米朝会談に対しては、日本国内でも「期待外れ」という声が多く聞かれます。なにが「期待外れ」なのかと言えば、共同声明にCVIDの道筋が具体的に明記されなかったことがいちばん大きいようです。要するに、政府もメディアも国民も、軍事攻撃の代わりに、今度はCVIDで北朝鮮を無力化することを期待していたからでしょう。

しかし、何度もくり返しているように、CVIDは所詮は「絵に描いた餅」にすぎないのです。非核化も、拉致問題と同じで、外交カードにすぎないのです。落としどころをどこにするかなのです。

今回の首脳会談は、国交がない国の首脳同士が初めて顔を合わせる「異例」の会談です。従来のよくある首脳会談と違って、会談自体はあくまで”出発点”なのです。

いづれにしても、これから長い時間をかけて、非核化や国交正常化の交渉をおこなうことが決定したのです。両首脳によって、その号砲が鳴らされたのです。最初から結論を求めるメディアの論調自体が、ないものねだりのトンチンカンなものであるのは言うまでもありません。

落としどころがどこになるか(双方がどこで妥協するか)、これから注視する必要がありますが、ただ、膨大な時間と費用を要するCVIDなんてそもそも実現不可能だ、という声のほうがホントなのだろうと思います。

むしろ、共同声明を発表できただけでも、大きな成果だと言えるでしょう。共同声明には、戦争の終結、国交正常化、非核化に向けて努力していくことがはっきりと謳われているのです。それだけでもすごいことだと思いました。

私は、会談のあとのトランプの会見も感銘を受けました。日本の政治家だったら、あそこまでオープンな会見はやらないでしょう。安倍や麻生や二階の不遜な態度と比べると、雲泥の差があります。私は、トランプを少し見直しました。

トランプが会見のなかで、グアムから朝鮮半島まで戦闘機を飛ばして訓練するのはお金がかかりすぎる、「戦争ゲーム」をやめれば無駄なお金を使わなくて済むと言ってましたが、まさにそこに、トランプが主張するアメリカ・ファーストの本音が出ていたように思います。

言うまでもなく、トランプのことばの背後にあるのは多極主義です。“世界の警察官”をやめる(やめたい)ということです。そんなアメリカ·ファーストの本音など理解すべくもなく、ただCVIDで北朝鮮を無力化してもらいたいと願う人たちにとって、今回の会談結果が、「アメリカが前のめり」「北朝鮮のペース」と映るのは当然かもしれません。

一方で、米韓軍事演習の凍結まで示唆したトランプの発言に、日本政府が「驚いた」という報道には、逆にこっちが驚きました。防衛省の幹部は「予想外だ」と言ったそうですが、そんな感覚では、これから東アジアの覇権が中国に移るにつれ、ホントに口から泡を吹いて卒倒してもおかしくないような衝撃を何度も受けることになるでしょう。


追記:
米朝首脳会談に対してネガティブな報道がつづくなか、下記にような多極化に関する報道もいくつか出てきました。(6/14)

AFP
米、韓国との主要演習を「無期限停止」 米高官
CNN.co.jp
トランプ米大統領は在韓米軍を朝鮮半島から撤収する可能性も示唆
2018.06.13 Wed l 社会・メディア l top ▲