昨日、みなとみらいのランドマークタワーに行ったら、イベント用のスペースでウクライナ支援の募金と演奏会が開かれていました。募金箱が置かれ、寄せ書きをするコーナーもありました。看板を見ると、ウクライナのオデッサ州と友好関係を結んでいる神奈川県が主催した支援のイベントだそうです。ちなみに、横浜市も、オデッサ州の州都であるオデッサ市と姉妹都市になっています。

ウクライナは、現在、国民総動員令が施行され、18~60歳の男性の出国が禁止されているため、避難している人の9割は女性と子どもだそうです。また、高齢者が少ないのは、体力的な問題とともに経済的な問題もあるからでしょう。避難するにもお金がかかるのです。

避難した人たちの話を聞いても、子どもの将来を考えて、子どもだけでも安全なところに避難させたいと考えた家庭が多いことがわかります。そのため、自宅に残りロシア軍の攻撃に晒されている祖父母や両親などを心配し後ろめたさを口にする避難民も多いのです。

自分たちの身近を考えても、寝たきりや一人暮らしの老人などが動くに動けないのはよくわかります。また、経済的に困窮している人たちにとって、避難がとても叶わぬことであるのは容易に想像がつきます。

まして、ウクライナは、お世辞にも豊かな国とは言えません。ロシア侵攻前の直近(2022年1月)のウクライナの平均年収は、日本円に換算するとおよそ636,000円です。ちなみに、日本(2022年)の平均年収は4,453,314円(中央値3,967,314円)です。ウクライナの年収は日本の5分の1以下なのです。そんな国の国民のなかで、子どもの将来のことを考えて避難できるのはごく一部の恵まれた、あるいは運のいい人たちの話にすぎないでしょう。

平均年収が60万円ちょっとしかない国の国民が、家族3人なら100万円以上もかかる飛行機代を払って日本に来るなど、援助してくれる人がいない限り、とても無理な話なのです。

東欧にネオナチが多いのも、反ソ連=反ロシアの感情以外に、貧困の問題もあるような気がします(一方で、ロシアにも大ロシア主義に憑りつかれレコンキスタの幻影を追い求める「ロシア帝国運動」のようなネオナチが存在します。そのことも強調しておかなければなりません)。

大半の国民たちは、銃弾が飛び交うなか、恐怖と不安と空腹で眠れる夜を過ごしているのです。ロシア軍に包囲され孤立した街では、餓死する市民も出ているという話さえあります。

逃げたくても逃げることができない人々。そんな戦場に取り残された人々こそ戦争のいちばんの犠牲者と言えるでしょう。まるでスポーツの試合のように戦況を解説する軍事ジャーナリストたちの話を聞いていると、がれきの下で息をひそめて日々を過ごしている人々の存在をつい忘れてしまいそうになります。

前も書いたように、国家が強いる敵か味方かの二項対立の”正義”に動員されないためには、メディアのステレオタイプな視点とは別の視点から今の事態を見ることも必要です。そう考えるとき、半ばタブーになっているウクライナのネオナチの存在も無視することはできないのです。もちろん、だからと言って、ロシアの蛮行が正当化されるわけではありませんが、ウクライナのネオナチの存在が、ロシアにウクライナ侵略(実際はウクライナ併合の野望)の口実を与えたことは否めないように思います。

ウクライナのアゾフ大隊は、アメリカのCIAやヨーロッパの情報機関だけでなく、日本の公安調査庁の「国際テロリズム要覧」でも取り上げられているウクライナのネオナチ組織です。しかし、現在、アゾフはウクライナ国防省の指揮下に置かれ、今回の侵攻でも民兵として大きな役割を担い、その戦いぶりで英雄視されるまでになっているのでした。
※4月8日、公安調査庁は「国際テロリズム要覧2021」からアゾフ大隊に関する記述を削除しました。日本でもこうして「戦時下の言語」に塗り替えられているのです。

昨日のテレビ朝日の「サンデーステーション」でも、アゾフ大隊は「国家親衛隊」の一員として紹介され、マクシム・ゾリンなる司令官のインタビューが放送されていました。軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は、番組のなかで、「アゾフはナショナリストで極右ではあるけれど、ネオナチではない」とわけのわからないことを言っていました。

