日本橋人形町界隈には一時期プライベートでよく通っていました。(残念ながらカメラを持って行ったことがないので、写真がありません)

普段仕事で訪れている街とはまるで雰囲気が違いますので、とても新鮮な感じがします。

人形町界隈には、グルメが垂涎する有名店が数多くありますが、もともとは職人の多い街だったので、それらもかつてはいなせな職人達が通う店だったのではないでしょうか。

だから、老舗といっても、そんなに敷居も高くないし、まだ庶民的な雰囲気を残した店が多く、それが人形町の魅力だと思います。

年の瀬も押し迫ると、舗道に衣類や食品を売る露天がずらりと並び、まるで昭和30年代にタイムスリップしたような光景をみることができます。

確定申告のシーズンには、やはり、舗道にテーブルをひとつ置いただけの受付に、作業着姿の職人達が書類を手に次々訪れているのをみたこともあります。恐らく、ひとり親方の職人達がまとまって申告するために、互助組織が設置したものではないでしょうか。

かつて人形町には芝居小屋や寄席などもあり、また、吉原の遊郭も最初は人形町にあったのだそうです。昔は華も色もある街だったのです。

地元に住んでいる知人から蛎殻町の小さなバーに連れて行ってもらったことがあります。ジャズの音色が心に沁みる、とてもいい店でした。

外に出たら、人通りの絶えた路地裏で、酔いでほてった頬に夜風がとても心地よかったのを覚えています。傍若無人にふるまうような若者達がいないというのが、この街のいいところでもあります。

人形町は谷崎潤一郎の生家があったことでも有名です。また、誰だった忘れてしまいましたが、蛎殻町の芸妓の元に足しげく通った作家の話を読んだ記憶もあります。再開発がはじまった現在の蛎殻町からは想像もできませんが、昔はそんなしっとりした雰囲気もあったのでしょう。

元日の早朝、人形町に行ったことがありました。人っ子ひとり通らない表通りに日の丸の旗だけがパタパタと風にはためいていて、なんだかすごく厳かな気分になりました。

ゆったりした時間が流れている、というとなんだかありきたりな表現になりますが、都心にあってそんな表現がよく似合う街だと思います。
2006.06.18 Sun l 東京 l top ▲