一昨日、箱根の金時山に登りました。金時山は、金太郎伝説で有名な山です。麓には、金太郎のモデルになったと言われている平安時代の武将・坂田公時を祭る公時神社(金時神社)があります。

行きは、新宿バスタから小田急の高速バスを利用しました。高速バスは、箱根側の登山口である「乙女峠」「金時神社入口」「金時登山口」のいづれにもバス停があり、都内から金時山に登るにはとても便利です。新宿からは2時間ちょっとで着きました。料金も1800円と格安です。ただ、往復ではなく、帰りに別の交通手段をとるとなると、(後述するように)台風19号の影響で箱根登山鉄道が運休しているため、代行バスに乗る方法(運行ルート)が複雑で苦労することになります。

ネットで調べたら、「金時登山口」の矢倉沢ルートが登山者がいちばん少ないそうなので、「金時登山口」から登ることにしました。「金時登山口」のバス停から仙石原の別荘地の中を15分くらい歩くと登山道の入口がありました。ネットに書いていたとおり、私以外は誰も歩いていません。「金時神社入口」の公時神社ルートと合流するまですれ違ったのは一人だけでした。

しかし、公時神社ルートと合流すると、登山道はいっきに賑やかになりました。私は、このブログを読むとわかると思いますが、腹の中は真っ黒なのに、表向きは気さくで愛想がよいので(でも、ホントは人間嫌い)、登山道で出会った人たちともすぐ打ち解けてバカ話をしながら登りました。でも、それも一時(いっとき)で、やがて置いておかれるのでした。「後半に強い」はずのアミノバイタルもまったく効果がありません。後半バテバテになるのが私の大きな課題です。それには、サプリに頼るのではなく、地道に鍛錬するしかないのでしょう。

30年ぶりに山に登ったという74歳の人にも、付いて行くことができませんでした。その人は、山に行くのにどんな格好をするかわからないので、普通のズボンをはいてきたと言っていましたが、そんな人にも置いておかれたのです。もっとも、毎日5キロ走っているそうで、「やっぱり走っていると違うのかな」と言っていました(おそらくそれは、私と比べての発言だと思います)。

若いカップルとはトレランシューズの話で盛り上がったのですが、やがて置いておかれました。私から見れば、彼らは文字通り岩から岩を飛び跳ねて行く天狗のようでした。

金時山の頂上からの景色には目を見張るものがありました。雲ひとつない快晴でしたので、雪を頂いた富士山もまるで絵画のようにくっきりと目の前に聳えているのでした。また、大涌谷や芦ノ湖、遠くには南アルプスや駿河湾まで見渡せました。

今まで登った山の中では、眺望はピカイチでした。初めて頂上に立った人は、(晴れていることが前提ですが)目の前に現れた雄大な景色に「おおっ」と感嘆の声を上げることでしょう。スニーカーで登ってきた若い女の子の二人連れも、頂上に着くなり「すごい!」「すごい!」と感動した様子でした。

私は、登る途中で顔見知りになった人から記念写真のシャッターを押すのを頼まれ、写真屋の息子なので、「いいですかぁ、行きますよ」「笑って下さい」「じゃあ、もう一枚行きます」などとサービス精神旺盛にやっていたら、「私もお願いします」「私も」とつぎつぎに頼まれて、さながら記念写真の係のようになりました。

頂上はあまり広くなく、それに頂上に設置されたベンチには、頂上にある2軒の茶屋がそれぞれ「営業用」の貼り紙をベタベタと貼ってあり、茶屋を利用しない登山客が勝手に利用すると叱られるらしいので(結構有名な話)、登山客たちは岩場に座って休憩したり弁当を食べたりしていました。

金時山は、国立公園の中にあるれっきとした国有地です。ベンチを設置したのは茶屋かもしれませんが、土地は茶屋の所有ではないのです。事情を知らない登山者が利用したからと言って、「叱る」などというのはおかしな話です。

私も岩場に座ってしばらく景色を眺めました。バスの中で昼食用のおにぎりを食べてしまったので、昼食がありません。登山口のバス停の前にコンビニがあるので、そこで買えばいいやと思っていたのですが、なんとコンビニは閉店していました。かと言って、頂上の茶屋で昼食を食べる気にはなりません。まわりでは持参した弁当を食べたり、ガスバーナーでお湯を沸かしてカップ麺を食べたりしていましたが、私は水を飲んで我慢しました。

金時山のいいところは若い登山者が多いということです。もちろん、中高年もいますが、ほかの山のように、中高年で溢れるという感じではありません。若い人がいると、なんだか華やいだ雰囲気に包まれ、いいなあと思いました。後半地味にきついところはありますが、大山などに比べたら間違いなく「初心者向け」の山と言えるでしょう。箱根観光のついでに、トレッキング感覚で登るのもありなのではないかと思いました。

しかし、今回の私の目的は金時山だけではありません。もうひとつの目的は、仙石原のすすきを見ることでした。

距離的には近いはずですが、すすきが群生する草原にどう行けばいいのかわらないので、地元の人に訊いたら、とても親切に教えてくれました。

企業の保養所などが並ぶ一帯をぬけると、目当ての草原が見えてきました。ただ、実際に行くとちょっとがっかりしました。この程度の草原なら、私の田舎にはいくらでもあります。それに、台風の被害を受けたのか、舗道の工事をしていたため、交互通行の車道の端を歩かなければならず、ゆっくりすすきを堪能することもできませんでした。観光客も少ないようで、午後2時すぎなのに、既に店じまいしている蕎麦屋もありました。

