世間では今日からお盆休みですが、トレーニングのため、群馬県高崎市の榛名湖に行きました。榛名湖だと標高が高いので、熱中症の心配もないだろうと思ったのです。たしかに、平地に比べたら気温が低く(22〜3度くらいでした)快適でした。
まず東上線で終点の小川町まで行き、小川町でJR八高線に乗り換えて高崎に。高崎から榛名湖行きのバスに乗りました。早朝6時過ぎに東上線に乗り、榛名湖に着いたのは11時半過ぎでした。
榛名湖に行ったのは二度目で、前に行ったのは30年近く前です。前回は車でしたので、こうして電車とバスを乗り継いで行くのは初めてです。
東上線も八高線も榛名湖行きのバスも、お盆休みに入ったというのに結構混んでいました。八高線では、大きなバッグを持った帰省中とおぼしき乗客も目に付きました。
高崎に行ったのも、15年ぶりくらいです。昔、事情があって、当時親しくしていた女性と高崎で「逢引き」していたことがあり、その頃通っていました。
八高線の車内で、車の免許の高齢者講習を受けたばかりだという女性と隣合わせになり、四方山話をしていたら、彼女も山が好きでよく山登りに行くのだと言うのです。
「どんな山に行くのですか?」と尋ねたら、「2千メートル以上の山が多い」と言ってました。それで、「北アルプスなどにも行くのですか?」と訊いたら、「3年前に槍ヶ岳に行った」と言うのでびっくりしました。高齢者講習は70歳からなので、年齢は推して知るべしで、見た目も普通の高齢女性です。
「私も、最近、山歩きを再開したんですが、とにかく体力がなくて情けないですよ」と言ったら、「体力なんて山を歩けば自然に付きますよ」「登山は競争じゃないんだから自分のペースで歩けばいいんです。そうすれば誰でも頂上に着きますよ」と言ってました。けだし名言だと思いました。
「私はツアーは嫌いです。山に行くときは、いつも一人か、多くて二三人ですよ」と言ってました。
高崎駅から榛名湖行きのバスには、若い人も多く乗っていました。バスが山岳道路に入ってもそのまま乗っているので、私はてっきり彼らも榛名湖に行くものと思っていました。ところが、手前の榛名神社で全員降りたのでした。
私は、隣の席の女性に「榛名神社って若者に人気があるんですか?」と訊きました。
「ええ、パワースポットで有名なんですよ」
「パワースポット?」
「岩の間にお社があって見ごたえがありますよ。行ったことがないんですか?」
「はい」
「一度行ったらいいですよ。おすすめですよ」と言われました。
榛名湖はカルデラ湖で、周辺にいくつかの外輪山があります。その中でいちばん高い掃部ヶ岳(かもんがだけ)に登ることにしました。掃部ヶ岳は標高1449メートルですが、榛名湖自体が標高1000メートル以上ありますので、標高差は400メートル足らずです。頂上までは1時間ちょっとで登ることができますが、最初からきつい登りがつづくので思ったより息が上がりました。
20分くらい登ったら分岐点があり、山頂とは別に硯岩(すずりいわ)という方向への案内板がありました。行くと、硯岩は巨大な岩で、すぐ下は身がすくむような断崖絶壁でした。しかし、慎重に岩に登ると、眼下に榛名湖が見渡せ、絶景に感動しました。掃部ヶ岳の方は榛名湖方面の眺望がなく、がっかりしました。
途中ですれ違ったのは二人だけでした。硯岩の手前でヘトヘトになって登っていたら、上から降りてきた若者から「もう少しですよ。がんばって下さい」と言われました。
