メンタリストのDaiGoが、YouTubeの自身のチャンネルで行なった発言が批判を浴びています。それは、「生活保護の人達に食わせる金があるのなら猫を救って欲しい」「自分にとって必要の無い命は僕にとっては軽い」(新聞記事より)などという、生活保護受給者や路上生活者に対する差別をむき出しにした身の毛もよだつような発言です。DaiGoの発言は、相模原のやまゆり園事件や座間の9人連続殺害&遺体損壊事件の犯人たちと同じような優生思想に基づくものと断言していいでしょう。

批判が殺到するなかでも、DaiGoは当初、「命は平等っていうけど優劣は全然ある」、自分は「税金をめちゃくちゃ払ってるから」、自分を叩いている人たちより「彼らのことを保護」しているなどと、挑発的な発言をして開き直っていました。ところが、その翌日、今度は一転して「知識が足りなかった」と反省の意を示し、(メディア風に言えば)「謝罪」の姿勢を見せたのでした。しかし、これはYouTube特有の炎上商法で、「謝罪」もその過程におけるポーズにすぎないという声もあります。

YouTubeは、文字通り丸山眞男が指摘した「タコツボ」化した世界を象徴する(そして低俗化した)ようなプラットフォームで、世間から眉をひそめられる言動や行為もそうであればあるほど、逆にコアな視聴者によって拍手喝さいを浴びるような世界です。実際に、「謝罪」の動画の再生回数は168万(8月15日現在)にものぼり、再生回数に連動したアドセンスやアフィリエイトなどの広告収入も爆発的に増えることが予想されます。ちなみに、DaiGoのYouTubeのチャンネル登録者数は246万人です。

DaiGoは「メンタリスト」という肩書を名乗っていますが、メンタリストとはなんぞやと思ってググると、「メンタル・マジック(mental magic)を行う人」ということばが出てきました。要するに、心理学などを応用したマジック(超能力的な行為)を行なうエンターテイナーというような意味のようです。そう考えれば、炎上から謝罪へ至る一連の流れも、メンタリスト特有のマジック(人心操縦術)と言えなくもないように思います。

DaiGoがこのような暴言を吐いた背景には、この社会の根底に、以前も書いたように、生活保護受給者やホームレスを差別し蔑視する負の感情の「地下茎」(安田浩一氏)があるからでしょう。それが「タコツボ」化したネットで、このようにときおり姿を現わすのです。

Yahoo!ニュース
AERA dot.
「ヤフコメ」は日本の恥? 社内で問題視も「PVが減るから閉鎖できない」〈週刊朝日〉

先日、Yahoo!ニュースに上記のような記事がアップされていましたので、ヘイトの巣になっているヤフコメに対して、ヤフーの社内でも「日本の恥」だという認識が広がっているのかと思って読んだら、なんのことはないオリンピック期間中のアスリートに対する「誹謗(ひぼう)中傷」が恥だと思っているだけでした。

アスリートには罪はない、スポーツは特別だ、というメディアの詭弁に対する反発がSNSなどを通してアスリートに向けられたのはある意味で当然だと思いますが、ヤフーの社内ではそれが「日本の恥」と思っているらしいのです。私は、むしろ、(今までも何度も書いていますが)PVを稼ぐためにヤフコメを使ってヘイトな記事を拡散させる(バズらせる)Yahoo!ニュースこそが「日本の恥」だと思っていますが、ネットの守銭奴たるヤフーの認識はそれとは別のところにあるようです。

言うなれば、DaiGoは、ヤフコメなどに代表されるような負の感情の「地下茎」から出てきたメンタリストならぬトリックスターと言っていいのかもしれません。

ただ、そんな暗澹たる世相のなかで、意外なと言ったら失礼かもしれませんが、ホッと安堵するような反応も見ることもできました。

ひとつは、厚労省の素早い反応です。厚労省は、サイトやTwitterで、「生活保護を申請したい方へ」と題して、「生活保護の申請は国民の権利です。生活保護を必要とする可能性はどなたにもあるものですので、ためらわずにご相談ください」と呼びかけたのでした。

厚生労働省
生活保護を申請したい方へ

もうひとつは、たまたま見つけたのですが、エッセイストの犬山紙子氏が、みずからのTwitterで、上記の厚労省のサイトへのリンクとともに次のようにツイートしていたことです。

犬山紙子
@inuningen

犬山紙子子ツイート

私は、犬山紙子氏については、アイリスオーヤマの社長の娘くらいしか知識はなく(実際は娘ではなく姪だった)、こんな生活保護に対する正しい知識を持っているような人だとはまったく知りませんでした。

ちなみに、憲法25条は、国民の生存権(健康で文化的な人間らしい生活を営む権利)とその生存権を保障するために国家がやらなければならない義務について、条文で次のように謳っています。

第二十五条
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。


私は、個人的に世間一般の人たちよりは多くの生活保護受給者の人たちを見て来たつもりですし、彼らの生活もそれなりに知っているつもりですが、実際に見聞きした経験から言えば、”生活保護叩き”は誤解どころか、犯罪だとさえ言ってもいいくらいです。

極々一部の例外を針小棒大に言挙げして、如何にも生活保護という制度そのものに問題があるかのように言い放つのはきわめて悪質なデマゴーグと言わねばなりません。ネットには、その手のデマゴーグが病的(!)と言えるほど蔓延しています。

このブログでも、”生活保護叩き”について、下記のような記事を書いていますので、僭越ですが、お読みいただければ幸いです。

DaiGoの犯罪まがいの暴言はきびしく糾弾されて然るべきですが、ただ、これを機会に、生活保護やホームレス問題に対する理解が広がれば、不幸中の幸いと言っていいでしょう。そうなることを願ってやみません。

貧困は誰にでもあり得る話です。明日の自分の姿かもしれないのです。DaiGoだって、YouTubeのアカウントを停止されメディアから総スカンを食ったら、自慢していた税金を払うのも困るようになるでしょう。


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