袋叩きの背後にあるのは、「旧メディアのネット世論への迎合」(大塚英志)です。「ファンに失礼だ」「プロ意識に欠ける」などという身も蓋もない言い方で、「動物化」した大衆を煽るメディア。それもまた、芸能人の「不倫」や「独立」報道でくり返されるおなじみの光景です。
挙句の果てには、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いとばかりに、ジュリーの年老いた容姿までヤユし嘲笑する始末です。
その好例が日刊ゲンダイデジタルの次のような記事でしょう。
日刊ゲンダイデジタル
沢田研二の不人気とジリ貧 公演ドタキャン騒動で浮彫りに
ツアーは7月6日の日本武道館を皮切りに展開中で、来年1月21日の日本武道館公演まで全66公演。この状況で完走できるか心配だが、SNS上には「もともとジュリーはファンを大切にしていない」「歌唱中に歌詞が飛んだりして、健忘症どころか認知症じゃないか」と批判の声まで飛び交い始めた。スポーツ紙芸能デスクはこう言う
「反原発活動でスポンサーが離れた上、今春に発売したCDも売れず、ツアー展開するための資金繰りにすら困っていたようです。個人事務所は都内雑居ビルにあるし、ホームページも古い手づくり的なもので、インディーズレーベルでの活動は大変に見えます。今ツアーでは、予算削減のためかステージに上がるのは沢田さんとギタリストの2人だけ。大規模ホールは初めから無理があったのかもしれません」
日刊ゲンダイは政府批判の記事が多く、ネトウヨからは「左翼」扱いされるメディアですが、しかし、政治的な立ち位置なんて関係なく、いざとなればこのように翼賛メディアに豹変するのです。”動員の思想”に右も左もないのです。
記事にあるように、沢田研二が個人事務所なので叩きやすいという、これまたおなじみの側面もあるでしょう。ジャニーズやバーニングには腰が引けて何も書けないくせに、個人事務所だったらあることないこと書き連ね徹底的に叩く事大主義も芸能マスコミの特徴です。
一方、ミュージシャンのグローバーは、フジテレビ「とくダネ!」で、沢田研二のドタキャンに対して、つぎのようにコメントしたそうです。
Yahoo!ニュース
東大卒のミュージシャン・グローバー ドタキャンのジュリーに「感動した」
当初9000人の動員と聞いていたが、当日聞かされた集客状況が7000人だったため、空席が多い状態で歌うことを拒否したという説明に、自身もバンドでコンサートを行っているグローバーは「沢田さんを見ていて感動する」と言い、「こういうことを正直に言えないことのほうが多い。体調不良だとか、そういう理由でキャンセルする」と指摘した。
また、「自分が今やりたい、自分がみんなを幸せにしたい、こういう空間をつくりたいっていうのがはっきりあって、だから今回キャンセルの理由もこうなんだ」と説明したと言い、「ちっちゃい会場で満員でそれでできる幸せな空間もあるし、大きい会場の満員でしかできない音楽の幸せもある。沢田さんは70歳、音楽人生考えたら一定以上のキャパで、満員でつくる自分でしかつくれない幸せをつくりたいってこと。(沢田をキャンセル理由とした)意地って言葉は、これは美しい言葉の意味に(自分は)とってます」と強調していた。
また、小学生の頃から沢田研二の大ファンで、当日、公演会場に来ていたダイアモンドユカイも、TBSの「ビビット」で、次のようにコメントしていたそうです。
スポニチアネックス
ダイアモンド☆ユカイ ドタキャン謝罪の沢田研二を「あんな正直に語れる人は素敵」
公演を中止にした沢田の判断については「その人それぞれの考え方だし、沢田さんって何でも自分で決める立ち位置にいるから、すごく大変だと思う。すごく正直に謝罪しているじゃないですか。あんな正直に語れる人っていうのは素敵じゃない。これは子供っぽいとかあるかもしれないけど、そういう人が世の中にいなくなってきているから、貴重な人だと思いますよ」と自身の考えを話した。
私は、沢田研二の会見を観て、ふと「孤立無援の思想」という言葉を思い浮かべました。プロ意識と言うなら、これこそプロ意識と言うべきでしょう。
沢田研二がタイガースで人気絶頂を極めていた頃、新幹線の車内で居合わせた乗客とトラブルになり、暴力を振るったとかいった事件がありました。私は、その頃はまだ子供でしたが、「カッコいい」と思ったことを覚えています。
ダイヤモンドユカイのように、ロッカーはかくあるべしという考えを持つほどロックに通暁しているわけではありませんが、しかし、尖った人間というのはいつでも「カッコいい」のです。ミック・ジャガーは最近やや好々爺のようになってきましたが、70歳にもなってまだこのように尖った考えを持ち続けている沢田研二ってカッコいいじゃないかと思います。尖った考えというのは、言い換えれば気骨があるということです。気骨がある人間が「孤立無援」になるのは当たり前なのです。沢田研二が内田裕也やゴールデンカップスなど、先輩のロッカー達に可愛がられたのもわかる気がします。
私には、「ファンに失礼だ」「プロ意識に欠ける」などと、常にマジョリティの側に身を寄せて身も蓋もない言い方しかできない人間達が滑稽に見えて仕方ありません。彼らは、「私は愚鈍な大衆です」と白状しているようなものでしょう。そこには、寄らば大樹の陰、同調圧力を旨とする日本社会がデフォルメされているのです。まして、沢田研二の行為を(イベント会社の社員に対する)パワハラだなどと言っている手合いは愚の骨頂と言うべきでしょう。
私は、沢田研二のファンサイトに寄せられていた次のようなコメントに、今回の問題の本質が示されているように思いました。
Saoの猫日和
会見
ジュリーが一番納得いかないのは、イベント会社は9,000人客が入っていると言ったのに7,000人しか入ってなかった。この会場を予約したのは2~3年前で、そんなに集客出来なかったら自分はできないのでやらないと言っていたのにイベント会社サイドは大丈夫ですと言っていた。
当日ふたを開けたらやはり黒幕で覆っている場所が目立つ。約束がちがうではないか。
ジュリーは空席が目立つ集客ならやらないと言っていたのに、結局イベント会社に騙された形になったのに我慢ができなかったのではと思うのです。
それでもやるのがお客に対するプロだと言われればそうかもしれませんが、私はそれでこそジュリーだと思いました。
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