朝日新聞の「耕論」が、今メディアを覆っている「嫌韓論」を取り上げていました。メディアの「嫌韓論」は、まさに坊主憎けりゃ袈裟まで憎い式にエスカレートするばかりで、常軌を逸した感さえあります。

朝日新聞デジタル
(耕論)嫌韓論の正体 鈴木大介さん、安倍宏行さん、木村幹さん

曺国(チョ・グク)法相の家族を見舞ったスキャンダルは、韓国の歴代政権の周辺ではよくある「おなじみの話」で、言うなれば“恒例行事”のようなものです。起訴権だけでなく捜査権も独占する韓国の検察は、そうやって自分たちの“省益”に背く政治家たちを追い落として、“国家内国家”のような、文字通り検察ファッショとも言うべき巨大な力を持つようになったのでした。そんな民主主義国家にあるまじき検察の巨大権力は、軍事独裁政権時代の残滓でもあるのです。

検察改革の急先鋒であった曺国(チョ・グク)法相は、家族のスキャンダルによって、僅か35日で辞任に追い込まれたのですが、日本のメディアは、辞任の本質に触れることなく、ただ文在寅大統領に対して「ざまあみろ!」と罵声を浴びせるばかりでした。文在寅政権が取り組む検察改革についても、正面から取り上げる姿勢など皆無でした。

どうしてこんな、「事実に基づかず、隣国を面白おかしく叩(たた)く」痴呆的な「嫌韓論」がメディアに蔓延しているのか。神戸大学教授の木村幹氏は、次のように分析していました。

 以前は中国、北朝鮮、韓国の3カ国が「反日トライアングル」と呼ばれていました。しかし中国については、相手の国力の方が強くなり、攻撃が消えました。北朝鮮についても「日本が叩けば相手が折れるはず」との想定が外れ、効果がないことが分かると、あきられてしまいました。

 韓国だけが残っているのは「日本が叩けば折れるはず」といまだに思っているからでしょう。韓国をさげすむ言説の裏に見えるのは「日本は(韓国とは違って)先進国だ」と自負したい心情です。アジア最大の経済大国という地位を失い、中国に抜かれた日本にとって、いまや「追い抜かれたくない国」の代表が韓国でもあるのでしょう。


日本のメディアは、韓国が日本政府の制裁措置で、経済的に苦境に陥っているかのように言い立てています。まるで、日本から兵糧攻めに遭っているかのように妄想するのでした。そして、韓国政府が、本音では「折れたがっている」、「ごめんなさい。許して下さい」と謝りたがっているかのように言うのです。でも、それは、あくまで「そうだったらいいなあ」という希望的観測にすぎません。

木村氏が言うように、今や韓国は世界12位の経済大国です。しかも、対外貿易額の中で、日本が占める割合は僅か7%にすぎません。日本人が思っているほど(寝ても覚めても「韓国が・・・・」「韓国が・・・・」と言っている人たちには、信じたくないことかもしれませんが)、韓国にとって日本は、貿易が停滞して困るような相手ではないのです(なくなっているのです)。

今年の4月、経団連の研究機関が,日本の1人当たり国内総生産(GDP)が2030年までに韓国に抜かれるという長期予測を発表して話題になりましたが、韓国に追い抜かれて先進国から転落するかもしれないという焦りが今のような痴呆的な「嫌韓論」に向かっているというのは、その通りかもしれません。

私は、ラグビーも好きで、(このブログでも書きましたが)国立最後の早明戦も観に行ったほどですが、しかし、今のワールドカップでの、ラグビーに関係のないことまでも、世界中のラグビーファンから称賛されリスペクトされているというような「ニッポン凄い!」の報道には、さすがにうんざりさせられます。逆に、ワールドカップに対して興ざめするほどです。台風の被害に遭った人々が、日本代表から「元気」をもらった(日本代表が「元気」を与えた)などという報道には、何をか言わんやです。そういった「ニッポン凄い!」の自演乙も、坂を下る国の焦りから来ているように思えてなりません。やたら「元気」や「勇気」をもらいたがっている(与えたがっている)ような報道も、自信のなさの表れなのかもしれません。

また、「耕論」では触れられていませんが、安倍政権が元徴用工裁判の報復のために、輸出管理の厳格化の制裁措置をとった途端に、「嫌韓論」が再燃しメディアを覆うようになったという事実も忘れてはならないでしょう。「嫌韓論」には、そういった翼賛報道の側面もあるのです。むしろ、そっちの方が日本にとって大きな問題と言えるでしょう。


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2019.10.19 Sat l 社会・メディア l top ▲