12日に行われた東大の入学式で、同大名誉教授の上野千鶴子氏が祝辞を述べたそうですが、その全文が朝日新聞デジタルに掲載されていました。

朝日新聞デジタル
東大生と言えない訳 上野千鶴子氏が新入生に伝えたこと

上野氏は、次のように述べていました。

 あなたたちはがんばれば報われる、と思ってここまで来たはずです。ですが、冒頭で不正入試に触れたとおり、がんばってもそれが公正に報われない社会があなたたちを待っています。

 そして、がんばったら報われるとあなたがたが思えることそのものが、あなたがたの努力の成果ではなく、環境のおかげだったこと忘れないようにしてください。あなたたちが今日、「がんばったら報われる」と思えるのは、これまであなたたちの周囲の環境が、あなたたちを励まし、背を押し、手を持ってひきあげ、やりとげたことを評価してほめてくれたからこそです。

 世の中には、がんばっても報われないひと、がんばろうにもがんばれないひと、がんばりすぎて心と体をこわしたひと……たちがいます。がんばる前から、「しょせんおまえなんか」「どうせわたしなんて」とがんばる意欲をくじかれるひとたちもいます。

 あなたたちのがんばりを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれないひとびとを貶(おとし)めるためにではなく、そういうひとびとを助けるために使ってください。そして強がらず、自分の弱さを認め、支え合って生きてください。


既にいろんなところで指摘されていますが、収入格差がそのまま教育格差につながっている現実があります。フェミニストの上野氏は男女差にウエイトを置いて話したようですが、男女差だけでなく貧富の差においても、「報われない社会」になっているのです。

ネットには次のような表がありました。これは、東大生の家庭の世帯年収の割合(2016年)を表にしたものです。

東大生世帯年収
※出典
年収ガイド
東大生の親の年収データ

表について、記事は次のように書いていました。

パーセンテージのみの数値で、具体的な金額が出ていないため確実な数字とは言えませんが、世帯年収で1000万円以上が平均になることは上の表から間違いないでしょう。
(略)
こちら(世帯の平均年収・所得)のデータでは、「児童のいる世帯」の平均所得は約700万円です。
この数字と比べると東大生の平均が約300万円以上も上回っていることがわかります。
以前から言われていることですが、やはり経済力と学力には相関関係があることが見て取れます。


ちなみに、世帯年収が1000万円以上の家庭の割合は、2016年で13.2%です。巷間言われるように、東大生は裕福な家庭の子弟が多いというのは、否定すべくもない事実なのです。

でも、それは意外な話ではありません。東大に行くには、幼少期から多大な教育投資が必要です。経済的に余裕がなければ、その資金も捻出できないのです。

一方で、日本社会も既に階層の固定化がはじまっており、東大生の親たちも高学歴で、大手企業や官庁の管理職が多いというデータもあります。それが「教育熱心」と「経済的な余裕」の背景なのでしょう。

東大生の出身地の割合を見ると、2018年度では関東出身者が59.7%(東京37.5%)を占めています。もっとも、早稲田や慶応はもっと偏っており、同じ2018年度で、早稲田が76.91%(東京37.99%)、慶応が77.0%(同41.22%)です。

東大研究室
合格者の出身地割合
慶大塾
慶應義塾大学 出身地区別志願者・合格者数
早大塾
早稲田大学 出身地区別志願者・合格者数

全国学力テストの結果などを見ると、義務教育時の学力は「地方の方が上」だそうです。しかし、その後の地域環境や教育投資の多寡によって進学先に差がついてしまうのです。

もとより地方では、今は進学も地元志向が主流になっています。それは、子どもを都会の大学に通わせるほど親の経済的な余裕がなくなったからです。

前も書きましたが、私は九州のそれなりの公立高校に通いましたが(私自身も中学を卒業すると親元を離れ、まちの学校に越境入学したのでした)、当時、東京の大学に進んだ同級生は100名以上いました(今でも50~60名の同級生が関東に居住しています)。しかし、現在、母校で東京の大学に進むのは10名もいません。

教育格差は、上の学校に行くかどうかというレベルだけでなく、こういった(目に見えない)部分でも広がっているのです。”上京物語”も今や昔の話なのです。

上野氏によれば、東大生ひとりに対して4年間で500万円の「国費」が投じられているそうです。こうやって教育においても、格差の世代連鎖が進むのです。

この冷酷な(としか言いようのない)現実を考えるとき、「あなたたちのがんばりを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください」という上野千鶴子氏のことばも、なんだかむなしく響いてくるような気がしないでもありません。


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