ロシア国旗


ロシアのプーチン政権によるウクライナ侵攻は依然予断を許さない状態が続いています。アメリカとロシアの情報戦も激しくなっていますが、これって普通に考えても戦争前夜と捉えるべきでしょう。

ロシアの強気な姿勢について、今日の朝日新聞は次のように書いていました。

  ロシアのプーチン大統領が、ウクライナ東部の自称「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」を承認したことは、冷戦終結後に各国が育んできた国際秩序への公然たる挑戦だ。力ずくの外交姿勢は、国際的なルールの順守や各国の主権の尊重、領土の一体性を無視している。
(略)
  米国とロシアとの間に立って対話の可能性を探り、米ロ会談の調整にこぎ着けたフランスなど欧州の仲介努力に冷水を浴びせた形となった。武力行使を避けようと奔走した欧州各国の努力に、真剣に応じることなく、逆に冷笑するかのように、その求めをはねつけた。


朝日新聞デジタル
外交努力を踏みにじったプーチン氏 全土侵略の布石か、世界の行方は(有料記事)

このロシアの強気な姿勢が示しているのは、今までも何度もくり返し言っているように、アメリカが唯一の超大国の座から転落して世界が多極化するというあらたな世界秩序(とも言えないような秩序)の時代に入ったということです。ありていに言えば、アメリカが世界の警察官として君臨してきたパクス・アメリカーナの終焉です。

これからは、このような大ロシア主義や”中華社会帝国主義”とも言うべき中国の新中華思想やイスラム主義が、あらたな世界秩序の間隙をぬってさらに台頭して来るでしょう。そして、今回のウクライナ危機と同じような危機が世界のさまざまな場所で発生するのは必至でしょう。

今回のウクライナ危機を見てもわかるとおり、アメリカはもはや過去のアメリカではありません。あきらかに腰が引けています。そこをプーチンに見透かされているのです。

もちろん、ロシアが核保有国であることが大きな足枷になっているのも事実でしょう。プーチンも盛んに核をチラつかせて欧米を脅していますが、欧米にとって、核戦争を回避するためにはロシアとの直接の軍事衝突は避けなければならないのです。せいぜいが経済制裁でお茶を濁しながら、ロシアの無法を外野席で野次るくらいが関の山です。ヨボヨボのバイデンが、負け犬の遠吠えみたいに虚しい「警告」を発していますが、ウクライナが我が身大事の欧米から見殺しにされるのは最初からわかりきった話なのです。

何度も言いますが、アメリカンデモクラシーももはや世界を主導する”正義の価値”ではなくなったのです。世界をアメリカが主導する時代が終わったのです。とんでもない全体主義の時代=無法が大手を振ってのし歩く悪夢のような時代と言えばそう言えるのかもしれませんが、しかし、歴史というのは、往々にしてそんな紆余曲折を経るものです。と同時に、グアンタナモ収容所に象徴されるアメリカンデモクラシーの欺瞞や、民主主義の名のもとにアメリカが世界各地で人民の自決権を蹂躙してきた”帝国の歴史”も考えないわけにはいきません。

大量破壊兵器の保持を口実にイラクに侵攻したアメリカに、ロシアの無法を非難する資格はないのです。また、アメリカは旧ソ連に対抗するためにイスラム圏でイスラム過激派を育て利用してきた経緯もあります。現在、イスラム過激派がアメリカに牙をむいているのも、いうなれば豹変した飼い犬に手を噛まれたようなものです。私たちは、全体主義の時代に慄くだけでなく、アメリカに対する幻想からも自由にならなければならないのです。

アメリカのやることはなんでも許されるというような時代が終わる。そう考えれば、全体主義の時代もまったく意味のないことではないように思います。あたらしい、よりバージョンアップした民主的な価値と世界の秩序を手に入れるための生みの苦しみと考えることもできなくはないのです。

とは言え、歴史の紆余曲折には多大な犠牲が伴います。ロシアがキエフなどに本格的に侵攻し市街戦になれば5万人の市民が犠牲になるという試算もあります。

一方、私たちにとって、ウクライナ危機も所詮は対岸の火事でしかありません。怖ろしいくらい冷めている自分がいます。5万人という数字も、日々AIがはじき出す単なる数値のようにしか受け止められてないのが現実です。

人間は自分で思うほど賢くはないので、塗炭の苦しみや悲劇を経験しないとあたらしい価値に目覚めることはないのかもしれません。今回のウクライナ危機を見ても、世界が第二次世界大戦から何も学んでないことがよくわかります。それはロシアだけでなく、先進国を自称しながら為す術もないG7の国も同じです。SDGsだとかAIだとか言っても、感情と欲望の動物である人間はたいして進歩もしてないのです。

手前味噌になりますが、このブログで世界の多極化を予見した「世界史的転換」という記事を書いたのは、2008年のリーマンショックのときでした。あれから13年、多極化する世界の輪郭がよりはっきりしてきたのはたしかでしょう。


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