ってました。
グローバル化した経済が格差(「貧困が当たり前」の社会)をもたらし、その格差が全体主義を招来するというのは、わかりやすいくらいわかりやすい話です。もとよりグローバル資本主義にとって、国民国家なんて足手まといでしかないのです。
私たち日本人もこれからは、”全体主義と貧困の時代”をしたたかに且つしぶとく生き抜くバイタリティが求められているのです。
関連記事:
「隠れ貧困層の実態」