
新宿駅~奥多摩駅~【本仁田山】~鳩ノ巣駅~青梅駅~立川駅~武蔵小杉駅
※山行時間:約6.5時間(休憩等含む)
※山行距離:約8.5キロ
※標高差:875m
※山行歩数:約24,000歩
※交通費:2,776円
昨日(17日)の日曜日、本仁田山(ほにたやま・1224.5m)の大休場尾根(おおやすんばおね)に登りました。
大休場尾根は、山と渓谷社のガイドブックで、「涸沢と北穂高との標高差に匹敵する」と書かれているくらいの名にし負う急登で、奥多摩三大急登に数えられています。
尚、奥多摩の山で、平均勾配(斜度)が20度以上の急登は以下のとおりです。平均勾配というのは、標高差(m)÷距離(m)×100で出された数値(%)です。
本仁田山・大休場尾根 35.5度
鷹ノ巣山・稲村岩尾根 26.5度
六ッ石山・水根ルート 24.0度
天祖山・表参道 22.0度
御前山・大ブナ尾根 20.2度
出典:
徒然なる登山ブログ
奥多摩三大急登とは?
これを見ると、大休場尾根がダントツです。山頂までの距離が短い上に、緩やかな道がほとんどないので、平均勾配が大きくなるのでしょう。とにかく、最初から最後まで急登の連続でした。たとえば、三頭山のヌカザス尾根も急登ですが、平均勾配は17.1度でした。途中にゆるい勾配のところがあるからです。
日本山岳会奥多摩支部のグレーティングによれば、大休場尾根は、登山道グレードや技術力グレードは星2つでしたが、体力グレードは星4つでした。
大休場尾根は、地元では「鉄砲尾根」と呼ばれているそうです。そして、大休場尾根を登ることを「鉄砲登り」と言うのだとか。
距離は短いものの、急登による体力の消耗が激しいので、大休場尾根では何件かの遭難事故も発生しています。昨日も、登っていたら下から腰にカラビナやロープを下げた男性二人が登って来ました。ヘルメットを見ると、「警視庁」と書かれていました。「どうしたんですか?」と訊いたら、「ちょっと捜索しているんですよ」と言ってました。「この辺だよな」「どこかに引っかかるはずなんだけどな」なんて話していました。
また、やはりロープの束を肩から下げた地元の山岳会のメンバー?とおぼしき人たちが5~6人、登山道から斜面に下りていました。
最初は訓練なのかと思ったのですが、捜索だと言うのでびっくりしました。ただ、見た感じではあまり緊張感はなさそうでした。
小さな岩場を登っていたら、上から下りてきた先程の隊員から「あっ、コース外れていますよ」と言われました。たしかにロープがあったのですが、ロープがゆるんで地面に垂れていたので、そのまま登ったのでした。どうやらそれは通行止めのロープだったようです。
「ホントは横を巻くんですよ」「そんなに難しくはないけど、上に一枚岩のような岩があって、それを登るので気を付けてください」と言われました。
もうひとりの隊員からは、私のぶざなま姿を見かねたのか、「きついでしょ?」と言われました。「そうですね。噂通りきついですね」と言ったら、「奥多摩三大急登ですからね」と笑っていました。
今回も、前回の大寺山のときと同じ新宿駅6時46分発のホリデー快速に乗りました。緊急事態宣言下でしたが、前回よりハイカーは多く乗っていました。もちろん、コロナ前の休日に比べたら全然少なく(4 分の1以下?)、ゆったり座って行くことができました。
大休場尾根は、奥多摩駅から直接登ることができます。8時半前に奥多摩駅に着きましたが、駅前のバス停には既にハイカーが列を作っていました。青梅街道を走る奥多摩湖(丹波や鴨沢)方面のバス停には10人前後、日原(にっぱら)街道を走る川苔山の百尋ノ滝(ひゃくひろのたき)方面のバス停には20人近くが列を作っていました。日原街道を走るバスはマイクロバスなので、かなりギューギュー詰め(つまり、密)になるでしょう。
