
森友問題における財務省の佐川宣寿元理財局長の証言もひどかったですが、今回の加計問題での柳瀬唯夫元首相秘書官の答弁も、それに輪をかけてひどいものでした。愛媛県知事が怒るのも当然でしょう。野党や国民はもっと怒るべきでしょう。「官僚いじめ」だと言われたからと言って、怯んでいる場合ではないのです。
昨年の“森友国会”の際、安倍晋三首相は、野党からの追及を受ける佐川宣寿理財局長(当時)に、「もっと強気で行け」とメモを渡したそうですが、木で鼻をくくったような(国会や国民をバカにしたような)彼らの答弁には、たしかに、安倍首相の個人的なキャラクターが影を落としているように見えなくもありません。今になれば、「強気で行け」というのが、「強気で嘘をつけ」という意味だったことがよくわかるのです。
必死に言い逃れようとする二人を見て、「(東大の法学部まで出ていながら)惨めなもんだな」と思いましたが、しかし、当人たちは、逆に心のなかで、安倍首相に向かって「やりましたっ!」とVサインを送っていたのかもしれません。文字通り、「ハイルヒトラー!」の気分だったのかもしれません。彼らにとって、安倍首相を忖度することは、官僚としてのレーゾンデートルと言ってもいいくらい大事なことなのかもしれないのです。一方で、東大出に対して学歴コンプレックスを抱いている(後述の野上忠興氏)安倍首相にとっては、東大法学部を出たエリート官僚をまるで飼い犬のようにかしずかせるのは、これ以上ない快感に違いありません。
元共同通信社の記者で、(旧)安倍派の番記者を務めた野上忠興氏の『安倍晋三 沈黙の仮面』(小学館)に、安倍晋三氏の乳母・久保ウメさんが語ったつぎのようなエピソードがあります。
夏休みの最終日、兄弟の行動は対照的だった。兄は宿題が終わっていないと涙顔になった。だが、晋三は違った。
「『宿題みんな済んだね?』と聞くと、晋ちゃんは『うん、済んだ』と言う。寝たあとに確かめると、ノートは真っ白。それでも次の日は『行ってきま~す』と元気よく出ます。それが安倍晋三です。たいした度胸だった。(略)」
ウメは「たいした度胸」と評したが、小学校時代の級友達に聞いて回っても、宿題を忘れたり遅刻をしたりして「またか」と先生から叱られたとき、安倍は「へこむ」ことはなかったという。
「愛に飢えた」少年時代ゆえか、平然と嘘をつくのは、子どもの頃からの”得意技”だったのです。
久保ウメさんは、安倍晋三氏が2歳5か月のときから岸・安倍両家に40年使え、「安倍家のすべてを知る生き字引」と呼ばれている女性です。彼女は、本のなかで、安倍晋三氏について、「強情で芯の強い子ども」「泣かない子」「自己主張・自我が人一倍強い」と評していました。
あるとき、父親(安倍晋太郎)の大事なものがなくなり、居合わせた兄弟が詰問された際、父親の「怒気を含んだ声」に気圧されて半べそをかいていた兄の傍らで、弟の晋三は、「真っ白なハイハイ人形みたいな顔をして、ほっぺをプーッと膨らませてパパをにらみ返し、パパとにらみ合いが続いた」そうです。そして、とうとう父親は、「晋三、お前はしぶとい!」と言って「白旗を揚げた」のだとか。
平然と嘘をつく、そして、しぶとい。なんだか今の安倍政権を象徴しているようなエピソードです。支持率も下がり追いつめられているようなイメージがありますが、安倍総理にその意識はあまりないのかもしれません。これからも、誰からなんと言われようと、嘘に嘘を重ねてしぶとく居座るのではないでしょうか。
ウメさんも、つぎのような示唆に富んだ言い方をしていました。
「私はパパとのケンカで最後まで屈しなかった姿が頭に残っているから、政治家になったあの子(晋三)が、自分のしたいことから逃げない、自分が思わないこと、駄目だと思ったことには一切妥協しない特性がいつ出るかと思っているの。ただね、何でも我を通すことがいいことにはならないでしょう。とことん突っ張る分、反動が出たときはそれだけ大きいことを覚悟しなくてはいけないのよ。(略)」
著者も「あとがき」で、同じようなことを書いていました(一部既出です)。
(略)安倍氏は「気が強くわがまま」(養育係の久保ウメ)で、「反対意見に瞬間的に反発するジコチュー(自己中心的)タイプ」(学友)だ。それが、父・晋太郎が懸念した「政治家として必要な情がない」一面につながっている。
気にくわない場面や意見に出くわすことは誰にでもある。いちいち過剰反応しては神経がもたない。ちょっと頭を巡らせ、ちょっと感情を抑え、つまり臨機応変に知と徳を働かせて言動を工夫する。そうして「懐が深くなった」と印象づけるだけでも、ずいぶん政治家として熟した姿を示せるはずだ。でも長年取材してきた安倍親子において、父にあって子に足りないのは、今もってそこだと感じる。
安倍晋三氏は、能力はともかく気質においては、独裁者になる条件を充分備えている(いた?)と言っていいでしょう。
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