私もほぼ2日に一度スーパーに買物に行くのですが、最近の食品や日用品の相次ぐ値上げは尋常ではありません。既に値上げされた商品は6000品目にも上るそうです。しかも、今までと違って値上げの幅も大きいのです。

この値上げをもらたした要因は、言うまでもなく円安です。では、何が今の急激な円安をもたらしているのかと言えば、日米の金利差によるものだと言われています。

今や先進国で金融緩和を続けているのは日本だけです。どうして日本だけが金利を抑制する金融政策を転換しないのか。その背景について、メディアに登場する専門家は誰も説明しません。ただ、円安は、日米の金融政策の違いによるものだと決まり文句を言うだけです。

そのことについて、Yahoo!ニュースのオーサーコメンテーターの山田順氏は、次のように書いていました。

Yahoo!ニュース(個人)
なぜ、円はロシアのルーブルより弱いのか? 誰もズバリ言わない円安の本当の理由。

 金融緩和をやめて、引き締めに転じれば、当然ながら金利は上昇する。インフレに対する金融対策はこれしかない。しかし、そうすると、国債利払い費がかさみ、国家財政が破綻してしまう可能性が現実になる。
(以下、引用はすべて同じ)


つまり、政府日銀の金利抑制策の背景には、危機的なレベルに達している国家財政(莫大な国債の利払い負担)の問題が伏在しているというわけです。政府の失政のために、国民の生活が犠牲になっているのです。

昨日(20日)も、日銀は指定した利回りで国債を無制限に買い入れる「指し値オペ」(公開市場操作)を行ったという報道がありました。ただ、日銀が買った国債に利払いは生じませんので、この場合は、日銀がお札を刷って政府の借金を帳消しにしているだけです。言うなれば、MMTを実践しているようなものです。しかし、それだけあらたに刷ったお札が市中に出回ることになるので、さらなる円安&インフレ要因になるのは素人でもわかります。

もちろん、市中に出回ると言っても、空中からばら撒かれるわけではないので、私たちの懐に直接入るわけではありません。学校の教科書では、経済の法則でまわりまわって懐に入って来ることになっていますが、賃金の実状からもわかるように、実際はまったくまわって来てないのです。

東京はときならぬ再開発ブームで、まるで競い合うように超高層ビルがあちこちに建てられていますが、そんな異様な光景と今の”金余り”は無関係ではありません。市中に出回ったお金はそういったところに集中的に注がれているのです。政府と日銀は、自国の通貨の価値を下げながら、そうやって不動産バブルを煽っているのです。

でも、超高層ビルのなかで働いている人間の半分は非正規雇用です。建物だけは立派でオシャレだけど、働いている人間たちの生活はちっとも豊かではないしオシャレでもないのです。それが今の日本の現実です。

しかも、円が安くなっているのはドルだけではないのです。ユーロや人民元、さらには経済制裁を受けている(はずの)ロシアのルーブルに対しても安くなっているのです。「そんなバカな」と言われるかもしれませんが、「そんなバカな」ことが現実に起きているのです。

ただ一方で、円安がアメリカとの金利差に連動していることもからわかるように、ロシアのウクライナ侵攻と同じように、アメリカが超大国の座から転落して世界が多極化するという世界史の書き換えと無関係でないのも事実です。対米従属の所産という側面も忘れてはならないのです。

ロシアが原油や石炭や天然ガスなどの支払いをドルではなくルーブルに変えるように各国に要請したというニュースを前に伝えましたが、そこにあるのも世界経済の基軸であったドル(建て)からの脱却です。ウクライナ侵攻をきっかけに、ロシアも公然とその姿勢をあきらかにしたのでした。

 かつて世界の産油国は、石油取引で手にした莫大なドル収入を、ロンドンを中心とした世界中のオフショア金融市場を通じてドル建て金融商品で運用してきた。その最大の金融商品は、アメリカ国債だった。

 つまり、世界の資産はほぼドル建てであり、グローバル企業も富裕層も、みなドルで資産を運用してきた。ロシアのオリガルヒも同じだ。

 しかし、いま、その体制がウクライナ戦争をきっかけに崩れようとしている。バイデン大統領が、「軍事介入はしない」と言って、ロシアのウクライナ侵略を許したために、こんなことになってしまった。この老大統領は、ドルの価値を低下させ、アメリカの世界覇権を失わせつつあることに気がついているのだろうか。


気がついてないわけがなく(笑)、もはやそれしかアメリカの生きる道はないからです。

 アメリカはなぜ、イタリアやテキサスより小さい約1兆5000億ドルのGDPしか持たないロシアを脅威としたのか? ただ、核を持っているだけで、軍事費にいたってはアメリカの10分の1である。

 そんな国のために、アメリカが世界覇権を失い、ドルが基軸通貨から転落するとしたら、世界は無秩序になる。


それが多極化ということなのです。金との兌換通貨でもないドルが、いつまでも基軸通貨でいられるわけがないのです。金本位制から変動相場制に移行しても、ドルが実質的な基軸通貨でありつづけたのは、圧倒的な経済力と軍事力を背景にした”経過処置”にすぎなかったのです。

最新版の2021年「世界の一人当たり名目GDP国別ランキング」(IMF発表)によれば、日本は28位です。一方、韓国は30位でまだ韓国に追い抜かれていません(「一人当たり購買力平価GDP」では2019年に既に抜かれています)。ちなみに、2000年は2位、アベノミクスが始まる前の2012年でも13位でした。アベノミクス以降、それだけ日本の経済力は落ちているのです。

一方、2000年から2018年の「一人当たり名目GDP成長率」は、中国が12.9%、韓国が5.7%、アメリカが3%なのに対して、日本は0.7%と際立って鈍化しています。これでは、「世界の一人当たり名目GDP国別ランキング」も、国民の平均年収と同じように、早晩、韓国に抜かれるのは間違いないでしょう。

賃金も然りで、2000年から2020年までの20年間で、各国の賃金は1.2倍から1.4倍に上がっていますが、日本だけが横ばいでほとんど上がっていません。にもかかわらず、急激な円安で円は20年前の水準まで下落、物価が急上昇しているのです。単純に考えても、益々生活が貧しくなり格差が広がるのは目に見えています。当然の話ですが、国の経済力が衰えるというのは、それだけ国民が貧しくなるということでもあるのです。

 円安は円が売られるから起こる。しかし、いまの円安は、円売りではなく「日本売り」だ。日々、経済衰退する国の通貨を、投資家はもちろん、誰も持ちたがらない。


この現実をどうして日本人は見ようとしないのか。それが不思議でなりません。韓国に抜かれる悔しさもあるのかもしれませんが、まるで見ないことが「愛国」であるとでも思っているかのようです。前の記事で書いた高齢者の貧困問題と同じように、みんな目を遠ざけて問題を先送りしているだけです。
2022.04.21 Thu l 社会・メディア l top ▲