昨日、奥多摩の三頭山(みとうさん)へ行きました。三頭山は、標高1531メートルで、東京都檜原村の都民の森に登山口があり、奥多摩でも人気の山です。
JR中央線の立川駅で青梅線に乗り換えて、武蔵五日市駅で下車。武蔵五日市から都民の森まではバスで75分かかります。しかも、都民の森へ直通する「急行」は一日に二便しかありません。そのほかは、都民の森の一つ手前の「数馬(温泉)」までしか行きません(数馬からも登ることができる)。
朝、8時すぎの都民の森行きのバス停には、早くも登山者の行列ができていました。ただ、平日で、しかも紅葉も峠を越したので臨時便が出るほどではなく、出発時の座席は9割程度埋まった状態でした。
バスの終点の都民の森には、自然体験のためのいろんな施設があり、森の中を周回できるように遊歩道も整備されています。
最初は、ウッドチップが敷き詰められた遊歩道を歩きました。非常に歩きやすい贅沢な道でした。30分くらい歩くと、三頭大滝という滝に出ました。遊歩道は三頭大滝までで、そこから登山道になります。
三頭の滝からの登山道は、「ブナの路コース」と「深山の路(石山の路)コース」の二つに分かれます。しかし、登りでは「ブナの路コース」を選択する登山者が多いようです。私も「ブナの路コース」をナビに入れていたのですが、人間嫌いの性(さが)と言うべきか、急遽人が少ない「深山の路コース」に変更しました。都民の森のサイトによれば、大沢山を経由する「深山の路コース」は、「ブナの路コース」に比べて少し大回りになり、山行時間が長いということでした。
山頂には2時間弱で着きました。三頭山には東峰・中央峰・西峰の三つのピークがあり、それで三頭と言われるのですが、着いたのは西峰でした。西峰が三頭の中ではいちばん広いようですが、それでも、腰を降ろす場所を探すのも困るくらい多くの登山者が休憩していました。しかし、眺望は期待したほどではありません。端っこの岩の上に座ってサンドイッチを食べたあと、早々に下山することにしました。
帰りは、都民の森と反対側のヌカザス尾根を通って奥多摩湖へ下山することに決めていました。奥多摩湖の浮橋を通ってみたいと思っていたからです。ただ、このヌカザス尾根のコースは、奥多摩屈指の急登と言われているコースです。
ふと、横を見ると、「鶴峠方面」という標識が目に入りました。頂上の手前に「奥多摩湖方面」の標識があったのはわかっていましたが、下山コースの中に鶴峠の地名があったのを思い出し、私はなんのためらいもなく、「鶴峠方面」の道を下って行きました。
30分くらい下ったところで、下から登ってくる初老の男性に会いました。私は、「下の奥多摩湖から登ってきたのですか?」と声をかけました。
「奥多摩湖?」
「はい」
「全然違いますよ」
「エエッ、ここを下ると奥多摩湖に行くんじゃないですか?」
「奥多摩湖は向こうの尾根ですよ」と隣の尾根の方を指差すではありませんか。
「地図を持っていますか?」と訊かれたので、ザックから地図を出すと、地図を地面に広げて丁寧にルートを説明してくれました。男性は、かなりの熟達者のようで、山梨の上野原から来たけど、正規のルートではないバリエーションルートを登ってきたと言ってました。
「でも、戻るのは面倒臭いので、このまま鶴峠の方へ下りようかな」と私が言うと、「いや、最初に決めたルートを歩いた方がいいですよ。それが山の鉄則ですよ」とたしなめられて、「一緒に山頂に戻りましょう。そして、もう一度、下り直した方がいいですよ」と言われました。
私は、山頂まで男性と一緒に戻り、男性にお礼を言うと、山頂の手前にある「奥多摩湖方面」の標識に従って、当初の予定であるヌカザス尾根コースを再び下りはじめました。
あとでネットで調べると、私と同じように間違って「鶴峠方面」の標識を下った人が結構いることがわかりました。登山サークルのパーティも間違ったと書いていました。
と言うのも、ヌカザス尾根コースの途中に、「鶴峠分岐」というチェックポイントがあるのです。それで、(私もそうでしたが)「鶴峠」に聞き覚えがあるので勘違いするみたいです(ただ、「分岐」とあるように、鶴峠から「鶴峠分岐」の方に行けば、ヌカザス尾根に合流することもできるみたいです)。