「上は景色がいいですよ」
「体力がなくて情けないよ」
「ハハハ」
「アナタなんか休憩しないで登れたの?」
「一応」
「オレなんか二回も休んだよ」
「自分は20代だからそのくらい当然ですよ」と言ってとっととと降りて行きました。
登山道には「熊出没注意」の看板があり、両側もクマザサで覆われていましたので、先日の”熊恐怖症”がよみがえってきました。
バス停の近くの食堂で道を尋ねた際、「熊は出ませんか?」と訊いたら、食堂のおばさんから「そんな話は聞いたことがない」と言われたのですが、登山道に入ったらさっそく「熊出没注意」の看板です。20代の若者にも「熊はいなかった?」と訊いたら、「ハハハ、いませんよ」と一笑に付されてしまいました。
山から降りたら、来たときとは反対側へ向かって、榛名湖のまわりを一周しました。5キロくらいありました。
湖畔ではあちこちで、家族連れなどがテントを張ったりテーブルを設置したりしてバーベキューをしていました。そんな光景を見るにつけ、家庭の幸福とは無縁な人間としては、幸せそうで羨ましいなとしみじみ思うのでした。
湖畔を一周してバス停の近くに戻り、最初に道を訊いた食堂でワカサギの天ぷら定食を食べました。九州の私の田舎にあるダムでもワカサギが釣れるので、ワカサギの天ぷらはなつかしい食べ物です。二十歳のとき、退院して実家に帰ったときも、時間を持て余したので、毎日のようにワカサギ釣りに行った思い出があります。
食堂のご主人に「今は書き入れ時でしょ? 人出はどうですか?」と訊いたら、「いや~、全然ですな」と言ってました。
「昔はこんなじゃなかった。もっと多かったですよ」
「たしかに、廃業したホテルなんかの建物も目に付きますね」
「そうです」
「今はどこに行っても外国人観光客がいますが、榛名湖にはあまりいませんね」
「交通の便が悪いからでしょ。車が主体なので、それがネックになっているんじゃないかな」
私も昔はどこに行くにも車でしたので、他人(ひと)のことはとやかく言えないのですが、こうして山に行ったりするようになると、山に車で来て何が面白いんだろう?と思ってしまいます。車から見る風景と歩いて見る風景は、まったく違います。息を切らして登るからこそ山の魅力があるのです。そうやって自然と向き合うことで、自然に対する畏敬の念を持つことができるのです。それがわからないのは不幸のような気がします。
「榛名湖は、あまりにも人工的になりすぎているんじゃないですか? 人工的なものが目立ちすぎますね。それが魅力を削いでいるような気がしますよ」と言ったら、食堂の主人は「うーん」と考え込んでいました。
マラソンやロードバイクや花火などのイベントを催して集客を狙っているようですが、発想が行政主導でステレオタイプなのです。群馬は名にし負う保守的な土地柄ですが、そういったことと関係があるのかもしれません。榛名湖もアスファルトばかりが目立ちます。トレッキングの客はあまりいません。まわりをアスファルトで塗り固められた湖が主役で、山は完全に後景に退いている感じです。
帰りは、高崎から湘南新宿ラインで横浜まで乗り換えなしで帰りました。奮発してグリーン席に乗ったのですが、ゴルフ帰りのサラリーマンたちが車内で宴会をはじめて散々でした。近くに座っていた乗客たちも、迷惑顔で席を移動していました。どうやら某都市銀行の行員たちのようで、昔よく耳にした銀行員と警察官の宴会はタチが悪いという話を思い出しました。







