山に登る前に読む本


先週、財布とパスモ(ICカード)を忘れて、1万歩以上歩くことになりました。早速、帰宅したら膝に水が溜まっているのがわかりました。一時、水も引いて調子がよかったのですが、反対の足のアキレス腱の炎症をきっかけにまた元に戻った感じです。

実は昨日も同じポカをやらかして、8.6キロ1万2千歩を歩くはめになりましたが、やはり足が重くてなりませんでした。ただ、帰って足を冷やし膝の裏を親指でくり返し押すと、軽くなり可動域も広がって楽になりました。今日は意識して3駅分、6.6キロ9千歩を歩きました。帰って同じように冷やして指圧マッサージをするとすぐ楽になりました。エアロバイクも毎日ではありませんが、ときどき漕ぎ始めています。

先週、整形外科に行った際、たまたまドクターのPCに私の膝のレントゲン写真が映し出されていたので、レントゲン写真について質問をしました。すると、ドクターは棚から膝の医学書を出して来て、写真を指し示しながらあらためて説明してくれました。

ドクターが言うには、私の変形膝関節症の症状は、「0」の「正常」から「1」の「軽度」の間くらいだそうです。ちなみに、症状は「0」から「3」までの4段階で表すみたいで、「2」は「中等度」、「3」は「重等度」です。だったら、この前に行った総合病院の中等から重等という診断は何故なのかという疑問が残ります。診察する前からいきなりサポーターや足底板をセールスするのも違和感がありましたが、殊更患者の不安を煽る商法のような気がしないでもありません。

ドクターが言うには、変形膝関節症でも半月板損傷でも、痛みが出ない人も多いのだそうです。つまり、軟骨がすり減ったり傷ついたりしても軟骨自体には血管が通ってないので、痛みを感じないのだとか。痛みを感じなければ病院にも行かないでしょうから、変形膝関節症の患者は1千万人いて”国民病”だなどと言われていますが、実際はもっと多いと考えていいでしょう。でも、痛みがなくても骨の変形は進むので、いづれ日常生活に支障をきたすことになるのです。それどころか、老後は寝たきりになり介護が必要になる可能性が高いと言われているのです。

前に夫婦で百名山登頂を達成したという人の家に行く機会があったのですが、ご主人は車椅子生活で、奥さんもソファから立ち上がるのも支えが必要なほど見るからに膝が痛そうでした。正座ができないので仏壇にお参りするときなどは大変ですと言っていました。つまり、二人とも典型的な変形膝関節症なのです。登山を趣味にして百名山踏破の偉業を達成した代償が変形膝関節症による不便な老後なのです。実際に、60歳以上のハイカーの90%が膝痛で悩んでいるという話もあるくらいです。

スポーツが心身ともに健康の保持増進に大きな効果があるのは言うまでもありません。しかし、それも「ほどほど」の場合なのです。やりすぎると、特に骨や関節などに歪みをもたらして、痛みや障害の原因になるのです。若いときのスポーツが原因で、一生癒えない痛みや障害を抱えてしまうということもめずらしくありません。

その意味では、登山は「やりすぎ」のスポーツの代表と言っていいかもしれません。とりわけ、膝にとってこれほど悪いスポーツはないでしょう。先日も、たまたま某ネトウヨ登山家のブログを見ていたら、彼も膝痛に悩んでいて、再生治療のひとつであるPRP(血小板血漿)治療を受けたと書いていました。また、登山系のユーチューバ―も、大半は基礎的な訓練も受けてないぽっと出の登山者なので、山行を重ねるうちに膝を痛める人も多いみたいです。登山に膝痛は付き物なのです。

膝痛から解放されるには、まず膝の負担を減らす必要があります。その方法は二つあり、一つはストレッチして大腿四頭筋の筋力をつけることです。もうひとつは、言うまでもなく体重を減らすことです。ドクターが言うには、多くの人はストレッチの方を選択するけど、結局、挫折していつまでも痛みから解放されないケースが多いのだとか。

それより体重を減らす、つまり、「ダイエットする方が手っ取り早いですよ」と言っていました。膝には体重の3倍の負荷がかかると言われているそうで、「たとえば3キロ減量すれば9キロの負担が減るのですよ。9キロの負担を減らすために筋力をつけるというのは途方もない努力が必要ですよ。それに比べれば3キロの減量の方が近道のはずです」と言っていました。

単純に考えれば、山に7キロのザックを背負って行くとすれば、2キロ以上の減量をしてもザック分をペイするだけです。つまり、膝の負担を軽減しようと思えば、少なくとも5キロくらいの減量は必須です。もちろん、山に登るには筋力も必要です。特に登山の場合、大腿四頭筋に蓄えられたグリコーゲンをエネルギー源に使うので、大腿部の筋力量を増やすことが肝要です。しかし同時に、膝の負担を減らすためには、体重を落とすことも無視できないのです。

