ネットメディア覇権戦争


先日、DeNAのキューレーションサイト(まとめサイト)の無断転載等の問題に関連して、同社が設置した第三者委員会の報告書が発表されました。

内容については、下記の記事が詳しく伝えていました。

INTERNET Watch
DeNA、創業者の南場智子氏が代表取締役に復帰、キュレーションメディア事業の第三者委員会報告書を受けガバナンス強化

背景にあるのは、PV至上主義です。ネットのコンテンツの多くは、基本的に無料ですので、ネットでお金を稼ぐには広告が主体になります。そのためには、どれだけ多くのアクセスを稼ぐかがなにより重要なのです。そして、アクセスを稼ぐためには、記事の量産やSEO対策が必須です。それが今回のように、コンプライアンスが二の次になった要因でしょう。

こういったネットのしくみを作ったのは、Googleです。今でこそGoogleは、「品質に関するガイドライン」なるものを設けて、コンテンツの質を重視するようなことを言ってますが、しかし、アドワーズやアドセンスの課金に対する(唯一の)指標が、クリック数であることには変わりがありません。ネットでお金を稼ぐには、PVを無視することはできないのです。

DeNAも、キューレーションサイトから撤退するとは言ってませんので、これからは今までのような粗雑で露骨なPV至上主義ではない、もっと巧妙なPV至上主義を模索することになるのでしょう。

もちろん、それは、ネットニュースも同じです。

藤代裕之氏は、近著『ネットメディア覇権戦争』(光文社新書)で、「ネットの話題がマスメディアの恰好のネタ元」になっていることが、今のような偽ニュースの拡散につながっていると書いていました。それこそが、大塚英志氏が言う「旧メディアのネット世論への迎合」ということでしょう。

そして、そのなかで大きな役割を果たしたのが、Yahoo!ニュースやJカス(J-CASTニュース)などのミドルメディアだと言います。

 ネットをネタ元にしたニュースが溢れる現状は、ソーシャルメディアとマスメディアの関係を追い続けてきた私の立場からすると、驚きである。
 約10年前、ブログやSNSが拡大していた時期に、既存メディアは、ネット上にはコンテンツのコピーが溢れており、著作権法違反でるという批判や、何の社会的価値もない便所の落書きといった、ネットを蔑む発言を繰り返していたからだ。
 だが、人々の発言が増えるにつれて、情報はネットからマスメディアへと「逆流」するようになった。YouTubeに投稿されて国際問題にまで発展した尖閣諸島の海上保安庁動画流出や、東日本大震災の津波や被災動画を経て、ソーシャルメディアのコンテンツはニュースへと位置付けられていく。
(略)
 従来、マスメディアから流れていたニュースは、ミドルメディアの登場で、人々からマスメディアへと「逆流」することになった。そしてこの構造は、ネットの世論らしきものを生み出している。


しかし、炎上に参加している「ネット民」は、ネットユーザーのわずか0.5%にすぎず(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター山口真一研究員『ネット炎上の研究』)、ネトウヨと呼ばれる「ネット民」の比率は、ネット利用者の1%を下回る(大阪大学大学院・辻大介準教授『インターネットにおける「右傾化」現象に関する実証研究』)という調査があります。これが「ネット民大勝利」「ネットで話題」の実態なのです。

 本来マスメディアは、ネットに出回る情報を検証して、それを伝える役割があるが、ネットの情報に振り回されているのが現実だ。
 ネットで小さな波紋を起こして、、それによってミドルメディアが騒ぎ、マスメディアを動かしていく手法は、世界に広がっている。トランプ現象、そしてイギリスのEU離脱(Brexit)も同じだ。権力者や著名人の過激な発言は、アクセス数を稼ぐ格好のネタだ。ネットとマスメディアの共振で広く流布されるようになっている。


「そして、このような炎上の構造を、何らかの意図を持った国、企業、ユーザーが、利用したらどうか」(どうなるか)と警鐘を鳴らすのですが、実際にヤフーは、Yahoo!ニュースを利用して、自社の事業のために世論誘導を行ったり、ライバル会社の商品に対するネガキャンを行った「前科」があるそうです。

さらに藤代氏は、ミドルメディアの姿勢をつぎのように批判します。

 多くの人は、まさか自分たちが見ているニュースが、ここまで汚染されたり、偏ったりしているとは思わないだろう。人々のニュースへの信頼を利用して、プラットフォーム企業が巨額の利益を上げている。(略)「人々が発信する情報を掲載しているだけ、後は各自の判断で」というプラットフォーム企業の常識は、もはや通用しない。


藤代氏は、取材を受けるのにメディアを選別するヤフーの宮坂社長を、「取材に対してウソをつくトップがいるような組織に、信頼と品質など担保できるわけがない」と批判したところ、逆に「ネット民」から批判を浴び炎上したそうです。ただ、その際、ニュースサイトや広告代理店の関係者から、「ヤフーにはジャーナリズムの素人しかいない。ニュースの判断などできるはずがない」「これまでも何かと条件をつけて配信料を値下げしてきた。発信者支援などごまかしに過ぎない」「ヤフーが考える方針に従わないと、嫌がらせをされた」「社内の数字が達成できないからと、営業努力を求められた」などという声が、藤代氏のもとに寄せられたそうです。

そもそもYahoo!ニュースには、「編集権(編集の独立)」というニュースメディアとしての最低限のシステムも考え方も存在してないのです。Yahoo!ニュースがピューリッツァー賞を目指す(宮坂社長のことば)なんて、片腹痛いと言わねばなりません。Yahoo!ニュースにとって、ニュースは所詮、マネタイズする対象でしかないのです。

その典型がコメント欄でしょう。

 差別発言や誹謗中傷が溢れ、ヤフー自身も極端なレッテル貼りや、差別意識を助長させるような投稿があったと認めているニュースのコメント欄(略)。このコメント欄はプラットフォーム部分とされ、プロ責(引用者注:プロバイダ責任制限法)対応となる。つまり、事後対応でよいため、無秩序な状態が放置されてしまうのだ。


ヤフーは、とかく問題の多いコメント欄に対しても、「メディアとプラットフォームの部分をうまく使い分け」責任回避をしてきたのです。もちろん、いくら問題があっても、コメント欄を閉鎖する気なんてないそうです。「理由は単純で、コメント欄がアクセスを稼いでいるから」です。つまり、バイラル効果でお金を生むからです。Yahoo!ニュースの政治関連の記事に、ネトウヨと親和性が高い産経新聞の記事が目立つのも、故なきことではないのです。

こう考えてくると、藤代氏のつぎのようなヤフーに対する批判は、的を射ていると言えるでしょう。

 言論に責任を持たず、社会を惑わす企業は、ニセモノのメディアに過ぎない。


 組織的にリスクを回避する仕組みがなく、体制も整わない中で、新聞記者に憧れたトップがいくら旗を振っても、ニセモノのジャーナリズムは本物にならない。



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