硯岩からの眺望

建物の上の山の突起した部分が硯岩






まず東上線で終点の小川町まで行き、小川町でJR八高線に乗り換えて高崎に。高崎から榛名湖行きのバスに乗りました。早朝6時過ぎに東上線に乗り、榛名湖に着いたのは11時半過ぎでした。
榛名湖に行ったのは二度目で、前に行ったのは30年近く前です。前回は車でしたので、こうして電車とバスを乗り継いで行くのは初めてです。
東上線も八高線も榛名湖行きのバスも、お盆休みに入ったというのに結構混んでいました。八高線では、大きなバッグを持った帰省中とおぼしき乗客も目に付きました。
高崎に行ったのも、15年ぶりくらいです。昔、事情があって、当時親しくしていた女性と高崎で「逢引き」していたことがあり、その頃通っていました。
八高線の車内で、車の免許の高齢者講習を受けたばかりだという女性と隣合わせになり、四方山話をしていたら、彼女も山が好きでよく山登りに行くのだと言うのです。
「どんな山に行くのですか?」と尋ねたら、「2千メートル以上の山が多い」と言ってました。それで、「北アルプスなどにも行くのですか?」と訊いたら、「3年前に槍ヶ岳に行った」と言うのでびっくりしました。高齢者講習は70歳からなので、年齢は推して知るべしで、見た目も普通の高齢女性です。
「私も、最近、山歩きを再開したんですが、とにかく体力がなくて情けないですよ」と言ったら、「体力なんて山を歩けば自然に付きますよ」「登山は競争じゃないんだから自分のペースで歩けばいいんです。そうすれば誰でも頂上に着きますよ」と言ってました。けだし名言だと思いました。
「私はツアーは嫌いです。山に行くときは、いつも一人か、多くて二三人ですよ」と言ってました。
高崎駅から榛名湖行きのバスには、若い人も多く乗っていました。バスが山岳道路に入ってもそのまま乗っているので、私はてっきり彼らも榛名湖に行くものと思っていました。ところが、手前の榛名神社で全員降りたのでした。
私は、隣の席の女性に「榛名神社って若者に人気があるんですか?」と訊きました。
「ええ、パワースポットで有名なんですよ」
「パワースポット?」
「岩の間にお社があって見ごたえがありますよ。行ったことがないんですか?」
「はい」
「一度行ったらいいですよ。おすすめですよ」と言われました。
榛名湖はカルデラ湖で、周辺にいくつかの外輪山があります。その中でいちばん高い掃部ヶ岳(かもんがだけ)に登ることにしました。掃部ヶ岳は標高1449メートルですが、榛名湖自体が標高1000メートル以上ありますので、標高差は400メートル足らずです。頂上までは1時間ちょっとで登ることができますが、最初からきつい登りがつづくので思ったより息が上がりました。
20分くらい登ったら分岐点があり、山頂とは別に硯岩(すずりいわ)という方向への案内板がありました。行くと、硯岩は巨大な岩で、すぐ下は身がすくむような断崖絶壁でした。しかし、慎重に岩に登ると、眼下に榛名湖が見渡せ、絶景に感動しました。掃部ヶ岳の方は榛名湖方面の眺望がなく、がっかりしました。
途中ですれ違ったのは二人だけでした。硯岩の手前でヘトヘトになって登っていたら、上から降りてきた若者から「もう少しですよ。がんばって下さい」と言われました。
「上は景色がいいですよ」
「体力がなくて情けないよ」
「ハハハ」
「アナタなんか休憩しないで登れたの?」
「一応」
「オレなんか二回も休んだよ」
「自分は20代だからそのくらい当然ですよ」と言ってとっととと降りて行きました。
登山道には「熊出没注意」の看板があり、両側もクマザサで覆われていましたので、先日の”熊恐怖症”がよみがえってきました。
バス停の近くの食堂で道を尋ねた際、「熊は出ませんか?」と訊いたら、食堂のおばさんから「そんな話は聞いたことがない」と言われたのですが、登山道に入ったらさっそく「熊出没注意」の看板です。20代の若者にも「熊はいなかった?」と訊いたら、「ハハハ、いませんよ」と一笑に付されてしまいました。
山から降りたら、来たときとは反対側へ向かって、榛名湖のまわりを一周しました。5キロくらいありました。
湖畔ではあちこちで、家族連れなどがテントを張ったりテーブルを設置したりしてバーベキューをしていました。そんな光景を見るにつけ、家庭の幸福とは無縁な人間としては、幸せそうで羨ましいなとしみじみ思うのでした。
湖畔を一周してバス停の近くに戻り、最初に道を訊いた食堂でワカサギの天ぷら定食を食べました。九州の私の田舎にあるダムでもワカサギが釣れるので、ワカサギの天ぷらはなつかしい食べ物です。二十歳のとき、退院して実家に帰ったときも、時間を持て余したので、毎日のようにワカサギ釣りに行った思い出があります。
食堂のご主人に「今は書き入れ時でしょ? 人出はどうですか?」と訊いたら、「いや~、全然ですな」と言ってました。
「昔はこんなじゃなかった。もっと多かったですよ」
「たしかに、廃業したホテルなんかの建物も目に付きますね」
「そうです」
「今はどこに行っても外国人観光客がいますが、榛名湖にはあまりいませんね」
「交通の便が悪いからでしょ。車が主体なので、それがネックになっているんじゃないかな」
私も昔はどこに行くにも車でしたので、他人(ひと)のことはとやかく言えないのですが、こうして山に行ったりするようになると、山に車で来て何が面白いんだろう?と思ってしまいます。車から見る風景と歩いて見る風景は、まったく違います。息を切らして登るからこそ山の魅力があるのです。そうやって自然と向き合うことで、自然に対する畏敬の念を持つことができるのです。それがわからないのは不幸のような気がします。
「榛名湖は、あまりにも人工的になりすぎているんじゃないですか? 人工的なものが目立ちすぎますね。それが魅力を削いでいるような気がしますよ」と言ったら、食堂の主人は「うーん」と考え込んでいました。
マラソンやロードバイクや花火などのイベントを催して集客を狙っているようですが、発想が行政主導でステレオタイプなのです。群馬は名にし負う保守的な土地柄ですが、そういったことと関係があるのかもしれません。榛名湖もアスファルトばかりが目立ちます。トレッキングの客はあまりいません。まわりをアスファルトで塗り固められた湖が主役で、山は完全に後景に退いている感じです。
帰りは、高崎から湘南新宿ラインで横浜まで乗り換えなしで帰りました。奮発してグリーン席に乗ったのですが、ゴルフ帰りのサラリーマンたちが車内で宴会をはじめて散々でした。近くに座っていた乗客たちも、迷惑顔で席を移動していました。どうやら某都市銀行の行員たちのようで、昔よく耳にした銀行員と警察官の宴会はタチが悪いという話を思い出しました。







硯岩からの眺望

建物の上の山の突起した部分が硯岩