常念岳の診療所の所長も務めた信州大学医学部の能勢博教授も、著書の『山に登る前に読む本 運動生理学からみた科学的登山術』(講談社ブルーバックス)のなかで、体力を測るひとつの指標である最大酸素消費(摂取)量の数値を改善するには体重を落とすことも重要だと書いていました。最大酸素消費(摂取)量というのは、1分間に体重1kgあたりに取り込むことができる酸素の量(ml/kg/分)なので、体重が減ればその分数値も改善されるのです。つまり、それだけ心臓の負担も減るというわけですが、当然と言えば当然の話です。

能勢教授は、最大酸素消費(摂取)量の役割について、次のように書いていました。

相対運動強度は最大酸素消費量に左右される。すなわち、最大酸素消費量の高い人と低い人が一緒に登山をする場合、低い人のほうが、ブドウ糖の消費速度が速くなる。さらに、もともと筋肉量が低くグリコーゲン貯蔵量が少ないのも手伝って、早く「燃料切れ」になって登山の継続を困難にさせる。


最大酸素消費量が示しているのは持久力ですが、これは20歳代をピークに10歳年を取るごとに5~10%低下すると言われているそうです。登山には加齢によって筋力(特に膝伸展筋力)が低下する「老人性筋萎縮症(サルコペニア)」の問題も深刻です。膝伸展筋力の低下は、「日常活動量を低下させ、そのため心肺機能の負担が低くなり、最大酸素消費量の低下を引き起こす」のです。もちろん、そのためにはトレーニングすることも大事です。

(略)中高年者の最大酸素消費量の低下は、主に加齢による大腿筋力の低下によって引き起こされるので、トレーニングによってその筋力が改善すれば、それに比例して最大酸素消費量も向上する。また、筋肥大が起きると運動時の血液から筋肉の酸素の移動速度が上昇する。そして、筋力さえ改善すれば、それに追随して心肺機能も改善するということである。


年齢を問わず、運動形態を問わず、最大酸素消費量の60~70%に相当する「ややきつい」「きつい」と感じる運動を、一日15~30分間、週3~4日、5ヵ月間おこなえば、大腿筋力、最大酸素消費量が10~20%増加する。


一方で、トレーニングだけでなく体重も落とせば、最大酸素消費量の数値の改善も見込まれるのです。もちろん、体重が落ちると、心臓だけでなく膝の負担を減らすことにもなるので膝痛予防にも役立ちます。

余談ですが、登山を趣味にする人の3分の1が60歳以上という登山者が高齢化している現在、遭難の多くも高齢化に伴う疲労が原因だと能勢教授は書いていました。

遭難の多くは疲労が原因で、それは加齢による体力の低下によると考えてよい。したがって、登山中の事故や怪我を防ぐには、自分の体力を客観的に把握し、それに合った山を選び、登山計画を立てることが非常に重要である。


能勢教授は、加齢現象は「何年もかけてゆっくり起こるものだから、ほとんど自覚症状がなく『いつまでも若いつもり』という、登山で遭難にむすびつく『大きな勘違い』が起こる」と書いていました。

前に山で会ったビジターセンターの人は、「年寄りのハイカーは無茶をする人が多いんですよ」と言っていましたが、ヤマレコなどでもよく見かける「オレは若いんだ」「若い奴には負けないぞ」と言わんばかりに「無茶をする」高齢のベテランハイカーこそ遭難予備軍と言うべきかもしれません。

話は戻りますが、私の場合、どうしてこんなに回復が遅れているのか、あたらめてドクターに訊いてみました。ドクターが言うには、症状は千差万別なので、早い人も遅い人もいると言っていました。それに、もうひとつは、私は身体が大きくその分体重も重いので治るのに不利な面はあるとも言っていました。さらに、「これは仮定だけど」と前置きして、もしかしたら半月板を痛めてそれが回復を遅くしている原因になっているかもしれないとも言っていました。

そう言えば、総合病院でも半月板を少し痛めていますねと言われました。ただ、ドクターが言うには、半月板はレントゲンではわからずMRIでないと損傷の有無は確認できないそうです。ところが、私もMRIで精密検査をするために総合病院に行ったのですが、総合病院ではレントゲンしか撮らず、それで半月板も少し痛めていると言われたのです。あれも変な話です。

また、ドクターは、昔は半月板損傷だと損傷した部分を切除する手術をしていたけど、今は保存療法が主流になっていると言っていました。どうしてかと言えば、手術をして30年経ち高齢化した元患者たちの追跡調査をしたところ、手術をしてない一般の人たちに比べて手術した人の方が変形膝関節症になる割合が高いことがわかったからだそうです。軟骨を切り取るわけですから当たり前と言えば当たり前の話ですが、そのために一律に手術をするのはやめたそうです。

来月あたりから軽いハイキングと言うか、昔よくやっていた山の散歩を始めようかなと思っていますが、ともあれ、何事においてもダイエットが大事という話をあらためて突き付けられた気がしました。
2021.09.16 Thu l 健康・ダイエット l top ▲