YouTube
ANNnewsCH
【独自】ロ軍が敵視する「アゾフ連隊」司令官が語る(2022年3月27日)

出版社のカンゼンが、『ULTRAS』と『億万長者サッカークラブ』というサッカー関連の本のなかで、ロシアとウクライナのとんでもなく過激なサポーターをルポした章を2週間限定で無料公開しているのですが、そのなかでアゾフのことが詳しく書かれていました。

note
【全文公開】『ULTRAS』第8章 ウクライナ 民主革命を支えた極右勢力のこれから

ちなみに書名になっている「ULTRAS(ウルトラス)」というのは、フーリガンと同じようなサッカーの熱狂的なサポーターを指すことばです。日本では理解しがたいかもしれませんが、とりわけ東欧においては、「サッカーは、共産主義によって封じ込められていた民族主義的な衝動を、暴力的な手段で表現するはけ口」(『ULTRAS』)になっており、ウクライナのアゾフもそんなウルトラスに起源を持っているのでした。

 もともとアゾフはメタリスト・ハルキウ(引用者註:ウクライナのサッカークラブ)のウルトラスが設立した志願兵の部隊を前身としていたが、当時はアンドリー・ビレツキーという人物が率いていた。
 ビレツキーは極右の指導者で、超国家主義者、急進右派、そしてネオナチの連合体である社会国民会議という組織を創設しており、ユーロマイダンが始まった時点ではハルキウ(引用者註:ウクライナの都市)で服役していた。だがヤヌコーヴィチがロシアに逃亡して4日後、ウクライナ最高議会は全ての政治犯を釈放する法律を可決する。かくして自由の身になったビレツキーは、アゾフの初代司令官に収まることとなった。

 2014年6月、アゾフはマリウポリを親ロシア派の勢力から解放することに成功し、彼の地に拠点を置くようになる。ロシアとの軍事衝突が始まって以来、ウクライナは屈辱的な敗北を重ねていただけに、マリウポリでの勝利は画期的だった。
 ユーロマイダン、そしてロシアとの軍事衝突における貢献度の高さは、アゾフの名前を広めただけでない。ウクライナにおけるウルトラスの名誉復権にも貢献した。
 かつてのウルトラスは、粗暴で人種差別的で社会に何らの利益ももたらさない存在として見なされていた。たとえばBBCは2012年、ウクライナがポーランドとEURO2012を共催する前に、ドキュメンタリー番組を放送。カルパティ・リヴィウのサポーターがナチス式の敬礼を行い、黒人選手に罵声を浴びせる場面を伝えている。
 また同番組はハルキウで、メタリストのウルトラスにインタビューしている。この人物はアンドリー・ビレツキーが率いるもう一つの極右組織、「ウクライナの愛国者」の幹部も務めていた。彼は自分たちがネオナチではないと盛んに強調したが、やはりメンバーはナチス式敬礼をしたり、インド人の学生グループを襲ったりしていた。
 さらに彼らの党旗には、ナチス時代のヴォルフスアンゲル(狼用の罠をモチーフにしたデザイン)に似たシンボルも用いられている。ビレツキーは「ウクライナの愛国者」を解散させた後、同じシンボルをアゾフの軍旗にも採用するようになった。
 だがユーロマイダンとロシアとの軍事衝突を通して、ウルトラスと極右勢力は自らの悪しきイメージを払拭し、社会において一定の立場を確保することに成功したのである。
「ロシアとの紛争が起きた後は、多くのウクライナ人にとって、極右勢力は二次的な問題に過ぎなくなったのです」
 ヨーロッパ大西洋協力研究所の政治学者で、ウクライナとロシアの政治に詳しいアンドレアス・ウムランドは指摘している。
「極右勢力は反ロシア、反プーチン主義の立場を貫いてきました。この事実は、そもそも彼らが反ロシアを標榜する理由(ラディカルな民族主義)よりも重視されたのです」
(『ULTRAS』)


こうしてアゾフは、世界の情報機関の懸念をあざ笑うかのように、過去の悪行は水に流され、ウクライナ国民から英雄視され美談の主人公に祭り上げられていったのでした。

ロシアへの経済制裁に対して、インドやアフリカの国が反対はしないものの積極的に賛同もしない曖昧な態度を取っているのも、ロシアや中国に対する遠慮だけでなく、アゾフの存在が暗い影を落としているような気がします。