奥多摩湖に下りるヌカザス尾根コースは、名にし負う急登でした。ツネさんというおばあさんが泣きながら登ったという「ツネ泣きの坂」なんていうのもありました。浮石が多く、しかも、その上に落ち葉が積もっているので滑りやすくて、私も三回転倒しました(と言っても、尻もちを付いた程度ですが)。
登って来る人は少なく、すれ違ったのはオランダ人の4人グループと、あとはソロの男性と女性の三組だけでした。訊けば、ヌカザス尾根を登るのはみんな初めてだそうで、「想像以上にきつかったです」と口を揃えて言ってました。
下りでは、一人から追い抜かれました。若者でしたが、「すごく滑りますね」と言いながらも、ズルッズルッと半分滑りながらスピードを落とすことなく下りて行くのでした。へっぴり腰の私から見れば、信じられないようなバランス感覚で、あっと言う間に見えなくなりました。
山に登っていて若者が羨ましいなと思うのは、このバランス感覚です。年齢とともに体力が衰えるのは当たり前ですが(それは心肺能力の差にてきめんに表れる)、バランス感覚も寄る年端には勝てないのです。中高年登山者に転倒事故や滑落事故が多いのもむべなるかなと思います。年を取って山に登ると、このような(絶対に越えられない)”年齢の壁”を痛感させられるのも事実です。
途中で何回か、登り返しがあるのですが、登りがあるとホッとする自分がいました。登山の場合、(私もそうでしたが)最初は登りに苦手意識を持つ人が多く、すぐ息が上がったりするのが悩みの種になるのですが、でも、考えればみれば、登りはきついだけなのです。登りだからきついのは当たり前なのです。きつければ休めばいいだけの話です。
やっかいなのは下りの方です。岩を登るのも、登りより下りの方が神経を使います。事故の80パーセント(だったか?)が下りで発生しているというのはよくわかります。転倒や滑落だけでなく道迷いも、下りの方が圧倒的に多いそうです。
私は、完全に足に来ました。転倒してもすぐに立ち上がれないほどでした。こんなに足に来たのも初めてで、文字通りヘロヘロになりました。下山するのに3時間半くらいかかりましたが、午後4時をすぎ陽が傾いてきたので、ヘッドランプを首にかけ、いつでも点灯できるようにして下りました。
幸いにも陽があるうちに下山することができましたが、奥多摩湖の浮橋への階段を下るのも足がガクガクして難儀するほどでした。
バス停は浮橋を渡った対岸にあり、そこから青梅線の終点の奥多摩駅に行くのですが、バスの時刻表を見ると、10分前に出たばかりでした。しかも、次は2時間近くあとです。思わずヒッチハイクをしようかと思ったほどでした。
そうするうちに陽が落ちて暗くなってきました。私は、バス停から少し離れた家の前に古いベンチがあるのに気付き、そこに座って次のバスを待つことにしました。
奥多摩湖のあたりも標高が高いので、陽が落ちると冷えてきます。私は、パーカーの下にフリースを着て寒さを凌ぐことにしました。
と、そのとき、ベンチの前の家の玄関に灯りが点いて、中年の男性が出てきたのでした。
「バスに乗り遅れたんですか?」
「はい」
「だったら、そこのトンネルをぬけて橋を渡った先に、もうひとつ別のバス停があるんですが、そこに行くと、あと15分後に来るバスがありますよ」
「エエッ、そうなんですか?」
「そう、一日に三便しかないんだけど、ちょうど来るバスがありますよ。歩いても5分くらいだから間に合いますよ」
「ありがとうございます! 助かりました!」
と私はお礼を言って、教えられたバス停に向かったのでした。
奥多摩駅から青梅で中央線の新宿行きに乗り替え、いつものように途中の拝島で再度八高線に乗り替えて八王子に向かい、八王子から横浜線で帰って来ました。自宅に着いたのは午後8時すぎでした。
ひどく疲れましたが、しかし、他人(ひと)の親切に助けられた山行でした。と同時に、反省点の多い山行でもありました。

