今日、ウクライナの南部エネルホダル市にあるザポリージャ原発がロシア軍から砲撃を受け、既に火災が発生しているというニュースがありました。ザポリージャ原発はヨーロッパ最大級、世界で3番目の規模の原発で、もし爆発すれば旧ソ連時代に同じウクライナのチェルノブイリ原発で発生した事故の10倍の被害が出ると言われているそうです。文字通り身の毛もよだつような話です。今日の攻撃が事実なら、いよいよロシアによるジェノサイドが本格的にはじまったと言っても過言ではないでしょう。

このようにロシアの蛮行はエスカレートする一方ですが、しかし、欧米各国は相変わらず口先で非難するだけで、傍観者の立場を崩していません。何度も言うように、ウクライナを見殺しにしているのです。

そんな欧米の二枚舌を知る上で、下記のForbes JAPANの記事が参考になるように思いました。

Forbes JAPAN
一部は焦げつく恐れも ロシア向け債権額の多い国

記事では、国際決済銀行(BIS)のデータに基づいた、ロシア向け債権(残高)の多い国とその金額が下記のように示されていました(記事ではドルの金額だけでしたが、それに円に換算した金額を付け足しました)。

ロシア向け債権額が多い国(2021年9月30日時点の残高)
イタリア(253億ドル・約2兆9300億円)
フランス(252億ドル・約2兆9200億円)
オーストリア(175億ドル・約2兆250億円)
米国(147億ドル・約1兆7000億円)
日本(96億ドル・約1兆1100億円)
ドイツ(81億ドル・約9360億円)
オランダ(66億ドル・約7600億円)
スイス(37億ドル・約4270億円)
※韓国(17億ドル・約1970億円)
(出所:BIS)

これを見ると、どういう国がロシアに入れ込み、プーチンと親密な関係を築いていたかがわかります。もっとはっきり言えば、どんな国がプーチンの独裁体制を経済的に支えていたかがわかるのです。

記事では次のように書いていました。

欧州諸国はロシアから輸入する天然ガスの支払いもできなくなるのではないかと議論になっているが、こうした決済を主に担っているガスプロムバンクは今のところ排除の対象にはなっていない。


紆余曲折の末、やっと合意したSWIFTからの排除ですが、それも勇ましい掛け声とは裏腹にザルになっているのです。

オーストリアの地元紙シュタンダルトによると、オーストリアはエネルギービジネスでもロシアとの関係が深い。オーストリアは当初、ドイツやイタリア、ハンガリーなどとともにロシアのSWIFT排除に反対したと伝えられる。
(同上)


ウクライナの悲劇を尻目に、オーストリアやドイツやイタリアやハンガリーが制裁に反対したのは、何より天然ガスや石油などの取引きの停止を怖れたからでしょう。しかも、現在もまだ取引きは継続されているのです。だから、天然ガスの決済銀行であるガスプロムバンクが制裁対象から外されたのです。ウクライナの現状を考えれば、まったくふざけた話だと言わざるを得ません。

繰り返しになりますが、今回のウクライナ侵攻では、このように欧米が掲げる民主主義なるものの欺瞞性も、同時に露呈されているのでした。バイデンの言う「民主主義と権威主義の対立」も片腹痛いと言わねばなりません。国際政治学者たちもバイデンの口真似をして同じような図式を描いていますが、たとえば彼らが言う「権威主義」ということばも多分にフォーカスをぼかしたヘタレなものでしかありません。それを言うなら全体主義でしょう。大ロシア主義も中国共産党の”新中華思想”もイスラム主義も、まぎれもなく全体主義です。世界が多極化するにつれ、それそれの”極(センター)”で全体主義が台頭しているのです。しかも、欧米の掲げる民主主義はお家大事のダブルスタンダートであるがゆえに、全体主義の対立軸(受け皿)になり得てないのです。それが今回のウクライナ侵攻ではっきりしたのでした。

何度も言いますが、核の脅しを伴ったこの全体主義の時代に対抗するには、国家や党派とは関係ない民衆の素朴実感的なヒューマニズムの連帯しかないのです。雨垂れが岩を穿つのを待つような話ですが、あきらめずに辛抱強く声を上げ続けるしかないのです。

「モーニングショー」のコメンテーターの玉川徹氏が、これ以上犠牲者を出さないためにウクライナ国民は降伏の選択肢も考えるべきだ、ゼレンスキー大統領も、銃を持って戦うことを鼓舞するのではなく、国民に降伏を呼び掛けるべきだと言ってましたが、なんだか所詮は他人事の日本における「戦争反対!」の声を象徴するような発言だと思いました。玉川氏の発言は、大国に翻弄されたウクライナの歴史と国民のなかに連綿と受け継がれているパルチザンの思想をまったく理解していない戯言と言わざるを得ません。降伏することは銃で戦うことより恐ろしい現実が待っている、というウクライナ国民の声を理解できない「平和ボケ」の発言と言わざるを得ません。

ウクライナには、民衆がみずから銃を持ってソビエト政府の赤軍やナチスのファシスト軍と戦ったパルチザンの歴史があります。ウクライナの民兵組織は一部で極右だという声もありますが、彼らにも人民武装=パルチザンの思想が受け継がれているのは間違いないでしょう。日本には秩父事件などを除いてほとんどその歴史がないので、パルチザンに対する理解が乏しいのかもしれませんが、反戦デモには、玉川氏と違って、みずから銃を持って戦うウクライナ国民に共感し連帯を呼びかける側面もあるのです。民衆の素朴実感的なヒューマニズムには、そういったおためごかしではない、市民革命の経験で得たラジカルな一面があることも忘れてはならないのです。
2022.03.04 Fri l ウクライナ侵攻 l top ▲