安倍政権にとって、「北朝鮮の脅威」は神風ならぬ「北風」と言われているそうです。北朝鮮がミサイルを発射すると、まるで空襲警報のようにJアラートが鳴り響き、メディアは戦争前夜のようにセンセーショナルに報道します。すると、支持率が下落した安倍政権は、待ってましたとばかりに「北朝鮮の脅威」を煽り、再び支持率を回復してきたのです。それを「北風が吹いた」と言うのだとか。

その典型が昨年10月の衆議院選挙でした。安倍政権は、野党(民進党)の”敵失”があったとは言え、「逼迫」する北朝鮮情勢を前面に出し、この選挙は「国難突破」の選挙だとアピールして、自公で憲法改正の発議に必要な三分の二を超える313議席を獲得、大勝したのでした。

また、野党も、「北朝鮮情勢が逼迫しているときに選挙などしている場合か」などというもの言いに終始し、結果的に「国難」を共有したのでした。

それから半年。明後日(27日)、板門店で開かれる南北首脳会談では、朝鮮戦争の「終戦」を確認する平和宣言が出される見通しで、その最終調整がおこなわれているそうです。今回は、北朝鮮も核開発を凍結する姿勢を見せており、南北融和の”本気度”を感じてなりません。

となると、あの「国難」って一体なんだったのかと思わざるを得ません。「国難」だと大騒ぎして、気が付いたら、日本は蚊帳の外に置かれていたのです。安倍政権の「最重要課題」である拉致問題も、トランプや文在寅にお願いするしかないようなあり様です。

ところが、ここに至ってもなお、日本政府は、「非核化が約束されてない」「それまでは最大限の圧力をかけつづけるべきだ」、とまるで負け犬の遠吠えのように「圧力」を強調し、融和ムードに水を差すことに躍起となっています。メディアも(特に産経新聞などは)、そんな政府に歩調を合わせ、非核化の履行を巡り米朝が決裂する可能性もあるかのような(そうなることを願っているような)、ヨタ記事を流しています。これが「国難」のあられもない姿です。

田中宇氏が言うように、「完全な非核化」なんて口先だけで、誰もそんなことを期待してないのでしょう。韓国もアメリカも中国もロシアも、「北朝鮮が核を持ったままの恒久和平」という現実的な和解の道を模索しているというのは、その通りなのでしょう。要は「核保有」(=戦争)と「恒久和平」(=平和)のどちらに重きを置くかで、それを判断するのが政治でしょう。もとより私たちにとっても、(ファシストやネトウヨではない限り)戦争を挑発する政治より、平和を希求する政治のほうがいいに決まっているのです。

田中宇の国際ニュース解説
北朝鮮が核を持ったまま恒久和平(有料配信)

一方、日本政府は、拉致問題においても、他力本願で米韓にお願いし、あとは「圧力」をかけつづければ北朝鮮がひれ伏して拉致被害者を差し出してくるなどと主張して、傍観するだけです。拉致したのは北朝鮮なんだから、そうするのが当然だとでも言いたげですが、無為無策を荒唐無稽な”原則論”で誤魔化しているだけです。そのくせ外務省は、両首脳が座る椅子の背や食後に出されるデザートのチョコレートに描かれた朝鮮半島の絵に、竹島が含まれていることを取り上げて、韓国政府に抗議したのだそうです。外務官僚たちは、よほど目を凝らしてテレビの画面をチェックしていたのでしょう。もしかしたら、虫眼鏡でも使っていたのかもしれません。

何度も言っているように、世界は間違いなく多極化するのです。朝鮮半島の緊張緩和もその流れのなかにあり、東アジアの覇権が中国に移るのは間違いないのです。ただ、そのなかに、(表向きには”非核化”だが、実際には)「核を保有する」北朝鮮が入ってくることの意味は、想像以上に大きいと言えるでしょう。だからこそ、「恒久和平」の道をさぐり、あらたな秩序を構築する必要があるわけで、そういった関係国の平和外交の真価が問われているのだと思います。しかし、東アジアの旧宗主国の夜郎自大な国は、メディアも含めて、硬直した敵視政策から抜け出せずに、ひとり茶々を入れ流れに棹差すだけです。これでは蚊帳の外に置かれるのも当然でしょう。


関連記事:
”日沈む国”の卑屈な精神
リベラル左派と「北朝鮮の脅威」
2018.04.25 Wed l 社会・メディア l top ▲