私は、バス停のハイカーたちを横目で見ながら、奥多摩駅を出ると右の方に進みました。奥多摩町役場の前を通って、石灰石の工場の前を左折し、日原川に架かる北氷川橋(きたひかわばし)を渡って氷川国際ます釣場の方に向かいます。二つ目の女夫橋(めおとばし)を渡ると、右手に氷川国際ます釣場がありますが、大休場尾根の登山口は、左手の除ケ野(よげの)集落の中の坂道を登って行きます。九十九折の山の中の坂道を45分くらい登ると、安寺沢(あてらさわ)という集落の奥に大休場尾根の登山口がありました。
本仁田山の標高は1200メートル超で、山頂までの距離も2.2キロですが、単純標高差は800メートルを越します(登山口からは720メートル)。距離が短い分斜度が大きく、奥多摩の低山おなどるなかれを象徴するようなコースでした。低山をバカにする山のシロウトには、一度登ってみろと言いたいです。北アルプスに行くためのトレーニングで奥多摩の急登を登るというハイカーも多いのですが、たしかに筋力トレーニングするには最適だと思いました。私も、最近はゆるゆる登山ばかりしていたので、下りは完全に足に来てつらい思いをしました。帰りに駅の階段を下りるのもひと苦労でした。
登山口に向かう際、私の前を中年のカップルが歩いていました。途中で追い抜いたのですが、急登で再び追い抜かれました。その際、少し話をしたのですが、やはり夫婦ではないみたいでした。
また、途中で立ち止まって休憩していると、後ろから登ってきた中年の女性と30代くらいの男性が追い抜いて行きました。とにかく皆さん驚異の脚力で、気が遠くなるような急登もガンガン登って行き、あっと言う間に姿が小さくなっていきました。その脚力には圧倒されました。やはり、他の山と違って、熟達者というか上級者が多い気がしました。
大休場尾根を登るのも大変ですが、下りはもっと大変な気がします。しかし、反対側の杉ノ殿尾根が一部に急登があるものの大休場より全然楽なので、杉ノ殿尾根を登りに使って、下りに大休場を選ぶハイカーも結構いるみたいです。
頂上付近で、上から下りて来た老夫婦とすれ違いましたが、「なに、これ?」「大変だよ」などと言いながら、おぼつかない足取りで急斜面を下りていました。しかし、そこはまだ序の口で、下に行けば足を滑らせると滑落の危険性がある激下りが待っているのです。
ほうほうの体で山頂に辿り着いたら、山頂では外人の若い女性が二人、弁当を食べていました。喋っていた言葉は英語でした。私たち外人もワクチンを打ってもらえるんだろうかと言っていました。そして、弁当を食べ終わると、大休場尾根の方へ下りて行きました。彼女たちもおそらく杉ノ殿尾根を登って来たのでしょう。これから待ち構えている試練を知らないんだなと思いました。
私は、このブログにも書いていますが、前に杉ノ殿尾根をピストンしたことがあるので、本仁田山は今回で二度目です。着いたときは曇り空で、眺望はあまり望めませんでした。ベンチに座っていると急に身体が冷えて来ました。それで、登り始めに脱いだ上着をもう一度羽織りました。前に来たとき、山頂には誰もいなくて、ベンチに座ってひとりでパンを食べていたら、わけもなく泣きそうな気持になったことを思い出しました。
外人の二人組が下りたあと、登って来る人もなく、前回と同じようにひとりになりました。しかし、今回は疲労困憊で、前回のようなロマンティックな?気分に浸る余裕はありませんでした。と、ぼつぼつ下ろうかと思っていたときでした。やにわに空が明るくなってきて、長沢背稜の背後に忽然と富士山が姿を現したのでした。それは、文字通り忽然という表現がピタリとするような感じでした。山の天気は変わりやすいのですが、それは必ずしも悪いことばかりではないのです。