なんと言っても、箱根登山鉄道が運休している影響は大きいのです。すすきの草原にある「仙石高原」のバス停から小田原に降りて、小田原経由で帰ろうと思っていたのですが、まず道路の両側にあるバス停のどっちから乗るのかもわからないのでした。私は、サラリーマン時代、彫刻の森美術館を担当していましたので箱根にはよく来ていましたが、いつも車でしたのでバスにもケーブルカーにも乗ったことはないのでした。

バス停では10人くらいの人がバスを待っていました。日本人だけでなく外国人観光客もいました。でも、バス停の表示を見ると、どうも小田原方面とは違うようです。私は、道を渡って向かいのバス停に行きました。すると、そこに「強羅経由小田原行」の表示がありました。時間を見ると15分後に来るようになっています。横に屋根付きの待合所がありましたので、そこでバスを待つことにしました。しばらくすると、向かいのバス停に待っていた人たちも、道を渡ってこっちへやって来ました。大半は女性でしたが、彼女たちも「強羅経由小田原行」に乗りたいみたいで間違いに気付いたのでしょう。

そのうち、バス停に次々と人がやって来て20人くらいになりました。でも、時間になってもバスはやって来ません。10分すぎ20分すぎてもやって来ません。何台かやって来たのですが、「強羅経由小田原行」ではありません。

バスを待つ人たちは増える一方です。日本人のおばさんのグループも、しびれを切らして「おかしいよね」と言い出しました。

私は、「登山鉄道が運休しているので、強羅かどこかから代行のバスが出ているはずなんだけど、バス停にはそのことがまったく書いてないんでわからないんですよ」と言いました。すると、おばさんたちも「どうなっているの」「これじゃわからないわよ」と口々に言っていました。

「『強羅経由小田原行』のバスがあれば、直接小田原に行けるんじゃないかと思っているんですが、肝心の『強羅経由小田原行』が来ないんですよ」
「ホント、全然来ないじゃない」と憤慨していました。

そうこうするうちに、また行先不明の(よくわからない行先の)バスが来ました。私は、乗車口に行って、「路線バスの旅」の太川陽介のように(いや、見た目は蛭子さんか)、運転手に「小田原に行くにはどうすればいいんですか?」と訊きました。すると、運転手は、「二つ目のバス停で降りて、向かいのバス停で待っていれば宮城野営業所行きのバスが来ますので、それに乗って強羅駅か宮城野営業所で降りれば代行バスに乗り替えることができます」と言うではありませんか。

それで、私は、バス停で待っている迷える仔羊たちに向かって、「これに乗ればいいらしいですよ」と言いました。バスの中でも、おばさんパワーがさく裂して、「まったくどうなっているのよ」「ホントにわかりにくいわよ」「箱根登山バスって不親切よね」と口々に不満をぶちまけるので、バスの乗客たちはキョトンとした顔で、一同(その中には私も含まれる)を見ていました。

二つ目のバス停が近づいて来たので、私は車内に響き渡るような大きな声で、「次で降りますよ」と言いました。いつの間にか添乗員のようになっている自分がいました。バス停を降りると、「あっちですよ」と道路の反対側を指差して案内する始末です。私の後ろを20人くらいの多国籍の人間たちが、ゾロゾロ付いて道路を渡り、目指すバス停に向かっていました。

「こりゃ、バスガイドが持っているような旗が必要ですね」と冗談を言ったら、おばさんたちもゲラゲラ笑っていましたが、それでも冷静に、「でもね。道の反対側のバス停だとまた来た道を引き返すことになるんじゃないの?」と言うのです。言われてみればそうです。「まったくわけがわかんない」「どうなっているの」と再びおばさんパワーがさく裂していました。

しかし、バスは引き返すわけではなく、途中で違う道に曲がったのでした。そして、九折の山道をしばらく走ると強羅に着きました。強羅に着くと、バスの運転手が、「箱根湯本や小田原に行くのなら、宮城野営業所の方が代行バスが多く出ていますので、宮城野営業所まで行った方がいいですよ」と言うのです。それで、宮城野営業所まで行くと、そこから代行バスが始発で出ており、やっと小田原まで降りることができたのでした。

日本人でも戸惑うくらいだから、外国人観光客たちは余計そうでしょう。おばさんたちが言うように、バス停に代行バスの案内がまったく出ていないのには、呆れるばかりでした。

バスに乗っていた外国人観光客の中では、アジア系の若者、それもカップルが目立ちましたが、彼らを見ていると、日本の若者たちより全然マナーがいいのでした。おばさんたちがバスに乗ると、次々と席を立って席を譲ろうとするのです。おばさんと言っても50~60代で、席を譲る対象の年齢ではありません。

また、バスでは「車内での飲食はまわりの迷惑になりますので、ご遠慮ください」というアナウンスが数か国語でくり返し流されていました。でも、そんなアナウンスにお構いなしにバリバリお菓子などを食べているのは日本人の若者ばかりで、外国人観光客は誰ひとりものを食べている人間はいませんでした。それどころか、気の強そうな女の子は、口をもぐもぐさせている日本人の若者を睨みつけていました。

「ニッポン凄い!」と自演乙している間に、経済的にアジアの国からキャッチアップされ、さらに品格やマナーの点でも、アジアの同世代の若者から軽蔑の眼差しで見られるまでになっているのです。日本に観光旅行にやって来て、箱根観光を満喫しているアジアの若者たちは、少なくとも日本の平均的な若者たちより豊かであるのは間違いないでしょう。衣食足りて礼節を知っているのは、むしろ彼らの方なのです。それは、「ニッポン凄い!」の人間たちには見たくない現実かもしれません。

帰りのバスに気を揉んでウロウロしたことですっかり疲れてしまいました。金時山より疲れました。このところ、丹沢の表尾根に金時山と人気の山に行きましたので、今度は誰にも会わないような山行をしたいと思いました。そして、もっとのんびり山を歩きたいと思いました。


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2019.11.08 Fri l l top ▲