
本屋に行ったら、『ノルウェーの森』が他の村上作品とともに文庫本のコーナーに平積みにされていました。
文庫も単刊本とまったく同じあの赤と緑のカバーで、私は、なつかしくて『ノルウェーの森』を手にとりました。
私にとって『ノルウェーの森』は、今から20年近く前の恋の思い出につながっています。
知り合ったとき、彼女はちょうど『ノルウェーの森』を読み終えたところで、「ずっと沈んだ気分の中にいる」と言ってました。
初めて向かい合って座った喫茶店で、彼女は、伏目がちに、『ノルウェーの森』について、どうして沈んだ気分の中にいるのかについて、それまでの思いを一気に吐き出すかのように、喋りつづけていました。
しかし、それから8年目の冬に突然別れが訪れました。そして、ひと月も経たないうちに阪神大震災があり、地下鉄サリン事件がありました。
もう一度『ノルウェーの森』を読んでみようか、と一瞬思ったものの、やはり、本を平台に戻しました。もうあの頃と同じように読めないのはわかっているからです。