ロシアの侵攻がはじまった当初、ウクライナから脱出する留学生たちについて、次のような記事がありました。

Yahoo!ニュース
ロイター
焦点:ウクライナ脱出図る留学生、立ちはだかる人種差別や資金難

人種差別によって出国がさらに難しくなっている、と語る学生もいる。ソーシャルメディアを見ると、アフリカやアジア、中東出身者が国境警備隊に暴行を受け、バスや列車で乗車を拒否される動画が目に入る。そのかたわらで白人は乗車を許されている。


アゾフには、他に遊牧民のロマ(ジプシー)のキャンプを襲撃したり、LGBT(性的マイノリティ)の集会に乱入して暴力を振ったり、左派の労働運動家を拉致してリンチするなどの行為が指摘されています。ネオナチどころか、ど真ん中のナチス信奉者、ゴリゴリの白人至上主義者で、ファシストとしか呼びようがない集団なのです。

何より「サンデーステーション」で司令官が身に付けていた防弾チョッキの記章が、彼らの主張を雄弁に語っているように思いました。それは、上記の『ULTRAS』の記事で指摘されているように、ナチスのヴォルフスアンゲルを模したアゾフ大隊の記章です。ネットで画像検索すれば、彼らがナチスのハーケンクロイツ(鉤十字)の旗とともに記念写真に映っている画像も見ることができます。

『ULTRAS』に「極右はウルトラスの人気に便乗する形で勢力を拡大している。その際には、自分たちが信奉するのは、ファシズムやナチズムではなくナショナリズムだ、単にウクライナという国を愛しているに過ぎないと幾度となくアピールした」という記述がありましたが、「サンデーステーション」でもアゾフの司令官は、自分たちは(ネオナチではなく)ただの愛国者だと強調していました。黒井文太郎氏が言っていることも同じでした。

ネットには、アゾフはウクライナ軍に編入された時点で「無力化」されているので、アゾフを問題視するのはロシアに加担する陰謀論だと言う声がありますが、それこそ国家の”正義”に動員された先にある思考停止=反知性主義の典型と言うべきでしょう。「無力化」の意味が今ひとつわかりませんが、ファシストが「無力化」されたなどというのは、如何にもネット民らしいお花畑の戯言にすぎません。そもそも極右だけどネオナチではないなどという、禅問答のような話を理解しろという方が無理でしょう。

旗幟鮮明し単色化した世界(タコツボ)のなかで、異論や少数意見をシャットアウトして、メディアから発せられる多数派の口上に同調するだけでは、当然ながら見えるもの、見るべきものも見えなくなってしまうでしょう。今や”電波芸者”と化した軍事ジャーナリストたちのさも訳知りげな解説は、眉に唾して聞く必要があるのです。

非常時なのでとりあえず目を瞑るということもあるのかもしれませんが、戦争にカタがついたあと、欧米から提供された武器で武装したアゾフが、手のひらを返して開き直り、「飼い犬に手を噛まれた」イスラム原理主義組織の二の舞になる怖れは多分にあると言えるでしょう。そうやって再度ウクライナに悲劇を招く懸念も指摘されているのです。アメリカの軍事顧問はアゾフに対して、提供した武器の使用方法などを指導していたそうですが、それはかつてアメリカが中東やアフガンにおいて、「敵の敵は味方」論でイスラム原理主義組織にやったこととまったく同じです。それどころか、藤崎剛人氏が指摘しているように、ネオナチのネットワークでウクライナにやってきて、容赦ない戦争暴力を体験したネオナチたちが自国に戻ることで、既存の”民主主義世界”、とりわけヨーロッパの脅威になる可能性も大きいのです。

アゾフが求めるのが、プーチンと同じような(あるいはそれ以上の)”ヘイトと暴力に直結した政治”であることを忘れてはならないのです。それは、ロシアの侵略戦争に反対することやウクライナを支援することと、決して矛盾するものではないのです。


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2022.03.28 Mon l ウクライナ侵攻 l top ▲