都民の森の入口


立派な看板


下はまだ紅葉が残っていました。


チップが敷き詰められた歩きやすい遊歩道




三頭の大滝

滝の感想は割愛します。

滝を見るための吊り橋

登山道に入りました。

大好きな尾根道



途中、立派な避難小屋もありました。


最後の階段を上ると山頂です。

山頂(西峰)

山頂からの眺望

立派な石造りの山頂標識。標識にお金をかけるのなら、その分ベンチを増やしてほしいという声がありましたが、同感です。


下山してすぐの巻き道には、まだ霜柱が残っていました。

最初はこんな尾根道でルンルン気分でしたが‥‥。



ヌカザス山(糠指山)

急登。以後、下まで写真はありません。疲労と日没の焦りで写真どころではなかった。

下に下りたら、再び紅葉。

奥多摩湖。都民の水がめの小河内ダムでできた人造湖です。


浮橋


バスを待つ間にスマホで撮りました。すっかり暗くなった。
JR中央線の立川駅で青梅線に乗り換えて、武蔵五日市駅で下車。武蔵五日市から都民の森まではバスで75分かかります。しかも、都民の森へ直通する「急行」は一日に二便しかありません。そのほかは、都民の森の一つ手前の「数馬(温泉)」までしか行きません(数馬からも登ることができる)。
朝、8時すぎの都民の森行きのバス停には、早くも登山者の行列ができていました。ただ、平日で、しかも紅葉も峠を越したので臨時便が出るほどではなく、出発時の座席は9割程度埋まった状態でした。
バスの終点の都民の森には、自然体験のためのいろんな施設があり、森の中を周回できるように遊歩道も整備されています。
最初は、ウッドチップが敷き詰められた遊歩道を歩きました。非常に歩きやすい贅沢な道でした。30分くらい歩くと、三頭大滝という滝に出ました。遊歩道は三頭大滝までで、そこから登山道になります。
三頭の滝からの登山道は、「ブナの路コース」と「深山の路(石山の路)コース」の二つに分かれます。しかし、登りでは「ブナの路コース」を選択する登山者が多いようです。私も「ブナの路コース」をナビに入れていたのですが、人間嫌いの性(さが)と言うべきか、急遽人が少ない「深山の路コース」に変更しました。都民の森のサイトによれば、大沢山を経由する「深山の路コース」は、「ブナの路コース」に比べて少し大回りになり、山行時間が長いということでした。
山頂には2時間弱で着きました。三頭山には東峰・中央峰・西峰の三つのピークがあり、それで三頭と言われるのですが、着いたのは西峰でした。西峰が三頭の中ではいちばん広いようですが、それでも、腰を降ろす場所を探すのも困るくらい多くの登山者が休憩していました。しかし、眺望は期待したほどではありません。端っこの岩の上に座ってサンドイッチを食べたあと、早々に下山することにしました。
帰りは、都民の森と反対側のヌカザス尾根を通って奥多摩湖へ下山することに決めていました。奥多摩湖の浮橋を通ってみたいと思っていたからです。ただ、このヌカザス尾根のコースは、奥多摩屈指の急登と言われているコースです。
ふと、横を見ると、「鶴峠方面」という標識が目に入りました。頂上の手前に「奥多摩湖方面」の標識があったのはわかっていましたが、下山コースの中に鶴峠の地名があったのを思い出し、私はなんのためらいもなく、「鶴峠方面」の道を下って行きました。
30分くらい下ったところで、下から登ってくる初老の男性に会いました。私は、「下の奥多摩湖から登ってきたのですか?」と声をかけました。
「奥多摩湖?」
「はい」
「全然違いますよ」
「エエッ、ここを下ると奥多摩湖に行くんじゃないですか?」
「奥多摩湖は向こうの尾根ですよ」と隣の尾根の方を指差すではありませんか。
「地図を持っていますか?」と訊かれたので、ザックから地図を出すと、地図を地面に広げて丁寧にルートを説明してくれました。男性は、かなりの熟達者のようで、山梨の上野原から来たけど、正規のルートではないバリエーションルートを登ってきたと言ってました。
「でも、戻るのは面倒臭いので、このまま鶴峠の方へ下りようかな」と私が言うと、「いや、最初に決めたルートを歩いた方がいいですよ。それが山の鉄則ですよ」とたしなめられて、「一緒に山頂に戻りましょう。そして、もう一度、下り直した方がいいですよ」と言われました。
私は、山頂まで男性と一緒に戻り、男性にお礼を言うと、山頂の手前にある「奥多摩湖方面」の標識に従って、当初の予定であるヌカザス尾根コースを再び下りはじめました。
あとでネットで調べると、私と同じように間違って「鶴峠方面」の標識を下った人が結構いることがわかりました。登山サークルのパーティも間違ったと書いていました。
と言うのも、ヌカザス尾根コースの途中に、「鶴峠分岐」というチェックポイントがあるのです。それで、(私もそうでしたが)「鶴峠」に聞き覚えがあるので勘違いするみたいです(ただ、「分岐」とあるように、鶴峠から「鶴峠分岐」の方に行けば、ヌカザス尾根に合流することもできるみたいです)。
