AFPの記事によれば、NATOのイエンス・ストルテンベルグ事務総長が、ウクライナ侵攻は今後数年続く可能性があると述べたそうですが、たしかに和平交渉が完全にとん挫している今の状況を考えると、その言葉に首肯せざるを得ません。と同時に、戦う前から戦意喪失しているロシア軍は早晩敗退するだろうと言っていた、当初のメディアの報道は何だったんだと思わざるを得ません。言うまでもなく、持久戦になれば、悲劇はその分増すことになるのです。

経済制裁でロシアが苦境に陥っていると言われていますが、しかし、日本の異常な円安と物価高、アメリカのインフレと大幅な利上げに伴うNYダウの暴落などを見ていると、むしろ苦境に陥っているのは反ロシアの側ではないのかと思ってしまいます。

アメリカ(FRB)がNYダウの暴落を覚悟で大幅な利上げに踏み切ったのも、ドル崩壊を阻止するためでしょう。そこに映し出されているのは、超大国の座から転落するアメリカのなりふり構わぬ姿です。そして、何度も何度もくり返しくり返し言っているように、世界は間違いなく多極化するのです。ウクライナ侵攻もその脈略で捉えるべきで、手前味噌になりますが、このブログでも2008年のリーマンショックの際、既に下記のような記事を書いています。

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少なくとも資源大国であるロシアや「世界の工場」から「世界の消費大国」と呼ばれるようになった中国を敵にまわすと、世界が無傷で済むはずがないのは当然でしょう。それが、どっちが勝つかとか、どっちが正しいかというような単純な話では解釈できない世界の現実なのです。

今回のウクライナ侵攻のおさらいになりますが、元TBSのディレクターでジャーナリストの田中良紹氏は、『紙の爆弾』(7月号)で、アメリカの世界戦略について次のように書いていました。

  米国の世界戦略は、世界最大の大陸ユーラシアを米国が支配することから成り立つ。米国はユーラシアを欧州・中東・アジアの三つに分け、欧州ではNATOを使ってロシアを抑え、アジアでは中国を日本に抑えさせ、そして中東は自らがコントロールする。
(「ウクライナ戦争勃発の真相」)


しかし、アフガン撤退に象徴されるように、アメリカは中東(イスラム世界)では既に覇権を失っています。アジアの「中国を日本に抑えさせ」るという戦略も、ここぞとばかりに防衛費の大幅な増額を主張し軍事大国化を夢見る(「愛国」と「売国」が逆さまになった)対米従属「愛国」主義の政治家たちの思惑とは裏腹に、その実効性はきわめて怪しく頼りないものです。と言うか、中国を日本に抑えさせるという発想自体が誇大妄想のようなもので、最初から破綻していると言わねばならないでしょう。

今回のウクライナ侵攻にしても、ロシアを「抑える」というバイデンの目論みは完全に外れ、アメリカは経済的に大きな痛手を受けはじめているのでした。それに伴い、バイデン政権が死に体になり民主党が政権を失うのも、もはや既定路線になっているかのようです。

  ウクライナ戦争はバイデンにとって、アフガン撤退の悪い記憶を消し、インフレを戦争のせいにできる一方、米国の軍需産業を喜ばせ、さらに厳しい経済制裁でロシア産原油を欧州諸国に禁輸させれば、米国のエネルギー業界も潤すことができる。そうなればバイデンは、秋の中間選挙を有利にすることができる。
(略)
しかしバイデンの支持率は戦争が始まっても上向かない。米国民は戦争より物価高に関心があり、バイデン政権の無策にしびれを切らしている。
(同上)


これが超大国の座から転落する姿なのです。ソ連崩壊によりアメリカは唯一の超大国として君臨し、「世界の警察官」の名のもと世界中に軍隊を派遣して、「悪の枢軸」相手に限定戦争を主導してきたのですが、ソ連崩壊から30年経ち、今度は自分がソ連と同じ運命を辿ることになったのです。今まさに世界史の書き換えがはじまっているのです。

(略)ロシアに対する経済制裁に参加した国は、国連加盟国一九三ヵ国の四分の一に満たない四七ヵ国と台湾だけだ。アフリカや中東は一ヵ国もない。米国が主導した国連の人権理事会からロシアを追放する採決結果を見ても、賛成した国は九三ヶ国と半数に満たなかった。
米国に従う国はG7を中心とする先進諸国で、BRICS(ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ)を中心とする新興諸国はバイデンの方針に賛同していない。このようにウクライナ戦争は世界が先進国と新興国の二つに分断されている現実を浮木彫りにした。ロシアを弱体化させようとしたことが米国の影響力の衰えを印象づけることにもなったのである。
(同上)


最新のニュースによれば、フランス総選挙でマクロン大統領が率いる与党連合が過半数の289議席を大幅に割り込む歴史的な大敗を喫したそうです。

その結果、急進左派の「不服従のフランス」のメランションが主導する「左派連合」が141議席前後に伸ばし、野党第1党に躍り出る見通しだということでした。また、極右のルペンが率いる「国民連合」も前回の10倍以上となる90議席を獲得したそうです。

もちろん、この結果には、今までもくり返し言っているように、右か左かではない上か下かの政治を求める人々の声が反映されていると言えますが、それだけでなく、ウクライナ一辺倒、アメリカ追随のマクロン政権に対する批判も含まれているように思います。

極右の台頭はフランスだけではありません。来春行われるイタリア総選挙でも、世論調査では極右の「イタリアの同胞」がトップを走っており、今月イタリア各地で行われた地方選挙でも「右派連合」が主要都市で勝利をおさめており、ムッソリーニ政権以来?の極右主導の政権が現実味を帯びているのでした。

このように、ウクライナ侵攻が旧西側諸国に経済的にも政治的にも暗い影を落としつつあるのです。

一方、次のような記事もありました。

Yahoo!ニュース
共同
ロシア軍、命令拒否や対立続出 英国防省の戦況分析

Yahoo!ニュース
讀賣新聞
ゼレンスキー氏、南部オデーサ州訪問…英国防省「ウクライナ軍が兵士脱走に苦しんでいる可能性」

どうやらロシア軍だけでなく、ウクライナ軍にも兵士の脱走が起きているようですが、ホントに「戦争反対」「ウクライナを救え」と言うのなら、ウクライナ・ロシアを問わずこういった「厭戦気分」と連帯することが肝要でしょう。しかし、日本のメディアをおおっている戦争報道や、メディアに煽られた世論は、そんな発想とは無縁に、最後の一人まで戦えというゼレンスキーの玉砕戦を無定見に応援しているだけです。「戦争で死ぬな」とは誰も言わないのです。まるで金網デスマッチを見ている観客のように、ただ「やれっ、やれっ」「もっとやれっ」と観客席から声援を送っているだけです。そんなものは反戦でも平和を希求する声でも何でもないのです。


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2022.06.20 Mon l ウクライナ侵攻 l top ▲