いわゆる侮辱罪を厳罰化する刑法改正が先の国会で成立しました。今回の改正は、フジテレビの「テラスハウス」に出演していた女子プロレスラーの木村花さんがネット上の誹謗中傷が原因で自殺したことが直接のきっかけでした。改正案でも「ネット上の誹謗中傷を抑止するため」と説明されています。

今までの侮辱罪の法定刑は、拘留30日未満、もしくは科料1万円未満でしたが、改正により1年以下の懲役または禁錮、もしくは30万円以下の罰金に強化され、時効も1年から3年に延長されました。つまり、拘留ではなく懲役刑が科せられることになったのです。

刑法には別に名誉棄損罪があります。名誉棄損と侮辱はどう違うのか、それも曖昧なままです。ただ、侮辱罪の方が名誉棄損罪に比べてハードルが低いのはたしかでしょう。

リテラでも、侮辱罪のハードルの低さを次のように指摘していました。

リテラ
「侮辱罪の刑罰強化」の目的は政権批判封じ=ロシア化だ! 自民党PT座長の三原じゅん子は「政治家にも口汚い言葉は許されない」

 そもそも、名誉毀損罪は公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した場合に成立するが、例外規定として、公共の利害にかんする内容かつ公益を図る目的があり、その内容が真実であれば罰せられない。また、真実だと信じてもやむをえない状況や理由、つまり「真実相当性」があれば悪意はないとして違法性は阻却されることになっている。一方、侮辱罪は事実を摘示しなくても公然と人を侮辱した場合に成立し、名誉毀損罪のような例外規定がない。何をもって「侮辱」とするかは極めて曖昧だ。
(同上)


そのため、三原じゅん子議員のような「政治家への言論を規制したいという目論見に対し、何の歯止めもなされていない」(同上)のが実情です。「侮辱罪の厳罰化をめぐる法制審議会の審議でも『政治批判など公益のための言論なら罰されない』という意見が出されているが、しかし、公益性があるかどうかを判断するのは権力側の捜査当局」(同上)なのです。要は権力の胸三寸なのです。

2019年の前回の参院選の際、北海道の札幌で、街頭演説していた安倍晋三首相(当時)に対して、男性が「安倍辞めろ」「帰れ」とヤジると北海道警の警察官がやって来て強制的に排除され、さらに別の男性が「増税反対」と訴えると、同じように移動するように求められ、演説が終わるまで警察官に付きまとわれたという事件がありましたが(のちの裁判で札幌地裁は、北海道警の行為は「表現の自由」を侵害するもので違法と認定)、これからはそういった行為も、告訴されれば侮辱罪として摘発される可能性がないとは言えないでしょう。

もっとも、当局のいちばんの狙いは、摘発より抑止効果だという指摘があります。厳罰化によって、政治家や著名人や有名企業に対する批判(悪口)を委縮させ封じ込める効果を狙っていると言うのです。

リテラも次のように書いていました。

そもそも、世界的には侮辱罪や名誉毀損罪は非犯罪化の流れにあり、当事者間の民事訴訟で解決をめざす動きになっている。国連自由権規約委員会も2011年に名誉毀損や侮辱などを犯罪対象から外すことを提起、「刑法の適用は最も重大な事件に限り容認されるべきで拘禁刑は適切ではない」としている。ところが、今回の侮辱罪厳罰化は世界の流れに逆行するだけでなく、もっとも懸念すべき権力者への批判封じ込めに濫用されかねないシロモノになっているのである。


また、言論法やジャーナリズム研究が専門の山田健太専修大学教授も、「琉球新報掲載のメディア時評のなかで、こう警鐘を鳴らしている」そうです。 

〈日本では、政治家や大企業からの記者・報道機関に対する「威嚇」を目的とした訴訟提起も少なくない。いわば、政治家が目の前で土下座させることを求めるかのような恫喝訴訟が起きやすい体質がある国ということだ。そうしたところで、より刑事事件化しやすい、あるいは重罰化される状況が生まれれば、間違いなく訴訟ハードルを下げる効果を生むだろう。それは結果的に、大きな言論への脅威となる。〉
(同上)


しかし、侮辱罪の厳罰化に便乗しているのは与党の政治家や有名企業だけではありません。野党の政治家や、あるいはリベラル系と言われるジャーナリストやブロガーなども同じです。彼らにも、自分たちに向けられた批判(悪口)に対して、すぐ訴訟をチラつかせるような姿勢が目立ちます。しかも、無名の市民のどうでもいいようなSNSの書き込みに対して過剰に反応しているケースも少なくないのです。そこには、「自由な言論」(竹中労)に対する一片のデリカシーもないかのようです。彼らは、所詮権力と利害を共有する”なんちゃって野党”にすぎないことをみずから白状しているのです。

参院選が近づくにつれ、立憲民主党界隈からのれいわ新選組に対する攻撃もエスカレートする一方です。国会の対ロシア非難決議に、れいわ新選組が唯一反対したことを根拠に、何だか主敵は自公政権よりれいわ新選組と考えているのではないかと思えるくらい、坊主憎けりゃ袈裟まで憎い式にエスカレートしているのでした。大石あきこ議員の(岸田総理は)「資本家の犬」「財務省の犬」という発言も、彼らにはヤユしたり嘲笑したりする対象でしかないのです。彼らは、この国の総理大臣が「資本家の犬」「財務省の犬」だとは寸分も思ってないのでしょう。

戦争中の鬼畜米英と同じで、ロシア非難の翼賛的な決議に同調しないれいわ新選組はまるで「非国民」のような扱いです。特に、ゴリゴリの左派系議員の憎悪をむき出したような発言を見るにつけ、三つ子の魂百までではないですが、衣の下からスターリン主義の鎧が覗いたみたいでおぞましささえ覚えるほどです。ここでも左派特有の”敵の敵は味方論”が顔を覗かせているのでした。

ブルーリボンのバッチを胸に付け、「ミサイル防衛・迎撃能力向上」「ハイブリッド戦への対応」の「強化」など、「防衛体制の整備」(立憲民主党参院選2022特設サイトより)を訴える野党第一党の党首。今までの対決姿勢から政策提案型へ路線変更したことで、先の国会では内閣が提出した法案61本が全て可決・成立し、国内外の難題が山積しているにもかかわらず、国会は惰眠を貪るような牧歌的な光景に一変したのでした。

先日行われた杉並区長選挙では、市民団体が擁立した野党統一候補が4選を目指した現職に競り勝ちましたが、参議院選挙では連合からの横槍が入ったこともあり野党共闘にはきわめて消極的で、一人区で候補者を一本化できたのは半分にも満たないあり様です。そのため、杉並区長選の”追い風”を生かすこともできないのでした。そもそも生かすつもりもないのでしょう。

参院選を前にして、自民党を勝たせるためだけに存在する旧民主党のずっこけぶりはまったく見事としか言いようがありません。傍から見ると、敗北主義の極みみたいですが、でも、当人たちは危機感の欠片もなく”敵の敵”に塩を送りつづけているのでした。

れいわ新選組の対ロシア非難決議反対については、下記のような評価があることも私たちは知る必要があるでしょう。

JAcom
「れいわ」の見識をロシア非難に見る【森島 賢・正義派の農政論】

全体主義への道を掃き清めているのは誰なのか。何度も言うように、私たちは、”左派的なもの”や”リベラル風なもの”をまず疑わなければならないのです。


※タイトルを変更しました。
2022.06.22 Wed l 社会・メディア l top ▲