奥多摩湖に下りるヌカザス尾根コースは、名にし負う急登でした。ツネさんというおばあさんが泣きながら登ったという「ツネ泣きの坂」なんていうのもありました。浮石が多く、しかも、その上に落ち葉が積もっているので滑りやすくて、私も三回転倒しました(と言っても、尻もちを付いた程度ですが)。
登って来る人は少なく、すれ違ったのはオランダ人の4人グループと、あとはソロの男性と女性の三組だけでした。訊けば、ヌカザス尾根を登るのはみんな初めてだそうで、「想像以上にきつかったです」と口を揃えて言ってました。
下りでは、一人から追い抜かれました。若者でしたが、「すごく滑りますね」と言いながらも、ズルッズルッと半分滑りながらスピードを落とすことなく下りて行くのでした。へっぴり腰の私から見れば、信じられないようなバランス感覚で、あっと言う間に見えなくなりました。
山に登っていて若者が羨ましいなと思うのは、このバランス感覚です。年齢とともに体力が衰えるのは当たり前ですが(それは心肺能力の差にてきめんに表れる)、バランス感覚も寄る年端には勝てないのです。中高年登山者に転倒事故や滑落事故が多いのもむべなるかなと思います。年を取って山に登ると、このような(絶対に越えられない)”年齢の壁”を痛感させられるのも事実です。
途中で何回か、登り返しがあるのですが、登りがあるとホッとする自分がいました。登山の場合、(私もそうでしたが)最初は登りに苦手意識を持つ人が多く、すぐ息が上がったりするのが悩みの種になるのですが、でも、考えればみれば、登りはきついだけなのです。登りだからきついのは当たり前なのです。きつければ休めばいいだけの話です。
やっかいなのは下りの方です。岩を登るのも、登りより下りの方が神経を使います。事故の80パーセント(だったか?)が下りで発生しているというのはよくわかります。転倒や滑落だけでなく道迷いも、下りの方が圧倒的に多いそうです。
私は、完全に足に来ました。転倒してもすぐに立ち上がれないほどでした。こんなに足に来たのも初めてで、文字通りヘロヘロになりました。下山するのに3時間半くらいかかりましたが、午後4時をすぎ陽が傾いてきたので、ヘッドランプを首にかけ、いつでも点灯できるようにして下りました。
幸いにも陽があるうちに下山することができましたが、奥多摩湖の浮橋への階段を下るのも足がガクガクして難儀するほどでした。
バス停は浮橋を渡った対岸にあり、そこから青梅線の終点の奥多摩駅に行くのですが、バスの時刻表を見ると、10分前に出たばかりでした。しかも、次は2時間近くあとです。思わずヒッチハイクをしようかと思ったほどでした。
そうするうちに陽が落ちて暗くなってきました。私は、バス停から少し離れた家の前に古いベンチがあるのに気付き、そこに座って次のバスを待つことにしました。
奥多摩湖のあたりも標高が高いので、陽が落ちると冷えてきます。私は、パーカーの下にフリースを着て寒さを凌ぐことにしました。
と、そのとき、ベンチの前の家の玄関に灯りが点いて、中年の男性が出てきたのでした。
「バスに乗り遅れたんですか?」
「はい」
「だったら、そこのトンネルをぬけて橋を渡った先に、もうひとつ別のバス停があるんですが、そこに行くと、あと15分後に来るバスがありますよ」
「エエッ、そうなんですか?」
「そう、一日に三便しかないんだけど、ちょうど来るバスがありますよ。歩いても5分くらいだから間に合いますよ」
「ありがとうございます! 助かりました!」
と私はお礼を言って、教えられたバス停に向かったのでした。
奥多摩駅から青梅で中央線の新宿行きに乗り替え、いつものように途中の拝島で再度八高線に乗り替えて八王子に向かい、八王子から横浜線で帰って来ました。自宅に着いたのは午後8時すぎでした。
ひどく疲れましたが、しかし、他人(ひと)の親切に助けられた山行でした。と同時に、反省点の多い山行でもありました。

都民の森の入口


立派な看板


下はまだ紅葉が残っていました。


チップが敷き詰められた歩きやすい遊歩道




三頭の大滝

滝の感想は割愛します。

滝を見るための吊り橋

登山道に入りました。

大好きな尾根道



途中、立派な避難小屋もありました。


最後の階段を上ると山頂です。

山頂(西峰)

山頂からの眺望

立派な石造りの山頂標識。標識にお金をかけるのなら、その分ベンチを増やしてほしいという声がありましたが、同感です。


下山してすぐの巻き道には、まだ霜柱が残っていました。

最初はこんな尾根道でルンルン気分でしたが‥‥。



ヌカザス山(糠指山)

急登。以後、下まで写真はありません。疲労と日没の焦りで写真どころではなかった。

下に下りたら、再び紅葉。

奥多摩湖。都民の水がめの小河内ダムでできた人造湖です。


浮橋


バスを待つ間にスマホで撮りました。すっかり暗くなった。