杉ノ殿尾根を40~50分下ると、林道(西川林道)と交差したところにある大根ノ山ノ神(おおねのやまのかみ)に着きました。ここは杉ノ殿尾根と川苔山をそれぞれピストンした際に通りましたので、これで三度目です。
大根ノ山ノ神から鳩ノ巣駅までは30~40分くらいです。鳩ノ巣駅に向けて登山道を下っていたら、下から登って来た高校生とおぼしき若者の二人組とすれ違いました。ただ、手にペットボトルを持っているだけの軽装でした。途中で拾ったのか、木の枝を杖代わりにして、ハアハア荒い息を吐きながら登って来ました。まさかそんな恰好で川苔山や本仁田山に登るとは思えません。面倒くさいので声はかけませんでしたが、ネットでも話題になっている峰集落の跡地に”探検”に行くのかもしれないと思いました。
奥多摩の山を歩いていると、こんなところにと驚くような場所に人家の跡があったりしますが、峰集落もそのひとつです。大根ノ山ノ神から西川林道を少し下ると、1972年に最後の住人が山を下りて「廃村」になった峰集落の跡地があります。昔、集落の子供たちは、今、私たちが登山の恰好をして登っている鳩ノ巣駅から大根ノ山ノ神の道を毎日歩いて学校に通っていたのだそうです。峰集落については、ヤマップの「活動日記」にも次のような記述がありました。
峰集落とは鎌倉末期から大正末期まで500年以上も木材、炭焼きで繁栄した村で昭和47年に最後の住民が下山して廃村となりました。
柳田國男も滞在して研究したと言われる伝説の村です。
YAMAP
本仁田山と峰集落
柳田國男もこの道を歩いて峰集落に行ったのかと思うと、(足は筋肉痛で悲鳴をあげていたけど)なんだか感慨深いものがありました。そして、柳田國男の『山の人生』をもう一度読み返したい気持になりました。
尚、峰集落については、下記の文春オンラインに掲載されている記事(訪問記)に詳しく書かれています。
文春オンライン
これぞ東京の秘境! 1972年に廃村になった奥多摩山中の「峰集落」へ行ってみた
鳩ノ巣駅に着いたのは、15時すぎでした。私が使っている登山アプリ(ネットから登山届を提出することができるアプリ)のコースタイムとほぼ同じでした。
鳩ノ巣駅からは青梅線で青梅駅、青梅駅から中央線で立川駅、立川駅から南武線で武蔵小杉駅、武蔵小杉駅から東横線で最寄り駅に帰りました。最寄り駅に着いたのは19時前でした。
途中の電車も、それから青梅駅や立川駅や武蔵小杉駅も、緊急事態宣言下とは思えないほど人が多く、普段の日曜日より若干少ない程度でした。皆、「不要不急の外出自粛」などどこ吹く風の不心得者です。もちろん、かく言う私もそのひとりなのでした。
※サムネイル画像をクリックすると拡大画像がご覧いただけます。

石灰石工場の横の坂を下り、最初の橋(北氷川橋)を渡る

石灰石工場全景

二番目の橋(女夫橋)を渡る

氷川国際鱒釣場

安寺沢の集落に向かって車道を登る

登山口

いきなり急登






尾根に迷い込んで滑落したケースがあったので、こういった看板を立てたのかもしれません。


登山道を上から振り返る

六ッ石山?




山頂


山頂標識

忽然と姿を現した富士山


木に括りつけられた瘤高山の山頂標識

瘤高山からの眺望
都心も見えた


大根ノ山ノ神
今回もお賽銭をあげて手を合わせた

麓の集落に戻って来た

鳩ノ巣駅全景

改札口

待合室の中にあった注意書き
鳩ノ巣駅は無人駅なので、待合室で夜明かしするのに焚き火をする人間がいるのでしょうか。山の中でもときどき焚き火の跡を見かけますが、駅の待合室で炊き火とは凄い話です。もう放火のレベルと言っていいくらいです。